厚生労働省(障害者雇用対策課)へ「聴覚障害者の労働及び雇用施策への要望について」を提出



連本第110261号
2011年10月21日

厚 生 労 働 大 臣
  小宮山 洋子 様

東京都新宿区山吹町130 SKビル8F
電話 03-3268-8847・FAX 03-3267-3445
財団法人 全日本聾唖連盟
理事長 石野 富志三郎 

聴覚障害者の労働及び雇用施策への
要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私たち聴覚障害者の福祉向上については深いご理解とご配慮をいただき、厚くお礼申し上げます。
 さて、政府において障害者権利条約の批准に向けて、障害者基本法改正など国内法制度の整備が進められているところであり、この条約をふまえた聴覚障害者の労働及び雇用の施策推進をお願いしたく、下記の通り要望いたします。

1. 東日本大震災後の聴覚障害者の求職等支援のために、被災した東北3県に対しすべての職業安定所に手話協力員の設置・増員を図り、更に全国からの動員をかけることで支援体制を強化してください。

(説明)
 東日本大震災後の被災者の生活再建のためには就業が不可欠ですが、被災地の雇用状況は厳しく、また、聴覚障害者の場合は職業安定所での就職相談から情報・コミュニケーション保障が必要になります。聴覚障害者が就職活動を進めるにあたって手話協力員の支援は不可欠です。ついては被災三県のすべての職業安定所に手話協力員の設置・増員を図ってください。
 また、3月30日付貴省自立支援振興室の通達により、全国の手話通訳者とろうあ者相談員が被災地へ公的に派遣され、聴覚障害被災者支援に重要な役割を担っております。全国からの手話通訳者、ろうあ者相談員の派遣に倣い、手話協力員も公的派遣の対象とし、全国から動員のうえ支援体制を強化してください。

2.手話協力員の稼働時間を増加し、手話協力員制度を拡充してください。

(説明)
 手話協力員制度は、昭和49年に労働省(当時)が、求職相談や職場定着指導などにかかる聴覚障害者に対するコミュニケーションをサポートする者として職業安定所に設置した制度です。しかし、現在、設置されているのは297ヶ所程度と全国すべての職業安定所に設置されている訳ではなく、勤務時間も月7時間と、非常に限られたものとなっています。聴覚障害者にとって「手話協力員制度」は、職業選択や職場定着のために重要な制度であり、その拡充のために次
のように改善を要望致します。

(1)手話協力員制度の予算を増やし、稼働時間の増加を図ってください。
①未設置の職業安定所に手話協力員を配置し、聴覚障害者の来所が多い職業安定所を中心に、手話協力員を更に増員できるように図ってください。
②長引く雇用不況、かつ多様化する聴覚障害者の求職や職業相談に対応するためには、現在の勤務日数では足りません。地域の実態に応えられる手話協力員にしていくためにも、将来的には常勤化を図ってください。

(2)手話協力員を労働部門における聴覚障害者のコミュニケーション・情報をサポートする専
門職として位置付け、「手話奉仕員及び手話通訳者の養成カリキュラム(厚生労働省官房障害保健福祉局 平成10年7月)」の全課程を修了し、かつ手話通訳者登録試験に合格した人を聴覚障害者団体の推薦で配置してください。
 また、手話通訳者の効果的な人材活用のために、聴覚障害者団体・手話通訳派遣事業所等との団体契約を望む地域に対し、弾力的な運用ができるようにしてください。

(3)各地の職業安定所において手話協力員の業務への範囲がまちまちです。聴覚障害者の職業相談や就労支援ニーズに適切に対応するためにも、「手話協力員業務ガイドライン」が必要です。手話協力員の在り方にも関わることであり、厚生労働省・聴覚障害当事者・手話協力員の3者が委員となってガイドライン策定について検討する場を設けてください。

(4)全国の職業安定所担当職員、障害就職支援専門員、手話協力員等の資質を高め、聴覚障害者への就労支援サービスが十分に図られるようにするため、全日本ろうあ連盟は「全国職業安定所手話協力員等研修会」を開催しています。このような研修会を厚生労働省主催で開催してください。

3.障害者権利条約の批准に向けて、障害者雇用促進法等、障害のある労働者に関する法の整備及び制定には、聴覚障害者をはじめ全ての障害者の意見を十分に反映してください。

(説明)
 8月30日の障がい者制度改革推進会議総合福祉部会にてまとめた「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」に、「障害者雇用促進法を改正し、障害者権利条約第27条[労働及び雇用]で求められる労働への権利、差別の禁止、職場での合理的配慮の提供を確保する為の規定を設ける」ことを求めています。また、「就労合同作業チームの検討課題についてフォローし、実現化を目指すための検討体制の整備」のところで当事者(団体)も含めた新たな検討チームを設置することも提言しています。この提言をふまえて下記について要望致します。

(1)世界の障害者が「私たち抜きに私たちのことを決めないで」と採択に参画してきた障害者権利条約です。その精神を尊重し、障害者雇用促進法の改正及び整備を検討する貴省の労働政策審議会障害者雇用分科会にも各障害当事者団体に委員を委嘱し、当事者の意見を十分に取り上げてください。

4.法定雇用率制度の徹底を図り、聴覚障害者の積極的な採用を行ってください。

(説明)
 昨年6月の障害者の実雇用率は、一般民間企業が1.68%で一部公的機関とともに、法定雇用率が達成されていない状況が続いています。達成すべき雇用制度が守られていないことは極めて残念なことです。すべての事業所が法定雇用率を遵守することで障害者の失業問題が大幅に軽減されることは間違いありません。
 早急に対策を実施して頂きたく、以下の要望を致します。

(1)各企業が法定雇用率を達成するよう、厚生労働省など国が率先して障害者を雇用することで模範を示し、また未達成の企業に対しては法定雇用率を遵守するよう指導を強化してください。

(2)「障害者の雇用の促進等に関する法律」を実効性のあるものにするためにも、雇用納付金制度のあり方を再検討し、法定雇用率のアップを図ってください。
①雇用率未達成企業に対しては、企業名の公表だけでなく、納付金の増額を実施してください。
②法定雇用率が平成10年7月1日より一般民間企業は1.8%、国、地方公共団体および特殊法人は2.1%と10年以上も据え置かれています。聴覚障害者をはじめとする障害者の雇用拡大のために、ぜひ法定雇用率をアップしてください。

(3)聴覚障害者の実雇用率が分かるように障害者雇用率の表示を見直してください。
平成22年の実雇用率が前年より上がっているものの、聴覚障害者の雇用数が公表されていないため聴覚障害者の雇用が本当に増加しているのかどうか分かりません。
 聴覚障害者に対する情報保障やコミュニケーション保障が必要なことを理解されていない企業がまだまだ多い中で、聴覚障害者の雇用改善のための分析を行い、また聴覚障害者の実雇用率増加を図るために身体障害者の雇用率を障害種別で細分化し、聴覚障害者の実雇用率が分かるようにして下さい。

(4)障害者除外率を早急に廃止してください。また除外率を「廃止に向けて段階的に引き下げる」としていますが、廃止に向けた縮小計画を明示してください。

(5)ろう重複障害者の就業について全国的な実態調査を実施し、その結果に基づき、一日も早くろう重複障害者の働く場の保障に関する施策を講じるようお願いします。

5.民間企業の模範となるべき官公庁・公共団体等における聴覚障害者の採用条件や職場環境の改善をお願いします。

(説明)
 官公庁や地方自治体では、雇用率を達成しているとされていますが、大半が軽度障害者の雇用です。
 また、国が率先してノーマライゼーション社会を謳っていますが、採用されている聴覚障害者の職場での情報・コミュニケーションの保障は十分ではありません。
 官公庁は民間企業に模範を示していく立場にあります。聴覚障害者を含めすべての障害者が平等に働けるよう条件や職場環境の改善を図って下さい。

6.障害者介助等助成金による手話通訳担当者の委嘱助成金を企業が積極的に活用できるように
制度を見直しするとともに、企業や職業安定所職員に周知徹底をお願いします。

(説明)
 職場においてすべての聴覚障害者の手話通訳要求に応じられるよう、等級制限撤廃や10年間の支給期間を「聴覚障害者が雇用されている間、聴覚障害者の求めに応じ、利用出来ること」に改正してください。また助成金制度の拡充を図るとともに、企業に対して企業秘密等の理由で手話通訳を断ることのないよう指導してください。

7.雇用・労働分野における聴覚障害者専門の相談支援体制の整備のために職場適応援助者(ジョブコーチ)事業を拡充するとともに、重度聴覚障害者ワークライフ支援事業を新設してください。

(1)聴覚障害者が就職してからの職場定着支援として、ジョブコーチ支援事業を現在38ヶ所に設置されている聴覚障害者情報提供施設で実施できるようにしてください。

(2)聴覚障害者の職場定着を確実なものとしていくために、聴覚障害者がコミュニケーションの心配なく、職場定着指導や職業相談などが受けられるよう、ジョブコーチの条件に「手話ができる」ことを明記し、ジョブコーチ養成のカリキュラムに「手話」を取り入れてください。

(3)重度聴覚障害者ワークライフ支援事業を国の制度として実施してください。
(説明)
 現在、大阪府の独自事業として実施されている重度聴覚障害者ワークライフ支援事業は、就職後の聴覚障害者に対して個々のニーズに応じた雇用・労働相談・支援を行い、成果をあげています。
 特に全国38か所の都道府県に設置されている聴覚障害者情報提供施設においては、聴覚障害者の就労面での相談支援機能の強化が必要になっています。そのためにも国の制度として実施してください。

8.全国に約300ヶ所設置されている障害者就業・生活支援センターが聴覚障害者にとって利用しやすくなるよう、職員の研修に手話等を導入し、聴覚障害者の相談や職業訓練等のために手話通訳派遣者を配置するための派遣費を整備するなど、情報・コミュニケーション保障の体制を整備してください。

以 上