厚生労働省へ聴覚障害者の福祉施策に関する要望を提出



 福祉基本政策検討プロジェクトチームからも今年度要望書を提出し、意見交換を行いました。

要望書を提出

連本第200209号
2020年9月15日

厚生労働大臣
  加藤 勝信 様

一般財団法人全日本ろうあ連盟
理事長 石野 富志三郎

聴覚障害者の福祉施策に関する要望について

 時下、益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
 平素より聴覚障害者福祉の向上にご理解、ご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。
 さて、我が国は「障害者権利条約」批准に向けての国内法整備の一環として「障害者差別解消法」を制定し、数年が経過致しました。障害者を取り巻く環境は一歩前進しましたが、聴覚障害者にとっては手話通訳・要約筆記等を含めた情報アクセス・コミュニケーション支援環境は十分とはいえません。
 全日本ろうあ連盟では、聴覚障害者情報提供施設、ろう重複障害者、ろう高齢者等の聴覚障害者福祉の関係諸団体とともに、聴覚障害者の福祉施策充実のために協議をし、これまで各々の団体が要望している事項を下記の通り統一要望として取りまとめました。
 つきましては、ぜひとも施策に反映し、必要な予算措置を講じていただきますよう、お願い申し上げます。

1.全国の聴覚障害者が地域格差なく福祉サービスを利用することができるよう、社会福祉施設等の社会資源の整備を図ってください。

(1)全ての都道府県ならびに政令指定都市で「聴覚障害者情報提供施設」が設置できるように関わる制度の充実を図ってください。

①身体障害者社会参加支援施設の設備及び運営に関する基準第40条「聴覚障害者情報提供施設の職員の配置基準」の改正を行い、施設長の他に意思疎通支援事業、養成事業、相談事業等の担当職名を明示し、必要な職員の配置基準を明確にしてください。

②「聴覚障害者情報提供施設」運営費金額の増額を基本に職員待遇改善および現行の都道府県1施設に、例えば福祉圏域などの単位で支所を追加設置できる仕組みづくり、人的体制の充実が可能な条件を整備してください。

③2012年度に予算化された字幕入り映像制作機器(デジタル)の整備事業によって整備された各情報提供施設の映像制作機器の更新と保守管理、2012年度以降に設置された情報提供施設の映像制作機器の整備について予算化してください。
 2012年度から8年が経過し、機器の老朽化が課題となっており、進展している現代の技術に適合できる機器の更新は必須です。

④電話リレーサービス事業における発展継続を図ってください。現行の日本財団 モデルプロジェクトから公共インフラとしての電話リレーサービス事業への移行にあたっては空白期間が生じないよう、事業を継続できるように配慮してください。
 また、電話リレーサービスオペレータは、「通訳」の等価性を担保する必要があることから、省令による公認資格である手話通訳士や手話通訳者(手話通訳者全国統一試験合格者などの資格保持者)・要約筆記者(全国統一要約筆記者認定試験合格者などの資格保持者)を基礎資格とした人材が担う必要があります。
 更に、養成カリキュラムには、当事者の意見が十分に反映された養成カリキュラムを採用してください。

⑤新型コロナウイルス感染症対策「遠隔手話通訳サービス等を利用した意思疎通 支援体制の強化」について、継続的にシステムを運用し事業を安定して行うための人件費および運営経費について予算化してください。

(2)障害者権利条約の批准、また障害者差別解消法に基づく環境整備、合理的配慮の提供の義務として、ろう高齢者を含む聴覚障害者、また他に障害をもつ重複聴覚障害者が利用できる障害福祉サービスおよび介護保険サービス等の充実を図ってください。

①意志疎通支援事業以外の障害福祉サービスの充実を図る施策を講じ、必要な予算を確保してください。具体的には、どの障害福祉サービス利用でも意志疎通の保障がされる仕組みを作ってください。

②全ての都道府県に聴覚障害児や聴覚障害者が、自ら選択する言語やコミュニケーション手段により利用できる障害福祉サービス、放課後等デイサービス、地域活動支援センター、グループホーム・ケアホーム、介護保険サービス、特別養護老人ホーム等の社会資源を計画的に整備してください。

③全国のろう重複障害者施設の利用者の高齢化、重度化が急速かつ顕著であり、今般のコロナ禍においても、ろう重複障害者にとってはコミュニケーション保障とあわせて病気の理解や新たな生活様式などの様々な学習機会の保障(集団学習の支援と個別支援対応と併用して)など「理解支援」が不可欠です。そのための支援を向上するため、視覚聴覚言語障害者支援体制加算を拡充してください。

④新型コロナウィルス感染症で、ろう重複障害者などが入院した場合、病院の看護体制の脆弱さを理由に付き添いや支援を求められることが想定されます。家族等が付き添いできず、普段から支援している通所施設職員や入所施設の職員による支援が求められた場合に、十分な体制が確保できるよう基本報酬及び各種加算の算定を柔軟にできるようにお願いします。

⑤児童福祉法の障害児通所支援(児童発達・放課後等デイサービス)に「視覚聴覚障害者支援体制加算」を適用してください。

2.介護保険制度に関して、次のことを講じてください。

(1)特別養護老人ホームへの要介護1・2に該当する方の特例入居制度について、今後の見直しにおいても継続してください。

(2)2018年度4月の報酬改定時に長期入所において「障害者生活支援加算」の引き上げが実現したことによって、聴覚障害高齢者の生活の充実、看取り時の細やかな支援など、各施設で効果があったと報告を受けています。

①今後、さらに、高齢聴覚障害者が在宅で安全に安心して暮らせるよう、その重要な支援の一端を担っている支援の実態を踏まえ短期入所事業にも「障害者生活支援加算」を適用してください。

②「障害者生活支援加算」は、他の高齢化・重度化に対応する各種加算とは異なり、障害に対する加算です。障害者総合支援法では、原則利用者負担は0円(市町村民税非課税)となっています。聴覚障害者がきこえる人と同様に当たり前の生活を営むために、コミュニケ-ションや情報の獲得が保障されることは、合理的配慮の観点からも必要な権利です。本加算について、10%の利用者負担を求めない様に制度を見直してください。

(3)介護保険認定調査において、ろう重複障害者の特性を正確に反映される仕組みの見直しについてご検討ください。 現在の認定調査では、生まれつきの聴覚障害と他障害(精神、知的、盲など)の重複により、「情報が入らない、自分の思いが伝えられない」等から生じる行動障害やコミュニケーションの課題や困難さが評価されず、 その結果として軽度に判定され、必要なサ-ビス利用ができない実態があります。
 正確に判定されるために、認知症加算時間と同様に、高齢聴覚障害者の障害による困難さを踏まえ、「コミュニケ-ションや情報獲得等の特定の聴き取り項目に該当した場合、一次判定で加点し介護度が「1段階」または「2段階」繰り上げられる方式(仕組み)の『聴覚障害者加算時間』(仮称)を作るなど、ご検討ください。そのために特定の項目の選定に向けた実態把握と調査を進めてください。

(4)現在の一次判定項目では、高齢聴覚障害者の聞こえないことから生じる生活の困難さを反映させることはできません。そこで、障害福祉サ-ビスの支援区分調査と同様に、運動機能低下に限らず、障害から生じる行動上の困難さや情報が保障(説明等コミュニケ-ション支援)されていない、また慣れていない環境・場所での困難さ等を特記事項にしっかり記載し、審査会で 検討される必要があります。
 そのために、障害同様に「想定される特記の記載例」を認定調査マニュアル・認定審査会マニュアルに記載し、認定調査員や審査員への周知を進めてください。

3.聴覚障害者福祉に関わる人材養成・確保を強化してください。

(1)意思疎通支援事業において、意思疎通支援体制の強化を図り、「情報提供施設」や市町村等で手話通訳者の正職員としての雇用が推進されるよう予算面及び制度面で対策を講じてください。
 現在、自治体で雇用されている手話通訳者は、その90.4%が非正規雇用という不安定な身分で働いています(2019年全国手話通訳問題研究会調べ)。労働環境も十分とはいえず、健康障害を起こす手話通訳者も後を絶ちません。
 国として手話通訳者の労働実態を把握し、このような状況を改善するための方策 を検討してください。

(2)聴覚障害者の社会参加が広がっている中、手話通訳者、要約筆記者の養成が急務となっています。特にその従事者の高齢化が課題となっています(手話通訳者の平均年齢52.1歳、2015年同調べ)。その養成を担当する講師の養成事業と併せて、関東や近畿圏だけでなく、全ての都道府県において、早期に養成事業を実施するようにしてください。

(3)聴覚障害者を対象とする在宅支援の強化のため、同じ聴覚障害のある介護福祉士やホームヘルパー等の養成及び研修について、自治体の責任で手話通訳者配置等の配慮を行うようにしてください。
 また、介護職員の研修についても、聴覚障害のある職員の受講について、自治体の公費負担により手話通訳者・要約筆記者が配置されるようにしてください。具体的には障害者差別解消法施行にも関わらず、養成及び研修を実施する各事業者から手話通訳者・要約筆記者派遣(事業者負担)を拒否される例が続いていることにあります。

4.「透明マスク」の周知・普及を図ってください。

 新しい生活様式の中で、マスクの着用が政府から国民に対して推奨されています。それにより、医療機関、公共機関、福祉施設をはじめ、あらゆるところでマスク着用者が激増しました。このような状況の中、聴覚障害児・者やろう重複障害児・者は、口元や表情がみえず、話しかけられていることにも気づくことができず、コミュニケーション上の大きな障壁になっています。口元や表情がよく見える「透明マスク」を医療機関や公共機関等で普及するために、国として強力な支援をお願いします

以 上