障害者の地域生活の推進に関する検討会(第4回)にて聴覚障害者の地域生活の現状と課題、提案を発表



 8月29日、障害者の地域生活の推進に関する検討会(第4回)が開催され、障害者関係5団体に対しヒアリングが行われました。全日本ろうあ連盟からは小中副理事長が出席し、聴覚障害者やろう重複障害者の地域生活の現状と課題、提案を発表しました。
 
 厚生労働省ウェブサイト掲載情報:障害者の地域生活の推進に関する検討会(第4回)

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2013年8月29日

障害者の地域生活の推進に関する検討会における論点について

一般財団法人全日本ろうあ連盟

 聴覚障害者やろう重複障害者は、日常の生活支援とコミュニケーション、意思疎通、意思決定支援が切り離せません。コミュニケーションが通じない状態での生育歴、教育歴、生活環境の厳しさにおかれた場合、支援の程度が大きく違ってきます。障害者一人ひとりにおける多様な支援ニーズに応えられる制度構築と運用を求め、全国ろう重複障害者施設連絡協議会等の関係団体とともに取り組んでいるところです。今回の検討において、以下の意見、提案をしっかりと受けとめて頂き、聴覚障害者が利用できるよう合理的配慮の整った地域生活の基盤の整備を望みます。

重度訪問介護の対象拡大に当たっての論点

1. 重度の知的障害者・精神障害者で常時介護を要する者の状態像をどのように考えるか。

 2013年3月に報告された「ろう重複障害者の支援に関する調査事業報告書」によると、

①聴覚障害と知的障害を併せ持つ者が、聴覚障害者支援施設利用者の57.9%、聴覚障害居宅介護支援事業の利用者の60.0%と高い割合になっている。
また聴覚障害と精神障害を併せ持つ者は、聴覚障害者支援施設利用者の18.2%、聴覚障害ケアホーム利用者の25%を占めている。
(ろう重複施設全体利用者数2,167人)。
盲施設にも知的・精神の重複障害者が多い。
このことから、重度の知的障害者・精神障害者は感覚器機能障害(聴覚障害、視力障害等)を併せ持つ重複障害が多いこと、このことから障害の多様さや重度さ、支援の困難さがあり、専門性の高い支援技術が求められている。

②ろう重複障害者を対象にした事業所で働く職員に、「職員が感じる負担」について行われた調査の結果、入浴、車椅子移乗、排尿・排便といった身体介護に加えて、服薬援助、日常の健康管理といった医療・保険関係の負担や、パニック・突発行動への対応に係る負担、あらゆる場面での情報伝達・通訳といったコミュニケーション支援の負担が大きいと報告されている。いずれの支援も重度障害者の命と暮らしを守る上で欠かせない支援内容である。従って、常時介護を要する者の状態像について、身体介護のみならず、医療的介護、突発的な行動への対応、コミュニケーション支援等がどの程度必要かを総合的に把握した上で考えていくことが必要である。

※「ろう重複障害者の支援に関する調査事業報告書」
日本財団助成事業により社会福祉法人埼玉聴覚障害者福祉会が全国ろう重複障害者施設連絡協議会と共同で実施したもの。
全国ろう重複障害者施設協議会加盟43施設、全国高齢聴覚障害者施設協議会加盟9施設、調査委員会が把握した聴覚障害者33施設、及び全国聴覚障害者情報提供施設協議会加盟42施設、調査委員会が把握した聴覚障害者相談支援事業所2施設を対象として、2012年9月1日~10月31日にアンケート調査を行った。事業報告書は、社会福祉法人埼玉聴覚障害者福祉会「どんぐりタウン」にて公開されている。

2. 上記1の状態の者に対するサービスの内容やその在り方をどのように考えるか。

 身体介護、医療的介護、突発的な行動への対応、コミュニケーション支援等を総合的に支援できるようにすべきである。
 上記の「ろう重複障害者の支援に関する調査事業報告書」によると、施設職員が業務中に困難に感じることの一番目が「利用者とのコミュニケーション」をあげている。重度訪問介護の対象者が自ら意思決定を行い、納得して介護が受けられるようにするには、利用者とのコミュニケーションや情報提供が不可欠である。そのため介護職員の養成プログラムにおいてコミュニケーション支援に関する教育を重視していく必要がある。
 また、重度訪問介護に従事する職員が安定して長期に就労できるよう、身分保障や研修保障をしていくことが重要と考える。

3. 具体的な対象者の要件について、どのような基準とするべきか。

 意思疎通(コミュニケーション)支援は、意思決定や行動の前提となるものである。盲ろう者やろう重複障害者においては、意思疎通支援は日常生活全般において常時必要な状況であり、これらの方々も常時介護を要するものの対象者に含めるべきである。
 また、重複ではない聴覚障害者においても意思疎通(コミュニケーション)に大きな課題を抱え、重度訪問介護が必要な者もいる。
 こうした観点から、現行の重度訪問介護が障害程度区分4以上の要件について、常時の支援を必要とする障害者が利用できるものになっているかどうか、再検討が必要である。

4. 重度の知的障害者・精神障害者に対応する重度訪問介護と、肢体不自由者を対象とする現行の重度訪問介護と、サービス提供事業者の基準を区別するべきか。

 現状では、事業者が障害の区別なく重度訪問介護の事業を実施していると考えられ、サービス提供事業に従事する者や事業者が不足している状況において基準を区別することは、利用者にとってサービス利用を制限することとなるため、基本的に基準の区別は不要と考える。
 しかし、利用者とのコミュニケーション、意思疎通や情報提供が不可欠である。そのため介護職員の養成プログラムにおいてコミュニケーション技術・意思疎通支援、情報提供に関する教育・研修が必要である。
 また、聴覚障害者の場合、特にニーズの高まるのが65歳を超える高齢者であり、介護保険制度優先とせず、聴覚障害者が必要とするサービスが提供されるようにするべきである。

グループホームへの一元化に当たっての論点

1.支援のあり方・支援体制等に関すること
○ 一元化後のグループホームにおける支援のあり方をどのように考えるか。

 生活の場を変更していくことは、利用する人にとっとは極めて重大な決断である。そのため、コミュニケーション(意思疎通)・意思決定支援と一体になった、生活相談、生活実習、生活定着の各段階における支援が必要である。
 また、場合によってはグループホームになじめず、元の暮らしに戻る可能性もある。
 一つ一つが利用者自ら納得して決断できるよう、人的な支援体制や報酬のあり方について検討していく必要がある。

○ 一元化後のグループホームの人員配置基準をどのように考えるか。
 「ろう重複障害者の支援に関する調査事業」では、今後の事業計画について調査した結果、ケアホーム・グループホームの設置を計画している法人が最も多かった。しかし、人材不足、報酬の低さ、人材育成といった課題から、計画が具体的に進んでいない状況がうかがわれた。特にコミュニケーション技術、意思疎通支援情報提供等の専門性が求められるが、現行の配置基準では専門性を有した人材の確保は困難である。そのため、人的配置に係る財政措置が最も重要な課題である。また、人件費が安価であるため世話人の確保が困難であり、「夜間支援体制加算」「小規模加算」復活も必要である。

○ 日中、夜間に支援が必要な入居者への支援体制をどのように考えるか。
 ろう重複障害者の利用者が、体調不良のため日中活動の場に通所することができない場合、ホームで安心・安全に日中生活が送れるようヘルパーの派遣が必要である。
 現状では日中のグループホームの利用が困難であり、入居者への制約の多い現状の制度の改善が求められる。日中活動や就労訓練等に参加しないときは重度訪問介護や居宅介護のサービスを利用してホームで安心して日中生活が送れるよう、柔軟な制度にしてほしい。
 また、夜間に医療ケアの支援の必要な人などに応じた職員体制をとってほしい。

○ 重度者や医療が必要な入居者への支援体制をどのように考えるか。
 現在日中活動に適用されている「視覚・聴覚言語障害者支援体制加算」について、グループホームを利用する聴覚障害者が、あらゆる生活場面で意思疎通支援が受けられるよう、視覚・聴覚言語障害者の利用者が利用者総数の30%以上という現在の条件を撤廃し、聴覚言語障害者が利用する全てのグループホームに加算措置を行うべきと考える。
 施設を退所してグループホームに地域移行するパターンが増えている。重度や医療ケアを必要とする入居者への対策は急がれる。看護職員の配置や医療ケア研修を義務付けるなどの対応が必要である。

○ サテライト型グループホームの利用者像・支援のあり方をどのように考えるか。
 共同生活が苦手で1人暮らしを求める人にはテライト型グループホームも必要である。現状の世話人態勢では支援に限界があるので、重度訪問介護や居宅介護のサービスが利用できるようにするとともに、居宅支援を相談支援事業から独立させて「居宅支援センター」として、入居者の相談支援、サービス利用計画作成支援、見守り等を総合的に対応する制度が求められる。

2.規模・設備に関すること
○ 障害者の方が地域で生活する拠点としての共同生活住居の規模をどのように考えるか。

 グループホームは「家庭」の位置付けで始まったが、現在は「施設」化へ向かっている。10人のグループホームでは施設入所と変わらず、自立した地域生活の観点から4名程度の規模が適切と考える。
 ただし、利用者の状態や事業所の経営規模、職員の確保等、地域の事情によって、格差があるのが実情である。従って共同生活住居の規模については、弾力的に運営できるよう運営のガイドラインを定めることで良いと思う。

○ サテライト型グループホームの設備基準をどのように考えるべきか。
 全国ろう重複障害者施設連絡協議会では、毎年厚生労働省に「障害者(児)福祉施策に関する要望」を提出しており、要望では緊急時に対応できるよう、フラッシュランプや電光文字表示等の視覚情報設備をグループホームに整備するための補助制度の創設を強く求めている。現状はグループホームやケアホームを設置する事業者の負担となっており、設置費が高額のため断念せざるを得ない事態が生じている。
 サテライト型グループホームはアパートや公営住宅などが使用できる設備基準であるべき。ハードルを高くするとサテライト型は実現できない。

地域における居住支援についての論点

障害者の高齢化・重度化や「親亡き後」も見据えた、障害児・者の地域生活支援を更に推進する観点からのケアホームと統合した後のグループホーム、小規模入所施設等も含めた地域における居住の支援等の在り方について、どう考えるか。

①現在、施設入所者の高齢化や入所期間の長期化が課題となっており、地域での暮らしを望まれている方も少なくない。その際課題となっているのは、入居できるグループホームが不足していることに加え、入所施設の側にも課題が生じている。京都府にある栗の木寮では、利用者がケアホーム等への地域移行後、利用者のプライバシー保護や居住性の向上を図るため、利用者を補充せず、一室二人の利用形態を個室利用に変更する取り組みを進めている。しかし、利用者数の減員は施設の減収となり経営的な困難を伴っている。そのためグループホームや小規模施設等の居住支援のみならず、現在の施設入所支援における利用者のプライバシー保護や居住性の向上を図る方策についても検討が必要である。

②「脱施設」「地域移行」政策がなかなか進んでいかない。これは施設退所後の地域生活を可能にする「暮らしの場」の不足、地域の社会資源の不足や未熟さ、そして財政出動の弱さも大きい。障害者権利条約批准を見据え、「どこで誰と住むかを自分で決められる」よう、居宅支援センターや居宅支援員制度などを含めた抜本的な政策化が必要と考える。

③聴覚障害者、特にろう者、盲ろう者等の重複障害を持つろう者の生活と人生とコミュニケーションに対する合理的配慮のされている訪問介護事業やグループホームがほとんどないに等しい。それゆえに、聴覚障害者向けの訪問介護・グループホームの整備を計画的に進めていく政策が必要である。具体的に整備の数字目標を示すことにより、利用できるサービスの整備を計画的に早く進めるられるようにしてほしい。
 また、潜在的なニーズを持つろうあ者へのアウトリーチの態勢強化が課題となっており、意思疎通支援事業と一体になった相談支援事業所の設置を進めるべきである。

④聴覚障害者、生育歴、教育歴、生活環境の厳しさなどから、コミュニケーション、意思疎通、意思決定が困難なろう者にとって、手話ができる職員がいるグループホームの利用により、地域の中で安心して暮らすことができる。
 65歳以上の高齢ろう者が対象になることが多いため、介護保険制度が優先され、結果として、身体介護面では基準外とされて利用できない。介護保険制度優先とせず、聴覚障害者が真に必要とするサービスが提供されるようにするべきである。