旧優生保護法裁判に対する連盟の立場



旧優生保護法裁判に対する連盟の立場

2019年3月5日 一般財団法人全日本ろうあ連盟

 2018年9月28日に兵庫県在住のろう者夫婦2組が旧優生保護法により大きな被害を受けたとして、国に対して国家賠償訴訟を起こしました。これはろう者の被害者としては全国で初めての提訴でした。今年に入って静岡、大阪でも提訴が続き、この動きは今後広がっていくと思われます。そこで、この旧優生保護法裁判に対する全日本ろうあ連盟の立場を下記の通り表明します。

1.旧優生保護法裁判に対する考え
 戦前の1940年に成立した国民優生法、それを引き継いだ1948年の優生保護法は「優生上の見地から不良な子孫の出生を防止する」ことを目的に、精神障害や知的障害などの障害を持つ人々を「不良」とみなし、その人々が子どもを産めなくする「不妊手術」や人工中絶手術を、本人の同意なくとも実施できるようにした。長年にわたって多くの人々がその被害にあった。そのなかにはろう者の被害者も含まれていた。

 1996(平成8)年に母体保護法に改正されて、これらの規定が削除されたが、その後も被害は続いた。そのなかには聞こえない被害者も含まれていた。これについては2018年に連盟が加盟団体とともに実施した「聴覚障害者による強制不妊手術や中絶における実態調査」結果、139人(2019年1月31日現在)が被害を受けていることが明らかになっている。
 聞こえない被害者は、それまで手話言語を学ぶことや使用することを否定されて手話言語による情報提供や相談もできないままに、子どもを産み育てたいという思いを優生手術や人工中絶手術によって全て剥奪された。また、その後の人生においても、子どもがつくれないことを理由に離婚されたり、親が未成年の子の優生手術を勧めたために親子関係が壊されたりと、夫婦関係、親子関係、兄弟姉妹関係等の家族関係の分断も強いられた。
 提訴した聞こえない被害者の一人は、ろう学校で教員による聞こえない生徒や親への軽蔑、職場での差別・偏見に基づく嫌がらせや暴力を受け、また家族にさえ罵られてきた。こうしたことにずっと耐えてきたところに、さらに子どもを産むことができなくなったという二重の差別を受けたことの悔しさを訴えている。この優生保護法の問題が明らかになってはじめて、不妊手術だけでなく、人生のすべての中での差別・人権侵害は、障害のある人を国が「不良」とみなした優生保護法に元凶があることがわかった。その方は優生保護法の問題を「沈黙したままでは死ぬわけにいかない」と訴えている。
 障害のある人に対する差別意識、そこから障害のある人は劣っていると考え、そうした人の生命を途絶えさせようとする優生思想は、多くの国民の中にもあった。その考えを国民に広く流布し、公費を使って人員・施設を整えて実行できるようにしたのは、国による優生政策や優生保護法などの政策や立法行為であり、また、それに便乗した形でさらに、1966年に兵庫県衛生部が設置した「不幸な子どもの生まれない対策室」のような地方自治体の施策である。
 以上のことから、国家による優生思想に基づく法律や政策そのものが、障害のある人に対する差別偏見、人権侵害、不幸の原因を作ったと言える。そのため、こうしたことが二度と生じないように、この問題に対して、国はきちんと反省し、謝罪し、補償すべきである。

2.旧優生保護法裁判に対する連盟の立場
 上記を踏まえて、旧優生保護法裁判に対する連盟の立場を下記のとおり表明する。

○被害者の権利・尊厳の回復を、同じ当事者として求める。聞こえない被害者が自ら裁判を起こしたことは、被害を受けた屈辱の思いを訴えられない被害者に対しても、勇気を与えるとともに、剥奪された権利・尊厳の回復につながる。

○聞こえない被害者の多くが高齢化している現状から、現在各地で行われている国家賠償訴訟で、聞こえない被害者を含めて被害者である障害者や関係者に対する一刻も早い国の謝罪・救済を求める。

○こうした被害を回復し、さらに将来繰り返さないためにも、聞こえない人とその家族が差別なく、尊厳ある人間らしい暮らしができるための教育や福祉、就労に対する支援等の社会資源の整備強化を求める。

○旧優生保護法また優生思想が社会に横行していたにもかかわらず、聞こえない人の人権侵害に対する運動ができなかった反省により、過去に聞こえない人が受けた差別の歴史を再確認するとともに、現在も社会に潜む優生思想をなくしていく。

○この裁判を通して手話言語による情報・コミュニケーション保障の必要性を積極的に社会に発信し、改善するよう訴える。同時に、裁判所自らも裁判における情報・コミュニケーション保障の改善に取り組むよう訴える。

○裁判の原告である聞こえない被害者と同じ当事者団体である当連盟の加盟団体が中心になって、全国優生保護法被害弁護団と協働して、旧優生保護法また優生思想の被害者およびこの裁判の原告を支援できる体制を築けるよう取り組む。

3.連盟の取り組み
 連盟は上記を達成するために、2018年12月6日「強制不妊手術対策チーム」を設置し、次の5点について取り組んでいく。
(1)裁判及び被害者支援
 障害者団体と連携して聞こえない被害者を中心に、旧優生保護法裁判における被害者への支援とともに裁判の情報保障に取り組む。
(2)旧優生保護法救済法案対策
 旧優生保護法に対する補償を検討している議員連盟に対して、連盟の立場を伝え、関係する要望や情報提供などに取り組む。
(3)研究調査
 聞こえない被害者を中心に、旧優生保護法の被害者の人数や経緯、その後の生活などの実態調査を行うとともに、当時の優生思想や障害者差別、優生保護法の状況について明らかにする。
(4)学習会、啓発活動
 旧優生保護法の問題点や被害の実態を学ぶ学習会を開催し、また、関連する資料やパンフレットなどを作成して、この問題に対する普及啓発活動を行う。
(5)権利保障のための取り組み(社会資源充実、子育て・高齢・教育サポート)
 旧優生保護法の被害者に対して権利回復のための社会的サポートのあり方について考える。また、障害者への差別、ひいては優生思想の温床となっている障害者に対する社会資源の欠如や不足、教育や福祉の問題を解消するために、必要な社会資源の充実、特に、情報アクセシビリティ・コミュニケーション保障、所得保障その他の社会福祉などに資する取り組みをする。

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