第62回社会保障審議会障害者部会にて意見書を提出



○日時 平成27年5月29日(金)9:30~12:30
○場所 TKPガーデンシティPREMIUM神保町プレミアムボールルーム(3階)
     (東京都千代田区神田錦町3-22)
出席:松本福祉・労働委員会委員長
厚生労働省HP会議情報:http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-hosho.html?tid=126730

全日本ろうあ連盟より、下記の意見書を提出しました。

2015年5月29日
一般財団法人全日本ろうあ連盟

○意思疎通支援事業の内容・運営についてどのように考えるか。

  • 意思疎通支援事業の対象者の範囲をどのように考えるか。
  • 介助技術に関するものや意思決定に関するもの等と意思疎通支援事業との整理についてどのように考えるか。
  • 意思疎通支援事業についてそのニーズや支援のあり方についてどのように考えるか。
  • 小規模市町村等での事業実施についてどのように考えるか。

 ⇒対象者の範囲については、中軽度難聴者も意思疎通に困難があり要約筆記等の支援を求めている。また18歳未満の聴覚障害児もニーズがあり検討が必要である。
 ⇒手話通訳事業において設置・派遣される手話通訳者は、相談支援事業と同様に、様々な障害福祉サービスを利用するための前提としての意思疎通支援の役割を担ってきた。かつ、意思決定支援の側面も合わせて行ってきた実態がある。意思疎通支援と意志決定支援が一体になっているケースを踏まえ、一体となったシステム構築を検討する必要がある。
 ⇒障害者差別解消法における行政サービス分野の合理的配慮と、障害者雇用促進法における合理的配慮の施行をひかえ、これらの合理的配慮の推進とこれまでろう者の生活領域全般を対象領域としてきた意思疎通支援事業の今後の果たす役割を整理していくなかで、意思疎通支援事業についてのニーズや支援のあり方を検討する必要がある。

○意思疎通支援事業についての財政的措置のあり方についてどのように考えるか。

  • 個別給付化した場合のメリット・デメリットの整理についてどのように考えるか。

 ⇒手話通訳者派遣事業、手話通訳者設置事業は地域による格差が大きい。しかし、必要なサービスを全国均一の仕組みで提供し、かつ地域の特性が生かされる仕組みとするためには、一般的な個人での利用、意志決定支援等と一体となる利用、複数あるいは不特定のろう者が利用、聞こえる人が必要としての利用など、様々なケースに対する整理が必要である。また本質的に相互性を有する意思疎通について、負担のあり方も含めて、十分に検討していかなければならないと考える。

○意思疎通支援関係の人材養成についてどのように考えるか。
○意思疎通支援の人材養成についてそのニーズや支援のあり方についてどのように考えるか。

  • 必要とされる人材の把握とその養成の在り方
  • 研修カリキュラムのあり方等についてどのように考えるか。
  • 専門的な知識を必要とする意思疎通支援についてどのように考えるか。

 ⇒現在の手話通訳技能認定試験の実態は、広く手話通訳者を対象とし、一定の力量を持った手話通訳者を認定する制度となっている。認定試験は国語など学科が4科目、実技が2科目と極めて限定された知識を問う内容となっている。限定された試験範囲ではあるが合格までの学習経験年数を見ると、専門学校など学校養成の場では5年未満、自治体が実施している地域養成では10年から15年が多く、手話通訳士の平均年齢が50歳程度となる現状である。
 したがってこれまでの地域での養成カリキュラムと併せ、高等教育機関等での手話通訳士養成が行えるようにすることで、障害者福祉の担い手として基礎教育に視点を移し、職業として専門職を育成する仕組みが必要である。
 ⇒障害者の社会進出が広がり、意思疎通支援者に対するニーズもこれまで以上に幅広くなり専門的な知識を求められている。またその一方で、その障害により、十分な情報や教育を受ける機会を享受できなかった障害者の場合、意思疎通支援者は、意思決定支援の一翼を担ってきてもいる。そのため、意思疎通支援者に対するニーズは幅が広く、その幅の広さ故に、一元的に養成するということは困難な状況にある。
 ⇒地域で養成する手話奉仕員及び手話通訳者養成については、講師不足に悩む地域が多く、講師の養成システムが必要な状態に直面している。講師養成のカリキュラムがなく、国の予算が少ない現状では、都道府県の財源状況によって講師養成の実施方法がまちまちという状態である。早急に地域での養成のありかたを検討するとともに、講師養成カリキュラムについても講師養成のかかる財源の確保を含めて検討が必要である。

○意思疎通支援に係る支援機器の活用等についてどのように考えるか。
○支援機器の活用、開発普及の取り組み等についてどのように考えるか。

 ⇒支援機器の役割は大変大きなものがあると認識している。これらの機器が使えず、あるいは更なる困難を抱え込む対象者もいることを考慮する必要がある。また障害者福祉の対象としてどのような支援が必要になるかの検討が必要である。
 ⇒これらを前提に、ろう者・難聴者に必要な支援機器の一例として、電話リレーサービスと遠隔手話・要約筆記通訳サービスがある。手話通訳者がその場にいなくてもタブレットにより手話通訳支援を行う事ができる遠隔手話通訳サービスは、手話通訳者不足の地域や夜間等緊急時の対応で大きな成果をあげることができる。手話言語条例を制定した都道府県、市町村においてこのようなサービスを導入している実態があることを踏まえ、国としてもこれらの制度化について検討が必要であると考える。

○意思疎通支援に関する他の施策との連携をどう考えるか。

  • 合理的配慮との関係についてどのように考えるか。

○教育・労働・放送・通信・交通・司法・選挙等福祉施策以外の分野との関係についてどのように考えるか。

 ⇒合理的配慮に基づく施策により、基礎的環境の整備と共にアクセシビリティ政策を推進していくことで、社会のあらゆる分野、場面での意思疎通支援が十分に進展していくことが望まれる。この合理的配慮が進展すれば意思疎通支援事業の占める役割は相対的に低くなるものと考えられる。しかし、そのためには、まず合理的配慮に基づく意思疎通支援の在り方(支援者の確保など)について十分検討していくことが必要である。
 また、合理的配慮の提供や基礎的環境の整備は、差別解消法による基本方針や、現在各省庁で策定中の対応要領・対応指針により具体的な方策が定められていくものの、対応は個々の場に一任されており、特に民間での合理的配慮の提供や基礎的環境の整備には差が生じていくことが予想される。それぞれの場の状況により、生じうる対応の差について、障害者政策委員会を含め、国やその監視機関は、障害者にとって混乱や不利益が生じないよう、その責務を果たしていくことが必要である。
 なお、現在の意思疎通支援事業では、分野にかかわらず、意思疎通支援のための通訳者の設置・派遣を行っているが、今後、各分野での基礎的環境の整備を進めていく上では、すべての分野において、意思疎通支援のための予算を確保し、その利用を推進することで、合理的配慮や基礎的環境整備による支援が推進されると思われるので、検討をぜひ行っていただきたい。
 その一方で、意思決定支援も含め、相談支援・生活支援等に対する情報保障は、福祉施策として、国民はその権利を保障されるべきであり、それは合理的配慮の提供や基礎的環境の整備と分けて考える必要がある。

 総合支援法に基づく、意思疎通支援事業と合理的配慮との兼ね合いをどうするかを踏まえて、障害者福祉における意思疎通支援事業のあり方を十分に検討し、国として責任ある方向を示すべきである。