警察庁へ「聴覚障害者の福祉施策への要望について」を提出



連本第110248号
2011年9月27日

警 察 庁
 長官 安藤 隆春 様

162-0801東京都新宿区山吹町130SKビル8階
Tel03-3268-8847・Fax03-3267-3445
財団法人全日本ろうあ連盟
理事長 石野 富志三郎  

聴覚障害者の福祉施策への要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私ども聴覚障害者の福祉向上にご理解ご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 さて、国連・障害者権利条約の批准に向けて、障害当事者が参画する「障がい者制度改革推進会議」において審議されてきた改正「障害者基本法」が公布されました。
 貴庁におかれましても障害者権利条約及び障害者基本法の趣旨に基づいて 更なる聴覚障害者の福祉向上及び社会参加のための施策推進をお願いしたく、下記の通り要望いたします。

1.「道路交通法施行規則第23条」の免許試験(適性検査)「聴力:10mの距離で90デシベルの警音器の音が聞こえるものであること」を撤廃してください。
(説明)
「道路交通法88条」の改正後、2008(平成20)年度と今年度の「施行規則第23条」の改正により、聴覚障害者にも運転免許取得の道が開けてまいりました。しかし、「施行規則23条」の免許試験(適性検査の聴力検査)は全撤廃されず、依然として聴覚障害者の運転免許取得は制限されています。速やかに施行規則23条の撤廃をお願い致します。

2. 「道路交通法施行規則第23条」撤廃までの間、聴覚障害者の運転免許については下記のことについて早急に検討してください。

(1) 普通自動車免許に関して、聴覚障害者が運転する際の条件を「義務」から自ら選択できるようにしてください。
(説明)
 道路交通法施行規則23条の改正により普通自動車免許で「特定後写鏡+聴覚障害者標識」条件が義務付けられている聴覚障害者がいます。
 「聴覚障害者標識」については、装着することで「聴覚障害者」であることを表すことになり、他の人から悪質な行為を受けるのではと懸念する等、装着に抵抗を感じる聴覚障害者もいます。「義務」ではなく聴覚障害者自らが選択できるようにしてください。
 また、「特定後写鏡」については安全運転のために有効であることは理解しています。但し、このことは聴覚障害者だけでなくすべての人に当てはまることと考えます。「特定後写鏡」についても聴覚障害者に限定した「義務」とするのではなく、安全運転に資するために聴覚障害者も含めて自ら選択できるようにしてください。

(2) 聴覚障害者がすべての車種に運転免許を取得できるよう拡大してください。
(説明)
 聴覚障害者の運転免許取得は社会参加のためには不可欠です。今後、中型・大型免許、第二種免許も含め、さらなる車種拡大を検討いただきたくお願い申し上げます。
 特に現在、補聴器を装着しても聴覚障害者は第二種免許を取得することができません。第二種免許は聴覚障害者の就労の拡大にもつながりますので、一日も早く車種拡大の検討に含めていただけますよう、お願い申し上げます。

3.聴覚障害者に対しては、教習所や試験場、更新時の教習等、免許取得までのあらゆる場面においての情報・コミュニケーション保障をお願いします。

(1)「特定後写鏡+聴覚障害者標識」条件で運転免許を取得しようとする聴覚障害者に対し、教習所が入校を断らないように指導してください。

(2)聴覚障害者の免許取得時や更新時には情報・コミュニケーション保障を充実させ、的確かつ公正に対応してください。
(説明)
 2012(平成24)年の改正で聴覚障害者は普通自動車免許を取得する場合、補聴器装着及び特定後写鏡・聴覚障害者標識装着と取得方法の選択肢が増えることになります。その場合、運転免許を取得しようとする聴覚障害者の希望と公安委員会、警察等関係者の対応がずれたり、対応がまちまちで混乱が起きないよう、聴覚障害者とのコミュニケーションについては手話通訳等十分な配慮を行うことにより聴覚障害者が自己決定できるよう、様々なケースで的確に対応してください。
 また、自動二輪車、小型特殊自動車等の免許取得や更新時に適性検査を求めたり、普通自動車においては必要以上に補聴器使用から「特定後写鏡・聴覚障害者標識装着」条件に変更させることのないようにしてください。

(3)教習所での学科教習時の「ビデオ教材」への字幕・手話通訳の挿入や、更新時の講習、試験場での情報・コミュニケーション等、補聴器使用者を含めての対応(手話通訳者等の予算措置を含む)をお願いします。

4.あらゆる現場(交通事故、警察署出頭、申請手続き等を含む)において、聴覚障害者への情報・コミュニケーション保障がなされるよう徹底した 指導をお願いします。
(説明)
 7月11日に神奈川県在住のろう者(女性)が自動車を運転しているときに、センターラインからはみ出した対向車と接触する事故に遭いました。現場検証の際、本人が手話通訳の派遣を繰り返し依頼したにもかかわらず、本人の意向を受け止めず、手話通訳がないまま現場検証を終えられてしまいました。
 神奈川の場合、このような事故現場など緊急事態に対する手話通訳の手配は、県警教養課通訳センターが担当しています。県内の手話通訳派遣センターと連携して、現場に手話通訳を派遣できるシステムになっています。
しかし、今回は事故当時対応した警官がその手話通訳派遣制度を知らず、不適切な対応に終始しました。
 本人が手話通訳を希望しているのにも関わらず、その意向を受け止めなかったのは、手話は言語であることと、手話通訳派遣制度があることが警察官に未だ認識されていない現状があります。
 あらゆる現場において、ろう者が手話通訳を希望した場合、すぐに手話通訳派遣が手配できるよう、全国の警察官へ指導をお願いします。

以上