厚生労働大臣に「障害者自立支援法の見直しと行政のバリアフリーの推進に関する要望書」を提出



2007年11月27日

厚生労働大臣
 舛 添 要 一 様

聴覚障害者「自立支援法」対策本部
本部長 安 藤 豊 喜

障害者自立支援法の見直しと行政のバリアフリーの推進に関する要望書

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、聴覚障害者の福祉向上については、深いご理解とご配慮をいただき、厚くお礼申し上げます。
 さて、昨年施行された障害者自立支援法におけるコミュニケーション支援事業は、聴覚障害者の社会参加を支援する手話通訳「派遣」の体制の整備が進んではいるものの、手話通訳士(者)の「設置」が進んでいない状況がみられます。このため、聴覚障害者が障害者福祉サービスを利用するに際して、情報提供と相談・支援が不十分な状況にあることが明らかになってきています。また、要約筆記事業の伸展が遅れており、都道府県事業、市町村事業の役割分担などの再編成により、コミュニケーション支援事業の派遣対象・範囲・内容などに地域間格差が生まれている状況もあります。
 コミュニケーション支援事業のもつ役割は、聴覚障害者の社会参加支援にとどまらず、障害者福祉の現場で「聴覚障害者への対応が十分にできる体制」を作ることであり、さらに、行政や地域のコミュニケーションバリアフリーに繋がる重要な意味を持っています。
 今年9月28日に政府が署名した「障害者の権利に関する条約」では、コミュニケーションの定義に手話、要約筆記を含む文字表示が位置づけられており、それに基づいての一般原則、一般的義務などが明示されました。このことは、前述の「聴覚障害者への対応が出来る体制作り」が国内法整備の出発点となるものであると認識しています。
 障害者自立支援法などの障害者施策が等しく享受できる体制作り、聴覚障害者の社会参加支援などのため、下記の通り要望致しますので、早急にその具体化をお願いします。

               聴覚障害者「自立支援法」対策中央本部構成団体
                 財団法人全日本ろうあ連盟
                 社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会
                 全国手話通訳問題研究会
                 日本手話通訳士協会
                 全国要約筆記問題研究会

                【連絡先】
                  162-0801 東京都新宿区山吹町130 SKビル8階
                   財団法人全日本ろうあ連盟
                   Tel 03−3268−8847・Fax 03−3267−3445

  1. 「設置」による聴覚障害者に対する相談・支援体制の整備について
    1.  国は、聴覚障害者が、自立支援給付などの障害者福祉施策の利用にあたり、自己決定と自己選択を行うために、地方自治体に手話通訳者を設置する事業の活用など、聴覚障害者の相談・支援ができる者の配置を義務付け、聴覚障害者に対する相談・支援の体制を整備してください。
    2.  国は、聴覚障害者が、自立支援給付などの障害者福祉施策の利用にあたり、自己決定と自己選択を行うために、指定相談支援事業所に聴覚障害者の相談・支援が出来る者を配置し、聴覚障害者に対する相談・支援の体制を整備してください。
  2. 手話通訳、要約筆記事業の担い手の充実について
    1.  コミュニケーション支援は人間関係の基盤となることから、その担い手には一定の力量が求められます。しかし、高い専門性のある手話通訳者・要約筆記者が不足していますので、手話通訳者と要約筆記者の養成・研修事業を都道府県の義務的事業としてください。
    2.  現在の手話奉仕員、要約筆記奉仕員は、聴覚障害者に対する理解者を広げることでは一定の成果が見られますが、コミュニケーション支援の人材として位置づけるには無理があります。手話奉仕員・要約筆記奉仕員については、コミュニケーション支援事業要綱にある「手話通訳者」「要約筆記者」に含めていることを見直し、聴覚障害者に対する理解者の裾野を広げることを目的とすることで充実を図ってください。
    3.  手話通訳士(者)の養成カリキュラム再編成、要約筆記者の養成カリキュラム編成と認定制度については、独立行政法人福祉医療機構の助成事業による、財団法人全日本ろうあ連盟「聴覚障害者のコミュニケーション支援の現状把握及び再構築検討事業」報告書(平成17年度)、社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会「要約筆記通訳者養成等に関する調査研究事業」報告書(平成17年度・18年度)を踏まえて整備を図ってください。
    4.  コミュニケーション支援事業が市町村事業となって日が浅いこともあり、手話通訳者の労働安全衛生が徹底されていない面が散見されます。平成7年9月14日付け労働省通達「職場における頚肩腕症候群予防対策」など関係通知を紹介し、手話通訳事業者の労働安全衛生の普及に努めてください。
  3. 手話通訳・要約筆記「派遣」の充実のために
    1.  聴覚障害者の司法や相談・支援に関る専門性の高い通訳ニーズに対応すること、区市町村・都道府県を移動する広域派遣ネットワークの整備等、市町村事業だけでは困難な状況がありますので、都道府県事業において、手話通訳・要約筆記派遣を義務的事業としてください。
    2.  聴覚障害者を主な構成員とする当事者活動において手話通訳や要約筆記が必要となる場合があります。当事者活動を支援することは障害者の社会参加の促進と社会発展に繋がるものであることから当事者活動における通訳利用をコミュニケーション支援事業に明記して下さい。
  4. 全ての都道府県・区市町村がコミュニケーション支援事業を実施するために
    1.  コミュニケーション支援事業は、聴覚障害者がさまざまな制度を利用するにあたっての基本(前提)的な条件であるとともに、基本的人権を保障するための言語的権利でもあります。よって、今後も継続して、かつ、全国すべての地方自治体において、利用者の負担は無料で実施されるよう、都道府県に対し、当該区市町村へ技術的助言を行うように通達してください。
    2.  障害者自立支援法に基づく、コミュニケーション支援事業の実施状況を調査し、先進的な事例の収集・周知を図り、すべての都道府県・区市町村が完全実施すよう促進してください。
    3.  コミュニケーション支援事業に係る財源は裁量的経費となっていますが、必要な予算は確保されるように努めてください。また、地域生活支援事業の財源の在り方について見直しを図ってください。

以  上