フィリピン手話言語法(仮訳版)のご紹介



フィリピンで、2018年11月12日に手話言語法が公布されましたので、ご紹介します。

フィリピン手話言語法
(2018年11月12日公布)

仮訳:一般財団法人全日本ろうあ連盟
(2019年1月25日版)

共和国法11106号

フィリピン手話言語を、フィリピンのろう者の自国の手話言語、ならびにろう者の関わるあらゆる手続きに用いる政府の公用手話言語、その使用を学校、放送メディア、職場で使用することを命じる法律

フィリピン国会上院ならびに下院によって成立

第1条 名称

 本法律の呼称は「フィリピン手話言語法」とする。

第2条

 国は、国連障害者権利条約に則り、障害を持つ者がすべての人権ならびに基本的な自由を、完全かつ平等に享受することを促進、擁護、保障するものとする。したがって、国ならびに地方の機関は、障害者の固有の尊厳、個人の自律、ならびに独立を、アクセシビリティを保障し、あらゆる公的なやりとりならびに手続きにおける、すべての形態の差別を撤廃することによって尊重し、それによって、彼らの完全かつ実効性ある社会参加と包摂を保障するものとする。国は、フィリピンのろう者が表現ならびに意見の表明の権利の行使を保障するため、あらゆる適切な手段をとるものとする。したがって国は、フィリピンのろう者特有の文化および言語的アイデンティティを体現する、手話言語の使用を認知、促進する。

 国は、幼少期から高等教育におけるろうの学習者の教育においてフィリピン手話言語を既に認知している児童早期教育法(共和国法10410号)ならびに基礎教育向上法(共和国法10533号)の理念を、さらに推し進める。

第3条 自国の手話言語としてのフィリピン手話言語

 フィリピン手話言語(以下「FSL」と呼ぶ)は、フィリピンの自国の手話言語であることを、ここに宣言する。FSLは、ろう者の関わるあらゆる手続きにおける公式なコミュニケーション手段、ならびにろう教育の教授言語として認知、促進、支持されるものとし、個人の選択および選好に基づいて他のコミュニケーション形態を使用することによって、不利益を被らないものとする。

第4条 教育におけるフィリピン手話言語

(a) 教授ならびにカリキュラムの媒体:教育省(DepEd)、高等教育委員会(CHED)、技術教育及び技能開発局(TESDA)ならびにその他ろう者の教育に関わる国および地方政府のすべての機関に、以後、ろう教育における教授媒体としてFSLを使用し、その使用を相互に調整することを課す。FSLは、ろう者の教育カリキュラムにおいて別個の科目として教授されるものとする。自国の言語としてのフィリピン語、他のフィリピンの諸言語、および英語の読み書きもまた、ろうの学習者に教授するものとする。

(b) ろうの教員:正規教育および選択的学習制度における、ろうの教員の免許取得ならびに流動性を促進するため、専門職資格管理委員会(PRC)と全国の教員養成課程が共働して、ろうの教員の諸条件、能力、社会的障壁を鑑みたアファーマティブ・アクションの手段となる、代替的なアセスメント行程を実施する指針を定める。これらの行程は、ろう教育の修了者に対して、言語上適切かつ文化的に公平でなければならない。

(c) 教員教育におけるフィリピン手話言語:インクルーシブ教育ならびにユニバーサルデザインの文脈において、教員養成課程でのFSLの学習は、適切であると認められた場合、正規カリキュラムもしくは課外活動として行うものとする。

(d) 訓練および評価プログラム:ろうの生徒に教育を提供する、国および地方政府のすべての機関およびセンターは、教員の定期的な事前/学期中研修および評価を実施しなければならない。これらはろう者コミュニティの代表とともに企画、指導が行われるものとする。

 フィリピン大学(UP)は、国立フィリピン語研究所(KWF)、手話言語学の専門家および言語学の研究者とともに、CHED、DepEd、早期児童保育発達(ECCD)委員会と協働して、すべての国公立大学(SUCs)で使用するろう教育の研修教材の開発ガイドラインを作成し、その指導者ならびにスタッフの養成を行うものとする。

第5条 フィリピン手話言語通訳の水準

 KWFは、ろう者コミュニティとその他の関係者の参画の上、FSL通訳の水準、認証ならびに行程の国内制度を、ろう者のアクセシビリティ、および自身の選択に則り、他者との平等な基盤に基づいて諸情報を追求、受信、伝達する権利という観点から他のコミュニケーション形態による不利益を被ることのないよう、確立するものとする。それには、報酬の料金、給付金、労働条件、労働条件に対する苦情の申し立て手続き等、職業としての通訳の遂行に関する方針を含むものとする。

第6条 司法制度におけるフィリピン手話言語

 FSLは、裁判、準司法機関、その他法廷におけるあらゆる公聴会、手続き、取引の、ろう者の法的通訳の公用語とする。ろう者が、他者と平等な基盤に立って効力のある形で司法にアクセスすることを保障し、司法制度においてその実効性ある役割を直接的・間接的な参加者として果たすために、裁判所、準司法機関、その他法廷は、ろう者の関わるすべての手続きに有資格の手話言語通訳者を、ろう者自身が希望した場合、他のコミュニケーション形態を選択したことで不利益を被ることのないように手配することを、ここに委任する。

 本法律の目的により、「公聴会、手続き、取引」には警察およびバランガイ司法制度における調停委員会で行われる事項ならびに、予備捜査、および裁判所、準司法機関、その他法廷における初期段階の事項も含まれる。

 最高裁判所およびその他関連する機関は、聞こえる通訳者、ろうのリレー通訳者、その他裁判所の職員を含めた司法機関に勤務する職員、警察、刑務所職員に対し、適切な研修を推進するものとする。支援スタッフもまた、FSLから初期英語もしくはフィリピン語への通訳の研修を受けるものとする。

 司法省(DOJ)、内務自治省(DILG)ならびに司法は、ろう者コミュニティおよびその他関係者の参画の上で、FSLによる法廷通訳の水準、認可、行程についての国内制度を作成することが求められる。

第7条 あらゆる職場におけるフィリピン手話言語

 フィリピン手話言語は、公的サービス機関ならびに政府によるすべての職場で雇用されるフィリピンのろう者のすべての公用語とする。この目的において、すべての政府の事務局は、FSLの原理的な説明および使用についての啓発・研修セミナーを含め、ろう者および聞こえる人の被雇用者のFSL使用を奨励する理にかなった手段をとるものとする。

 UPはKWF、言語学の専門家団体およびろうの言語学研究者とともに、DOJ、司法、保健省(DOH)、社会福祉開発局(DSWD)、フィリピン女性委員会(PCW)、児童福祉委員会(CWC)、ならびに人権委員会(CHR)の被雇用者に向け、その業務に対する委託ならびに活動の遂行にあたり、研修教材の開発ガイドラインを作成するものとする。

第8条 保健制度におけるフィリピン手話

 公立病院およびすべての保健施設は、フィリピンのろう者が保健サービスに、FSL通訳の無料派遣、およびろう者の患者もしくはろう者の家族を持つ者からの要望に応じてアクセシブルな資料の提供をも含めてアクセスできるよう保障する対応を取るものとする。私立の保健施設も、企業の社会的責任の一環として、すべてのろう者の患者ならびにその家族に対し、保健サービスへのアクセスを提供するよう推奨する。

第9条 その他すべての公的なやりとり、サービス、施設におけるフィリピン手話言語

 政府所有もしくは国有・国営企業(GOCCs)も含めたすべての国の機関および地方自治体(LGUs)はここに、FSLをろう者の関わるすべての公的なやりとりにおける公式なコミュニケーション手段として使用する指示を受けるものとする。有資格のFSL通訳者ならびにアクセシブルな資料が、フォーラム、学会、会議、文化行事、スポーツ競技会、地域の事項、および政府機関やGOCCsの実行する活動の間、必要な時にいつでももしくは要請に応じて提供されるものとする。

第10条 メディアにおけるフィリピン手話言語

 FSLは、放送メディア通訳の言語とする。フィリピンのろう者の情報アクセスならびに表現の自由を保障するため、フィリピン放送事業者連合(KBP)および映画テレビ審査格付け委員会(MTRCB)は、本法律の発効から1年以内に、テレビのアクセシビリティ水準に従い、ニュースおよび公共に関わる事項の番組に、FSL通訳のワイプ動画をつけるものとする。したがって、MTRCBは他のすべての放送および番組、とりわけ児童向け番組に対し、国立子どものためのテレビ委員会およびDepEdと連係して、段階的にFSLをつける手段をとるものとする。

 KBP、MTRCB、ろう者コミュニティ、ならびにその他関係者は、放送メディアのFSL通訳の水準、手続き、認証の国内制度を作成する任を負う。

 ソーシャルメディアも含めた、オンラインで公開されたすべての動画もまた、フィリピンのウェブアクセシビリティスタンダードに従うものとする。

第11条 フィリピン手話言語の推進

 DepEd、CHED、UP、KWF、フィリピン言語学会、その他国の団体ならびにLGUsは、言語政策および立案の専門性と経験を有する専門団体およびろう者のコミュニティに諮問の上、FSLを一般の学習カリキュラム、とりわけ公立大学(SUCs)で選択科目として講座を開講することで、聞こえる人に手話言語能力を普及させる適切な手段をとるものとする。

 UPが主導し、KWF、SUCsと調整の上、FSLおよび文化史の開発、普及、保存のための継続した研究を実施する。

第12条 学校および児童発達センターにおける指導教材

 DepEdの教材委員会は、学習教材局、学習提供局、ならびにECCD委員会と調整し、すべての公立学校、デイケアセンター、全国の児童発達センターに向けたFSLの印刷およびビデオ教材の選定、製作、調達ならびに配布のガイドラインを開発するものとする。すべての調達契約のうち75パーセントは、LGUsで承認されている地方・地区のろう者が運営する事業もしくは企業体も含めたろう者団体に確保されるものとする。

第13条 実効化のための規則および規定

 KWFは、教育省長官、CHED委員長、TESDA局長、PRC委員長、最高裁首席判事、その他関連機関の長と調整、かつ、ろう者コミュニティを代表する者たち、ろう教育におけるFSLの使用についての知識と経験を有する教員、学術界、通訳者、その他関連する者たちに諮問し、本法律の効果ある実効化に必要な規則ならびに規定を、本法律の発効後180日以内に公布するものとする。その規則ならびに規定は、関連機関のウェブサイトにアクセシブルな形式、また必要な他の手段で発表されるものとする。

第14条 本法律の厳密なモニタリングおよび実効化

 本法律のモニタリングおよび実効化は、厳密に実施されるものとする。その目的のため、諸機関を亘る委員会をここに創設するものとし、その構成は、CHR、CWC、PCW、KWFならびにFSL団体もしくは組織から1名ずつの代表による。この諸団体間委員会は、本法律のモニタリングおよび実効化に関する年次報告書を作成し、その写しを国会両院に提出し、その効果的な拡散を目的に、諸団体各自のウェブサイトにアクセシブルな形式、また必要な他の手段で発行するものとする。本法律のいかなる条文の不履行も、現行の法律および規則に拠る適切な処罰のため、公務委員会、DILG、控訴裁判所、オンブズマン事務局、もしくは他の適切な事務局ないし機関に照会する案件とする。

第15条 支出

 本法律の当初資金は、現行年度の関連諸機関の支出金によるものとする。以降、継続する実効化のために必要な金額は、毎年の歳出予算法に含まれるものとする。関連および許容される教育関連の支出は、ECCD委員会、LGU特殊教育基金、もしくはその他関連する基金から拠出される場合がある。

第16条 分離条項

 本法律のいかなる条文も、憲法違反もしくは無効であると宣言された場合も、それ以外の条文に影響を与えず、全面的に効力が維持されるものとする。

第17条 廃止条項

 本法律の条文と矛盾するすべての法律および行政通達は、廃止もしくは矛盾のないよう修正する。

第18条 発効日

 本法律は、官報もしくは全国発行の新聞掲載から15日後に発効するものとする。

承認

(署名)                  (署名)
グロリア・マカパガル-アロヨ        ビセンテ・C・ソット三世
代議院議長                 元老院議長

 本法律は、元老院法案1455号として、2018年8月28日にフィリピン元老院で可決され、代議員法案7503号として、2018年9月10日に代議員で可決された。

(署名)                  (署名)
ダンテ・ロベルト・P・マリング        マイラ・マリー・D・ビラニカ
代議院書記長代行               元老院書記長

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