1月29日(日)、福島県郡山市で、日本障害フォーラム(JDF)、日本弁護士連合会、福島県弁護士会主催による、「障がい者のためのわかりやすい東電賠償学習会」が開催されました。
今回の被害は類例のない事態であり、損害賠償についてどう考え、どう進めていくのかは大変難しい問題です。また、障害者にとって情報の正確な収集、交渉力等を補うことなく自力で全て進めていくことには多大な困難があります。そこでJDF、日弁連、福島弁護士会では、障害者が被害者として適切に権利を行使できるよう、原発損害賠償についてわかりやすく理解できる学習会を実施し、今後も支援活動を続けることとなります。
学習会の参加者は100名を超え、郡山市内のろう者、5名が参加されました。内容は、2名の弁護士による質疑応答形式の資料を基にしたポイントの解説と、参加者との質疑応答が行なわれました。
この学習会の主なポイントを以下にQ&A形式で紹介します。
(この情報は、1月29日現在のものであり、その後変更になることもありますので、詳しくは、行政または一番下にある、「※ 損害賠償に関する和解の仲介機関または相談窓口」にお問い合わせください。)
※質問をクリックすると答えが現れます。
動画で見たい方は「手話で見る」をクリックしてください。
Q&Aについて:はじめに
2011年3月11日に発生した東日本大震災、東京電力福島第一原子力発電所の事故は甚大な被害を発生させ、今でも完全に収束していません。
この原発事故による損害について、現在東電の賠償が課題となっています。
しかしこれまでに例のない事態であり、賠償の指針等の情報も日々変化しており、法律家にとっても難しい問題です。
被害に遭われた一般の方にとって損害賠償をどう考え、どう進めていくのか、専門家の助言なくしては難しい面があります。
中でも障がいのある人にとって、情報の正確な収集、交渉力等を補うことなく自力で全て進めていくことには困難があると思われます。
加害企業である東電に言われるままに請求したり、請求の権利のあることが知らされなかったり、請求を諦めたりするなどの事態も考えられます。
日本障害フォ一ラム(JDF)、日本弁護士連合会、福島県弁護士会は、障がいのある人が被害者として適切に権利を行使できるよう、原発損害賠償について分かりやすく理解できる学習会を実施し、今後もそのための支援活動を続けています。
このたび、2012年1月29日に福島県郡山市内で開催された第1回目の学習会の内容から、聴覚障害者に関係が深いと思われる事項を選び、手話で説明したいと思います。
今後、新しい情報や変更とかありましたら、その都度手話で説明し、出来るだけ新しく正しい情報を伝えていきたいと思います。
情報が多すぎるとかえって伝わりにくいと考え、出来る限り必要な情報を選びました。したがって、細かい部分などは省略しましたので、詳しいことはお住まいの役場の担当者、相談員や弁護士等の専門家に相談するなりしてくださるようお願い致します。
Q1:今回の原発事故による損害の賠償をしてくれるのはどこですか?
1.東京電力 2.国 3.県、市町村
A1: 今回の福島第一原子力発電所原発事故による被害の賠償は東京電力が行う責任があります。しかし、損害を賠償してもらうためには、被害を受けた人が賠償を請求する必要があります。何もしないと、賠償してもらうことはできません。
Q2:損害の賠償いつまでに請求しなければいけませんか?
A2: 法律によれば、東京電力に対して損害賠償の請求ができるのは、原則として2011年3月11日から3年以内となります。
ですから、あわてる必要はありません。落ち着いて受けた損害をよく調べて請求してください。
しかし、ギリギリになって請求するのもよくありませんので、注意してください。
Q3:東京電力から送られて来た書類について、どうすればいいのですか?
A3: この書類は、東京電力が作ったものであり、必ず、この書類を出さないと損害賠償が受けられないというわけではありません。
損害賠償請求の方法は他にもいくつかあります。
Q4:損害賠償請求の方法にはどんな方法がありますか。
A4: 主に2つの方法があります。
(1)東京電力から送られて来た書類に記入して請求する
当初、膨大な書類が送られ、多くの批判を受けた結果、簡単ガイドが作成され、若干請求しやすくなりました。しかし、加害者である東京電力が請求を受けて賠償額を決めるという特異なもので、基本的には賠償の最低基準である、「原子力損害賠償紛争審査会」の「指針」の枠を超えないものであり、賠償額も低く抑えられることが予想され、請求額全額の賠償は期待できません。
書類作成を弁護士など代理人にお願いすることもできますが、一定の費用を負担する必要があります。
(2)「原子力損害賠償紛争解決センター」に対して和解仲介(ADR. 裁判外紛争解決(Alternative Dispute Resolution)申立をする
第三者委員による和解の仲介がなされることから、被害者側の主張をある程度汲んでもらえる可能性があります。申立手続に必要な書類は、簡単な書式が日弁連で用意されています。詳しく話を聞くために、決められた期日にセンターに呼ばれて行かなければならない場合もあります。センターは東京と郡山にしかなく、遠い人は不便ですが、これら以外の市町村にも出張することもあり得ます。
和解仲介案に対し不服であれば拒否することが可能です。
この他に、以下のような方法もあります。
(3)集団請求
同じような被害状況にある被害者による集団請求を行うことも考えられます。同じ様な被害状況にある人たちの請求書の内容はほぼ同じで済むため、悩まず申し立てることが可能です。
(4)民事訴訟
東電の賠償基準や原子力損害賠償紛争解決センターの和解仲介案に不服がある場合、裁判所に訴える方法です。
裁判所による判決は絶対であり、東京電力はそれを守らなければならないという強い効力を持っています。しかし、時間や費用がかかります。また、過去の東海村の臨界事故の時に行われた裁判の判決を見ると、あまりいい判決はなされていないのが現状ですので、要望通りになるかどうかわかりません。
(5)自分で書類を作って請求する
自分で書類を作って損害賠償請求することもできますが、非常に大変であり、経験のない人には無理です。
Q5:「原子力損害賠償紛争解決センター」ってどのようなものですか。
A5: 文部科学省の中にある「原子力損害賠償紛争審査会」が、今回の原発事故をきっかけに、原発事故による損害賠償の和解の仲介を円滑、迅速かつ公正に行うために設置した機関で、東京電力とは全く別の機関です。
連絡先等は一番下にある、「※ 損害賠償に関する和解の仲介機関または相談窓口」を参照してください。
Q6:「原子力損害賠償紛争解決センター」の申立てにあたって費用はかかりますか?
A6: 申し立て・和会の仲裁に関する手数料は不要です。
ただし、「原子力損害賠償紛争解決センター」に提出するための書類の作成費用、郵送費用、センターに呼ばれて行くための交通費、弁護士等の専門家に依頼した場合の費用などは当事者各自の負担です。
Q7:「原子力損害賠償紛争解決センター」の申立書はどこで手に入れるのですか?
A7: 申立書用紙は、各「原子力損害賠償紛争解決センター」事務所の受付に置いてあります。
この他、被災地の県庁、市町村役場、弁護士会等にも置いてあります。(お近くの役場等に置いてあるかどうかは、事前に役場等に確認してください。)
また、「原子力損害賠償紛争解決センター」のホームページからダウンロードもできます。
このホームページには、申立書の記載例も掲載してありますのでご参照下さい。
各「原子力損害賠償紛争解決センター」事務所に申立用紙の郵送をお願いすることもできます。
なお、日本弁護士連合会がこの申立書の例を作成してホームページにアップしていますので、これもダウンロードして活用してください。
日本弁護士連合会作成の申立書の例のページ
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/special_theme/data/form.pdf
Q8:「原子力損害賠償紛争審査会」の「指針」とは何ですか?
A8: 避難などに費用がかかり困っている被害者をできるだけ早く救済するために、東京電力が支払うべき損害賠償の半額以上を国が先に立て替えて仮払いし、国から東京電力に請求することになりました。
その時に、支払う賠償額の基準となるものを「原子力損害賠償紛争審査会」が「指針」として定めました。簡単に言えば、賠償金額を決めるための基準みたいなものです。
しかし、「指針で示された範囲以外の損害も個別の事情に応じて認められる」とも書かれていますので、「指針」に書いてないことでも、原発事故による損害であると訴えて、認められれば賠償してもらうことができます。
Q9:東京電力から送られて来た書類を使って損害賠償請求する場合の注意は何ですか?
A9:(1)書類に「同一保障対象期間における各保証項目の請求は1回限りとすること」と書いてありますので、1回請求した後、漏れがあって改めて請求しようと思っても断られる恐れがあります。
したがって、記入する時は慎重に、十分損害を全部調べてから記入してください。
また、記入した後も、間違いや漏れがないかどうか確認してください。
(2)東京電力から送られて来た書類の中に「合意書」がありますが、この「合意書」の中に「一切の異議・追加の請求を申し立てることはありません」という文章がないことを確認してください。
この文があると、出した後で、損害の内容が違うとか、もっと損害があるとか言うことはできなくなりますので、注意してください。
(3)東京電力から送られて来た書類には、住めなくなったために土地や住宅などの財産価値が減ってしまった場合でもその損害の賠償の請求を記入する部分がありませんので、請求できません。
Q10:どのようなことが損害賠償の対象となるのですか?
A10: 主に、以下の損害が対象としてあげられます。
①避難に伴う実費
身体の放射能の検査をするための費用<検査費用の領収証が必要>
逃げるための費用、家に一時的に戻る費用、家に帰る費用、家財道具等の運搬費用<交通費、ガソリン代や運搬料など>
生活費の増加については、「指針」では、精神的損害に含まれることになっていますが、特別な事情があって非常に高額な負担をしなければならなくなった場合は、その理由が合理的であり、きちんと証明できるものであれば、認められるとされています。
②生命・身体的損害(逃げる際の怪我、避難中に身体の状態が悪くなったこと等)
<医師による診断書、医療機関からの治療・検査費用の領収証、通院交通費のメモなどが必要>
③精神的損害(避難生活の苦しさなど)
④営業損害(店を開くことができなくなったなど)
⑤就労不能等に伴う損害(働けなくなりもらえなくなった給料、仕事を失ったなど)
⑥検査費用(自分が持っているものや自動車の放射能の検査をする費用など)
⑦財物価値の喪失又は減少等(土地や建物が放射能で汚されて価値が減った分)
⑧放射線被曝による損害(放射能を浴びたことによって起きた病気など)
事故発生以降、病状が悪化したという場合は、被曝との因果関係を証明するために、事故発生前のカルテと事故発生後のカルテを比較証拠として提出する方法もあります。
⑨自主的避難に伴う損害及び避難をしなかったことによる損害
Q11:避難対象区域ではない地域で、放射線量が高い地域から自主的に避難した人の損害について賠償されますか。また、避難をせずそのまま滞在し続けた場合も賠償されますか。
A11: 県北(福島市など)や県中(郡山市など)や浜通り(いわき市など)の一定の地域(自主的避難等対象区域)において、妊婦や18歳以下で1人40万円、その他の大人は同8万円が認められています。
詳しくはお住まいの役場の担当者、相談員や弁護士等の専門家に相談してください。
(1)対象地域
①自主的避難等対象区域
福島市、二本松市、伊達市、本宮市、桑折町、国見町、川俣町、大玉村、郡山市、
須賀川市、田村市、鏡石町、天栄村、石川町、玉川村、平田村、浅川町、古殿町、
三春町、小野町、相馬市、新地町、いわき市のうち、避難指示等対象区域を除く区域。
②対象外となった地域
白河市、西郷村、泉崎村、中島村、矢吹町、棚倉町、矢祭町、塙町、鮫川村、
会津若松市、喜多方市、北塩原村、西会津町、磐梯町、猪苗代町、会津坂下町、
湯川村、柳津町、三島町、金山町、昭和村、会津美里町、下郷町、檜枝岐村、只見町、
南会津町
なお、元々の避難指示等の対象市町村は次の地域
南相馬市、広野町、楢葉町、富岡町、川内村、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村、飯舘村
(田村市は一部対象地域あり)
Q12:対象区域外(避難対象区域及び自主的避難等対象区域以外)の住民の自主避難費用、検査費用は賠償されますか。
A12: 合理的かつ相当であると判断される範囲の損害であると立証されれば、対象区域外に生活の本拠のある者の自主避難によって生じた損害も認められる可能性があります。
詳しくはお住まいの役場の担当者、相談員や弁護士等の専門家に相談してください。
Q13:避難が続いている以上、途中で請求してお金をもらってしまうと、示談になってそのあとは請求出来なくなることはないですか。
A13: 請求書類の中に、期間、損害費目を区切り、これ以外に請求する可能性があることも明示し、「合意書」に「一切の異議・追加の請求を申し立てることはありません」というような文章がないことを確認すれば、後に請求できなくなるということを避けることができます。
原子力損害賠償手続については、通常事件より弁護士費用が安くなる可能性が高いので、不安であれば弁護士への依頼をお勧めします。
Q14:弁護士に賠償の件を一任すれば面倒でなくなると思うのですが、弁護士に支払う費用はどうなるのですか。
A14: 弁護士に支払う費用は原則として個々の弁護士によってまちまちです。
もっとも、被災者支援のため、福島県弁護士会の「原子力発電所事故被害者救済支援センター」を通じて個別に弁護士を依頼して東京電力への直接請求または「原子力損害賠償紛争解決センター」に対して和解仲介を行う場合には、法テラスの民事法律扶助の資力要件を満たす方についてはその利用が推奨されています。
この場合、着手金36,750円、実費10,000円ですが、報酬は2.1%(消費税込)と通常事件より安くなっております。
また、多くの弁護団では、概ね、受任時に費用として10,000円、報酬として5.25%(但し訴訟による解決の場合10.5%)としているようであり、こちらも通常の事件よりも安くなっております。
Q15:損害賠償を請求したいのですが、被害の状況はどのように書けばいいのかわかりません。具体例で教えてください。
A15: 原発事故の被害者の方々の多くは、法的に損害賠償請求をするなどということの経験はなく、損害賠償請求の内容、方法等についての情報も少なく、困っている状況であると思われます。
そこで、福島県弁護士会では、原発事故の被害者が東京電力に対する損害賠償請求を行うにあたって、その手続に少しでも楽にすることができるよう、「福島県原子力災害被災者・記録ノート」(通称「被災者ノート」)を作成いたしました。この「被災者ノ一ト」は、原発事故被害者が損害賠償請求をするときに必要と思われる事項を書とめておき、後の主張・立証が容易となるよう工夫して作成したものです。
表紙裏面の「ご利用上の注意点」をよくお読み頂いたうえ、ご利用頂きますようお願いいたします。
次の福島県弁護士会のホームページに掲載されていますので、ご覧ください。
http://business3.plala.or.jp/fba/sinsai_soudan/hisaisya_note.html
Q16:結局のところ、今後どうしたらいいでしょうか?
A16: 一人で悩み込まないで、信頼できる福祉支援者等と話し合いながら、専門的な部分については、弁護士のアドバイスを受けながら進めていくことをお勧めします。
※ 損害賠償に関する和解の仲介機関または相談窓口
◆原子力損害賠償紛争解決センター
<原子力損害賠償紛争解決センター 福島事務所>
〒963-8811 福島県郡山市方八町1-2-10 郡中東口ビル2階
<原子力損害賠償紛争解決センター 東京事務所>
〒105-0004 東京都港区新橋1-9-6 COI新橋ビル3階
<お問合せ先>
電話番号:0120-377-155(平日10時~17時)
Eメール:chukai@mext.go.jp
※2012年2月現在、FAXによる受付対応はできません。
◆福島県弁護士会 原子力発電所事故被害者救援支援センター
電話番号:0.24-533-7770(平日10時~15時)
URL:http://business3.plala.or.jp/fba/sinsai_soudan/pdf/kyusaisien.pdf
◆東京原発被災者弁護団
電話番号:0120-730-750 FAX番号:03-3502-8555
URL:http://www.ghb-law.net/
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