池川裁判に対する全日本ろうあ連盟の声明



池川裁判に対する全日本ろうあ連盟の声明

一般財団法人全日本ろうあ連盟 情報・コミュニケーション委員会
2014年6月9日

 2012年2月28日、池川洋子さんは高松市に対し、手話通訳派遣却下処分の取り消しと、池川さん自身が負担した手話通訳派遣費用などの損害賠償を求めて、高松地方裁判所に提訴しました。
 高松市外の場所への広域派遣を認めず、派遣内容が制限されるという高松市手話通訳者派遣実施要綱とその運用に問題があり、全国において「いつでも」「どこでも」「どんな内容でも」手話通訳派遣が受けられる制度にしていくための闘いでした。
 この裁判は、高松市が2014年4月1日から広域派遣を認め、派遣内容の制限を撤廃する高松市意思疎通支援事業実施要綱に改正されたこと、及び改正前の3月に、前倒しで池川さんの長女の卒業式への手話通訳派遣を実施したことを受けて裁判所が和解を提案し、池川さんもこの和解勧告を受け入れました。これからは和解に向けた話し合いになります。

 私たち全日本ろうあ連盟は「諦めない。諦めてはならない。私たちの願いが届くまで」の想いが実現し、厚生労働省が通知した意思疎通支援事業モデル要綱に基づいた高松市意思疎通支援事業実施要綱により「社会参加の機会が広がった」ことを喜ぶとともに、高松市の手話通訳派遣を考える会、弁護団、これまで支援をお寄せいただいた全国の仲間の方々にお礼申し上げます。また何より、この裁判に立ち向かった池川洋子さんの決意と頑張りに拍手を送りたいと思います。

 この裁判は、聴覚障害者にとって①情報・コミュニケーション支援は人権保障として根幹的な権利であること、②手話を含む意思疎通の手段を選択する機会の確保を規定した改正障害者基本法の趣旨に沿った判断が高松市にも当然に望まれること、③高松市の却下処分が憲法第26条に謳われた国民の教育を受ける権利と保護する子女への教育を受けさせる義務を侵害していることを確認するものであり、母親としての義務の遂行を保障し、剥奪された権利・尊厳の回復及び障害者の社会参加を制限することのない制度設計を求めてきました。
 聴覚障害者が、「いつでもどこでもどんな内容でも手話通訳を受けられる」ことは、私たちが安心して暮らせる社会の基盤的な制度であり、「どこで生活をしていても地域差のない情報保障」が受けられるということが重要であることを示す裁判でもあったと考えます。

 今回の裁判では、司法分野における情報・コミュニケーション保障の課題も大きく取り上げられました。要約筆記は公費負担実施が可能であり、傍聴人に見えるようスクリーン設置も公費によって行われました。しかし、裁判所は、現行法上、手話通訳を公費負担で派遣することができません。弁護団は、裁判所が公費負担で手話通訳を用意しないということは、障害者基本法に違反するものであり、今回の裁判を公開する意義や障害者への配慮義務からも公費負担で情報保障を用意すべきであり、裁判所の「公費負担は不可能」とする見解は間違いであると、高松裁判所に申し入れを行い粘り強く協議を重ねましたが、本人及び傍聴人のための手話通訳は実施されず、原告が手話通訳の必要経費を負担する形でようやく裁判における情報保障が整えられるという状況でした。
 司法場面における情報保障の整備を求め、聴覚障害者制度改革推進中央本部においても最高裁判所に改善を要望しましたが、未だに解決されておらず、障害者差別解消法においても司法分野は適用外です。
 障害者権利条約の日本での発効を受けて、司法分野における情報・コミュニケーション保障の改善に司法自らが積極的に踏み出すべきです。そして、二度と池川裁判のような問題が起こらないよう、手話言語法、情報・コミュニケーション法の制定を強く求めます。