WFDの「緊急放送時における自国の手話言語による情報アクセスに関するガイドライン」の和訳版を公開しました
2020年3月19日に世界ろう連盟(WFD)が「緊急放送時における自国の手話言語による情報アクセスに関するガイドライン」を公開しました。
以下に原文(英語)と日本語訳を掲示します。
- 英語版:WFDウェブサイト「Guideline on Access to Information in National Sign Languages During Emergency Broadcasts」
日本語訳(PDFでダウンロード)
法的所在地 – フィンランド、ヘルシンキ
世界ろう連盟
世界手話言語通訳者協会
経済社会理事会(ECOSOC)、国連教育科学文化機関(UNESCO)、
国際労働機関(ILO)、世界保健機関(WHO)、欧州評議会と公式に連携している
国際的な非政府組織。1951年にローマで設立された。
フィンランド、ヘルシンキ、PO Box 65, 00401
www.wfdeaf.org
緊急放送時における
自国の手話言語による情報アクセスに
関するガイドライン
日付:2021年6月1日
【全日本ろうあ連盟仮訳】
全世界で7000万人以上いるろう者は、
自国の手話言語で情報にアクセスする権利を持っています
要点:
- 保健医療情報や緊急情報を提供する、全ての公式行事や公式放送では、国内または国際的に認められた資格を持つ、自国の手話言語の通訳者を従事させることが必要不可欠である。
- 保健医療情報や緊急情報に関する視聴覚メディアサービスは、アクセシブルである必要がある。このようにすることで、ろう者も、使用するプラットフォームやサービスに関係なく、他の人と同様に緊急情報に平等にアクセスできるようになる。
- 手話言語通訳者は、情報発信者の隣にいて(訳注:物理的に隣にいる、もしくは、画面を合成して隣に配置して)、画面上で視聴者にしっかりと見えているようにする必要がある。これにより、その国の手話言語を使用するろう者が、他の視聴者と一緒に、保健医療情報や緊急情報にタイムリーにアクセスできるようになる。
- ライブ/リアルタイムの、キャプション/サブタイトル1は、「サービスの質の要件」に沿って、「オープン形式」または「クローズド形式」で提供する必要がある。これにより、すべての視聴者が最適かつ平等にアクセスできるようになる。
本文書では、様々な状況において、キャプション/サブタイトルだけでなく、手話言語で保健医療情報や緊急情報を提供するための「優れた実践」を紹介する。
- 手話言語通訳と、キャプション/サブタイトルが同時につく、全国規模の記者会見や緊急情報に関する放送:
- 手話言語通訳者が、画面上ではっきりと見えるようにする。これは、以下のいずれかの方法で達成可能である:
- 通訳者を、情報発信者の横に物理的に配置する(図1)。
- 情報発信が行われている現場に、通訳者が映っているデジタル画面を物理的に追加する(図2)。
(訳注:情報発信者の隣に、デジタル画面を設置し、そのデジタル画面に手話言語通訳者を映す。視聴者が、情報発信者と手話言語通訳者の両方を見ることができるように撮影する。) - ピクチャー・イン・ピクチャーの合成技術を使い、通訳者の映像と情報発信者の映像を合成する(図3)。
- クロマキー合成技術を応用して、静止状態の無地の背景の上に、通訳者の映像と情報発信者の映像を、合成する(図4)。
注意:この方法は、他の選択肢がない場合に、例外的に使用される。
- 通訳者は、可能であれば画面の右側(あるいは、放送が行われる国において、好まれている側)に立つ。視聴者に向かって立ち、顔や手だけでなく、上半身も映るように撮影する。
図1:情報発信者と手話言語通訳者が、物理的に同じ場所にいる。
通訳者は、情報発信者の隣に立っている(オランダの例)
図2:手話言語通訳者は、視聴者から見えるように、デジタル画面に表示される。
通訳者と情報発信者が両方見えるように撮影される(日本の例)
図3:手話言語通訳者の映像と情報発信者の映像を合成する
ピクチャー・イン・ピクチャー合成技術(スペインの例)
図4:クロマキー合成技術を用いて提示された手話言語通訳者と、
クローズドキャプション(イギリスの例) - 手話言語通訳者は、常に全画像で表示される。文字、画像、キャプション/サブタイトルが、通訳者の上にかぶらないようにする。
- 放送が、複数のプラットフォームで行われる場合がある。その場合は、幅広い視聴者が容易に放送にアクセスできるように、メインの公共テレビチャンネルやインターネットでの放送を常に行う。
- 複数の音声言語や複数の手話言語が使われる場合には、2人以上の手話言語通訳者が必要となり、2人(もしくは2人以上)を同時に表示する。
- ライブ/リアルタイムの、キャプション/サブタイトルについて:
- キャプション/サブタイトルは、「オープン形式」で記録する。これにより、同じ放送内容が繰り返し放送される場合にも、放送内容がアクセシブルになる。
(訳注:「オープン形式」で記録をしておけば、同じ映像を繰り返し放送する際に、キャプション/サブタイトルつきのアクセシブルな映像を提供することが容易になる) - ライブ/リアルタイムのキャプション/サブタイトルは、「オープン形式」か「クローズド形式」かに関わらず、訓練を受けた人間(訳注:機械ではない)の字幕入力者によって、作成、提供する。
- 放送内容が、緊急の指示に関するもので、繰り返し放送する場合(例:災害時の指示など)、キャプション/サブタイトルは、常に「オープン形式」にする。
- すべてのテレビチャンネルとその他のメディア(インターネットを含む)で、キャプション/サブタイトルを利用できるようにする。
- キャプション/サブタイトルは、画面の下部に、背景の色と文字の色に対比(コントラスト)をつけて、表示する。キャプション/サブタイトルが通訳者にかぶってはいけない。黒の背景の上に、黄色か白のキャプション/サブタイトルをつけることを推奨する(黒以外の背景上で、白のキャプション/サブタイトルを使うと、視覚的にアクセスできない)。
- キャプション/サブタイトルは、「オープン形式」で記録する。これにより、同じ放送内容が繰り返し放送される場合にも、放送内容がアクセシブルになる。
- 手話言語通訳者が、画面上ではっきりと見えるようにする。これは、以下のいずれかの方法で達成可能である:
- 通訳者が同席するニュースの生(特別リアルタイム)放送
- 情報発信者が1名の場合-通訳者の大きさについて:
- 推奨:通訳者の差し込み動画の大きさは、画面の1/3にする。画面の1/6以下にならないようにする(図4)。
- 代替案:元となる放送画面(情報発信者の映像や、音声言語で議論している映像など)とは別の枠の中に、通訳者を配置する。通訳者が映る別枠は、画面全体の1/4の大きさにする(図5)。
図5:画面の別枠に通訳者を配置する。
「クローズド形式」のキャプション(Closed Caption、CC)や
「クローズド形式」のサブタイトルは非表示にした状態
(オーストリアの例)
- テレビ討論会―通訳者の位置と大きさについて:
- 推奨:情報発信者1人につき、通訳者1人が表示される(図6、7)。
- 代替案:(上記の、「II.1a」または 「II.1b」と同様にする)
図6: 情報発信者1人につき、通訳者1人が表示されるテレビ討論会
(アメリカの例)
図7: 情報発信者1人につき、通訳者1人が表示されるテレビ討論会
(フランスの例)
- 放送は、複数のプラットフォームで行われる必要がある。ただし、幅広い視聴者が容易に放送にアクセスできるようにするために、メインの公共テレビチャンネルでの放送を常に行う必要がある。キャプション/サブタイトルは、常に提供する。
- 情報発信者が1名の場合-通訳者の大きさについて:
- 大臣発表のライブ中継
大臣が最新情報を発表する際、手話言語通訳者が現場に立ち会えないことがよくある。その場合は、(前述のⅡ.に記載した)ニュースの生放送の原則に基づき、情報発信者と通訳者を画面上で同時にライブ配信する(図8)。これは、議会のウェブベースのプラットフォームを通じて放送されることが多い。冒頭の「要点」も参考にすること。
図8:大臣発表のライブ中継(イギリスの例) - 公共安全の情報に関するビデオ
- 公共機関は、放送される全ての情報が、その国の手話言語で利用できるようにする責任がある。その際、放送情報の通訳は、生放送中に手話言語で作成する方法が望ましい(文字からの翻訳や、事後に音声言語から翻訳する方法は望ましくない)。また、手話言語とキャプション/サブタイトルを一緒に表示することが望ましい(図9)。
図9:公共安全の情報に関するビデオ(インドの例) - ビデオを開発する際には、国内および国際的なろう団体、また障害者や当事者団体と直接協働している「公認の規格化団体」(例えば ITU=国連の国際電気通信連合)に連絡を取り、専門的な知識や指導を受ける必要がある(図10、図11)。
図10:公共安全の情報に関するビデオ(インドの例)
図11:公共安全の情報に関するビデオ(スペインの例) - 優れた実践の一つは、ろうの情報発信者が、緊急時・災害時における情報や安全に関して実施すべき手段を、自国の手話言語で提示することである。このようにすることで、自国の手話言語のネイティブな使用者によって、情報を正確に提示することができる。
- これらのビデオは、他の公共情報とともに、国のウェブサイトや公衆衛生のウェブサイトで公開する。
- ビデオには、その国の言語でキャプション/サブタイトルを付ける。
- 発信する情報をわかりやすくするための「視覚的な情報」を、可能なかぎり使用する。
- ろう者が、国や地方の保健医療機関へ質問する場合に、手話言語で直接、あるいは遠隔の手話言語通訳サービスを通じて質問を行うための方法に関する情報を提示する。
- 公共機関は、放送される全ての情報が、その国の手話言語で利用できるようにする責任がある。その際、放送情報の通訳は、生放送中に手話言語で作成する方法が望ましい(文字からの翻訳や、事後に音声言語から翻訳する方法は望ましくない)。また、手話言語とキャプション/サブタイトルを一緒に表示することが望ましい(図9)。
このガイドラインは、公衆衛生や緊急事態に関する情報を発信する非政府組織や国際機関にも適用される。自国の手話言語を最優先で使用するべきであり、また、世界中の人々を対象とした国際機関では、国際手話で情報を提供する必要がある。
1 ライブキャプション、リアルタイムキャプション、「速記タイプライター(Communication access real-time translation、CART)」(訳注3)とも呼ばれる。キャプションとサブタイトル、(また本文書で使用するその他のアクセシビリティに関する用語)は、「ITU-T勧告F.791 アクセシビリティに関する用語と定義」で定義されている。
謝辞
このガイドラインは、アレクサンダー・ブロックス(Alexandre Bloxs)、クリストファー・ストーン(Christopher Stone)、リディア・ベスト(Lidia Best)、川森雅仁(Masahito Kawamori)、アリム・チャンダニ(Alim Chandani)、エリザベス・ロックウッド(Elizabeth Lockwood)、マルタ・ボッシュ・i・バリアルダ(Marta Bosch i Baliarda)、ドゥーシャン・カフ(Dušan Caf)からの情報に基づき、マジャジュ・デベヴク(Matjaž Debevc)、アンドレア・サックス(Andrea Saks)、マヤ・デ・ウィット(Maya de Wit)、ジョセフ・マレー(Joseph Murray)によって編集された。本文書で使用した画像の調達にご協力いただいたマヤ・デ・ウィット(Maya de Wit)、マルタ・ボッシュ・i・バリアルダ(Marta Bosch i Baliarda)に感謝する。
参考文献
1.
オーストラリア手話言語(AUSLAN)― オーストラリア手話言語(Auslan)による映像制作の紹介ビデオ(映像:出典)
2.
著者名:ボッシュ=バリアルダ(Bosch-Baliarda), M.、ソレル=ヴィラゲリウ( Soler-Vilageliu), O.、オレロ(Orero), P.
表題:テレビでの手話言語通訳:ろうの手話ユーザーにおける視覚的画面探索の受容研究
誌名:翻訳・通訳のモノグラフ(Monographs in Translation and Interpreting、MonTI)第12号
発行年:2020
URL:出典
3.
著者名:独立テレビ委員会(ITC)
表題:地上波デジタル・テレビジョンにおける手話言語の標準化に関するガイドライン
以下の中に記載:規約・手引きメモ(サブタイトル、手話、音声解説)
発行年:2010
URL:出典
4.
著者名:国際標準化機構(ISO)
表題:情報技術 ― ユーザーインターフェースの構成要素のアクセシビリティ ― 第 25 部:ビデオ内のテキスト(キャプション、サブタイトル、その他の画面上のテキストを含む)の音声説明に関するガイダンス(TS 20071-25:2017)
発行年:2017
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著者名:国際電気通信連合(ITU)
表題:デジタルテレビにおける手話の技術的実現(レポート ITU-R BT.2448-0)
発行年:2019年
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著者名:国際電気通信連合(ITU)
表題:第11部:手話言語サービスのための制作ガイドライン推奨案(テクニカルレポート ITU-T FG AVA)
発行年:2013年
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7.
著者名:国際電気通信連合(ITU)
表題: ウェブベースの遠隔手話言語通訳、ビデオ遠隔通訳(VRI)システムに関するガイドライン
(テクニカルペーパー ITU-T FSTP.ACC-WebVRI)
発行年:2020年
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著者名:国際電気通信連合(ITU)
表題:リモートキャプションサービスの概要(テクニカルペーパー ITU-T FSTP-ACC-RC)
発行年:2019年
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著者名:国際電気通信連合(ITU)
表題:アクセシブルな会議のためのガイドライン(テクニカルペーパー ITU- T FSTP-AM)
発行年:2015年
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10.
著者名:国際電気通信連合(ITU)
表題:全ての人に会議への遠隔参加を支援するためのガイドライン(テクニカルペーパー ITU-T FSTP-ACC-RemPart)
発行年:2015年
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11.
著者名:国際電気通信連合(ITU)
表題:電気通信アクセシビリティのチェックリスト(テクニカルペーパー ITU-T FSTP-TACL)
発行年:2006年
URL:出典
12.
著者名:全米障害者評議会
表題:障害のある人のための効果的なコミュニケーション:緊急事態の前、緊急事態の間、緊急事態の後
引用ページ:p.45:アクセシビリティの解決策
引用ページ:p.104:表9. 警報の受信・確認方法
発行年:2014年
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13.
著者名:情報通信庁(Ofcom)
表題:テレビジョン・アクセス・サービスに関する規約
所在地(地名):ロンドン
発行者:Ofcom
発行年:2017年
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14.
著者名:パイファース(Pyfers), L.
表題:ヨーロッパのろう者のための手話本の制作、出版、配布のためのガイドライン
以下の中に記載:ろう者のための手話本(ガイドライン)
発行年:2000年
URL:出典
15.
著者名:ライアン(Ryan), H.、スキナー(Skinner), R.
表題:ビデオ通訳の最良の方法:手話言語通訳者協会
所在地(地名):ダーンゲート
発行者:手話言語通訳者協会(ASLI)
発行年:2015年
URL:出典
16.
著者名:ウェールマイヤー(Wehrmeyer), J. E.
表題:テレビニュースの手話通訳におけるろう者の理解に関する批判的研究(博士論文)
大学名:南アフリカ大学
所在地(地名):プレトリア
発行年:2013
URL:出典
17.
著者名:ウェインバーグ(Weinberg), S.
表題:手話言語ビデオの制作、手話言語ビデオ制作の推奨事項
発行者:国連児童基金(ユニセフ)
発行年:2019
URL:出典
1.
著者名:世界ろう連盟(WFD)
表題:アクセシビリティに関するWFD声明:手話言語通訳・翻訳とテクノロジーの発展
発行年:2019
URL:出典
2.
著者名:WWWコンソーシアム(W3C)
表題:映像ストリームに手話言語通訳を含める
以下の中に記載:WCAG 2.0 達成方法集(達成方法 G54)
発行年:2016年
URL:出典
3.
著者名:WWWコンソーシアム(W3C)
表題:アクセシビリティの基礎、対比(コントラスト)が良い色
発行年:2019年
URL:出典
4.
著者名:世界ろう連盟(WFD)
表題:アクセシビリティに関するWFD声明:手話言語通訳・翻訳とテクノロジーの発展
発行年:2019
URL: