厚生労働省へ「聴覚障害者の福祉施策への要望について」を提出



連本第080392号
2008年9月29日

厚 生 労 働 大 臣
舛 添 要 一 様

東京都新宿区山吹町130 SKビル8F
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財団法人 全日本聾唖連盟
理事長 安 藤 豊 喜

聴覚障害者の福祉施策への要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私ども聴覚障害者の福祉向上については深いご理解とご配慮をいただき、厚くお礼申し上げます。
 さて、2006年12月13日に国連総会にて採択された障害者権利条約は、今年5月3日に発効しました。今後はこの条約をふまえた聴覚障害者の労働及び雇用の施策推進が求められているところであり、下記の通り要望いたします。

1.「労働・雇用分野における障害者権利条約への対応の在り方に関する研究会」の委員を当連盟に委嘱して下さい。
 本研究会が4月2日から開かれていますが、聴覚障害当事者である全日本ろうあ連盟に委員委嘱がありません。この件については5月28日、厚生労働省障害者雇用対策部長宛に要望書を提出し、6月20日に全日本難聴者・中途失聴者団体連合会とともに同課と懇談をしましたが、良い回答を得ることができませんでした。
 障害者権利条約4条3項には「条約を実施するための法令や政策の策定・実施等について、障害のある人の団体を通じて障害者と緊密に協議し、積極的に関与させる」と規定しています。
 本研究会に聴覚障害当事者が参画できるよう、改めて当連盟への委員委嘱を要望します。

2.法定雇用率制度の徹底を図り、聴覚障害者の積極的な採用を行って下さい。
 法定雇用率が、一般民間企業は1.8%、国、地方公共団体および特殊法人は、2.1%となっていますが、昨年6月の障害者の実雇用率は、一般民間企業が1.55%で一部公的機関とともに、法定雇用率が達成されていない状況が続いています。達成すべき雇用制度が守られていないことは本当に残念なことです。すべての事業所が法定雇用率を遵守することで障害者の失業問題が大幅に軽減されることは間違いありません。
 早急に対策を実施して頂きたく、以下の要望を致します。善処をお願い申し上げます。

(1)各企業が法定雇用率を達成するよう、厚生労働省など国が率先して障害者を雇用することで模範を示し、また未達成の企業に対しては法定雇用率を遵守するよう指導を強化して下さい。
 「新アジア太平洋障害者の10年」のプランや「新障害者基本計画」では、平成20年までに雇用障害者数を60万人に増やす障害者雇用目標を打ち出しております。目標をクリアするために、すべての企業が障害者を雇用できるよう職場環境の改善に努め、法定雇用率を達成できるように引き続き指導を強化して下さい。

(2)「障害者の雇用の促進等に関する法律」を実効性のあるものにするためにも、雇用納付金制度のあり方を再検討し、法定雇用率のアップを図って下さい。
① 雇用率未達成企業に対しては、企業名の公表だけでなく、納付金の増額も検討して下さい。また、現在国会で継続審議となっています「300人未満の未達成企業に対する雇用納付金徴収」の法改正を早急に行い、未達成企業に対する指導を徹底してください。
② 中央省庁、その出先機関が行う競争入札への参加資格に「障害者雇用率を達成している企業」を条件に付け加える等の配慮をして下さい。
③ 法定雇用率が平成10年7月1日より一般民間企業は1.8%、国、地方公共団体および特殊法人は2.1%と10年以上も据え置かれています。前回の雇用率見直しは平成15年度なので、今年度は見直しの検討があるかと思います。ぜひ法定雇用率をアップして下さい。

(3)聴覚障害者の実雇用率が分かるように障害者雇用率の表示を見直してください。
平成19年の実雇用率が前年より上がっているものの、聴覚障害者の雇用数が公表されていないので聴覚障害者の雇用増加に結びつけることができません。聴覚障害者に対する情報保障やコミュニケーション保障の必要なことが理解されていない企業がまだまだ多い中で、聴覚障害者の実雇用率増加を図るため、また聴覚障害者の雇用改善分析のためにも身体障害者の雇用率を細分化して、聴覚障害者の実雇用率が分かるようにして下さい。

3.民間企業の模範となるべき官公庁・公共団体等における聴覚障害者の採用条件や職場環境の善処をお願いします。
(1) 官公庁や地方自治体では、雇用率を達成していると言いますが、大半が軽度障害者の雇用です。
 また、国が率先してノーマライゼーション社会と謳っていますが、採用されている聴覚障害者の職場環境における情報・コミュニケーションの保障は十分ではありません。
 官公庁は、民間企業に模範を示していく立場ですので、聴覚障害者を含めすべての障害者が平等に働ける条件や職場環境を改善するよう図って下さい。

(2)地方自治体の障害者採用受験資格に「介護(介助)者なしに職務遂行が可能な者に受験資格を与える」という、いわゆる「介護者要件」があります。このため、地方自治体の多くが介護者には手話通訳者なども該当するとし、聴覚障害者の採用条件としては手話通訳なしに仕事ができることとしています。このことから、会議、研修などに情報保障を希望しても認められないことが多く、聴覚障害公務員のほとんどが対応に苦慮しております。
 地方自治体は、民間企業の模範となる職場を自ら示すべきですが、残念ながら現在はそのような状況にありません。聴覚障害者が自らの能力を発揮できるよう、総務省と連携して「介護者要件」を撤廃するよう、地方自治体に指導して下さい。

4.手話協力員の稼働時間を増加し、手話協力員制度を拡充して下さい。
 手話協力員制度は、昭和49年に労働省(当時)が、求職相談や職場定着指導などにかかる聴覚障害者に対するコミュニケーションをサポートする者として「手話協力員」を職業安定所に設置した制度です。しかし、現在、設置されているのは297ヶ所程度と全国すべての職業安定所に設置されている訳ではなく、勤務時間も7時間と、非常に限られたものとなっています。聴覚障害者にとって「手話協力員制度」は、職業選択や職場定着のために重要な制度であり、次のように改善をお願い致します。
(1)手話協力員制度の予算を増やし、稼働時間の増加を図って下さい。
(2)手話協力員を労働部門における聴覚障害者のコミュニケーション・情報をサポートする専門職として位置付けるために、「手話奉仕員及び手話通訳者の養成カリキュラム(厚生労働省官房障害保健福祉局 平成10年7月)」の全課程を修了し、かつ手話通訳者登録試験に合格した人を聴覚障害者団体の推薦で配置できるようにして下さい。
(3)多様化する聴覚障害者の求職や職業相談に対応するためには、現在の勤務日数では足りません。地域の実態に応えられる協力員にしていくためにも、業務の位置付けを明確にし、常勤化を図って下さい。また現場の手話協力員から「手話協力員業務ガイドライン」が必要との要望が出ています。ガイドライン策定について検討の場を設けてください。
(4)聴覚障害者の来所が多い職業安定所を中心に、手話協力員を更に増員できるように図って下さい。
(5)全国の職業安定所担当職員、障害就職支援専門員、手話協力員等の資質を高め、聴覚障害者への就労支援サービスが図られるようにするため、厚生労働省主催で、全日本ろうあ連盟が主催している「全国職業安定所手話協力員等研修会」のような研修会を開催して下さい。
(6)手話協力員の契約を個人契約だけでなく、手話通訳者の効果的な人材活用のために、聴覚障害者団体との団体契約を望む地域に対し、弾力的な運用ができるようにしてください。

5.障害者介助等助成金による手話通訳担当委嘱制度を企業が積極的に活用できるように制度を見直しするとともに、企業や職業安定所職員に周知徹底させて下さい。
(1)必要としている聴覚障害者すべての手話通訳要求に応じられるよう、等級制限撤廃や10年間の支給期間を、「聴覚障害者が雇用されている間、聴覚障害者の求めに応じ、利用が出来ること」に改正し、助成金制度の拡充を図るとともに、企業に対して企業秘密等の理由で手話通訳を断ることのないよう指導してください。
(2)「事業計画書」等の申請方法や手続きが紛らわしいために使いにくいという課題は改善されてきていますが、さらに経路の簡略化や申請方法を簡素化し、利用しやすい制度に改善して下さい。

6.雇用・労働分野における聴覚障害者専門の相談支援体制の整備のために職場適応援助者(ジョブコーチ)事業の拡充及び重度聴覚障害者ワークライフ支援事業を新設して下さい。
 ジョブコーチ支援事業を現在37ヶ所に設置されている聴覚障害者情報提供施設における聴覚障害者への就労支援に使えるよう充実させて下さい。また聴覚障害者の職場定着を確実なものとしていくために、聴覚障害者がコミュニケーションの心配なく、職場定着指導や職業相談などが受けられるよう、ジョブコーチの条件に「手話ができる」ことやジョブコーチ養成のカリキュラムに「手話」を取り入れられるようにしてください。
 また、現在、大阪、山梨などの府県レベルで行われている重度聴覚障害者ワークライフ支援事業は、関係機関と連携し、聴覚障害者個々のニーズに応じた雇用・労働相談・支援を行い、成果をあげています。この重度聴覚障害者ワークライフ支援事業を国の制度に格上げするよう検討してください。

7.障害者職業能力開発校への手話通訳者の派遣を図って下さい。
 技術革新時代に入り、企業でもスキルアップのための研修が行われております。聴覚障害者が新しい技術を覚えるためにも、職業教育機関や教育環境の充実が強く要望されております。
 現在、19校の障害者職業能力開発校や訓練施設等があり、情報保障のために手話通訳や要約筆記派遣等に予算が計上されています。聴覚障害者が充分学べるようバリアフリー化を進め、情報保障については名目や使途を明確にし、適正に利用できるように指導し、また十分に保障できるように予算をアップして下さい。

以  上