『助からない! 大津波が迫ってくる』



 社団法人宮城県ろうあ協会機関紙「聴障宮城」に掲載された実際に地震・津波にあわれた方々の体験談をご紹介します。ぜひお読みください。(文章は原文のままです。掲載につきましては同協会の許諾を得ています。)

『助からない! 大津波が迫ってくる』(2011/07/01掲載)

仙台市 Sさん

 3月11日は良い天気で、妻と娘の3人で、家から車で10分程の夢メッセみやぎに行きました。「グルメコロシアム」というイベントがあり、見学しながら各地の特産品等を味わっていたその1時間後…あの地震が起きたのです。人々は全員しゃがみこみました。私たち家族は、すぐに帰宅しようとしましたが、会場の誘導係から「車の移動は無理。皆一緒に避難するように」と言われてしまいました。音声の津波情報を娘が聞き、手話で教えてくれ、隣のビル2階に避難。そこは、避難してきた人々でいっぱい。皆がいる2階にも津波がどんどん襲ってきます。「3階へ逃げろ!」と誘導係の声。3階にも簡単に津波が上がってきました。「5階へ逃げろ!!」…辿り着いた5階から見下ろす津波には、流されている木、車、家…。その光景は、自宅を思い出させ、ショックを受けました。

 そのままその場で一夜を過ごすことに。食糧は、かろうじてケーキが冷蔵庫に残っているだけ。明らかに人数に対して足りず、皆で少しずつ分け合って食べました。とても寒い夜でした。翌朝、すぐに家まで徒歩で帰ろうとしましたが、途中までしか行けず、結局避難所にいることを余儀なくされました。避難所にいる間、家の大切なものばかり頭に浮かんできて、いてもたってもいられなくなりました。命が助かったのは娘のおかげです。もし娘が一緒にいなかったら…。私たちはきっと、周囲の人とコミュニケーションがとれず、何もわからないまま勝手なことをして、津波に襲われていたかもしれません。1週間ほど経ち、帰宅しました。幸いにも家は頑丈で被害がそれほど無く、1階のみの浸水でした。本など濡れて処分せざるを得なくなった物が色々ありましたが、命と家が助かっただけでも、ほっと一安心でした。