WFDの「武力紛争におけるろう者の保護と安全のためのガイドライン」の和訳版を公開しました



 2022年3月15日に世界ろう連盟(WFD)が「武力紛争におけるろう者の保護と安全のためのガイドライン」を公開しました。

 以下に原文(英語)と日本語訳を掲示します。

日本語訳(PDFでダウンロード

武力紛争におけるろう者の保護と安全のためのガイドライン

世界ろう連盟(WFD)は、すべての関係者(国連機関、国際的な人道的運動に関わる人々や機関を含む)に対し、ろう者(武力紛争下における、ろうの難民・避難民を含む)の保護と安全を確保するよう要求します。そのために、以下の内容を尊重してください。

① 2006年の「障害者権利条約(障害者の権利に関する条約)」:
特に、第11条(危険な状況や緊急事態について記載されている)と、第21条(各国の手話言語による情報提供について記載されている)。

② 2015年の「仙台防災枠組」
特に、パラグラフ7、19(d)、30(c)、36(d)は、メディアや人道的インフラ(難民キャンプ、病院、学校など)において、アクセシブルな情報や意思疎通を提供することにより、ろう者を人道危機の対応にインクルージョンすることに関するものです。

③ 2016年の「人道活動における障害のある人のインクルージョンに関する憲章(Charter on Inclusion of People with Disabilities in Humanitarian Action)」:
この憲章は、ろう者が、保護、安全、尊厳の尊重を受ける権利と、ろう者が自らの権利の人道的な主体である権利を促進しています。

④ 2019年の国連安全保障理事会決議2475「紛争における障害のある人の保護について Security Council Unanimously Adopts Resolution 2475 (2019), Ground-Breaking Text on Protection of Persons with Disabilities in Conflict」:
特に、第5条と第7条は、ろう者が、武力紛争の状況下で提供される基本的サービス(アクセシブルな教育、自国の手話言語による情報と意思疎通を含む)に、他の人と同等にアクセスする権利を促進し、ろう者がその代表組織を通じて、人道支援に有意義に参加できるようにするためのものです。

⑤ 2019年の「国連障害者インクルージョン戦略 UNITED NATIONS DISABILITY INCLUSION STRATEGY(UNDIS)」:
この戦略は、すべての国連機関を通じて、障害のある人のインクルージョンを主流化しています。これには、人道的なことに関連する情報を、国際手話とその国の手話言語の両方で提供する義務も含まれます。

⑥ 2019年の機関間常設委員会(IASC)の実践的勧告 Guidelines INCLUSION OF PERSONS WITH DISABILITIES IN HUMANITARIAN ACTION
この勧告は、災害や人道的状況における、障害のある人のインクルージョンと、参加、リーダーシップに関する勧告です。特に、手話言語に言及しています。

⑦ 国際人道法 と、人道主義の原則

2021年、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は、「危険な状況及び人道上の緊急事態」において、サービスへのアクセスを、手話言語や先住民族の言語によって提供する必要性を強調しました。緊急時サービスの提供に関する各国の指針には、手話言語へのアクセスに関する規定(手話言語によってサービスが提供されている「地域の緊急時の場所」に関する情報を含む)を含めるべきです 1

人道危機や武力紛争の際、世界中で暮らす7000万人以上のろう者は、自分の周りで起きている出来事についてのタイムリーな情報や意思疎通に、自国の手話言語でアクセスすることができません。そのため、無視や疎外、見捨てられ、暴力、死の危険性がさらに高まり、安全、救助・救援、復興支援(難民キャンプなどの人道的環境も含む)へのアクセスの不足が永続することになってしまいます。安全、避難、支援サービスに関する重要な情報に、自国の手話言語でアクセスできない場合、ろう者は常に取り残されてしまいます。

ろう者とろうコミュニティは、障害者運動と文化的・言語的マイノリティの両方に属するという独自な状況におかれています。そのため、避難の手順や支援に関連する情報・意思疎通に、自国の手話言語(ろう者の自然言語)でアクセスする際に、追加的・交差的な差別に直面することが頻繁にあります。

ろうの難民・避難民は、障害や言語的要件・言語的選択を理由に、きこえる人と比べて、不利に、差別的に扱われるべきではありません。これは、平等と無差別の普遍的な原則に基づいています。ろうの難民・避難民は、自国の手話言語で情報を提供されなければなりません。また、ろう者が選択する、ろう者にとって最も自然な言語で、救助・救援情報、意思疎通、サービスを提供されなければなりません。

WFDは、この人道危機に対処する国連とその機関、政治指導者、すべての人道支援関係者に対して、以下の事柄を、ろう者に確保するよう要求します。

  • 人道的援助、緊急対応、安全の手順、援助の手順、避難の手順や支援に関するすべての情報や意思疎通に、自国の手話言語で完全にアクセスできること。
    緊急放送におけるアクセシブルな情報と意思疎通に関する詳細は、「緊急放送時における自国の手話言語による情報へのアクセスに関するWFD-WASLIガイドライン Guideline on Access to Information in National Sign Languages During Emergency Broadcasts」に記載されています。
  • ろう者の代表組織(全国ろう協会)を通じ、アクセシブルな協議を通じて、人道的対応のあらゆる段階において、すべての人道支援に有意義に関与できること。
  • 自国の手話言語によって、あらゆる場面の人道的援助やサービスにアクセスできること。
  • 基本的なサービス(社会的・心理的支援、教育、保健・医療、交通機関、情報を含む)に、自国の手話言語、または、避難先の国の手話言語(避難先の国の手話言語を知っている場合)によって、十分にアクセスできること。
  • 自国の手話言語通訳者にアクセスできること。再定住の場合は、ろうの通訳者(ろうの難民と、再定住先のきこえる手話言語通訳者との間にある言語の違いを埋めることができる人)にアクセスできること。
  • 避難先の国のろうコミュニティにアクセスでき、そこで、コミュニティ内での助け合い(ピア・サポート)を受けられること。
  • 避難先または再定住先の国より自主的に移動していること。ろう者の再定住を支援する政府出資のサービスがあること。これらの取り組みは、政府の救助・救援活動を通じて資金調達され、既存の救助・救援活動に統合され、ろう者が地元のろうコミュニティやボランティアにアクセスできるようにする必要がある。
  • 手話言語を使用するろう者を念頭に、難民・国内避難民が、障害なくサービスにアクセスできるよう、あらゆる政策が整備されていること。

追加的・交差的な差別に直面している等、最も危険にさらされ、最も脆弱なろう者に、より多くの注意を向ける必要があります。例えば、知的障害のあるろう者、盲ろう者、ろうの女性や少女、BIPOC(黒人、先住民、有色人種)、高齢のろう者、ろうの移住者、ろうのLGBTQIA+等があげられます。

1 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)。障害者権利条約第 11 条に基づく障害のある人の権利に関する研究 – 危険な状況下、人道上の緊急事態下に関して(国連 A/HRC/31/30)。

WFDについて

世界ろう連盟は、133カ国のろう協会からなる、国際的な非営利・非政府組織です。WFDは、国連の諮問的地位を有し、国際障害同盟(IDA)の創立メンバーでもあります。WFDは、「国際連合憲章」、「世界人権宣言」、「国連障害者権利条約(CRPD)」、「2030アジェンダ」、「持続可能な開発目標(SDGs)」、その他の「人権条約」の原則と目的に従って、ろう者の人権を促進しています。WFDは代表機関として、世界中のろう者が、自分たちの権利を提唱し、達成し、守るための、知識、ツール、戦略を身につけられるよう活動しています。

詳細情報: http://wfdeaf.org/

連絡先: info@wfdeaf.org

国連、国連教育科学文化機関(UNESCO)、国際労働機関(ILO)、世界保健機関(WHO)、欧州評議会と公式に連携している国際的な非政府組織。ヘルシンキ、フィンランド |www.wfdeaf.org