厚生労働省へ聴覚障害者の福祉施策ならびに労働及び雇用施策について要望書を提出



 2017年3月10日(金)全日本ろうあ連盟福祉・労働委員会は厚生労働省を訪問、聴覚障害者の労働及び雇用施策への要望について要望書を提出し、意見交換を行いました。

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全日本ろうあ連盟 福祉・労働委員会 委員長 大竹浩司
全日本ろうあ連盟 福祉・労働委員会 委員 小林泉
厚生労働省/職業安定局雇用開発部

厚生労働省へ要望書を提出

連本第160724号
2017年3月10日

厚生労働大臣
 塩崎 恭久  様

東京都新宿区山吹町130 SKビル8F
電話03-3268-8847・Fax.03-3267-3445
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長 石野 富志三郎

聴覚障害者の労働及び雇用施策への要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私ども聴覚障害者の福祉向上にご理解ご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 さて当連盟は、昨年6月12日徳島県徳島市において開催された第64回全国ろうあ者大会にて、聴覚障害者の福祉施策に関する大会決議を行ないました。つきましては、下記の通り要望いたしますので、その早期実現をお願い申し上げます。
 なお、我が国は、「障害者基本法」の改正を経て、「障害者差別解消法」「改正障害者雇用促進法」を制定し、これにより、合理的配慮の提供義務を含めた、障害のある方の権利を保障するための国内法が整備され、「障害者権利条約」を批准しました。
 障害者を取り巻く環境は一歩前進しましたが、合理的配慮の具体例として人的支援でもある「手話通訳・要約筆記」の記載がほとんど見られません。今後、合理的配慮の事例を積み重ねていき、より一層の基礎的環境整備を講じていただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

1.東日本大震災後の聴覚障害者の求職等支援のために、被災した東北3県に対しすべての職業安定所の手話協力員の設置・増員と、障害者就業・生活支援センターの聴覚障害者に対する支援体制を強化してください。

<説明>
 2015(平成27)年度に提出した本要望に対して、「東北3県復興と就労の実態や好事例は把握していない、障害者就業・生活支援センターの障害別の支援員は置かないがネットワーク強化を図りたい」という旨回答をいただきましたが、現状、また進捗状況を説明してください。

2.手話協力員制度の拡充を図ってください。
 手話協力員制度は昭和48年に実施した国の制度であり、雇用でなく「委嘱」の形であり、しかも交通費支給はつかない状態が続いています。また最近はいわゆる意思疎通支援者(手話通訳者)の高齢化により、手話協力員も次世代の育成、確保が困難になりつつあります。委嘱から雇用へと変えていくなど、身分保障の見直しが早急に求められています。

(1)手話協力員制度の拡充のための人員確保及び予算確保を図ってください。
<説明>

①聴覚障害者は手話協力員の配置日の限られた時間帯しか利用できません。
 現在、手話協力員は1ヶ月の稼働時間が7時間ですが、国の障害者就労目標は「雇用と同時に職場定着」に力を入れているにもかかわらず、聴覚障害者の支援では、窓口での手話通訳が中心となり、職場定着や職場適応のための指導等の時間確保が難しい状況です。しかも、就労相談ができる日は、手話協力員の配置日に限られています。
 聴覚障害者の就労支援は、聴覚障害者の求職や職業相談、職場適応指導、面接場面や採用後の職場定着を見据えた就職指導など多様化していることから、早急に未設置の職業安定所に手話協力員を配置するとともに、聴覚障害者の来所が多い職業安定所を中心に、手話協力員の常勤化、もしくは1ヶ月の稼働時間の増加・手話協力員の増員等の対策を講じてください。

②手話協力員の謝金は、10年程1時間2,950円に据え置かれたままです。
 2012年度厚生労働省補助事業「平成24年度障害者総合福祉推進事業」の「手話通訳者等の派遣に係る要綱検討事業」において、都道府県および市町村における1時間あたりの派遣単価を調査した結果、最高額で4,000円の単価を設定している自治体もみられました。手話通訳技術を活用して支援を行う手話協力員の専門性の高さに見合う謝金単価の設定が求められることから、早急に見直しを図ってください。

(2)手話協力員の効果的な人材活用のために、手話協力員要領の趣旨の文言を下記のように修正してください。

 現・手話協力員要領 

(イ)手話協力員の委嘱に当たっては、所期の目的を達成しうるよう、都道府県福祉関係部課、聴覚障害者の団体等の協力を得て、適格者の選定を行い、聴覚障害者に対する就職指導業務の計画的かつ円滑な実施を図ること。

 修正意見 

(イ)手話協力員の委嘱に当たっては、所期の目的を達成しうるよう、都道府県福祉関係部課、聴覚障害者団体等の協力を得て、適格者の選定を行うとともに、都道府県民生関係部課もしくは聴覚障害者情報提供施設、聴覚障害者団体等を手話協力員の派遣窓口とし、聴覚障害者に対する就職指導業務の計画的かつ円滑な実施を図ること。

<説明>
 現在、手話協力員は個人委嘱となっており、都道府県労働局においては、聴覚障害者団体の推薦を受けて配置しているところがある一方で、聴覚障害者団体と相談せずに公募で採用した者を配置するところもあり、対応が統一されていません。後者の場合、聴覚障害者団体と連携が取りづらく、聴覚障害者の就労問題を共有できていないという報告があります。また、職場定着指導に同行したいが、窓口での手話通訳に時間を取られ、十分な支援ができていないという報告もあります。
 手話協力員の1ヶ月の稼働時間が7時間と制限されている中で、窓口での手話通訳および職場定着指導への同行などの時間配分の調整や、手話協力員と聴覚障害者団体が一緒になって支援できる体制を組めるよう、コーディネートの役割が重要となっています。
 聴覚障害者の職場定着に向けた就職指導業務の計画的かつ円滑な実施を図る為にも、都道府県福祉関係部課もしくは聴覚障害者情報提供施設、聴覚障害者団体等が手話協力員の派遣窓口を担うことを提案いたします。

(3)各地の職業安定所において手話協力員の業務の範囲がまちまちです。聴覚障害者の職業相談や就労支援ニーズに適切に対応するためにも、「手話協力員要領」の見直しが必要です。手話協力員の在り方にも関わることであり、貴省の労働政策審議会障害者雇用分科会等で検討する場を設けてください。検討にあたっては、聴覚障害当事者・手話協力員を検討メンバーに加えてください。

<説明>
 障害者雇用分科会の構成メンバーは意思疎通支援に精通しているメンバーがいないので、障害者雇用全体を審議するにはバランスを欠いています。よって、検討する場を設けることは、手話協力員制度の充実化を図ることができ、聴覚障害者雇用・定着など労働問題の解決に寄与することになりますので、一日も早く検討する場を設けるように求めます。

(4)全国の職業安定所担当職員、障害者就労支援専門員、手話協力員等の資質を高め、聴覚障害者への就労支援サービスが十分に図られるようにするために次の通り要望します。

① 全日本ろうあ連盟は毎年「全国職業安定所手話協力員等研修会」を開催しています。この研修会を厚生労働省主催で開催してください。

<説明>
 担当職員、障害者就労支援専門員は、人事異動があり、聴覚障害の特性に対する理解が不十分で不適切な対応も見られます。手話協力員とともに一緒に研修の場を持つことで理解が深まり、聴覚障害者雇用・定着を含む労働問題の解決につながります。一日も早く厚生労働省主催で研修する場を設けるように求めます。
 ちなみに、上記研修会の周知について周知しているとのご回答ですが、残念ながら担当職員、支援専門員の方々からは「聞いていない」「知らない」との声が多数です。聴覚障害者の就労を支援する手話協力員等の資質を高めるには、上記研修会への参加が重要であることから、派遣出来るよう周知の徹底をお願いします。

② 各都道府県労働局主催の障害者窓口担当職員等の研修カリキュラムに「聴覚障害の特性と支援」についての内容も入れてください。

<説明>
 聴覚障害は外見上わかりにくい障害であり、コミュニケーション方法も手話、筆談、口話などまた手話と口話の併用もあり様々です。本人にあったコミュニケーション支援、職場環境を整えないと、本人が職場で能力を発揮できません。このためには障害者窓口担当職員等が「聴覚障害の特性と支援」に理解を深め、手話協力員との連携で聴覚障害者に対する就労支援サービスを高めることにあります。

3.法定雇用率制度の徹底を図り、聴覚障害者の積極的な採用を行ってください。

(1)各企業が法定雇用率を達成するよう、また未達成の企業に対しては法定雇用率を遵守するよう、雇用率のアップを図ってください。

<説明>
 2016(平成28)年12月発表の障害者の実雇用率は昨年度と比べ、雇用率が上がっていますが、一般民間企業が1.92%であり、公的機関の一部は法定雇用率が達成されていません。すべての公的機関、民間企業が法定雇用率を遵守するよう、対策を講じてください。

(2)「障害者の雇用の促進等に関する法律」を実効性のあるものにするためにも、障害種別の雇用の状況を表示し、雇用納付金制度のあり方を再検討してください。

<説明>
 法定雇用率が2013(平成25)年4月1日より一般民間企業は2.0%、国、地方公共団体は2.3%、都道府県等の教育委員会は2.2%となっていますが、身体障害者は一括りされています。聴覚障害者をはじめとする障害種別の障害者雇用率の表示をしてください。
 また、聴覚障害者の雇用数と離職数が公表されていないため、聴覚障害者の雇用の実情が分かりません。聴覚障害者に対する情報アクセスの保障やコミュニケーション・意思疎通の保障が必要なことを理解されていない事業所が多い中で、聴覚障害者の雇用改善のための分析を行い、聴覚障害者の実雇用率増加を図るためにも、障害種別の実雇用率、雇用数、離職数が分かるようにしてください。

(3)ろう重複障害者(盲ろう者含む)の就業について全国的な実態調査を実施し、その結果に基づき、一日も早くろう重複障害者の働く場の保障に関する施策を講じるようお願いします。

<説明>
 厚生労働省の施策として、「医療・福祉」から「一般就労」へ転換する方向を進めています。しかし、ろう重複障害者の就労状況は厳しい現況です。ろう重複障害者の就労をスムーズに進めるために、まず、全国的な実態調査を実施し、その結果を踏まえて、施策を実施するよう求めます。

4.民間企業の模範となるべき官公庁・公共団体等における聴覚障害者の採用条件や職場環境の改善を図ってください。

<説明>
 官公庁や地方自治体では、障害者雇用率を達成しているとされていますが、大半が軽度障害者の雇用です。また、昨年4月より施行された「障害者差別解消法」及び「改正障害者雇用促進法」により合理的配慮の提供が義務化されています。よって国が率先して採用されている聴覚障害者の職場での情報アクセスの保障やコミュニケーション・意思疎通の保障について範を示すべきです。厚生労働省が率先して、聴覚障害者を採用し、すべての障害者が平等に働けるよう、条件や職場環境の改善を図ってください。

5.厚生労働省の所管である、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者介助等助成金による「手話通訳担当者の委嘱助成金の制度」の一層の拡充および事業所や職業安定所に利用の周知徹底を図ってください。

(1)1回の助成額を1人3/4(6千円)ではなく、手話通訳料1回の3/4にしてください。

(2)年間の助成額の上限28万8千円を取り払い、必要に応じて手話通訳を利用できるようにしてください。

(3)申請提出期間は、事業所が必要と認めた場合いつでもできることとし、雇用後10年以内と限定しないでください。

(4)助成期間は、10年と限定せず聴覚障害者の就労期間としてください。

(5)難聴者、中途失聴者の情報保障のために、要約筆記の活用にも同じように助成金が利用できるようにしてください。

<説明>
 手話を第一言語とするろう者にとって、1対1の場面(面接等)では、口話・筆談だけのコミュニケーションでは自分の思いを十分に伝えることが出来ません。1対複数の場面(朝礼・会議・研修・資格取得等)では尚更です。
 聴覚障害者にとって、職場における情報アクセスの保障やコミュニケーション・意思疎通の保障は、就労継続上、必要不可欠です。この障壁から仕事内容の幅が広がらない、昇給・昇進の機会が奪われ、強いては人間関係にも大きく影響を及ぼします。

 現行の「手話通訳担当者の委嘱助成金の制度」は、聴覚障害者の情報保障の唯一の制度であるにもかかわらず、現在の助成内容では、時間が長くなる会議や研修の場合、事業所負担が重くなり、本人のスキルアップのための研修が受けにくい現状にあります。
 また、年間助成額に上限があるため、情報保障の範囲も限られたものになっています。複数の聴覚障害者が複数の部署に配属されている場合は、更に情報保障される内容が限定されています。
 またこの制度は、聴覚障害者を採用した事業所に対しての最初の10年間適用です。つまり最初に入社した聴覚障害者が申請して10年間は助成されるが、2人目の聴覚障害者がその5年後に入社してきても助成されません。「聴覚障害者を初めて採用してから10年間」のみ有効な制度になっています。

 エレベーターや障害者用トイレ等の設置といったように施工時限りのハード面の支援と違って、職場で常にコミュニケーション上のバリアに直面している聴覚障害者の場合は、就労期間を通して手話通訳者等による情報保障支援を継続的に利用できるようにすることが重要です。このため助成期間が10年に限定されていることは、企業にとって聴覚障害者に対する情報保障支援を継続的に提供していく上で大きな足かせとなっています。このような現状が放置されるならば、助成金の受給期間を超えて長期勤続する聴覚障害者が手話通訳者等による情報保障支援を求めたときに、このような要求が企業にとって過剰な負担であるとして拒否される事例の増加につながることが懸念されます。
 障害者雇用促進法の求める「合理的配慮の提供」からみても制度的に欠陥があるといっても言い過ぎではありません。聴覚障害者個人に対して定年までに全て公費で助成がなされるよう制度を改正してください。

6.聴覚障害者等ワークライフ支援事業を国の制度として新設してください。また、雇用・労働分野における聴覚障害者専門の相談支援体制の整備拡充のために、聴覚障害者情報提供施設でも職場適応援助者(ジョブコーチ)事業について委託を受けられるように要件を見直してください。

(1)現在、大阪府の独自事業として実施されている聴覚障害者等ワークライフ支援事業は、就職前後の聴覚障害者(重複聴覚障害者を含む)に対して、個々のニーズに応じた雇用・労働相談・支援を行い、聴覚障害者の職場定着に成果を上げています。
 聴覚障害者の就労面での相談支援機能の充実を図るため、聴覚障害者等ワークライフ支援事業を国の制度として実施してください。

(2)聴覚障害者が就職してからの職場定着支援として、ジョブコーチ支援事業を現在、全都道府県に設置されている52ヶ所の聴覚障害者情報提供施設でも実施できるようにしてください。

(3)聴覚障害者の職場定着を確実なものとしていくために、聴覚障害者がコミュニケーションや意思疎通に不安を感じることなく、職場定着指導や職業相談などが受けられるよう、ジョブコーチの条件に「手話ができる」ことを明記し、ジョブコーチ養成のカリキュラムに「手話言語」を取り入れてください。

7.全国に約300ヶ所設置されている障害者就業・生活支援センターが聴覚障害者にとって利用しやすくなるよう、聴覚障害者の相談や職業訓練等のために手話通訳者を配置する派遣費を予算化し、情報アクセスの保障やコミュニケーション・意思疎通の保障の体制を整備してください。

<説明>
 聴覚障害者にとって、公的な就労相談の場所である職業安定所と障害者就業・生活支援センターでは、筆談対応を中心とした支援が多くなっているのが実態であり、手話を第一言語とする聴覚障害者にとっては利用しにくく、相談支援機能が十分に果たされているとは言えません。聴覚障害の特性を理解した手話通訳者の配置を進めてください。

以 上