厚生労働省へ聴覚障害者の福祉施策について要望書を提出



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 2014年1月23日(木)、全日本ろうあ連盟福祉基本政策検討プロジェクトチームは、厚生労働省へ、聴覚障害者の福祉施策について要望書を提出し、意見交換を行いました。
 
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 左:石野理事長
 右:厚生労働省 社会・援護局 障害保健福祉部 企画課
   自立支援振興室 情報支援専門官 鈴木 敏弘 氏
 

連本第130621号
2014年1月23日

厚生労働大臣
  田 村 憲 久 様

一般財団法人 全日本ろうあ連盟
理事長 石野 富志三郎

聴覚障害者の福祉施策に関する要望について

 時下、益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
 平素より聴覚障害者福祉の向上にご理解、ご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。
 さて、障害者福祉におきましては、障害者基本法の改正、障害者総合支援法の制定、障害者差別解消法の制定が進められ、障害者権利条約が批准されました。障害者基本法では、共生社会を実現するため、「あらゆる分野の活動に参加する機会」「どこで誰と生活するかについて選択する機会」「言語(手話を含む)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会」の拡大が不可欠であるとされました。
 聴覚障害者福祉の分野におきましては、全日本ろうあ連盟において、聴覚障害者福祉の関係諸団体に集まってもらい、共生社会実現のための福祉基本政策プロジェクトチームを設けて検討を進めております。これまで関係団体が各々要望してきた事項の中で、現在検討されている施策や計画の中に是非とも反映していただきたい事項について下記の通り要望として取りまとめました。
 つきましては施策に反映するとともに、必要な予算措置を講じていただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

<要望事項>

1 全国の聴覚障害者が平等に福祉サービスの利用ができるよう、社会福祉施設等の社会資源の整備を図って下さい。

(1)全ての都道府県及び政令指定都市に「聴覚障害者情報提供施設」を早期に設置するよう、強く働きかけて下さい。
防災・災害対策及び支援の機能を施設の役割の一つに加え、意思疎通支援のコーディネート及び養成担当者、相談支援担当者、IT指導員の人員増員を行って下さい。
また職員の昇給ができるよう運営費を増額して下さい。

(2)全ての都道府県に聴覚障害児や聴覚障害者が、情報アクセスとコミュニケーションのバリアなく、自ら選択する言語・コミュニケーションにより利用できる、放課後等デイサービス、地域活動支援センター、グループホーム・ケアホーム、特別養護老人ホーム等の社会資源を計画的に整備して下さい。そのために、市町村単位だけでなく、広域で事業運営ができるように施策を講じて下さい。

(3)高齢ろう者が、その障害の特性に対する理解,配慮なく介護保険サービスを受けざるを得ない現状を改善するため、障害者福祉サービスと介護保険サービスどちらも選択できるようにするなどの施策を講じて下さい。

(要望理由)
 障害者基本計画では、すべての都道府県に聴覚障害者情報提供施設(以下情報提供施設)の設置が位置付けられ、平成25年12月現在46か所となりました。しかし未だ7道府県が未設置の状況となっています(政令市を除く)。特に東日本大災害が発生した東北地方は、情報提供施設のみならず他の社会資源も不足した状態となっており、社会資源の地域格差が大きな課題となっています。聴覚障害者の社会資源が不足している原因の一つに、利用者が点在していることから都道府県単位またはいくつかの自治体にまたがる広域対応の困難さが挙げられます。そこで、共生社会の実現に向け、情報提供施設等への予算措置について都道府県に強く設置を働きかけていただくと共に、社会資源の地域間格差是正に向けて適切な措置を講じることが重要だと考えます。

2 障害支援区分認定や介護区分認定において、聴覚障害者やろう重複障害者、高齢聴覚障害者の障害特性を正しく反映するよう、コミュニケーション関連項目等の扱いの変更、「視力」「聴力」の項目に合わせ「言語(発語及び手話)を調査項目に追加、及びマニュアルの修正を行って下さい。
 また、介護支援専門員研修や障害者相談員研修において聴覚障害等、障害種別毎の支援の留意点、認定調査時の留意点、障害に関わる専門機関との連携、活用等について周知して下さい。
(要望理由)
 障害支援区分について試行調査を行い検証してきました。起居動作をはじめ生活動作、行動等調査項目にある多くの部分は、身体機能の状況のみでなく、自身の意思決定、納得によって行われるものであり、その前提としてはコミュニケーションあるいは情報提供が必要です。聴覚障害者においては、コミュニケーション支援があってはじめて、他の障害者と同じスタートラインに立つことができると言えます。このことから意思疎通等の事項を実情に合うように変更するとともに、マニュアルの修正が必要です。
 また、聴覚障害者が調査対象者の場合、調査員が手話通訳者や要約筆記者の支援を受けて適切に認定調査ができるよう専門機関の活用等について理解する必要があります。
 また、調査対象者を日常的に介護、同居する者や聴覚障害者相談員等、日頃から調査対象者を知る者を同席させて意見を聞くなど、日常生活の状況や介護・支援の手間について把握し、「聞こえない」ことが介護の手間にどの様な影響があるのか特記事項に記載することが重要です。

3 聴覚障害者福祉に関わる人材養成・確保を強化して下さい。

(1)手話通訳者、手話通訳士については、嘱託や非常勤といった非正規雇用が多いので、正規雇用が着実に増えるよう、施策を講じて下さい。
また、登録手話通訳者については労働者として位置づけ、労災保険に加入できるよう雇用契約を行うことにより派遣する制度として下さい。

(2)全ての都道府県で手話通訳者、要約筆記者の養成、並びに養成を担当する講師の養成を早期に実施するよう働きかけて下さい。

(3)社会資源の創出に重要な役割を担う、聴覚障害者を専門に担当する相談支援者の研修事業を新設して下さい。

(要望理由)
 平成25年4月1日に施行された障害者総合支援法は、都道府県における「専門性の高い意思疎通支援を行う者」の養成及び派遣に係る「市町村相互間の連絡調整その他広域的な対応が必要な事業」と、市町村における「意思疎通支援を行う者を養成する事業」を新たに加えました。しかし、依然として地域生活支援事業の中の意思疎通支援事業の実施主体が市町村であるために、市町村間で人材養成の格差が生じています。とりわけ手話通訳者や手話通訳士等、専門性の高い人材の育成・確保が遅れています。また、聴覚障害者を専門に担当する相談支援員は高齢聴覚障害者やろう重複障害者等の支援において、相談支援、コミュニケーションの仲介、同障者としての共感、社会資源の創出等、極めて重要な役割を果たしています。こうした独自の役割や専門性を高めるため、研修事業の創設を求めます。

4 情報アクセス・意思疎通支援を受ける権利について規定し、利用負担なしの原則に基づき、全国共通の意思疎通支援制度の仕組みについて、障害当事者団体・関係団体とともに検討を進めて下さい。
(要望理由)
 聴覚障害者が市民として平等に生活を営むには、情報・コミュニケーションが権利として保障される必要があります。そのため障害者基本法では、共生社会を実現するため、「あらゆる分野の活動に参加する機会」「どこで誰と生活するかについて選択する機会」「言語(手話を含む)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会」の拡大が不可欠だと規定しています。付帯決議において情報コミュニケーションに関する制度の検討が入っています。
 また、骨格提言においてもコミュニケーション支援は国・都道府県の義務的経費とし、全国共通の仕組みで提供される支援としており、障害者総合支援法では、検討項目の一つに、手話通訳等を行う者の派遣その他の聴覚、言語機能、音声機能その他の障害のため意思疎通を図ることに支障がある障害者等に対する支援の在り方を規定しています。