厚生労働省にきこえない・きこえにくい者の権利保障に関する要望書を提出
10/7(水)、福祉基本政策プロジェクトチームより厚生労働省へ要望書を提出しました。
| 担当課 | 「福祉基本政策プロジェクトチーム」 |
|---|---|
|
●社会・援護局 障害保健福祉部 企画課 自立支援振興室 障害福祉課 福祉サービス係 障害福祉課 地域生活・発達障害者支援室 ●医政局 総務課 企画法令係 ●老健局 |
・全日本ろうあ連盟 副理事長:中西 久美子 理 事 :吉野 幸代 理 事 :内川 大輔 ・全国手話通訳問題研究会 伊藤 利明 新船 洋平 ・全国聴覚障害者情報提供施設協議会 岩城 宏允 ・全国高齢聴覚障害者福祉施設協議会 吉見 剛二 木村 聡子 ・全国ろう重複障害者施設連絡協議会 佐藤 喜宜 ・全国ろうあヘルパー連絡協議会 清田 廣 廣田 しづえ |

連本第260282号
2026年10月7日
厚生労働大臣
上野 賢一郎 様
東京都新宿区原町3-61 桂ビル2階
電話03-6302-1430・Fax 03-6302-1449
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長 石橋 大吾
きこえない・きこえにくい者の権利保障への要望について
拝啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
日頃より、きこえない・きこえにくい者の社会参加促進にご理解とご支援を賜り、心より感謝申し上げます。
近年、「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」の成立や、「改正障害者差別解消法」による合理的配慮の義務化により、情報アクセスとコミュニケーション環境の改善が期待されています。さらに、昨年には「手話に関する施策の推進に関する法律(手話施策推進法)」が成立しました。
しかしながら、地域によって対応に差が見られるなど、依然として解決すべき課題が残されています。
全日本ろうあ連盟では、聴覚障害者情報提供施設、ろう重複障害者団体、ろう高齢者団体など関係諸団体と協議し、きこえない・きこえにくい者の生活と権利を守る施策の充実をめざして、各団体の要望を下記のとおり統一要望として取りまとめました。
つきましては、これらの要望を施策に反映し、必要な予算措置を講じていただきますようお願い申し上げます。
記
1.全国のきこえない・きこえにくい者が地域格差なく福祉サービスを利用することができるよう、聴覚障害者情報提供施設の機能強化と基盤整備を図ってください。
(1)人事院勧告の委託費への確実な反映と職員の処遇改善に向けた財政的措置をしてください。
法的役割の拡大に伴い求められる専門性が増す一方、全国聴覚障害者情報提供施設協議会の実態調査では72.3%の施設で「人事院勧告が委託費に反映されない」と回答しており、自治体ごとの判断や財政状況による給与格差や慢性的な人材不足が深刻化しています。
そのため、自治体の財政状況に影響されることなく、人事院勧告等に伴う人件費改定が確実に委託費へ反映される明確な通知・仕組み(国庫補助・交付金措置の拡充等)を構築してください。
加えて、手話通訳者や士・要約筆記者等の専門職の適切な評価と確保を可能とするため、人件費予算の底上げをはじめとする処遇改善措置を講じてください。
(2)事業の地域格差解消、ICT化推進および「中央センター」の構築をしてください。
事業規模や提供体制の地域格差が著しく、単独の地方施設のみではデジタル化への対応や広域的な災害対応に限界が生じています。
令和5(2023)年度障害者総合福祉推進事業報告書の提言に基づき、映像ライブラリーのデジタルアーカイブ化やICTを活用した遠隔支援体制整備への財政支援を行ってください。
また、全国の中枢として「専門人材の育成機能」および「災害時等の広域的な情報・コミュニケーション支援調整機能」を担う「中央センター(仮称)」の構築に向け、必要な制度化および財政的支援を進めてください。
(3)社会的変化に伴う「情報発信・情報支援」及び「専門相談支援体制」の強化と予算の増額をしてください。
災害の激甚化や孤立・孤独問題の深刻化に伴い、避難所等での個別対応(情報支援)や、手話言語等で十分な意思疎通が図れる専門的な相談支援のニーズが急増しています。市町村の一般的な相談窓口ではコミュニケーション支援が十分に行き届かず、当事者の孤立化が懸念されます。
災害発生時には、迅速な情報発信に加え、被災現場や避難所等における実地・遠隔による「情報支援」体制を強化するための補助措置を講じてください。
また、当事者の孤立・孤独を防ぐため、手話言語や聴覚障害の特性に精通した専門相談員の配置やアウトリーチ型支援を強化し、市町村支援と連携できる体制を確立してください。
加えて、これら「情報支援」および「専門相談支援」を担う職員を安定的に維持・確保できるよう、必要な人件費予算の大幅な増額・財政措置を講じてください。
2.(1)きこえない・きこえにくい者・ろう重複障害者が利用する障害者支援施設の重要性を十分にご理解いただき、今後の協議においてその必要性を踏まえた施策を慎重にご検討ください。
現在、「令和7(2025)年度障害者の地域生活支援も踏まえた障害者支援施設の在り方に係る検討会」において、さまざまな議論が行われています。中でも、施設入所支援の在り方は、きこえない・きこえにくい者・ろう重複障害者の生活の質に直結する極めて重要な課題であり、慎重かつ丁寧な検討が必要です。
しかしながら現在、施設入所支援の報酬は低く、現場職員は利用者が望む支援を実施したくてもできず、疲弊しています。検討委員会の資料等を拝見しますと、施設入所支援の重要性が十分に理解されていないのではと懸念しています。
きこえない・きこえにくい者・ろう重複障害者は、その障害特性からコミュニケーションに困難を抱え、地域で孤立しやすい傾向があります。また、専門的な支援が行われない場合、障害が重度化する恐れもあります。安心・安全な生活を確保するためには、集団生活の場と専門的な支援を受けられる環境が不可欠です。
聴覚・ろう重複障害者の専門的な入所施設が存在することで、地域生活と同等の暮らしの質を実現できると考えます。
(2)相談支援事業に「視覚・聴覚言語障害者支援体制加算」を創設してください。
「令和6(2024)年度障害福祉サービス等報酬改定の概要」には、「相談支援事業所における手話通訳士等によるコミュニケーション支援の実態を把握するとともに、コミュニケーション支援体制の確保方策について検討する」と記載されています。
個別給付ではありますが、令和6(2024)年度からは、児童福祉サービスにおいて視覚・聴覚言語障害児への手厚い支援が必要であることから、新たに加算が創設されました。
相談支援事業においても、精神障害者支援体制加算や行動障害支援体制加算と同様に、きこえない・きこえにくい者・ろう重複障害者の特性を理解し配慮でき、手話言語等のコミュニケーションに専門性を有する相談支援専門員を配置した場合には、報酬の加算ができるよう「視覚・聴覚言語障害者支援体制加算」を創設してください。
(3)障害福祉サービス事業すべてに、ピアサポート実施加算を拡充してください。
聴覚・ろう重複障害者施設では、きこえない・きこえにくい職員が「ピアサポーター」として重要な役割を担っています。こうした役割が、すべての障害福祉サービスにおいても算定対象となるよう、加算の拡充をお願いします。
また、実際にピアサポーターを職員として配置する場合、現行では他の配置加算と比べて制度が脆弱です。ピアサポートを安定的に実施できる環境を整備するため、報酬単価の大幅な改善を求めます。さらに、ピアサポーター養成課程において、きこえない・きこえにくい者を対象とした専用コースを新設してください。
3.貴省社会保障審議会の介護給付費部会・医療部会等において、きこえない障害当事者の意見を反映させるようにしてください。
社会保障審議会は多様な分野の部会で審議が行われており、障害者部会には障害当事者の委員が選任され、当事者の立場から意見や提言が行われています。
しかし、介護給付費部会や医療部会等においては、きこえない当事者の委員参加がなく、これらの審議に関わる重要な施策に意見が反映されにくい状況です。
例えば、介護報酬の改定では、訪問介護基本報酬が下がり、きこえない・きこえにくい者の訪問介護を行う数少ない団体に悪影響を及ぼし、きこえない・きこえにくい者はサービスを受けられなくなる恐れがあります。また、障害福祉サービスの利用を希望しても65歳以上のため介護サービスを利用せざるを得ない65歳問題などの課題もあります。
医療部会においては医療DX(デジタルトランスフォーメーション)が推進されますが、多様な障害者がデジタル技術の恩恵を受けられるような配慮も必要ですので、きこえない障害当事者の意見が反映されるようにしてください。
加えて、次期障害福祉計画及び障害児福祉計画にも、きこえない障害当事者の意見が反映されるようにしてください。
4.介護保険制度に関して、次の事項を講じてください。
(1)介護報酬に設定されている「障害者生活支援加算」について、令和6(2024)年に改定された障害福祉サービスの「視覚・聴覚言語障害者支援体制加算」と同様の単位(51単位/日)への引き上げを行ってください
資料①
(提出先:老健局、社会・援護局(障害保健福祉部))
全国高齢聴覚障害者施設協議会に加盟するろう高齢者が多く利用する4施設(京都・大阪・埼玉・兵庫)で、平成27(2015)年に3日間のタイムスタディ調査を実施しました。その結果「すべての支援のうち30%が情報・コミュニケ-ション支援」であり、「身体介護や生活支援・活動支援とコミュニケ-ション支援は、常に一体的に行なっている」ことが明らかになりました。その結果は、平成17(2005)年に全国ろう重複障害者施設連絡協議会が実施した結果と同様になりました。それを受け、貴省に加算の引上げをお願いしたところ、平成30(2018)年から「障害者生活支援体制加算Ⅱ」が創設され、入居者の50%が障害者の場合、26単位から41単位へと拡充され、障害者生活支援員も1名から2名に増員されました。これにより、個別の相談支援はもちろん情報提供や各種学習の機会の提供、集団的自治活動等の取り組みの充実が実現しました。
ろう高齢者の場合、単なる身体機能の低下による要介護状態の重度化だけでなく、これまで習得・使用していた手話言語等のコミュニケーション手段も年齢や身体機能の低下等により(手指の)動きに制限がかかることで意思疎通(発信と受信・理解等)には更なる困難さと時間を要することになります。また、身体的な問題がなくても、状況や説明の把握に時間を要するようになることから、ろう高齢者に対しては、介護支援とコミュニケーション支援(説明)を一体的に行う必要があります。そのため、これまで以上に長時間の介護支援が必要となる状況が生じています。
障害者支援施設等で生活していたきこえない・きこえにくい利用者が高齢になり、高齢者介護福祉施設(特養)に入居した途端に、加算が減額されます。高齢による身体機能や認知機能が低下したことにより、それまで以上に専門的かつ丁寧な情報・コミュニケーション支援を要することを踏まえ、障害福祉サ-ビスの「視覚・聴覚言語障害者支援体制加算」と同様の単位へ引上げをしてください。
2026年5月13日の交渉時に、「障害福祉制度と介護保険制度の主旨が違うこと」、「制度の主旨や他の加算との関係を踏まえ、引き続き関係審議会等で慎重な検討を行なう」との回答をいただきました。その進捗状況を教えてください。
私たちの要望は、「施設経営」のためではありません。ろう高齢者の生活保障・コミュニケ-ション保障を行い、高齢になっても介護支援の質を落とさないためです。障害・介護の制度の縦割りではなく、ライフステ-ジ全体を通した「切れ目のない介護支援」を実現してください。
本件につきましては、障害福祉課の担当者様のご意見もお聞かせください。
(2)ろう高齢が在宅生活を継続するために必要となる短期入所事業にも、「障害者生活支援加算」を適用してください。
資料②・資料③
(提出先:老健局、社会・援護局(障害保健福祉部))
令和3(2021)年度に実施したタイムスタディ調査からも特養の長期入所と同様、短期入所事業でのコミュニケーション支援が支援に係る総時間のうち31%にものぼるという結果が出ています。
これまでも貴省からご説明いただいた「短期入所サービスは短期間、施設に入所する在宅サ-ビスである」ことは承知していますが、資料③の通り、独居や家庭内での虐待、アルコール依存症、退院後の安静と健康管理、周辺住民との関係不和等の事情を抱え利用する方が多く、特養の入居者以上に、抱える問題は多岐にわたり個別の相談・支援が必要なため『長期利用減算』が生じることを覚悟の上で、命と暮らしを守るために特養に入居できるまで長期間受け入れざるを得ない実態があります。
また、手話言語でのコミュニケ-ションが可能な職員を配置し、介護・支援を行なうことで新たな課題や要求が明らかになり、個々が抱える課題や願いを施設職員が聞き、担当のケアマネや関係機関と連携・協議し課題解決を図ることで、健康で安定した在宅生活が継続できるなど、手話言語のできる職員は、重要な役割を担っています。
また、「利用者の中にろう高齢者が利用している日といない日があるため限られた人材を施設に派遣することは困難」との発言がありましたが、ろう高齢者の利用者数は日によって若干の差はあるものの、常時、ろう高齢者が利用していることに加え、緊急時にショートスティを利用することも踏まえ、手話言語等によるコミュニケ-ションができる職員を配置しています。職員採用が厳しい今日、手話言語等ができる専門性の高い職員を最初から採用・配置することは困難です。そのため採用後に、手話技術の習得を行ない手話言語ができるようになった職員を常時配置し、いつでもろう高齢者がショート利用でも安心してもらえる体制を整えておくことが求められます。
2026年5月13日やその以前の交渉時の回答でも「短期入所事業においても円滑なコミュニケ-ションは重要であることや長期利用の実態も一定数把握している」との認識は頂いた上で、「報酬体系の簡素化の観点を含め、加算創設の可否は実態を踏まえての検討が必要」との回答が続いています。
現場の支援実態(命に関わる支援)を踏まえた上での制度設計が必要であり、利用するろう高齢者の命と安全、生活維持の観点から早急に検討をお願いします。
これら、利用の実態と専門性の高い介護支援を行なっていることを理解いただき、加算を適用してください。
5.きこえない・きこえにくい者の福祉に関わる人材養成・確保を強化してください。
(1)2025年度に実施された「手話通訳者の労働環境等の実態に関する調査研究」(以下、実態調査)では、「雇用された手話通訳者の平均年齢は57.2歳と5年前に比べ2歳以上上昇し、40歳以下の手話通訳者は全体の約4%であり高齢化が顕著に進んでいます」 「手話通訳者の非正規雇用の割合は81%と高く」「手話通訳事業が社会的に評価されておらず」、更には「解消しない健康問題」といった課題が明らかになりました。
手話通訳者の健康問題の解決に向けた「けいわん検診の実施」については、都道府県への周知を進めていただき、また、今年度より状況把握のための調査を貴省で行われていると承知しております。今後、手話通訳者の健康を守る必要性について社会への周知を強化するとともに、けいわん検診の実施を自治体の義務とする制度や、けいわんの専門医不足の地域への国の支援(専門医派遣・オンライン診療・専門医養成等)をご検討くださいますようお願いします。
(2)実態調査では、設置手話通訳者の業務内容や役割が自治体ごとに大きく異なり、相談支援や派遣コーディネートなどの専門的業務が個々の経験に依存している実態が明らかになりました。また、研修機会や予算の地域差が大きく、必要な知識や技能を体系的に学べる環境が十分に整っていないことも課題として示されています。
このような状況は、きこえない・きこえにくい者への相談支援や情報保障の質にばらつきを生じさせ、制度の目的を十分に果たせない要因となっています。専門性の高い業務を担う設置手話通訳者が全国どこでも同じ水準で働ける環境整備が必要です。
そのため、設置手話通訳者の業務範囲や役割を明確化した全国共通の業務マニュアルを作成し、自治体へ通知してください。そして、設置手話通訳者向け専門研修を制度化し、相談支援、福祉制度理解、派遣コーディネート、遠隔手話通訳、健康管理などを体系的に学べる研修体制を整備してください。
(3)手話施策推進法の施行、改正障害者差別解消法における合理的配慮の提供義務の民間事業者への拡大等により、今後、意思疎通支援及び手話通訳のニーズはさらに高まることが見込まれます。各省庁に対し、きこえない・きこえにくい者のコミュニケーション・情報保障の必要性を周知するとともに、福祉向上に関わる意思疎通支援者及び手話通訳者の人材養成・確保の施策を検討してください。
手話施策推進法第15条に基づき、手話通訳者の人材確保を自治体の義務として具体化するガイドラインを貴省にて策定してください。また、障害者計画(国・都道府県・市町村)に「手話通訳者の確保」を必ず記載するよう通知し、法施行後5年の検討(附則2項)において、手話通訳者の身分保障・配置義務化を法改正項目として検討するようお願いいたします。
6.障害者総合支援法に基づく訪問系サービスにおける「視覚・聴覚・言語障害者支援加算」の創設をしてください。
資料④
居宅介護(訪問系サービス)では、視覚・聴覚・言語障害のある利用者に対し、身体介護・家事援助と一体的に、手話言語・指文字・触手話・筆談・絵や写真等を用いた意思疎通支援を行っています。これらは利用者の体調確認、服薬、排泄、入浴、食事、買物、看護師への申し送りなど、生活の安全と自己決定に直結する重要な支援です。
しかし、これらの意思疎通(コミュニケーション)は介護動作と同時に使用することが困難であり、支援者は作業を中断し、利用者と向き合い、理解を確認しながら説明を行う必要があります。
令和8(2026)年に実施したタイムスタディ調査では、訪問支援時間の約4割が意思疎通支援に費やされており、通常の「相談・助言」では評価しきれない専門的支援が存在することが明らかになりました。
また、幼少期から十分な言語教育を受けられなかったろう高齢者・盲ろう高齢者の場合、手話言語だけでは意思疎通が成立しないこともあり、絵・写真・実物提示など複数の手段を組み合わせて丁寧な支援を行う必要があります。こうした支援は、加算する仕組みがなく事業所の負荷が常態化しており、人材確保にも影響しています。
障害福祉サービス(生活介護・自立訓練・就労系)や児童福祉サービスには「視覚・聴覚言語障害者支援体制加算」が設けられていますが、在宅生活を支える居宅介護には同様の評価がありません。居宅介護は生活全般にわたる支援であり、視覚・聴覚・言語障害に起因する意思疎通支援はすべての場面に組み込まれています。
つきましては、専門的な意思疎通支援を適切に評価し、利用者の安全な在宅生活の継続と事業所の安定的運営を確保するため、居宅介護における「視覚・聴覚・言語障害者支援加算(仮称)」を創設していただきますよう要望いたします。
以 上
資料①

(令和6年度障害福祉サービス等報酬改定の概要より抜粋)
資料②

資料③

(「タイムスタディ調査」、「基本調査18項目」より抜粋)
資料④
ろう高齢者・盲ろう者への訪問支援の実態
ろう高齢者等への居宅介護では、手話言語等によるコミュニケーションが支援の前提となります。手話言語のコミュニケーションでは、掃除、調理、入浴介助、着脱介助等を行いながら同時に使用することが困難です。そのため、居宅介護従業者は、「作業の手を止め」→「利用者と向き合い」→「手話言語で説明し」→「指さしや目線、うなずきで利用者の理解を確認し」→「再び介護・家事援助」に戻ります。
これは単なる「会話」ではなく、利用者の生命、健康、安全及び自己決定に直結する支援です。
特に、幼少期から十分な日本語教育・手話言語教育を受ける機会がなかったろう高齢者や盲ろう者の場合、手話言語だけでは意思疎通が十分に成立しないことがあります。
その場合には、絵を描く、写真を見せる、実物を示す、指さしをするなど、利用者の理解に合わせた方法を組み合わせ、10~15分程度をかけて意思疎通を図ることもあります。
タイムスタディ調査の実施
この実態を明らかにするため、2026年6月、千葉県、京都市、大阪府、愛知県、和歌山県の5か所の訪問介護事業所において、視覚・聴覚・言語障害者支援加算の対象となる支援を実施している事業所を対象としてタイムスタディ調査を実施しました。
対象は聴覚障害を有する要介護者等への1回の訪問支援です。
| 地域 | 訪問時間 | コミュニケーションのため手が止まった時間 | 割合 |
| 千葉 | 60分 | 20分 | 33.3% |
| 愛知 | 105分 | 59分 | 56.2% |
| 京都 | 45分 | 19分 | 42.2% |
| 大阪 | 120分 | 31分 | 25.8% |
| 和歌山 | 60分 | 23分 | 38.3% |
| 合計 | 390分 | 152分 | 39.0% |
5事業所の合計では、訪問支援390分のうち、152分(39.0%)がコミュニケーションのために支援者の手を止めた時間となりました。
つまり、今回の調査では、訪問支援時間のおよそ4割に相当する時間は、身体介護・生活援助とは別の意思疎通のための時間となっていることがわかりました。
愛知県の盲ろう者支援事例
特に愛知県の事例では、105分の訪問支援のうち、59分がコミュニケーション支援のために支援者の手が止まった時間でした。
以下、コミュニケーション支援に割かれた具体的な時間です。
①体調・服薬・排便確認 9分
体調を伺い、排便状況や便の形状等を確認します。服薬については、飲み忘れがあった場合、利用者と一緒に薬カレンダーを確認します。
②買物同行 9分
冷蔵庫の中身を確認し、必要な物品を利用者と確認します。商品の内容を説明し、どの商品を購入するか、どのように調理してほしいかを確認しながら買物を行います。
③入浴 9分
入浴を促します。利用者が入浴を嫌がる場合には、痛みが和らぐことなどを説明し、本人の理解と納得を得ながら入浴につなげます。さらに、湯温、バスチェアや脱衣所の椅子の位置、水分補給等について確認します。
④調理 10分
味付け、切り方、大きさ、柔らかさなどを利用者と確認します。栄養面についても説明し、保存容器、保存方法、保存場所等を確認します。
⑤掃除・洗濯 13分
夫の失禁便による汚れがあるため、利用者と一緒に作業を行います。ベッドシーツ、マット、座椅子等の汚れについて、どこが濡れているのか、どこが汚れているのかを利用者に伝えながら作業します。ベッドメークについても、作業内容を伝えながら一緒に行います。
⑥記録・看護師連絡ノート 9分
看護師に伝える内容を利用者と確認しながら記録します。また、盲ろう者向け通訳・介助員派遣申請に関する日時等についても確認します。
-この59分は、単なる「雑談」や「会話」ではなく健康管理、服薬管理、食事、入浴、排泄、衛生管理、医療との連携及び本人の自己決定を保障するために必要な意思疎通支援となっています。
現在生じている事業所負担
愛知県の事例では、105分の訪問支援のうち59分がコミュニケーション支援に要しています。
しかし、現在の報酬体系では、この時間を独立した専門的支援として十分に評価する仕組みがありません。
その結果、事業所が20~30分程度を無償で負担、必要なコミュニケーション時間を記録できない、ヘルパーが実際の時間を報告できない、事業所がろう高齢者・盲ろう者の受入れをためらうといった問題につながるおそれがあります。
利用者の必要な意思疎通支援が、事業所の「善意」や「持ち出し」によって支えられている状態です。
新設する「視覚・聴覚・言語障害者支援加算(仮称)」の基本的考え方
新設する加算は、単に「手話言語ができる職員がいること」だけを評価するのではなく、①対象となる利用者を受け入れていること、②意思疎通に関する専門性を有する職員を配置していること、③実際の居宅介護の中で、身体介護・生活援助と一体的に意思疎通支援を行っていること等を評価する仕組みとしてください。
算定対象者
①重度の視覚障害者
②重度の聴覚障害者
③言語機能に重度の障害がある者
④盲ろう者
⑤その他、視覚・聴覚・言語機能の障害により、通常の意思疎通方法では居宅介護の実施に支障があると市町村が認めた者
以上のいずれかに該当し、日常生活における意思疎通に特別な支援を必要とする者とし、身体障害者手帳の等級のみを一律の要件とするのではなく、実際に居宅介護において意思疎通支援を必要としているかを重視することを求めます。
事業所の算定要件
次の要件を満たす指定居宅介護事業所を対象とします。
① 専門的な意思疎通支援が可能な職員の配置
「手話言語」、「触手話」、「指文字」、「筆談」、「点字」、「拡大文字」、「絵・写真」等、利用者の障害特性に応じた意思疎通方法について専門性を有する職員を配置すること。
特に聴覚障害者・盲ろう者を対象とする場合には、手話言語によるコミュニケーションが可能な職員を常時確保できる体制を評価する。
② 利用者ごとの意思疎通方法の把握
居宅介護計画等に、「使用する言語・コミュニケーション方法」、「手話言語」、「触手話」、「指文字」、「筆談」、「絵・写真」、「指さし」、「目線」、「うなずき」、「その他本人に適した方法」等を明記する。
③ 事業所内研修
利用者の障害特性、意思疎通方法、合理的配慮等について、職員に対する研修を実施する。
④ 支援記録
意思疎通支援を行った場合には、支援内容及び必要に応じてその時間を記録する。
加算単位についての提案
加算については、まず制度として創設した上で、実態調査を踏まえて具体的な単位数を設定することを求めます。
特に今回の5事業所調査では、訪問時間390分に対してコミュニケーション支援152分(訪問時間の約39.0%)という結果になっています。
したがって、加算単位については、「通常の居宅介護報酬に含まれる相談・助言」と、視覚・聴覚・言語障害に起因して追加的に必要となる専門的意思疎通支援を明確に区別し、その実態に見合う水準とすることを基本とします。
制度設計としては、例えば、案A「訪問1回につき定額加算」、または案B「実際の意思疎通支援時間に応じた段階的加算」とする方法が考えられます。
特に今回のタイムスタディ結果を踏まえるなら、案Bとして、「15分以上30分未満」、「30分以上45分未満」、「45分以上」など、実際の意思疎通支援時間に応じて評価する仕組みを検討することが適切です。
これにより、長時間の意思疎通支援が必要な盲ろう者等についても、事業所の持ち出しを抑え、必要な支援を継続できる制度となります。
既存の「視覚・聴覚言語障害者支援体制加算」との整合性
現行の障害福祉サービスには、すでに「視覚・聴覚言語障害者支援体制加算」が存在します。
例えば生活介護では、視覚障害者等の利用者を一定割合以上受け入れ、意思疎通に関する専門性を有する職員を通常の人員配置に加えて配置した場合に、Ⅰ・Ⅱの加算が設定されています。
また、貴省の実施上の留意事項でも、重度の視覚障害、聴覚障害、言語機能障害について具体的な対象者の考え方が示されています。
したがって、新設する居宅介護の加算については、これら既存制度との整合性を確保しつつ、「通所・施設での支援体制」だけでなく、「在宅で実際に支援を行う時間」も評価する制度として位置づけることが適切だと考えられます。
居宅介護にこそ加算が必要である理由
居宅介護は、利用者が住み慣れた地域・自宅で生活を継続するための重要なサービスです。貴省も居宅介護を、居宅における入浴、排せつ、食事等の介護、調理、洗濯、掃除、生活等に関する相談・助言など、生活全般にわたる援助を行うサービスとして位置づけています。
視覚・聴覚・言語障害のある利用者の場合、この「生活全般にわたる援助」の一つ一つに意思疎通が必要となります。
特にろう高齢者・盲ろう者の場合、「意思疎通支援がなければ介護ができない」という実態があります。例えば服薬確認、入浴介助、買い物、調理、掃除・洗濯、看護師への情報伝達等、すべてにおいて意思疎通が必要です。
したがって、これは介護に「会話を追加している」のではなく、意思疎通支援を含めて初めて、その人に必要な居宅介護が成立していると考えるべきです。
制度創設によって期待される効果
① ろう高齢者・盲ろう者の在宅生活の継続
必要なコミュニケーション支援を保障することで、住み慣れた地域・自宅で生活を継続しやすくなります。
② 服薬・健康管理の安全性向上
体調確認、服薬確認、排便確認等を確実に行うことが可能となります。
③ 本人の意思決定の保障
買物、食事、入浴、生活環境等について、本人の意思を確認しながら支援を行うことができます。
④ 事業所の負担軽減
これまで事業所が無償で負担していた意思疎通支援について、適切な報酬評価が可能となります。
⑤ 人材確保・専門性の維持
手話言語等の専門性を有する訪問介護員を確保し、継続的に配置することが可能となります。
⑥ 利用者の受入れ拒否・サービス不足の防止
「手話言語ができるヘルパーがいない」「意思疎通に時間がかかる」ことを理由に、ろう高齢者・盲ろう者が必要な訪問支援を受けられない状況を防ぐことにつながります。
具体的な要望
①障害者総合支援法に基づく指定居宅介護について、「視覚・聴覚・言語障害者支援加算(仮称)」を新設すること。
②加算の算定要件として、視覚・聴覚・言語障害のある利用者に対する専門的な意思疎通支援が可能な職員の配置を評価すること。
③「手話言語」、「触手話」、「指文字」、「筆談、点字」、「拡大文字」、「絵・写真」、「指さし」、「目線」、「うなずき」等、利用者本人に適した多様な意思疎通方法を評価対象とすること。
④身体介護・生活援助を行う際に、意思疎通のために支援者が作業の手を止めて行う時間について、実態に応じた報酬評価を行うこと。
⑤今回実施した5事業所のタイムスタディ調査で、訪問支援時間の約39.0%が意思疎通支援に要していた実態を、報酬改定の検討資料として活用すること。
⑥特に、ろう高齢者、盲ろう者など、手話言語等による意思疎通が生活支援の前提となる利用者について、専門的な訪問介護員を継続的に配置できる報酬水準とすること。
⑦既存の「視覚・聴覚言語障害者支援体制加算」と整合性を図りつつ、施設・通所サービスだけでなく、在宅で実際に行われている意思疎通支援を適切に評価する制度体系を構築すること。


