文部科学省へ聴覚障害者のスポーツ施策に関する要望書を提出



 2015年12月1日、スポーツ委員会は文部科学省を訪問し、聴覚障害者のスポーツ施策について要望書を手渡し、意見交換を行いました。

【写真左】
左:障害者スポーツ振興室 兒玉友障害者スポーツ係長
右:長谷川芳弘副理事長
奥:太田陽介スポーツ委員会委員長
  大竹浩司スポーツ委員会事務局長

【写真右】
文科省出席者
 健康スポーツ課 兒玉様、石川様
 参事官(地域振興担当)  関口様
 国際課 日名子様
 競技スポーツ課 中村様
 政策課 二戸様、縣様

※写真クリックで拡大します。

連本第150429号
2015年12月1日

文部科学大臣
 馳 浩 様

162-0801
東京都新宿区山吹町130SKビル8階
Tel03-3268-8847・Fax03-3267-3445
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理事長 石野 富志三郎

聴覚障害者のスポーツ施策への要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私ども聴覚障害者の福祉向上にご理解ご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。国連の障害者権利条約において、障害のある人が平等にあらゆるスポーツ活動に参加できるよう定めております。また、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックを機に、国内における障害者へのあらゆるバリアフリーを推進させる施策について具体的な審議がされていることと思います。これら障害者のスポーツ施策への取り組みがより一層、国民の皆さまから後押しして頂けることを期待しております。
 つきましては、さらなる聴覚障害者スポーツの施策推進をお願いしたく、下記の通り要望いたしますので、その早期実現をお願い申し上げます。

1.全国のスポーツ施設やスポーツクラブに聴覚障害児・者が日常的にスポーツ活動に参画できるよう、振興対策を講じてください。

全国のスポーツ施設における情報ユニバーサルの徹底を図ってください。
(説明)
 2020年東京オリンピック・パラリンピック開催に向け、新設の施設や既設スポーツ施設では、障害者や外国人を含む選手及び観客が安心して利用できるよう、ハード面、ソフト面での見直しが進められることと思います。特に聴覚障害者に対しては、競技状況の情報伝達のみに留まらず、緊急時の正確な情報伝達は必須であります。これら情報伝達も含めたユニバーサルの徹底を図ってください。

聴覚障害児・者が安心してスポーツに参加できるために、全国各地域のスポーツ教室やスポーツクラブにおける聴覚障害者への情報保障や、聴覚障害者スポーツへの理解を推進する施策をお願いします。
(説明)
 世界でもトップレベルを目ざすスポーツ競技選手や日常生活の中で生涯スポーツを楽しむ聴覚障害者を増やすためには、常日頃からスポーツに親しみ、練習、競技を行うことができる環境を整備し、裾野を広げることが必要です。障害者スポーツ振興室におかれては、全国各地の障害者スポーツの実施状況や障害者スポーツの環境等の実態把握をされていることと思います。その調査結果に基づいて、地域で身近な存在であるスポーツ教室やスポーツクラブで、聴覚障害児・者が「手話」などコミュニケーションが保障されたスポーツ活動ができるよう、障害者を受け入れるためのガイドラインなどを作成して、受け入れ体制に関する具体的な施策を講じてください。

スポーツ指導者や障害者スポーツ指導員に、「聴覚障害の理解」の啓発に力を入れてください。
(説明)
 地域スポーツクラブやスポーツ施設には公益財団法人日本体育協会が導入しているスポーツ指導者が配置されて、また日本障害者スポーツ協会には障害者スポーツ指導員が導入されています。文科省におかれては障害者スポーツのマニュアル作成を進めていると伺っています。スポーツ指導に携わる方へ、「聴覚障害および手話への理解」を広げるための施策を講じてください。これによってすべての地域で、聴覚障害児・者が障害のない人たちと一緒に日常的にスポーツ活動を楽しめるようになります。

2.デフリンピックに対する国民の理解促進を講じてください。

国民へのデフリンピックを始めとする聴覚障害者スポーツに対する啓発のための事業に関する制度創設及び拡充を図ってください。
(説明)
 デフリンピックに関するメディアの取り扱い、国民の関心は以前に比べれば高くなったものの、オリンピック、パラリンピックに比べるとまだまだ低いと言わざるを得ません。そのため、聴覚障害者がスポーツ活動を行うにも周囲から理解を得られず、十分な協力を得られません。
 当連盟としても、社会へのデフリンピック啓発普及事業を行ってきておりますが、まだまだ不十分であり、この事業をより一層拡充させていく必要があります。 国民、社会へのデフリンピック啓発普及事業に対する取り組みに対する制度の創設及び拡充を要望します。

小学校・中学校の教科書にオリンピック、パラリンピックとあわせ、「デフリンピック」等の障害者スポーツを学習する方法を講じてください。
(説明)
 2020年東京オリンピック・パラリンピック開催決定を契機に、小学校・中学校の教科書にはオリンピック・パラリンピックに関する記載が多くなっていると報道されています。しかし、普通小学校・中学校とりわけろう学校(特別支援学校)においてもデフリンピックや、聴覚障害者スポーツの認知度はまだまだ低い状況が続いています。聴覚障害者スポーツのすそ野を広げるためにも、小学校・中学校及び特別支援学校の教科書に「デフリンピック」等の障害者スポーツが掲載されるために、学習指導要領の見直しを図ってください。

3.聴覚障害者の競技スポーツにおける競技力アップに向けて施策の実施と拡充を行ってください。

聴覚障害者のアスリートがデフリンピックに参加するにあたり負担が生じないよう、デフリンピック派遣への補助を拡充してください。
(説明)
 第18回冬季デフリンピック競技大会2015ロシアは、貴省の多大なご支援のおかげで選手・スタッフ48名を派遣することができました。その結果、過去最高のメダル数5個を獲得することができました。世界の大舞台にて日本を代表して善戦を繰り広げた様は、私たち聴覚障害者に大いなる勇気と希望を与えてくれました。パラリンピック同様、デフリンピックは選手が持てる力を競うだけでなく、その大会を通して社会に対して障害者への理解を啓発していくことにも大きな意義があります。そのため、デフリンピックには日本を代表するに値する選手を少しでも多く送り出したいと考えます。
 次回は2017年にトルコでデフリンピックが計画されていますので、この派遣のための施策の実施と拡充を要望いたします。

当連盟が主催する「全国ろうあ者体育大会」の安定した継続開催のために財政的支援をお願いします。
(説明)
 主に手話をコミュニケーション手段とする聴覚障害者は、長い間、聴覚障害者に対する偏見や手話の普及がなかなか進まない中で、手話によるスポーツ交流や競技力向上の場として当連盟が主催する全国ろうあ者体育大会(夏季大会は毎年、冬季大会は現在1回/4年開催)を全国各地輪番制で毎年1回開催することで、国内トップレベルの聴覚障害者アスリートが結集する国内最高の競技大会になっています。
 このような意義のある大会に対しては、スポーツ基本法においても国がその経費について補助することができるとうたっています。
 デフリンピックやアジア太平洋ろう者スポーツ大会などの国際大会への競技力向上のためにも全国ろうあ者体育大会への財政的支援を要望します。

聴覚障害者アスリートや指導者の育成、指導法の研究の促進に関する施策の実施と拡充を行ってください。
(説明)
 文部科学省におかれてはスポーツ基本計画の中で、オリンピック、パラリンピック選手の競技力向上のための対策が進められていますが、デフリンピックも同様に進められるべきと考えます。デフリンピックや競技ごとに開かれる世界選手権へ出場する聴覚障害者アスリートの発掘・育成・強化のために、聴覚障害の特性に通じた指導ができる指導者の育成、聴覚障害者がスポーツに取り組める環境の整備等、聴覚障害者アスリートの意欲を高めるためにも、スポーツ基本計画の中にデフリンピックについても具体的な施策を講じ、また、より一層、聴覚障害者アスリートの育成・強化ができるよう財政的支援を要望します。

4.聴覚障害者の特性に合わせた機器の開発や普及をお願いします。

(説明)
 国連の障害者権利条約において、障害のある人が平等にあらゆるスポーツ活動に参加できるよう定めております。 聞こえによる情報が得られない聴覚障害者が障害のない人とスポーツ交流ができるよう、必要な専門知識、用品等の開発、実践研究に取り組めるよう、施策を講じてください。例えば、スターターピストルに変わる機器(スタート姿勢で目視できる位置でランプによるスタート合図)が開発されています。この取り組みで聴覚障害者が音や声による情報を不利とせず、ろう学校だけでなく地域の小中学校や高校などでのびのびとスポーツ交流ができます。