国及び地方自治体の障害者雇用率水増し偽装に対する声明



 2018年9月3日、全日本ろうあ連盟は「国及び地方自治体の障害者雇用率水増し偽装に対する声明」を発表しました。
 今回の問題を契機として、障害者の雇用と障害者が安心して働くことができる職場環境と労働条件の整備を促進するために、以下の対応を強く求めます。

国及び地方自治体の障害者雇用率水増し偽装に対する声明

2018年9月3日 一般財団法人全日本ろうあ連盟

 今年8月に発覚した中央省庁及び地方自治体による障害者雇用数水増し問題に関して、厚生労働省は8月28日に昨年6月1日時点の国の33行政機関を対象とした再調査結果を公表した。それによれば、27機関が計3,460人を不適切に算入していたことが判明したため、再集計した結果、平均雇用率が1.19%に半減し、当時の法定雇用率2.3%を下回ることとなった。障害者雇用促進法を所管する厚生労働省自身も法定雇用率を満たしていたとはいえ、不適切な算入があったことがわかった。これは、民間事業者に対する障害者雇用拡大の旗振り役を担う国が、国民や障害者に対する裏切り行為を長年にわたって続けてきたことになる。

 報道によれば、「健康診断結果を基に本人に確認せず算入」、「聴力を確認することなく算入」、「人事関係の書類に本人が記載した健康状態や病名を基に判断」、「死亡職員も算入」といったずさんな実態が次々と明らかにされている。地方自治体においても厚生労働省のガイドラインを不適切に解釈し、障害者手帳の確認を怠ったり、労働時間が週20時間未満で本来ならば対象外となるにもかかわらず算入したりするなど、悪質な事例が次々と発覚している。

 内閣府による障害者白書(平成29年度版)では「障害者施策の基本理念である、全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現のためには、職業を通じた社会参加が重要である。」との考え方のもとに、障害のある人の雇用対策の各施策が推進されている。今回の各省庁の対応は明らかにこうした理念に反しており、障害者雇用促進法の下で障害者雇用率の順守を督励されてきた民間事業所はもちろん、障害者基本法が掲げる共生の理念のもとに障害の有無に関係なく対等に暮らせる社会づくりを目指してきた一般国民の信頼を大きく裏切るものである。

 不正に算入された障害者数は3,400人を超えるが、ただでさえ障害者に対する理解が依然として十分に浸透していない労働市場で苦境におかれている障害者にとっては、それだけ多くの貴重な雇用機会が不当に奪われたことを意味する。憲法で保障されている障害者の働く権利を踏みにじり、障害者の働く機会を奪ったという意味で決して許されない問題である。

 2016年に改正障害者雇用促進法が施行されたことにより、これまで量的な拡大に視点が偏りがちであった障害者雇用は、合理的配慮を通じた就労環境の整備を通じてその質的な向上も図ろうとする新たな局面をようやく迎えたと思われた。しかし、この度の不正は、こうした前進を大幅に後退させることとなった。政府の中枢である内閣府や障害者雇用政策の推進者である厚生労働省はもとより、不正に関わった省庁や地方自治体はその責任を厳しく問われるべきである。

 厚生労働省は、法定雇用率に満たない人数分の雇用を省庁や地方自治体に働きかけるとしているが、それだけでは今回の問題によって露呈した障害者雇用をめぐる本質的な問題,  すなわち障害者雇用に対する社会全体の消極的姿勢とそれに起因する障害者の就労機会の乏しさという根本的な課題を解決することにはつながらない。その背景にある、障害者雇用に対する社会全体の意識の低さや障害者に対し就労上必要となる配慮を提供するために活用しうる社会的な制度の整備の遅れといった課題、そして障害のある人とない人が一緒に仕事をし、お互いに学び合うという職場が当たり前にあるという共生社会の構築という理念の実現に取り組むことが強く求められる。

 こうした問題意識をふまえ、我々全日本ろうあ連盟は、国及び地方自治体に対し、以下の対応を強く求める

  1. 法律を制定、自ら率先模範を示すべき政府機関内においてなぜこのような失態を招いたのか、その真相究明を進めるために障害当事者を含む検証委員会を設け、調査にあたらせること。
     厚生労働省は「公務部門における障害者雇用に関する関係府省連絡会議」(以下「連絡会議」)を設置し、その下に検証チームを設け、弁護士など第三者も加えるとしているが、公正を期するため障害当事者も一定数加えることを強く求める。
     
  2. 公共部門における障害者雇用の取り組み及び障害を持つ職員の労働環境をめぐる実態を調査し、明らかにすること。
     民間事業所に比べ、公共部門における障害者雇用の取り組みやそこで雇用されている障害者の実態は見えにくい。公共部門における障害者雇用の取り組み事例の共有化や障害者を取り巻く就労環境の向上を図る意味でもその実態を明らかにする必要がある
     
  3. 各省庁は、障害者の雇用政策の抜本的な見直しを図り、障害者が能力をいかんなく発揮して働ける職場環境と労働条件の整備を推し進めること。
     本年閣議決定された「第4次障害者基本計画」には、「国の機関においては民間企業に率先垂範して障害者雇用を進める立場であることを踏まえ、法定雇用率の完全達成に向けて取り組む等積極的に障害者雇用を進める。」と記されている。各省庁は、こうした立場を自ら放棄した責任を認めた上で障害者の就労促進に向けた環境と条件整備に取り組むべきである。
     
  4. 公共部門における障害者雇用の取り組みを実効的に監視するシステムの構築と透明性のある障害者雇用状況報告にすること。
     公共部門は障害者雇用において模範となる立場として適正な取り扱いを期待されているにもかかわらず今回のような不正を引き起こしてしまった。その原因を究明し、再発防止を図るための監視システムの構築が不可欠である。その上、毎年6月に実施されている障害者雇用状況報告における障害区分をさらに細分化し、各障害種別の障害者の雇用状況を把握できるようにすること。とくに、身体障害者については、聴覚障害、視覚障害、肢体不自由、内部障害とでその障害の態様や特性が大きく異なることから、区分をさらに細分化した報告方式に改めることが、国民に対して透明性を高めることになる。これに対応させる形で民間事業所による報告形式も同様に障害種別を細分化することが望ましい.
     
  5. 公共部門及び民間事業所が従業員である障害者が就労継続上必要となる支援を提供しやすくするために活用できる社会資源を整備すること。
     今回の不正問題を引き起こすことになった根本的な原因には、障害者雇用に伴う事業所側の負担増大を嫌う風潮もあったと推察される。そうした事業所の負担軽減を図り、障害者雇用に積極的に取り組めるようにするために、ガイドヘルパーや手話通訳者、要約筆記者、作業補助者といった障害者が就労上必要となる支援サービスを提供できる支援者を事業所が利用しやすくするシステムなどの社会資源の整備が必要である。

以上