文部科学省にきこえない・きこえにくい者の権利保障に関する要望書を提出

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 文部科学省にろう教育等に関する要望書を提出しました。
 申し入れに対して、障害のある子ども・ない子どもがともに過ごすための条件整備と1人1人の教育的ニーズに応じた学びの場の整理を両輪として取り組むことが重要だと考えていることや、地域において、難聴児の早期支援充実のための連携体制構築事業は3か年の事業だったため令和6年度ですでに終了しているが、今年度からは聴覚障害教育充実事業の中で、新たに保健・医療・福祉などの関係機関と連携した教育相談等の充実という新しい事業を開始していること、きこえない・きこえにくい児童生徒の学びのためには情報保障が重要だと理解しており、障害のある子どもの教育支援の手引きにおいて、合理的配慮の提供について内容を示し、各教育委員会にそれを周知していること、各自治体の予算措置は状況を勘案し個別に勘案するものだが、文科省とも関係省庁と連携して情報保障を進めるなど、環境整備に努めたいこと、また合理的配慮の提供は事業者の「過重な負担がない範囲で」というものであるが、適切かつ柔軟に判断し、しっかりと合理的配慮の提供に対応してほしいと考えていること、手引きに専門性の高い相談窓口情報を掲載してということは検討したいとの回答がありました。

要望書を提出

連本第250214号
2025年7月14日

文部科学大臣
 あべ 俊子様

東京都新宿区原町3-61 桂ビル2階
電話03-6302-1430・Fax 03-6302-1449
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長 石橋 大吾

きこえない・きこえにくい者の権利保障への要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私どもきこえない・きこえにくい者の社会参加の促進にご理解ご支援を賜り心より感謝申し上げます。
 さて当連盟は、2025年6月15日岩手県において開催された第73回全国ろうあ者大会において、きこえない・きこえにくい者の様々な施策等に関する大会決議を行ないました。
 近年、「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」の成立や、「改正障害者差別解消法」による合理的配慮の義務化により、情報へのアクセスとコミュニケーションが改善されることが期待されています。また、6月には「手話に関する施策の推進に関する法律(手話施策推進法)」が成立しました。しかしながら、地域によって対応に差があるなど、まだ解決すべき課題が残っています。
 つきましては、下記の通り要望いたしますので、すべての国民が安心、安全に生活ができ、社会参加できるよう、早期実現をお願い申し上げます。

1.きこえない・きこえにくい子どもたちが、自身の能力や可能性を最大限に発揮できるよう、ろう学校および地域の学校において、子どもたちの言語権や学習権が保障された教育環境の整備を行うために必要な措置を講じてください。
<説明>
 2022年9月13日に行われた文部科学大臣記者会見では、「インクルーシブシステムの推進に向けた取り組みを進めていきたい」とのご発言がありました。特別支援教育は、共生社会の形成に向けて、インクルーシブ教育システム構築のために必要不可欠なものであると述べており、基本的な考え方の一つとして、“障害のある子どもが、その能力や可能性を最大限に伸ばし、自立し社会参加することができるよう、医療、保健、福祉、労働等との連携を強化し、社会全体の様々な機能を活用して、十分な教育が受けられるよう、障害のある子どもの教育の充実を図ることが重要である”ことが挙げられています(「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の推進(報告)平成24年7月23日 初等中等教育分科会」より)。
 しかし、ろう学校や地域の学校におけるきこえない・きこえにくい子どもの教育環境は、手話言語による言語権および学習権が保障された環境になっておらず、十分な教育を受けているとは言い難い状況にあります。
 そのため、以下を要望します。

2.手話施策推進法の施行に伴い、手話言語を必要とする子どもが安心して受けられる教育環境の整備を行うために必要な施策を講じてください。
<説明>
 2025年6月25日に施行された手話施策推進法の第7条では、学校における手話による教育等の基本的施策について、以下の通り規定しています。

 早急に当事者団体が参画する施策検討会を開催し、協議した具体的な施策を講じて、手話言語を必要とする子どもが安心して教育を受けられる環境にしてください。

3.こども家庭庁の「聴覚障害児支援中核機能強化事業」との連携を強化し、各自治体が積極的に「難聴児の早期支援充実のための連携体制構築事業」を活用して、きこえない・きこえにくいこどもへの支援」がより充実するよう、都道府県に働きかけてください。
<説明>
 厚生労働省が令和4年2月に公表した「難聴児の早期発見・早期療育のための基本方針」により、都道府県等において難聴児支援体制の検討が始まりました。実際に、こども家庭庁の「聴覚障害児支援中核機能強化事業」を活用する都道府県はあるものの、貴省の「難聴児の早期支援充実のための連携体制構築事業」を活用した都道府県等は成果報告書ではわずか2県と非常に少なくなっています。聴覚障害児および難聴児の支援体制は、保健・福祉・教育が連携することで初めて機能し、保護者や家族への支援が可能となります。
 しかし、各自治体の支援体制を見ると、福祉関係者が積極的に動いているのに対し、教育関係者の積極性が感じられません。貴省とこども家庭庁が有機的に連携しなければ、保護者や家族へのより充実した支援はできません。各都道府県の教育委員会に対して「難聴児の早期支援充実のための連携体制構築事業」を積極的に活用するよう働きかけてください。

4.旧優生保護法によって不妊手術等を受けた被害者への救済、補償の取り組み、優生思想根絶への闘いの記録を、ユネスコ世界記憶遺産へ登録するよう取り組んでください。
<説明>
 「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者等に対する補償金等の支給等に関する法律」(補償法)の基本合意の一つに「真相究明、再発防止のための調査・検証」があります。すなわち、国民全体の問題として記録に残す取り組みが必要です。
 ユネスコでは世界的に重要な記憶遺産を保存する取り組みが進められています。
 https://www.mext.go.jp/unesco/006/1354664.htm
 人権に関わる記憶としては、「アンネの日記」や「バンクーバー決議」などが記憶遺産に登録されています。
 アンネの日記 https://www.asahi.com/shimbun/nie/kiji/kiji/pdf/090810.pdf
 アウシュビッツ強制収容所 https://whc.unesco.org/ja/list/31
 ミラノ会議・バンクーバー決議 https://www.jfd.or.jp/int/wfd/news/202403/

 これらと同様に、旧優生保護法に基づく優生手術等による著しい人権侵害の事実を、風化させず、優生思想を根絶するという社会の決意を常に再確認できるようにユネスコ世界記憶遺産へ登録するよう取り組んでください。

≪各省共通項目≫
5.2024年2月16日の「第25回夏季デフリンピック競技大会東京2025に係る閣議了解」を踏まえ、デフリンピックの認知度向上やきこえないことやデフスポーツの普及啓発及び東京2025デフリンピック気運醸成のための全国的な取り組みにご協力をください。
<説明>
 2025年11月、東京で、きこえない・きこえにくい者のオリンピック「デフリンピック」が開催されます。しかし、「オリンピック」や「パラリンピック」と比べると、デフリンピックの認知度はまだ低いのが現状です。大会を成功させるだけでなく、デフリンピックを広く知ってもらうことで、きこえない・きこえにくい者を含むすべての人々が共に生きる社会の実現をめざし、大会開催に向けた盛り上がりを高めることが不可欠です。
 昨年の人権週間では、東京法務局のイベントでデフリンピックが取り上げられました。同様に、全国各地の貴省のイベント等でも、デフリンピックやデフアスリートを紹介してください。https://www.moj.go.jp/content/001427965.pdf
 また、デフリンピックの前後には、多くのきこえない・きこえにくい選手や関係者が国内外から訪れます。省内の関係機関にもこのことを周知し、きこえない・きこえにくい者への対応がスムーズにできるよう、手話言語等の学習機会を設けてください。

6.「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法)」及び「改正障害者差別解消法」施行後の手話通訳派遣について、各省庁や全国自治体の担当部局や団体等において、手話通訳者等を含めた情報アクセシビリティに要する経費の予算措置を義務化するよう、周知ください。
<説明>
 上記2法により、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に策定し実施することは、国及び地方公共団体に求められています。加えて、民間企業にも含めたあらゆる機関で、その責任においてアクセシビリティに関する環境整備や合理的配慮を提供することも求められるようになりました。
 しかしながら、国や自治体の出先機関を含めた行政機関において、手話通訳等を含めた情報アクセシビリティに関する予算措置がされていないことを理由に、「過重な負担」として手話通訳等の情報保障の配慮を拒否・または手話通訳等を用意できないとして、障害当事者に情報保障を自ら手配させることを要請する例は後を絶ちません。
 きこえない・きこえにくい国民が行政を含む公的機関を利用するにあたり、障害を理由とした差別的な取り扱いのない環境整備は当然のこと、合理的配慮の提供は、民間のモデルとなるべきであると考えます。
 利用者から手話通訳等の希望に対応できるよう各公的機関で手話通訳等の情報保障の予算は、障害福祉とは別建てで予算化するよう、貴省関係の出先機関を含め、周知徹底ください。

7.改正障害者差別解消法に基づく対応要領・対応指針に以下を加えるよう、検討してください。
(1)事業者や省庁出先機関等から出される情報に、きこえない・きこえにくい者が容易にアクセスできるよう、情報アクセシビリティ保障を進めてください。
<説明>
 現在、消費者や利用者が問い合わせをする「相談窓口」「販売申し込み先」、省庁出先機関等の受付窓口は、電話番号のみの対応が多く存在しています。2021年7月からは公共インフラとして電話リレーサービスが利用できるようになりましたが、きこえない・きこえにくい者がアクセスしやすい方法(メール・FAX等)でのアクセシビリティ保障について、見直しが進められている対応要領・対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。

(2)公共施設・商業施設等における音声情報の文字化について、具体的に記述してください。
<説明>
 平時から公共施設・商業施設等における音声情報を文字情報にて掲示することで、緊急時にも有用な情報源となります。公共施設や商業施設等における音声によるアナウンス情報について、「文字または手話言語表示」をすることを、見直しが進められている対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。
 参考までに、情報アクセシビリティ機器として『アイドラゴン4』があることを申し添えます。https://medekiku.jp/eyedragon/

8.きこえない・きこえにくい者への環境整備や合理的配慮として、手話通訳者等の配置が行われる例が増えていますが、配置する情報保障者の質についても担保できるようにしてください。
<説明>
 きこえない・きこえにくい者へのアクセシビリティ保障として手話通訳等の配置がありますが、手話通訳者等の社会的資源は限られているため、環境整備や合理的配慮を要求するきこえない・きこえにくい者のニーズに応えられるだけの十分な人数が確保されにくい状況があります。
 社会的な流れにより、行政機関による手話通訳派遣依頼の際、競争入札により手話通訳派遣事業者を選定する例が増えていますが、選定条件の中に、派遣する手話通訳者の質について明記されていることはほとんどなく、機械的に応札額が最も低額であった事業者が選定されているのが現状です。
 金額のみで派遣事業者が決定され、派遣された手話通訳者の質が担保されないことで、環境整備や合理的配慮の提供が不十分だった例が生じています。
 情報アクセシビリティ・コミュニケーションに関する合理的配慮は、単に提供されるだけでは不十分であり、配慮を必要とする者の希望に沿ったものであり、かつ目的を十分達成できるようなものであるべきです。
 配置する手話通訳を含めた情報保障者の質の保障について、十分な配慮を行ってください。

9.2025年6月25日に施行された「手話に関する施策の推進に関する法律」に基づき、貴省における具体的な手話に関する施策の実施について、必要な財政上の措置及び法制上の措置を速やかに講じてください。
<説明>
 「手話に関する施策の推進に関する法律」では、国・地方公共団体は、手話に関する施策を総合的に策定・実施する責務を有する他、基本的施策は各省庁横断的なものとなっています。本要望の2に加え、法に基づき貴省における、手話に関する具体的な施策の早急な実施を検討いただき、併せて施策にかかる予算を計上してください。

以 上

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