全日本ろう学生懇談会と連盟の懇談会、文科省と意見交換を行いました



 10月18日、きこえない学生の当事者団体である「全日本ろう学生懇談会」と、連盟の意見交換を行いました。全日本ろう学生懇談会が実施した「情報保障に関する調査」の結果や、現在のろう学生懇談会の活動内容などについて報告を受け、高等教育に関わるさまざまな機関とつながりを持っていくことの重要さを確認しました。

 午後には、文部科学省高等教育局学生・留学生課を訪れ、省担当者と意見交換を行いました。大学や専門学校におけるろう学生に対する情報保障の充実や、特別支援教諭を目指す学生に対して、手話言語やろうの児童・生徒の特性理解を促進する学習を、大学のカリキュラムに組み込むこと等について要望しました。(詳細は要望書を参照)
 文科省・全日本ろう学生懇談会ともに、互いの率直な意見を聞き、新たな発見がありました。今後も継続的に意見交換を行っていくことを確認しました。

懇談会
全日本ろう学生懇談会と連盟の懇談会

意見交換
文部科学省との意見交換

令和元年10月18日

文部科学大臣
萩生田 光一 様

〒544-0004 
大阪府大阪市中央区玉造1-4-14
全日本ろう学生懇談会
会長 大西 啓人

高等教育機関に関する要望について

拝啓
 清秋の候、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。平素は、きこえない学生の高等教育機関における学習環境等に関しまして、格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 さて、当会は、全国のきこえない学生が集まり、日頃より高等教育機関における合理的配慮や支援等の知識を得るための議論と研究、これに伴う情報交換を行っております。また、社会をきこえない学生にとって過ごしやすいものに変えていくための諸研修も推進しております。現在、当会には122名の会員が所属しており、全国各地のさまざまなきこえない学生が主体となって活動できる全国で唯一のきこえない学生の当事者団体です。
 当会における事業をふまえ、今後の高等教育機関におけるきこえない学生の支援、環境整備について次の通りお願いさせて頂く次第でございます。ご検討の上、何卒今後の高等教育機関におけるきこえない学生の学習環境等に反映して頂けますようよろしくお願い申し上げます。

敬具

1. きこえない学生の「聴く権利・学ぶ権利」を保障するための制度を全ての高等教育機関に設置し、開かれた高等教育を私たちきこえない学生にも提供してください。

 近年障害者を取り巻く環境や社会状況は大きく変化し、とりわけきこえない学生に対する情報保障(手話通訳、パソコンテイク、ノートテイク等)の制度も全国各地の大学・専門学校等で実施されるようになりました。また、平成28年4月より「障害者差別解消法」が施行され、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮(以下、合理的配慮)を行うことが定められ、国公立機関では法的義務、民間事業では努力義務が課されることとなりました。しかしながら、実際には、大学・専門学校において合理的配慮を行うための整備状況の差が大きく、未だにきこえる学生と等しく情報を取得することができないきこえない学生がいます。また、講義型の授業に情報保障がついていても、ゼミや実験科目といった演習型の授業への情報保障に関しては整備されていないケースが多くあります。このような情報格差を解消するため、全ての大学・専門学校に対して合理的配慮の法的義務を課すとともに、貴省よりその財政的・人材的措置を講じてください。

2. 大学・専門学校において「手話」を言語科目として位置づけ、きこえない人の言語と文化を尊重し、理解する場の推進を図ってください。

 現在、全国280(2019年9月20日現在)の地方自治体では「手話言語条例」が制定され、「手話を言語」とする考えが広がっています。「改正障害者基本法」(平成23年)では「手話は言語」ということが明記されました。また、改訂された特別支援学校学習指導要領(平成29年4月告示)には、「音声、文字、手話、指文字等を活用した意思の相互伝達の充実」を図る旨が記載され、ろう学校では少なくとも、教職員がコミュニケーションをとれる程度の手話を習得することが必然となりつつあります。
 日本の大学・専門学校における手話科目は、その大多数が福祉関連の科目として組み込まれています。そして少数ではありますが、日本手話を他の言語科目(外国語等)と同等に位置づける大学もあり、これは増えつつあります。手話科目を取り入れることで、言語学習だけでなく、手話を通じて異文化への理解を深め、きこえない人の言語と文化を尊重する姿勢を身に付けることができ、全ての専攻の学生を対象とする大学の言語科目として重要な側面があると考えます。
 大学・専門学校等の高等教育機関においても「手話」を言語科目として位置づけ、きこえない人の言語や文化を含めた理解促進の具体的な取り組みを行ってください。

3. きこえない学生の支援に関わるネットワークの拡充を図り、大学・専門学校における支援の格差の是正に向けた取り組みを行ってください。

 全国の大学・専門学校のきこえない学生の支援(情報保障など)に関わるネットワークの拡充を図ることで、様々な大学の支援の状況や実態について迅速に共有でき、より良い支援が可能になると考えられます。しかし、1で示した通り、未だに十分な支援を受けられず、「わからないまま」授業に参加することを余儀なくされているきこえない学生が多くいます。きこえない学生がどの大学・専門学校に通っても、充実した学生生活を送ることができるようにすることが求められます。大学・専門学校における支援の格差を生み出さないよう、ネットワークの周知徹底及び拡充の具体的な取り組みを行ってください。

4. きこえない子どものコミュニケーションの機会を確保し、その言語及び認知の特性がわかる教員を増やすためにも、聴覚障害者教育領域の特別支援学校教諭免許状(一種)を取得できる大学を増やしてください。

 現在、特別支援学校教諭免許状(一種)の課程認定を有する大学は全国で160校ありますが、その内、聴覚障害者教育領域を取得できる大学は16校のみであります(文部科学省HP:特別支援学校教諭の免許資格を取得することのできる大学ページ参照)。
 特別支援学校教諭免許状のうち聴覚障害者教育領域の免許を取得していない教員が、ろう学校に配属された場合に、聴覚障害教育に関しての知識が浅く、また、きこえない子どもにとって大切なコミュニケーション手段の1つである手話を十分に習得できないまま指導にあたっているという現状があります。貴省の調査(「平成 30 年度特別支援学校教員の特別支援学校教諭等免許状保有状況等調査結果について」)でも、聴覚障害教育では当該種別の免許状を約半数(54.5%)の教員しか保有していないという結果が出ております。また、地域によっても保有率は異なり、最も低いところは滋賀県の23.3%で、最も高いところは愛媛県の92.6%であり、非常に大きな格差となっております。全国で高度かつ同一の水準を保った聴覚障害教育が一層強く求められます。貴省におかれましても、その緊急性かつ重要性は認識しておられることと存じます。
 聴覚障害教育への知識と理解があり、きこえない子どもに対する教育の専門性を身につけた教員を増やすためにも、聴覚障害者教育領域を含めた特別支援学校教諭免許状(一種)の課程認定を有する大学を増やしてください。

(別紙資料)2018年度全日本ろう学生懇談会研究部調査【情報保障に関する調査】報告書
 2018年度全日本ろう学生懇談会会員を対象に会員が在籍している大学における情報保障に関する調査を実施しました。結果の報告書を別紙資料として提出いたします。
 回答者の中には情報保障がないと回答した者がおり、高等教育機関の情報保障は満足に行き渡っていないことが分かります。また情報保障がついていると回答している者の中でも、今受けている情報保障に対する満足度を問う項目では十分に満足していない者が62人中27名(43.5%)にのぼり、情報保障のあり方について十分に検討がなされていない現状が読み取れます。
 この現状を踏まえ、1、2、3、4の要望に対し具体的な取り組みを行ってください。

以上

【お問い合わせ先】     
全日本ろう学生懇談会    
事務局長 岡﨑 茜     
Email zenkon.jimu@gmail.com