厚生労働省へろう者・難聴者等の福祉施策に関する要望を提出



 2021年7月12日に福祉基本政策検討プロジェクトチームから要望書を提出し、交渉を行いました。

要望書を提出

連本第210132号
2021年6月15日

厚生労働大臣
   田村 憲久 様

一般財団法人全日本ろうあ連盟
理事長 石野 富志三郎

ろう者・難聴者等の福祉施策に関する要望について

 時下、益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
 平素よりろう者・難聴者等福祉の向上にご理解、ご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。
 さて、我が国は「障害者権利条約」批准に向けての国内法整備の一環として「障害者差別解消法」を制定し、数年が経過致しました。障害者を取り巻く環境は一歩前進しましたが、ろう者・難聴者等にとっては手話通訳・要約筆記等を含めた情報アクセス・コミュニケーション支援環境は十分とはいえません。
 全日本ろうあ連盟では、聴覚障害者情報提供施設、ろう重複障害者、ろう高齢者等の関係諸団体とともに、ろう者・難聴者等の福祉施策充実のために協議をし、これまで各々の団体が要望している事項を下記の通り統一要望として取りまとめました。
 つきましては、ぜひとも施策に反映し、必要な予算措置を講じていただきますよう、お願い申し上げます。

1.全国のろう者・難聴者等が地域格差なく福祉サービスを利用することができるよう、社会福祉施設等の社会資源の整備を図ってください。

(1)全ての都道府県に加えて政令指定都市で「ろう者・難聴者等情報提供施設」が設置できるように関わる制度の充実を図ってください。

①聴覚障害者情報提供施設が災害対応、新型コロナウイルス感染症関連(ワクチン接種含む)に対応できるよう、運営に要する国庫補助増額の予算措置をおこなってください。また、聴覚障害児支援中核機能モデル事業に聴覚障害者情報提供施設が対応するための自治体への働きかけとともに施設の人員配置等の予算措置をおこなってください。

②身体障害者社会参加支援施設の設備及び運営に関する基準第40条「ろう者・難聴者等情報提供施設の職員の配置基準」の改正を行い、施設長の他に意思疎通支援事業、養成事業、相談事業、言語聴覚士等の担当職名を明示し、必要な職員の配置基準を明確にしてください。

③ろう者・難聴者等情報提供施設運営費の増額を基本に職員待遇改善および現行の都道府県1施設に、例えば福祉圏域などの単位で支所を追加設置できる仕組みづくり、人的体制の充実が可能な条件を整備してください。

④2012年度にろう者・難聴者等情報提供施設に整備された機器が老朽化しています。字幕入り映像制作機器(デジタル)の整備事業によって整備された各情報提供施設の映像制作機器の更新と保守管理、2012年度以降に設置された情報提供施設の映像制作機器については、これらと同等の整備について予算化してください。

⑤ICT活用によってろう者・難聴者等の社会参加が一層促進されるよう、ろう者・難聴者等向けの事業展開やろう者・難聴者等情報提供施設における運営に要する国庫補助を増額し支援の充実を図ってください。
(例)
・ろう者・難聴者等がICT活用を目的としたスマートフォンやタブレット等の端末の操作等について学ぶ機会を保障
・ろう者・難聴者等情報提供施設にICTの知識がある職員の配置が可能な措置

⑥新型コロナウイルス感染症対策「遠隔手話通訳サービス等を利用した意思疎通支援体制の強化」について、継続的にシステムを運用し事業を安定して行うための人件費および運営経費が自治体において予算確保をされるよう指導してください。

⑦公共インフラとしての電話リレーサービス事業開始にあたり、学習機会の提供や利用支援等、デジタル弱者対策を講じるなど公共インフラをろう者・難聴者等が利用する権利を保障してください。

(2)障害者権利条約の批准、また障害者差別解消法に基づく環境整備、合理的配慮の提供の義務として、ろう高齢者を含むろう者・難聴者等、また他に障害をもつ重複ろう者が利用できる障害福祉サービスおよび介護保険サービス等の充実を図ってください。

①障害福祉サービスの充実を図る施策を講じ、必要な予算を確保してください。どの障害福祉サービス利用であっても意志疎通の保障がされる仕組みを作ってください。

②全ての都道府県にろう児・者、難聴児・者等が、自ら選択する言語やコミュニケーション手段により利用できる障害福祉サービス、放課後等デイサービス、地域活動支援センター、グループホーム・ケアホーム、介護保険サービス、特別養護老人ホーム等の社会資源を計画的に整備するよう、基本計画へ数値目標等を盛り込む等の対策を講じてください。

③全国のろう重複障害者施設のろう重複障害者にとってはコミュニケーション保障とあわせて病気の理解や様々な学習機会の保障(集団学習と個別支援対応の併用としての理解支援)が不可欠です。そのための支援を手厚くするよう、視覚聴覚言語障害者支援体制加算を継続、拡充してください。

④ろう重複障害者等が入院した場合、病院の看護体制の脆弱さを理由に付き添いや支援を求められる事例が散見されます。家族等が付き添いできず、普段から支援している通所施設職員や入所施設の職員による支援が求められた場合に、十分な体制が確保できるよう基本報酬及び各種加算の算定を柔軟にできるようにしてください。

⑤児童福祉法の障害児通所支援(児童発達・放課後等デイサービス)に「視覚聴覚障害者等支援体制加算」を適用してください。

2.介護保険制度に関して、次のことを講じてください。

(1)2018年度4月の報酬改定に長期入所において、「障害者生活支援体制加算」の引上げが実現したことによって、ろう高齢者の生活の充実、看取り時の細やかな支援等、効果があったと聞いています。短期入所事業にも「障害者生活支援体制加算」を適用してください。
(説明)
 前回(2020年9月15日)の懇談の際に、「短期入所生活介護事業所における生活支援員の配置」や「共生型サ-ビスの創設による障害を持つ高齢者の継続支援」等を高齢障害者への施策として整備しているとの回答をいただきました。しかし、全国高齢ろう者・難聴者等福祉施設協議会に加盟する、高齢ろう者・難聴者等を多く受け入れている短期入所生活介護事業所の利用実態は、「障害福祉サ-ビス利用者でなく、高齢になって多くの生活課題を抱えての在宅からの利用が大部分である」ことから「共生型サ-ビス」では対応できません。また「利用の目的や課題が多岐に渡っており、生活支援員のみならず、すべての介護職員による他の利用者との対人関係や常時の手話等による情報提供や支援が必要」となっています。また、遠方からの利用、キーパーソンがろう者の場合が多いことによる家族への支援、在宅生活を継続するための関係機関との連携、状態の変化に応じた情報収集が必要で、その支援の実態は、加算対象の特養以上であると言えます。
 ろう高齢者等が短期入所を利用後、引き続き在宅での生活が可能となるよう支援している実態をご理解・ご認識いただき、短期入所生活介護事業所にも「障害者生活支援体制加算」を適用してください。

(2)介護保険認定調査において、ろう重複障害者の特性を正確に反映できる仕組みの見直しをしてください。
(説明)
 認知症加算時間と同様に『ろう者・難聴者等加算時間(仮称)』の新設、「特記事項」の充実と「認定調査マニュアル」・「認定調査員マニュアル」との記載と認定調査員や審査員への周知をしてください。
 要介護認定は、高齢者にかかる介護の手間に着目して、介護サ-ビスの必要度を判定する仕組みですが前回(2020年9月15日)の懇談の際にも、貴省より、聴覚障害や重複障害があること等により、認定調査項目の「できる・できない」などの選択肢だけでは測れない介護の手間がある場合には、そのことも「調査票の特記事項に記載する」ことや、「主治医による意見書の内容」も考慮した上で、介護認定審査会で判定あることとしている」との説明をいただきましたが、現状はろう重複から生じる障害特性や生活のしづらさ、介護の手間等が特記事項でも正しく反映されていません。選択肢だけでは測れない介護の手間や生きづらさを踏まえて正しい認定調査ができるよう、「特記事項」の充実と「認定調査マニュアル」・「認定調査員マニュアル」の記載と認定調査員や審査員への周知徹底をお願いします。
 また、現在の調査項目にはろう重複障害者の障害特性や生活上の困難さが反映される項目は少なく、身体的・機能的に問題がなくても、介護や支援そして全ての活動等において、手話や文字以外のその人の成育歴、個性、生活習慣を知るものでないとコミュニケーションがとれないことによって、情報提供ができず、期待する行動が取れない、場合によっては拒否される等の問題が生じます。
 これらの実態を踏まえ、ろう重複障害者が、正しく調査・判定が行われるよう「コミュニケ-ションや情報保障等の特定の調査項目」に該当した場合、認知症加算時間と同様に、新たに『ろう者・難聴者等加算時間』を新設し、介護度が「1段階」または「2段階」繰り上げられる仕組みを設けてください。

(3)特養での支援の特性や、コミュニケーション支援に係る時間を調べるために、タイムスタディを実施し提出いたしました。それを受けて、2017年8月に厚生労働省の老健局より5名の職員の方が、大阪府特別養護老人ホームあすくの里を視察していただき、ろう重複障害を持つ高齢者に伝えることの困難さや、介護職員が介護技術に加えて手話言語等のコミュニケーションツールを身につける必要性などを理解していただけました。
 今回、改めて施設(埼玉県特別養護老人ホームななふく苑など)を視察いただき、実態を見ていただいた上で意見交換の時間をいただきますよう要望します。

3.ろう者・難聴者等福祉に関わる人材養成・確保を強化してください。

(1)2020年度実施の「雇用された手話通訳者の労働と健康についての実態に関する調査研究」では、①手話通訳者のほとんどが非正規雇用(自治体では90.2%が非正規雇用)、②手話通訳者の高齢化(福祉分野の平均年齢53.6歳)③手話通訳事業が社会的に評価されていない ④解消しない健康問題(261人に危険自覚症状がある)などの課題が明らかになりました。このような状況を改善するための方策を検討してください。

(2)ろう者・難聴者等の社会参加の広がりや「地域共生社会」の発展にともない、高いスキルと専門的知識が求められています。養成事業については、手話通訳者を専門職として養成する内容とすること、また若年層から養成していくことが必須であることから、大学や専門的な養成機関で手話通訳者を養成する仕組みも検討してください。

(3)地域生活支援事業の中に、強度行動障害支援者養成研修(基礎・実践研修)が設けられています。その理由として「強度行動障害を有する者は、自傷・異食・他害など、生活環境への著しい不適応行動を頻回に示すため、支援が困難であり虐待に繋がる可能性が高い。しかし、適切な支援により状態の改善が見込まれることから、専門的な研修により適切な支援を行う従事者を養成することが重要である」と貴省の通達にもあります。聴覚障害またろう重複障害でも同様の困難さを生じます。聴覚障害の特性に対応できるきめ細かい適切な支援を行えるような者が絶対的に必要です。そのために「聴覚障害の特性を学ぶ」聴覚障害支援者養成研修を設けてください。その受講対象としては相談支援専門員及びサービス管理責任者、聴覚障害及びろう重複障害のあるものの支援業務に従事している者、若しくは今後従事する予定のあるもの及び希望者としてください。

(4)ろう者・難聴者等を対象とする在宅支援の強化のため、ピア訪問介護員の人材確保は急務です。ろう者・難聴者等が養成等の研修(例:介護職員初任者研修等)を受講できるよう自己負担なく情報保障(手話通訳・要約筆記)が提供されるようにしてください。
(説明)
 公益社団法人大阪聴力障害者協会では、介護保険法施行の2000年度には、登録ホームヘルパーが83名いました。しかしながら、ろう者・難聴者等がホームヘルパーを資格取得できる場が無く、新規ヘルパーの登録は進まず、現在は38名まで減っています。これにより、依頼があってもホームヘルパーを派遣できず、断る状況になっています。またヘルパーの最高年齢は81歳で、ヘルパーの60.8%が60~80代です。

訪問介護・居宅介護事業所 登録ホームヘルパー ①ろうH人数と④比較
年度 合計人数 内 ①ろうH ②20‐30代 ③40‐50代 ④60‐80代
2002年 55 40 6 28 6 15
2005年 83 63 5 45 13 20.6
2016年 55 36 2 18 20 55.5
2020年 44 28 2 11 16 57.1
2021年 38 23 1 8 14 60.8
※主任1名、副主任1名を除く

 参考資料(2021年度4月現在)

訪問介護・居宅介護事業所     登録ホームヘルパー 
団 体 名 合計
人数
内 ①
ろうH
合計人数と ①
人数比較%

20‐30代

40‐50代

60‐80代
 ①ろうH人
数と④比較%
(公社)札幌ろう者・難聴者等協会
 但し 2020年度(2020年7月~休止)
8 4 50 0 2 2 50
(社福)千葉県ろう者・難聴者等協会 12 8 66.6 0 3 5 62.5
(一社)愛知県ろう者・難聴者等協会 44 27 61.3 1 18 8 29.6
(社福)京都聴覚言語障害者福祉協会 24 13 54.1 0 4 9 69.2
(公社)大阪聴力障害者協会 38 23 60.5 1 8 14 69.2
(一社)和歌山県ろう者・難聴者等協会 14 6 68 0 5 1 16.6
(公社)兵庫県ろう者・難聴者等協会 25 17 42.8 1 10 6 35.5
合   計 165 98 59.3 3 50 45 45.9

手話関係団体の各事業所(訪問介護、居宅介護)の登録ろうあヘルパーの年齢層とろうヘルパー総人数と60、70代との比較率の参考資料(登録ヘルパー165人の内、ろうヘルパー98人)20~30代3人、40~50代50人、60代~80代45人⇒45.9%
●公益社団法人札幌市ろう者・難聴者等協会は、ヘルパー事業担当職員が確保できず、ヘルパーも減少して事業継続が困難なために、2020年6月で事業を休止することを決めています。
●全国を見てもヘルパーが育たず、高齢化によりヘルパー減少で利用者を断る状況が出始めています。このままでは、ろう者・難聴者等を支援するろうあ者ヘルパーを派遣する事業が全国的に廃業に追い込まれる心配があります。

 利用者数

団 体 名 訪問介護 居宅介護 合計
社会福祉法人千葉県ろう者・難聴者等協会 9 10 19
一般社団法人愛知県ろう者・難聴者等協会 49 16 65
社会福祉法人京都聴覚言語障害者福祉協会 21 10 31
公益社団法人大阪聴力障害者協会 72 20 92
一般社団法人和歌山県ろう者・難聴者等協会 30 9 39
公益社団法人兵庫県ろう者・難聴者等協会 30 10 40

4.「透明マスク」「透明フェイスガード」の開発協力や周知・普及を図ってください。

 現在、医療機関、公共機関、福祉施設をはじめ、あらゆるところでマスク着用は当り前になっています。このような中、きこえない者は、口元や表情がみえず、話しかけられていることにも気づくことができず、コミュニケーション上の大きな障壁になっています。口元や表情が見える「透明マスク」や「透明のフェイスガード」はありますが、飛沫防止の観点から医療機関や公共機関等での普及には至っていません。十分な飛沫防止策の施された「透明マスク」や「透明フェイスガード」の開発協力及び周知・普及支援をお願いします。

以 上

 福祉基本政策検討プロジェクトチームが要望交渉を行う会場を今井絵理子議員が参議院会館に確保してくれました。

今井絵理子議員と福祉基本政策検討プロジェクトチーム
(前列中央)今井絵理子議員、(その他)福祉基本政策検討プロジェクトチーム