きこえない人の通信アクセシビリティの向上を目指して ~電話リレーサービスの法制化までの連盟50年にわたる取り組み~

きこえない人の通信アクセシビリティの向上を目指して
~電話リレーサービスの法制化までの連盟50年にわたる取り組み~

一般財団法人全日本ろうあ連盟

1.1990年代までの主な通信手段

 1970年代まで、きこえない人の主な通信手段や情報アクセスは、連絡に数日かかる郵便や新聞等であり、緊急の連絡はきこえる人からの電報や直接の訪問が必要でした。

新聞

 1980年代にきこえない人向けの廉価なファクシミリ(FAX)が登場し、日常生活用具として指定されるだけではなく、FAXは、誰もが使えるユニバーサル製品として、きこえない人やきこえる人に普及していきました。
 その後、ポケベルや携帯電話のメールが普及し、そして、パソコン通信からWebやEメールを使えるインターネットに発展していきました。通信技術の発展により、ISDN、ADSL、光通信と高速化する中で、手話言語映像をちらつきなく円滑な表示ができるようになっていったのです。

NTTミニファックスポケベル
↑NTT ミニファックス                ↑ポケベル

 「情報を少しでも早くつかむ」ことは、きこえない人の生活の質の向上や安全、安心の確保につながるものであるからこそ、連盟は新しい情報機器や通信手段が登場する都度、きこえない人の情報アクセス向上に取り組んできました。
 この情報アクセスへの取り組みは、当連盟が2011年に刊行した、「聴覚障害者の情報アクセスに関するガイドライン」の11ページにも掲載されていますので、ご一読ください。

ガイドライン

年代 主な機器 スパン 情報量 特徴
~1970年代 郵便・日聴紙等の
機関紙
郵便 2~3日
新聞 月1回
文字:中
映像:中
人による
ネットワーク
1980年
前半
テレメール・FAX ~1日 文字:小
映像:小
高額な汎用機器
→日常生活用具
1980年
後半
パソコン通信・
キャプテンシステム
~数時間 文字:中
映像:中
マニア中心
ボケベル・
ショートメール(SMS)
文字:小
映像:小
移動性の確保
1990年
後半
Web・Eメール 即時 文字:中
映像:中
インターネット
携帯会社メール(MMS)
ISDNテレビ電話
文字:中
映像:中
通信との融合
2000年前半 スマートフォン・タブレット
IPテレビ電話
リアルタイム 文字:大
映像:大
映像との融合
スマート革命

2.「電話リレーサービス」取り組みの歴史

 インターネット利用の広がりにあわせて、各社でテレビ電話や電話リレーサービス等の事業化が行われましたが、維持費用が高い、他社との接続ができない等の様々な理由から普及せず事業撤退する状況が続き、「テレビ電話を買っても大丈夫なのか」と利用者に不安が広がっていました。
 連盟は、2004年に総務省へテレビ電話の規格標準化を要望し、各社のテレビ電話機器、サービスの調査研究を進めて2006年に加盟団体へ「中継通訳・リレー通訳サービス」「遠隔通訳・リモート通訳サービス」の2タイプに整理し、緊急対応やバリアフリー対応、そしてオンライン会議や遠隔教育支援、遠隔相談支援などの整備が必要であることを提言しました。これらはコロナ禍の現在まさしく直面している課題です。
 さらに、2007年には総務省へ、ユニバーサルサービス制度について「地理的格差だけでなくマイノリティ的な格差にも対応するべきである」という意見を提出しました。
 当時この意見に対しては時期早々ということでユニバーサルサービス制度の見直しにはつながりませんでしたが、これが当連盟の「国による電話リレーサービス制度」への要望の原点といえます。

意見書

 そして、続いて、2010年に政府の「障がい者制度改革推進会議」へ電話リレーサービスの標準化及び法制化を提言、2011年の東日本大震災対応で始まった日本財団による電話リレーサービスのモデルプロジェクトと絡める形で、2013年に情報アクセシビリティフォーラムを開催し、「日本にも電話リレーサービスを」と広く周知しました。

障がい者制度改革推進会議 → 障がい者制度改革推進会議

情報アクセシビリティフォーラム ← 情報アクセシビリティフォーラム

 その後、2017年から厚生労働省が、「聴覚障害者が一人で電話をかけられるよう聴覚障害者が健聴者に電話する際に、通訳者が間に入って通訳するサービス」を開始し、聴覚障害者情報提供施設として、千葉県、滋賀県、熊本県、沖縄県の4箇所が対応しました。その後、年々、電話リレーサービスを実施する事業所が拡大し、2020年6月時点で、沖縄県、熊本県、滋賀県・京都府・大阪府、千葉県、宮城県・福島県・札幌市、長野県・富山県、岡山県の12箇所で実施されました。
 さらに、2016年から2020年まで日本財団の助成を受け、電話リレーサービスの普及及び啓発に向けた様々な取り組みを展開するとともに、総務省をはじめ関係機関に働きかけ、制度化の道筋をつけました。

ヒアリング
↑2020年9月10日、総務省及び厚生労働省による「聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する
基本的な方針」に関する関係者ヒアリングに当連盟より意見提出。右端が高市総務大臣

 その結果、2021年7月に多くのきこえない人が願っていた電話リレーサービスが公共インフラとして開始されたのです。
 当連盟は、今後もきこえない・きこえにくい人の放送・通信におけるバリアフリーに取り組んで参ります。

1990年代

(業界の動向)

・ISDNテレビ電話機
ITU-TH.261(画像圧縮の国際規格)が提唱された事を受け開発が進む。秒間15フレーム(最大)を実現しており、30万画素程度の解像度。手話としては読み取りにくかった。

・ADSLテレビ電話機
相手側が1Bビデオ通話をサポートしている必要がある上に1B通信の場合、多くの例では秒間フレーム数が相当量削られる事となり、スムーズさが失われ、実用にならなかった。

・フィーチャーフォン(ガラケー)
1999年、ガラケーでのテレビ電話を実現。DDIポケットやFOMA等

(連盟の取り組み)
加盟団体事務所に試験的にテレビ電話機が置かれたが、使い物にならなかった。
2000年代

(業界の動向)

・IPテレビ電話機(VVoIP)で秒間15~30フレーム程度を送受信、実用レベルに達する。NTT(東西):フレッツフォンVP1000、ギンガシステムソリューション、ソネット社TELEBB-1000等

・2010年代にインターネットの速度向上によってインターネット回線を利用したテレビ電話(ビデオチャット)やスマホの普及→テレビ電話専用機、ガラケーの衰退

(連盟の取り組み)
連盟内に電子ネットワーク活用推進委員会を2001年に設置。
連盟や加盟団体にテレビ電話のメーカーや代理店等から売り込みがあり、個別に導入の取り組みが行われるが、維持費用が高い、他社との接続ができない等の様々な理由から普及せず事業撤退する状況が繰り返される。
2004年7月 メーカー4社にヒアリング。この時点で電話リレーと遠隔手話サービスに類似したサービスを提供している社もあった。
2004年8月 JISにテレビ電話・サービスを盛り込むか検討がなされた結果、見送りとなる。(当時のJISはハード装置に限られていた)
2004年12月 総務省にテレビ電話サービスの(機器)仕様標準化を要望
2005年10月 電子ネットワーク活用推進委員会でテレビ電話の日常生活用具認可状況について調査。
2006年2月 電子ネットワーク活用推進委員会で、これまでの電話リレーサービスに関する調査をまとめ、電話リレーサービスと遠隔手話サービスに分けて課題を整理、今後の取り組みについて理事会に提言し、加盟団体に提言を周知。
2007年3月 「ユニバーサルサービス制度の将来像に関する研究会」の検討アジェンダ案へ電話リレーサービス等の意見を提出
検討結果の議事録はこちら
2007年7月 厚生労働省が山形県の会社に電話リレーサービスおよびオペレータの調査研究を委託
2010年4月 政府「第7回障がい者制度改革推進会議」に電話リレーサービスの標準化及び法制化を提言。 議事録はこちら
2011年3月 日本財団が東日本大震災の被災聴覚障害者支援事業として、岩手、宮城、福島3県の聴覚障害者向けに無料で電話リレーサービスを提供。
2011年6月 全国ろう者大会(佐賀)研究分科会でICT活用について討議
2012年12月 聴覚障害者の情報アクセスに関するガイドライン」を刊行
2012年12月 警察庁、消防庁に電話リレーサービスによる緊急通報等を要望
2013年2月 自由民主党ユニバーサルデザイン社会推進議員連盟へ「聴覚障害者にかかる情報アクセスに関する要望書」を提出
2013年2月 米国、韓国、英国における情報アクセス、コミュニケーション保障の事業を調査
2013年9月 日本財団が電話リレーサービス・モデルプロジェクトとして「試験サービス」を開始。聴覚障害者情報提供施設から沖縄・熊本・滋賀が参加。
2013年11月 情報アクセシビリティフォーラムを開催。電話リレーサービスに関するパネルディスカッションも開催し、「電話リレーサービス」の知名度が広がる
2015年11月 情報アクセシビリティフォーラム2015を開催
学ぶフロア・ワークショップで「誰にでもすぐ電話で切る環境づくり」などの企画で電話リレーサービスの啓発を進め、討議を深める。
2016年~ 日本財団より「電話リレーサービスの普及啓発」助成を受けて2020年3月まで事業実施
2017年4月 厚生労働省が、「聴覚障害者が一人で電話をかけられるよう聴覚障害者が健聴者に電話する際に、通訳者が間に入って通訳するサービス」として補助事業を開始。
当初は千葉の聴覚障害者情報提供施設のみであったが、翌年には、補助事業は千葉に加えて、沖縄、熊本、滋賀、札幌、宮城、福島、長野、富山、京都、大阪、岡山の12施設と拡大し、実施されていった。
2018年2月 「電話通信サービスのユニバーサル化を考える大学習会」を開催。総務省より野田聖子総務大臣、厚生労働省より宮嵜(みやざき)障害保健福祉部長からもごあいさつをいただく。
また、総務省でIoT新時代の未来づくり検討委員会人づくりWG障害者SWGで8団体へのヒアリングが行われ、連盟からは電話リレーサービスに絞って説明。
2018年8月 「電話リレーサービスの制度化を考えるシンポジウム」を全社協・灘尾ホールで開催し、全国から加盟団体や一般参加者170名以上が集まる。
 このシンポジウムでは、公的サービス実施国であるカナダ、韓国より講師をお招きし、各国の公的電話リレーサービスの現状についてご講演いただいた。
2018年11月 国会で安倍総理大臣が「電話リレーサービスは大切な公共インフラである」と答弁。
2019年1月 総務省で電話リレーサービスに係るワーキンググループを2019年1月から11月まで8回にわたって開催し、公共インフラとしての電話リレーサービスの実現に向けて協議し、報告書を発行
2019年4月 日本財団助成で「電話リレーサービス制度化検討委員会」の「電話リレーサービス法制化ワーキンググループ」で「電話リレーサービス制度化に向けた提言」を作成。
2019年6月 菅官房長官と面談し、電話リレーサービス事業について現状を説明し、総務省の事業化について協議
2020年4月 立憲民主党、公明党、共産党等と電話リレーサービスに関する意見交換。
2020年6月 6月5日に「聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律案」が成立。その後、「聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律案」の成立にご尽力いただいた内閣府 菅官房長官、内閣府 衛藤内閣府特命担当大臣、総務省 高市総務大臣、厚生労働省 加藤厚生労働大臣、環境庁 小泉環境大臣、各官公庁、各党、日本財団の皆さまに御礼訪問。
2020年7月 橋本岳厚生労働副大臣を訪問し、電話リレーサービスの法制化をきっかけに、情報アクセシビリティ環境整備を要望。
2020年9月 総務省及び厚生労働省による「聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する基本的な方針」に関する関係者ヒアリングが開催され、当連盟より意見を述べた
2020年10月 法案の「基本方針」が出され、パブリックコメント意見を提出。
総務省と電話リレーサービスについて意見交換。
2020年11月 武田総務大臣を訪問し、きこえない・きこえにくい人への情報アクセシビリティ環境の向上に向けた整備促進を要望
2020年12月 総務省と電話リレーサービスの基本方針について、きこえる人の表記などについて意見交換。
2021年1月 電話リレーサービス提供機関として日本財団電話リレーサービス(日本財団TRS)が指定。
総務省、日本財団TRSと利用料、基本料金、スケジュール、当事者団体との連携、啓発普及等について1月から2月にかけて、7回にわたって意見交換。
2021年2月 日本財団TRSへ手話オペレーター応募資格に関する意見を提出。
2021年4月 日本財団TRへ本人認証の在り方やきこえる人もきこえない人も使える登録方式を要望。
2021年6月 電話リレーサービス支援機関である電気通信事業者協会に、当事者も参画できる諮問機関などを要望。
総務省とデジタル支援員制度の活用による電話リレー普及啓発について意見交換。
2021年7月 公共インフラとしての電話リレーサービスが開始。
当連盟は理事長よりコメントを出しています

(写真は当連盟発行「全日本ろうあ連盟70年史」と連盟ホームページより引用)

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