山本朋広 衆議院議員、文部科学省初等中等教育局特別支援教育課と面談(2022年10月25日)



 2022年10月25日、山本朋広 衆議院議員を訪問し、文部科学省初等中等教育局特別支援教育課の皆さまと全日本ろうあ連盟石橋大吾副理事長、教育・文化委員会の山根昭治委員長、堀米副委員長が面談し、2022年7月に文部科学省に提出した要望への回答について、再要望・意見交換を行いました。

集合写真

<写真左から> 嶋田孝次 課長補佐・山田泰造 課長(文部科学省初等中等教育局特別支援教育課)・石橋大吾 副理事長・山根昭治 教育・文化委員会委員長・堀米泰晴副委員長(全日本ろうあ連盟)

意見交換

<写真左から> 嶋田孝次 課長補佐・山田泰造 課長(文部科学省初等中等教育局特別支援教育課)・山本朋広 衆議院議員・石橋大吾 副理事長・山根昭治 教育・文化委員会委員長・堀米泰晴副委員長(全日本ろうあ連盟)

連本第2200384号
2022年10月4日

文部科学大臣 永岡桂子 様

一般財団法人全日本ろうあ連盟
理事長 石野 富志三郎

ろう教育等に関する要望の回答に対する再要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より私どもろう者等の福祉向上にご理解ご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 先日、私どものろう教育等に関する要望に対し、文書でもってご回答いただき、ありがとうございました。その中で、1と10についての回答に対して再度要望させて頂きます。どうぞよろしくお願い申し上げます。

要望1

1.2020(令和2)年3月に貴省で発行された「聴覚障害教育の手引き~言語に関する指導の充実を目指して~」の31ページ「手話の捉え方」は、この手引きを利用する教職員へ誤解を与えかねないので、速やかに修正し、文書を送付するようにしてください。
<説明>
「聴覚障害教育の手引き〜言語に関する指導の充実を目指して〜」の31ページ「手話の捉え方について」には「日本手話」「日本語対応手話」の記載がありました。
国として手話言語の研究が進められていない現在、「日本手話」「日本語対応手話」と表記されると、あたかも「日本手話」「日本語対応手話」の分類が公認のように用いられたと誤認される恐れがあります。当連盟は、同じ言語を使う仲間にそのような分断を生むべきではないと考えており、このような視点での分類は言語学の求める科学的な姿勢ではないと考えます。このままでは手引書を利用している教職員へ誤解を与えかねないため、以下の当連盟ホームページと参議院事務局企画調整室からのコメントをご覧いただき、速やかに修正文書を送付するよう取り組んでください。

(答)このことについては、当日お答えしたとおりです。

(1)聴覚特別支援学校等において手話の活用を考える場合

①日本語の音韻や語彙、文法などを正確に見える形で児童生徒に伝えるために手話を使う場面

②日本語の表記や表現から離れて、意味を豊かに伝えたり、話し合いをしたり、日常の会話をしたりする際に手話を使う場面が見受けられます。

(2)「聴覚障害教育の手引き」は、経験の浅い教員が研修の機会に活用し、聴覚障害教育を深める意図で作成されているものであり、手話を学ぶため、日本語の語順に配列して表現する手話(①など)を「日本語対応手話」と、独自の文法と語彙を有した手話(②など)を「日本手話」と便宜上定義し、「手引き」上でもこれが公認されている分類であるといった誤解を受けないよう配慮しつつ、それぞれの利点や留意点を述べています。

(3) 御要望については我々も貴重な意見として受け止めておりますが、本記述は、児童生徒の実態や指導したい内容に応じて、それぞれの趣旨に適した場面で活用してもらい、児童生徒に分かる授業を展開していくために、このように示しており、経験の浅い教員にもっと手話を学んでほしい、もっと活用してほしい、という観点で紹介しているものです。

<再要望>

 学校における手話言語の活用において、お答えいただいたように

①日本語の音韻や語彙、文法などを正確に目に見える形で聴覚障害児に伝えるために手話を使う場面

②日本語の表記や表現から離れて意味を豊かに伝えたり、仲間と普段の話合いをしたりする際に手話を使う場面があると思います。

 しかし、手引き31ページの「手話の捉え方」に書かれている通り様々な議論がある中で、手話言語の使い分けを、便宜上であっても「日本語対応手話」「日本手話」と定義することは、むしろ手話言語に対する誤った理解の増長につながってしまいます。
 『(1)手話の捉え方』に関しては、「日本語対応手話」「日本手話」という考え方で説明するのではなく、「音声日本語」と「手話言語」の観点からの説明が必要です。
 きこえない・きこえにくい子どもたちの「手話言語を獲得する」「手話言語を学ぶ」「手話言語で学ぶ」権利を行使する場でもある聴覚特別支援学校で指導する教員であれば、なおさら「手話言語」への正しい理解が必要です。
 国が公的に作成するものにおいて、便宜上であっても、「日本語対応手話」「日本手話」と2つの異なる言語のように定義し説明することは、経験の浅い教員の手話言語に対する理解に混乱を招き、手話言語の活用の促進を阻めています。
 これらをふまえ、手引きの31ページから33ページの手話の項目における定義および説明の修正を強く求めたく、再度要望します。

要望10

10.昭和8年に、全国盲啞学校長会議に出席された鳩山一郎文部大臣の以下の発言について、貴省としての見解をお聞かせください。
<説明>
1933(昭和8)年に、全国盲啞学校長会議に出席した鳩山一郎文部大臣は、「全国盲啞学校においては、聾児の日本人たる以上国語の理解は大切であり、国民思想涵養のためにも全国聾唖学校では口話教育に奮励努力せよ」との訓示を述べられ、手話言語が明確に否定されました。この時代から、聾学校において手話言語の使用が禁止され、社会の中で差別を受け、偏見を持たれるなど長い歴史を歩んでまいりました。
2010(平成22)年7月、聴覚障害教育国際会議(カナダ・バンクーバー)において、手話言語を禁じた1880年のミラノ会議の決議が撤廃され、「ろう教育はすべての言語とコミュニケーション方法を受け入れる」などの声明が発表されました。ろう教育において手話言語を排除し、ろう教育を口話法に限定した過去の誤ちが公的に承認されました。
現在、貴省としても、2018(平成30)年、特別支援学校学習指導要領の改訂による「手話を積極的に使う」「手話によるコミュニケーション能力を高める」といった方針が示され、手話言語導入について柔軟な姿勢が見られるようになりましたが、上記のバンクーバーにおける会議のように、ケジメをつける意味で、鳩山一郎文部大臣の発言に対する公的な見解を示してください。
(答)

(1)当省では、昭和8年の文部大臣の発言を確認することができませんでしたので、その発言の意図 についてはお答えしかねます。

(2)現在は、御指摘いただいたとおり、特別支援学校学習指導要領において、子供の聴覚障害の状態に応じて、音声、文字、手話、指文字等を適切に活用して、発表や子供同士の話し合いなどの学習活動を積極的に取り入れ、的確な意思の相互伝達が行われるよう指導方法を工夫すること、としております。

<再要望>

(1)について
 1933(昭和8)年3月に発行された「聾口話教育」第9巻3号に鳩山一郎の訓示が全文掲載されています(※別紙参照、「聾口話教育」の発行所は文部省構内にあった聾教育振興会であり、財団法人聴覚障害者教育福祉協会の前身です。)
 また現在、手話言語条例が制定された456自治体の条例前文には、ほぼ、次のような文章が記載されています。

「長い間歴史の中で手話が言語として認められてこなかった、手話を使用することのできる環境が整えられてこなかった」
「ろう学校において、一時期読唇と発音訓練を中心とする口話法に特化され、手話の使用が実質的に禁止されるといった厳しい環境にあった」
「過去には手話が言語として認められず、手話を使用する環境が整えられなかった」
「手話を使うことは、ろう学校において禁止され、また社会の中で差別を受け、若しくは偏見を持たれるなど長い苦難の歴史を持っている」
「我が国では、過去の一時期にろう学校で手話の使用を事実上禁止されるされるなど、手話の使用についてさまざまな制約を受けてきた歴史がある」など。

 鳩山一郎文部大臣の訓示により、ろう学校において手話言語の使用が全国的に禁止され、手話言語の使用すらも社会の中で偏見を持たれるなど、きこえない・きこえにくい人たちにとって苦しい時代があったことはまぎれもない事実です。ろう教育を語る上で避けて通れない、この歴史上の事実について、貴省としての見解をお聞きしている次第です。
 1880年にミラノで開催された第2回国際ろう教育会議の「ろう児の教育プログラムにおける手話の使用を禁じる」決議により、多くの弊害が130年に渡り続きました。 
 2010年バンクーバーで開催された第21回国際ろう教育会議において、ミラノ会議での決議が「有害な結果をもたらした」ことを主催者自身が認め、「手話を否定したミラノ会議のすべての決議を却下する」声明を採択しました。
 この声明では「全ての国家はこの声明を受け入れ、ろう教育で、すべての言語とコミュニケーション手段を尊重することを要求する」とあり、ろう教育に手話を取り入れることをろう教育の専門家の立場から促しています。
 過去に口話法を推進されていた貴省が、特別支援学校学習指導要領記載の通り、手話言語に対する方針を変えられた今、公教育を取りまとめる立場で、改めて昭和8年の鳩山文部大臣訓示について「見解」を示して頂きたく、再度要望します。