厚生労働省(障害者雇用対策課)へ「聴覚障害者の労働及び雇用施策への要望」を提出



連本第100280号
2010年10月4日

厚生労働大臣
 細川 律夫 様

東京都新宿区山吹町130 SKビル8F
電話 03-3268-8847・FAX 03-3267-3445
財団法人 全日本聾唖連盟
理事長 石野 富志三郎

聴覚障害者の労働及び雇用施策への
要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私たち聴覚障害者の福祉向上については深いご理解とご配慮をいただき、厚くお礼申し上げます。
 さて、政府において、障害者権利条約の批准に向けて、国内法制度の見直しが進められているところであり、この条約をふまえた聴覚障害者の労働及び雇用の施策推進をお願いしたく、下記の通り要望いたします。

1.障害者権利条約の批准に向けて、国内法の見直し、及び障害者差別禁止法等、障害者に関する法の制定、整備には、聴覚障害者をはじめ全ての障害者の意見をきちんと反映して下さい。
 現在、労働政策審議会障害者雇用分科会において、障害者権利条約を踏まえた国内法見直しの審議をされていることと思います。しかし、障害者雇用分科会には聴覚障害当事者の委員がいないため、聴覚障害者の意見を十分反映しているとはいえません。
 文部科学省は今年7月に障害者権利条約の理念を踏まえた特別支援教育について審議を行うため中央教育審議会初等中等教育分科会「特別支援教育の在り方に関する特別委員会」を設置し、聴覚障害当事者の代表として当連盟役員が委員として出席しています。文部科学省の審議会において、このような聴覚障害当事者が委員を委嘱されるのは初めてのことであり、画期的なことです。
 また、障害者権利条約4条3項には「条約を実施するための法令や政策の策定・実施等について、障害のある人の団体を通じて障害者と緊密に協議し、積極的に関与させる」と規定しています。
 厚生労働省におかれましても文部科学省と同様に、ご高配賜りたく下記について要望します。

(1)世界の障害者が「私たち抜きに私たちのことを決めないで」と採択に参画してきた障害者権利条約です。その精神を尊重し、障害者の労働問題に関する審議にも各障害当事者団体に委員を委嘱し、当事者の意見を十分に取り上げるよう、検討して下さいますようお願いします。
 
2.法定雇用率制度の徹底を図り、聴覚障害者の積極的な採用を行って下さい。
 昨年6月の障害者の実雇用率は、一般民間企業が1.63%で一部公的機関とともに、法定雇用率が達成されていない状況が続いています。達成すべき雇用制度が守られていないことは本当に残念なことです。すべての事業所が法定雇用率を遵守することで障害者の失業問題が大幅に軽減されることは間違いありません。
 早急に対策を実施して頂きたく、以下の要望を致します。

(1)各企業が法定雇用率を達成するよう、厚生労働省など国が率先して障害者を雇用することで模範を示し、また未達成の企業に対しては法定雇用率を遵守するよう指導を強化して下さい。
(2)「障害者の雇用の促進等に関する法律」を実効性のあるものにするためにも、雇用納付金制度のあり方を再検討し、法定雇用率のアップを図って下さい。
①雇用率未達成企業に対しては、企業名の公表だけでなく、納付金の増額を実施して下さい。
②中央省庁、その出先機関が行う競争入札への参加資格に「障害者雇用率を達成している企業」を条件に付け加える等の配慮をして下さい。
③法定雇用率が平成10年7月1日より一般民間企業は1.8%、国、地方公共団体および特殊法人は2.1%と10年以上も据え置かれています。聴覚障害者をはじめとする障害者の雇用拡大のために、ぜひ法定雇用率をアップして下さい。
(3)聴覚障害者の実雇用率が分かるように障害者雇用率の表示を見直してください。
 平成20年の実雇用率が前年より上がっているものの、聴覚障害者の雇用数が公表されていないので聴覚障害者の雇用が本当に増加しているのかどうか分かりません。聴覚障害者に対する情報保障やコミュニケーション保障が必要なことを理解されていない企業がまだまだ多い中で、聴覚障害者の雇用改善分析を行い、また聴覚障害者の実雇用率増加を図るために身体障害者の雇用率を肢体不自由、視覚障害、聴覚障害、内部障害等に細分化して、聴覚障害者の実雇用率が分かるようにして下さい。
(4)障害者除外率を早急に廃止してください。また除外率を「廃止に向けて段階的に引き下げる」としていますが、廃止に向けた縮小計画を明示してください。
(5)ろう重複障害者の職業について全国的な実態調査を実施し、その結果に基づき、一日も早くろう重複障害者に働く場を保障できるように、施策を講じるようお願いします。
 
3.民間企業の模範となるべき官公庁・公共団体等における聴覚障害者の採用条件や職場環境の改善をお願いします。
 官公庁や地方自治体では、雇用率を達成していると言いますが、大半が軽度障害者の雇用です。
 また、国が率先してノーマライゼーション社会を謳っていますが、採用されている聴覚障害者の職場環境における情報・コミュニケーションの保障は十分ではありません。
 官公庁は、民間企業に模範を示していく立場ですので、聴覚障害者を含めすべての障害者が平等に働けるよう条件や職場環境の改善を図って下さい。
 
4.手話協力員の稼働時間を増加し、手話協力員制度を拡充して下さい。
 手話協力員制度は、昭和49年に労働省(当時)が、求職相談や職場定着指導などにかかる聴覚障害者に対するコミュニケーションをサポートする者として「手話協力員」を職業安定所に設置した制度です。しかし、現在、設置されているのは297ヶ所程度と全国すべての職業安定所に設置されている訳ではなく、勤務時間も月7時間と、非常に限られたものとなっています。聴覚障害者にとって「手話協力員制度」は、職業選択や職場定着のために重要な制度であり、次のように改善を要望致します。

(1)手話協力員制度の予算を増やし、稼働時間の増加を図って下さい。
①聴覚障害者の来所が多い職業安定所を中心に、手話協力員を更に増員できるように図って下さい。
②長引く雇用不況、かつ多様化する聴覚障害者の求職や職業相談に対応するためには、現在の勤務日数では足りません。地域の実態に応えられる手話協力員にしていくためにも、将来的には常勤化を図って下さい。
(2)手話協力員を労働部門における聴覚障害者のコミュニケーション・情報をサポートする専門職として位置付けるために、「手話奉仕員及び手話通訳者の養成カリキュラム(厚生労働省官房障害保健福祉局 平成10年7月)」の全課程を修了し、かつ手話通訳者登録試験に合格した人を聴覚障害者団体の推薦で配置できるようにして下さい。
 また、手話通訳者の効果的な人材活用のために、聴覚障害者団体・手話通訳派遣事業所等との団体契約を望む地域に対し、弾力的な運用ができるようにしてください。
(3)各地の職業安定所において手話協力員の業務への範囲がまちまちであり、聴覚障害者の職業相談や就労支援ニーズに適切に対応するためにも、「手話協力員業務ガイドライン」が必要です。手話協力員の在り方にも関わることであり、厚生労働省・聴覚障害当事者・手話協力員の3者が委員となってガイドライン策定について検討する場を設けてください。
(4)全国の職業安定所担当職員、障害就職支援専門員、手話協力員等の資質を高め、聴覚障害者への就労支援サービスが十分に図られるようにするため、全日本ろうあ連盟は「全国職業安定所手話協力員等研修会」を開催しています。このような研修会を厚生労働省主催で開催して下さい。
 
5.障害者介助等助成金による手話通訳担当者の委嘱助成金を企業が積極的に活用できるように制度を見直しするとともに、企業や職業安定所職員に周知徹底させて下さい。
 職場においてすべての聴覚障害者の手話通訳要求に応じられるよう、等級制限撤廃や10年間の支給期間を「聴覚障害者が雇用されている間、聴覚障害者の求めに応じ、利用出来ること」に改正し、助成金制度の拡充を図るとともに、企業に対して企業秘密等の理由で手話通訳を断ることのないよう指導してください。
 
6.雇用・労働分野における聴覚障害者専門の相談支援体制の整備のために職場適応援助者(ジョブコーチ)事業の拡充及び重度聴覚障害者ワークライフ支援事業を新設して下さい。

(1)聴覚障害者が就職してからの職場定着支援として、ジョブコーチ支援事業を現在38ヶ所に設置されている聴覚障害者情報提供施設で聴覚障害者への就労支援として実施できるようにして下さい。また聴覚障害者の職場定着を確実なものとしていくために、聴覚障害者がコミュニケーションの心配なく、職場定着指導や職業相談などが受けられるよう、ジョブコーチの条件に「手話ができる」ことやジョブコーチ養成のカリキュラムに「手話」を取り入れられるようにしてください。
(2)また就職後の聴覚障害者への支援として行われている、大阪などの都道府県レベルの重度聴覚障害者ワークライフ支援事業は、関係機関と連携し、聴覚障害者個々のニーズに応じた雇用・労働相談・支援を行い、成果をあげています。この重度聴覚障害者ワークライフ支援事業を国の制度として実施するよう検討してください。
 

以  上