厚生労働省「障害福祉施策に関するヒアリング」への要望を提出



2009年11月18日 厚生労働省社会・援護局障害保険福祉部障害福祉課

障害者福祉施策に関するヒアリングへの要望

財団法人全日本ろうあ連盟

 日ごろより、私たち聴覚障害者の福祉の向上に多大なご理解とご支援を頂いておりますことに厚くお礼申し上げます。
 さて、私たちは障害者権利条約の批准と国内法整備を踏まえ、平成22年度予算概算要求、障害者自立支援法の廃止を受けた新たな総合的な制度のあり方等に対し、聴覚障害者の立場から次のとおり要望いたしますので、ぜひ私たちの意見をお汲み取りいただきたくお願いいたします。
 

1 平成22年4月から、下記の事が実施されるよう要望します。
(1)  手話通訳、要約筆記関係の事業を含むコミュニケーション支援事業においては、利用者に負担を求めないことを法律に明記し、必要な予算を確保するため義務的経費とすることを要望します。
 聴覚障害者と健聴者との間のコミュニケーションを円滑にするための事業には、応益・応能に係らず利用者負担はなじみません。現在、コミュニケーション支援事業を含む地域生活支援事業の利用者負担については自治体の判断にゆだねられています。そのため、私たちは全国の自治体に対し、以下のことから手話通訳、要約筆記関係の事業には利用者負担は容認できないことを説明し、利用者負担無しで実施することを要望してきました。
a)  聴覚障害者は手話通訳・要約筆記を付けることで健聴者と同じ条件に立つことができるのであり、健聴者と同等の条件に立つために聴覚障害者が負担することは不公平であること
b)  手話通訳・要約筆記は聴覚障害者だけでなく、聴覚障害者と関わる健聴者にとっても必要であり、双方にとって必要であること
c)  聴覚障害者が手話でコミュニケーションをすることは基本的人権の一つであり、手話通訳・要約筆記は保障されるべきことであること
 ほとんどの自治体では私たちの要望の趣旨をご理解いただき利用者の負担無しで実施いただいておりますが、一部の自治体で利用者負担が導入されています。また、必要とする財源が裁量的経費のため、予算が不足する地域では派遣回数、内容等に制限を設けている場合も多くみられます。
 このような事態を解消し、全国の聴覚障害者が等しくコミュニケーションの保障を享受することができるよう、手話通訳、要約筆記関係の事業を含むコミュニケーション支援事業においては、利用者に負担を求めないことを法律に明記するとともに、必要な予算を確保して頂くため義務的経費として頂き、派遣を制限したり条件付き派遣としたりするなどの格差を解消して下さい。
 
(2)  都道府県レベルのコミュニケーション支援事業を実施して下さい。
 コミュニケーション支援事業においては、県全域から集まる聴覚障害当事者団体の会議・研修・行事等の活動についてもコミュニケーション支援事業が必要です。また、司法・医療・相談支援等の専門性の高い手話通訳・要約筆記等のニーズは市町村では対応できません。市町村や都道府県の区域を超えた手話通訳者、要約筆記者の派遣などが必要になることもあります。そのようなときは市町村単位の事業では対応が困難であったり、負担が必要とされたりすることがあります。これに対応するため、聴覚障害者及び聴覚障害当事者団体の負担がないよう都道府県コミュニケーション支援事業を必須事業として実施して下さい。都道府県コミュニケーション支援事業は現行障害者自立支援法では、市町村の代行事業として可能とされていますが、代行事業ではなく都道府県でなければできない事業として位置づけて頂くことが必要と考えます。
 
2.「障害者自立支援法」の廃止を受けた新たな総合的な制度の創設について
(1)  「障がい者制度改革推進本部」に障害当事者団体との「ワーキング」により制度改革の骨格を決めていく仕組みをつくってください。
 障害者自立支援法を廃止し、新たに「障がい者総合福祉法」をつくるにあたり、障がい者制度改革推進法を立法化し、福祉分野だけでなく、すべての制度の検証と見直しが必要と考えます。障がい者制度改革推進本部に設けられる予定の「障がい者制度改革推進委員会」の障害者委員の一人に、全日本ろうあ連盟を入れて下さい。そして、従来の「ヒアリング」による障害者の意見の反映ではなく、「ワーキング」により障害者制度の骨格を決められる体制をつくって下さい。
 
(2)  聴覚障害者については、「障がい者総合福祉法」を補完するものと位置づけての新法「情報・コミュニケーション法」(仮称)を創設して下さい。
 聴覚障害者については、「障がい者総合福祉法」に合わせて、これを補完する新たな法制度として「情報・コミュニケーション法」(仮称)の構築も必要と考えます。
 「障がい者総合福祉法」は、障害者自立支援法における3障害の統合等の引き継ぐべき理念は引き継いで構築することになると思います。しかし、聴覚障害者の障害特性とニーズに応じたきめ細かい支援を整備していくためには、これを補完する「情報・コミュニケーション法」(仮称)が必要です。
 「情報・コミュニケーション法」(仮称)の新法構築に向けた基本的な視点は下記の通りです。
a)  障害者権利条約の批准により、「言語とは音声言語、手話、その他の形態の非音声言語等をいう」「コミュニケーションとは、・・・言語、文字表示(文字表記)、点字、触覚による意思伝達、拡大文字及びアクセシブルなマルチメディアをいう」とする定義を正視し、新法においては「聴覚障害者が自ら選択する言語及びコミュニケーション手段を使用して、生活を営む権利」を明確に規定すること。
b)  対象とする障害者は「ろう者」「難聴者」「盲ろう者」等、重複聴覚障害者を含む全ての聴覚障害者とすること。
c)  身体障害者手帳の交付を受けた者に限定せず、必要とする人に必要な支援を保障すること。
d)  コミュニケーション保障のための制度については、
・手話通訳者と要約筆記者の養成カリキュラム改訂、盲ろう向け通訳・介助員の養成カリキュラム策定、それぞれの養成事業に必要な財源の確保
・手話通訳士の国家資格化、要約筆記者の新たな資格認定制度の実施
・専門的な手話通訳者の市町村への設置
・手話通訳者、要約筆記者、盲ろう向け通訳・介助員の都道府県レベルと市町村レベルの役割分担による派遣事業の必須事業化、また、派遣条件、謝礼単価等の全国統一
等について、全日本ろうあ連盟、全日本難聴者・中途失聴者団体連合会、全国盲ろう者協会のそれぞれが厚生労働省に提言または要望している内容にそって再構築すること。
e)  情報については、放送、公共機関、交通機関、ホテル・旅館、教育、職場等、社会のあらゆる分野での手話、文字、光、振動等の聴覚以外の方法による情報を提供しアクセシビリティの保障をすること。
f)  相談支援については、直接、聴覚障害者が使用する言語・コミュニケーションにより専門的に対応、支援できる者の養成と資格認定、設置をすること。
g)  入所、通所施設が聴覚障害者の使用する言語・コミュニケーションが保障されることなど、聴覚障害者が真に利用できる社会資源の確保について定めること。
 

以  上