「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律案」に対する緊急声明



「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律案」に対する緊急声明

2019年4月13日
一般財団法人全日本ろうあ連盟

 この4月11日、旧優生保護法により障害者に対して不妊手術が行われたことについて、その被害者に一時金として320万円を支給するなどの救済策を盛り込んだ「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律案」(以下、「法律案」とする)が、衆議院本会議において全会一致で可決され、参議院に送られることになった。
 旧優生保護法による被害は聴覚障害者(ろう者)にも及び、その補償を求めて裁判が行われており、全日本ろうあ連盟もこの問題の実態解明に取り組むとともに、その権利救済及び補償が適切に行われるように取り組んでいるところである。
 しかしながら、先の法律案は、障害者の権利救済及び補償としては不十分であり、次の6点について、参議院において法律案の修正または付帯決議を通して改善がなされるように求める。

 1.法律案において、旧優生保護法を成立させ、50年余りも長期間にわたってその施行および推進を行い、また、旧優生保護法による人権問題が認識されてから20年余りたつにも関わらず、その救済をしてこなかった国会や政府の責任が明記されていない。これらの反省を踏まえ、法律案に国の責任および謝罪を明記すべきである。

 2.法律案は旧優生保護法が憲法違反であることを認めていない。旧優生保護法は障害者に対する人権侵害の法律であり、明らかに憲法違反であり、その旨を法律案に明記すべきである。

 3.権利救済としての一時金が320万円とあまりにも少なすぎる。不妊手術等によって、子どもを産む権利・育てる権利が奪われただけでなく、それに手を貸してしまった家族との関係も悪化したり、子どもが産めないからと離婚されたりした人もおり、その補償としてはあまりにも少なすぎる。この問題の深刻さに見合った補償額にすべきでる。
 また、一時金が320万円となった根拠としてスウェーデンの一時金額が参考にされているが、スウェーデンでは年金や医療などの社会保障が充実しており、生活が保障された上で一時金が支給されている。一方、日本では貧困が広がり、社会保障も不十分であることを考えると、一時金を増やしたり、一時金に加えて障害年金の特別給付のような形で対応すべきである。

 4.法律案では一時金の申請期限が5年とされているが、その期限を延長または撤廃をすべきである。一時金の申請のためには、被害者の個々人の障害などの状況に合わせた適切な説明や情報保障など周知が必要である。また、家族に申請を反対されたり、配偶者に秘密にしているために、申請に躊躇する人もいると考えられる。こうした問題を踏まえると申請期限の延長や撤廃が求められる。

 5.法律案では、旧優生保護法による不妊手術を受けた人に対して一時金を支給するとしているが、旧優生保護法では障害者から子孫を奪うために中絶も行われていた。そのため、旧優生保護法の下で実施された中絶により被害を受けた人に対する補償も行うべきである。

 6.法律案では、一時金の支給対象は優生手術を受けた者である。ただし、その者が一時金の申請をした上で亡くなった場合には遺族や相続人も対象となる。しかしながら、優生手術を受けた者の配偶者も同様に子どもを産む権利、育てる権利等を侵害されているのであるから、その配偶者も支給対象にすべきである。

 最後に、これらの事項について、参議院においては、旧優生保護法の被害者やその家族はもちろん、関係する障害者団体の代表者等の発言をする機会を設け、被害者や障害当事者の旧優生保護法による被害の実態や当事者の持つ怒りや無念さ、補償に対する思いなどを確認した上で法律案の審議をするよう切に要望する。

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