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朝日新聞「天声人語」にて「ゆずり葉」が紹介されました。
(2009年4月8日付朝刊)


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「天声人語」
 ユズリハという木をご存じだろうか。若葉が出そろったのを見届けて古い葉が落ちることから、この名がついた。生命力を譲る、勢いを絶やさない縁起物として、祝い飾りにも使われる。
 全日本ろうあ連盟が、創立60周年の記念映画「ゆずり葉」を作った。世代を超えて引き継がれる、ろう者差別との闘いを、切ない恋や親子の愛を通して描いている。6月から各地で上映会がある。
 主演の庄崎隆志さんらろう者と、今井絵理子さんら健聴者の役者が、手話のセリフを使って演じた。聞こえず、話せない世界がどんなものか、健聴者の一見をお勧めしたい。早瀨憲太郎監督は「聞こえても聞こえなくても楽しめる、新しい映像文化の可能性を探った」という。自身もろう者だ。
 海外のテレビで「刑事コロンボ」を見た人が、言葉を解せぬもどかしさをぼやいていた。「犯人は分かるのに動機がちんぷんかんぷんだ」と。字幕のない日本映画やテレビ番組も、ろう者には味気ないものだろう。
 外見でわかりにくい聴覚障害は、不便も実感しづらい。救急車を呼ぶのもメールかファクス、それも知人を介してと聞き、ようやく深刻のほどに思いが至る。ろう者の権利や福祉を広げる運動は、文字通り命がけだった。
 今では、聞こなくても車を運転でき、資格の壁も崩れてきた。薬剤師の先駆けとなったのは早瀨監督の妻久美さんだ。聴覚に限らず、ハンディを負う人が生きやすい社会は高齢者にも優しい。日本語の字幕を追いながら、ユズリハの営みを一人でも多くに伝えたいと思った。

2009年(平成21年)4月8日 水曜日 朝日新聞(朝刊)掲載