外務省に「国連の国際会議への参加及び
外務省における情報アクセシビリティ」への要望書を提出
連本第240286号
2024年7月16日
外務大臣
上川 陽子 様
東京都新宿区原町3-61 桂ビル2階
電話03-6302-1430・Fax 03-6302-1449
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長 石橋 大吾
国連の国際会議へきこえない・きこえにくい人の参加及び
貴省における情報アクセシビリティの実現について
時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
日頃より、私どもきこえない・きこえにくい人の福祉向上にご理解ご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
さて当連盟は、全国47都道府県に傘下団体を擁するきこえない者の当事者団体です。
「障害者差別解消法」および「バリアフリー法」の制定により、障害者に対する合理的配慮や支援についての取り組みが広まってきつつあります。しかしながら、その認知は充分とは言えず、改善すべき課題は山積しています。
昨年5月に、「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」が制定され、9月には障害者権利委員会から勧告が出ました。これを機に、すべての国民が安心・安全に生活ができ、そしてアクセシブルな社会になるよう、下記の環境整備を講じていただきたく、お願い申し上げます。
記
1.障害者権利委員会からの総括所見を実現していくために当連盟と貴省において、定期的な対話を求めます。
<説明>
2022年9月に障害者権利委員会からの総括所見が出ました。総括所見では、第21条において、「46.(c)国として、日本手話が公用語であることを法律で認めること、あらゆる活動分野において手話を利用及び使用する機会を促進すること、有資格の手話通訳者の研修及び利用が可能であることを確保すること。」と勧告されています。この勧告を実現していくために、貴省と当連盟にて定期的な対話を求めます。
2.国際会議における政府回答に日本手話言語を付けてください。
<説明>
2022年8月の日本政府と障害者権利委員会との建設的対話では、英語字幕及び国際手話通訳が付いていましたが、一部の政府ではその国の手話言語通訳者を同行し、政府回答に手話言語通訳を付けていました。
そこで、日本政府におきましても、障害者権利委員会を含む国際会議において日本手話言語通訳を付けていただくよう要望します。
3.障害者権利条約を含む国際条約の「Sign Language」の和訳を「手話言語」にしてください。
<説明>
日本では言語としての「手話」と言語を表出する手段としての「手話」を混同して使い続けています。障害者権利条約を国民により正確に伝えるためにも、障害者権利条約第2条のSigned LanguageとSign Languageを「手話による言語」と「手話言語」と使い分けることが必要です。「手話は言語である」ことを日本政府として明確に示すためにも、当連盟より2019年12月17日付で貴省に要望したとおり、国際条約に記載されている「Sign Language」を手話言語と和訳し、貴省ホームページなどで公開してください。
4.2024年の障害者権利委員会に立候補したきこえない当事者が当選した場合、その活動において手話言語による情報保障の十分な支援を求めます。
<説明>
2024年の障害者権利委員会に当選した際は、きこえない当事者が障害者権利委員として活躍するためには、手話言語等による手厚い情報保障が必要です。任期期間の情報保障にかかる経費を予算化してください。また、障害者権利委員会で活躍するために質の高い手話通訳者を手配してください。
5.国連が推進している障害者権利条約と持続可能な開発目標(SDGs)の内容を日本手話言語で発信してください。
<説明>
きこえない・きこえにくい人は音声による情報獲得の困難さに加え、日本語の文書を読むのが苦手な人もいます。
障害者権利条約の「手話は言語である」ことや、SDGsの「誰一人取り残さない」精神に鑑み、障害者権利条約とSDGsの内容を日本手話言語で周知してください。
また、外務省動画チャンネル等、貴省が発信している外務大臣会見をはじめとする動画全般に「日本手話言語」を入れてください。
6.国連が定めた「手話言語の国際デー」においてライトアップを行い、「手話は言語」であることを積極的に発信してください。
<説明>
国連で定められた毎年9月23日の手話言語の国際デーにおいて、2022年より世界ろう連盟主導で、国連をはじめ世界各地でブルーライトアップを行っています。
つきましては、貴省におかれましてもブルーライトアップを行い、「手話は言語」であることを国民に積極的に発信してください。
(厚生労働省では9月21日の「世界アルツハイマーデー」で、オレンジ色のライトアップを実施しています。)
7.2025デフリンピックに向けて、貴省管轄の在外公館及び国内の部署における合理的配慮の実例や実績を公開してください。
<説明>
貴省から在外公館へ、入り口のわかりやすい場所に「筆談マーク」を掲示するよう指示を出していただいた結果、この指示を受けて実際に対応した在外公館数及び、具体的な実例や実績を好事例として公開してくださるようお願いいたします。
また、貴省及び在外公館において、IT機器を通して手話言語オペレーターによる手話言語通訳を受けることができる「遠隔手話サービス」を導入したうえで「手話マーク」も掲示していただけるようお願いいたします。
●手話マーク・筆談マークについて(URL)
https://www.jfd.or.jp/2016/12/01/pid15854
①手話マーク ②筆談マーク
<<各省庁共通項目>>
8.「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法)」及び「改正障害者差別解消法」施行後の手話通訳派遣について、各自治体の担当部局や団体等で通訳者に要する経費の予算措置を明文化するよう、貴省からも周知ください。
<説明>
上記2法により、国及び地方公共団体は、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に策定、並びに実施することのみならず、民間企業も合理的配慮の提供が義務となるなど、障害のある人の社会参加がしやすくなります。これらの法律では、当事者が手話通訳を手配する福祉的な側面からのアプローチではなく、あらゆる公的機関で、その機関の責任においてアクセシビリティに関する環境整備や合理的配慮を提供することを求めています。にもかかわらず、国や自治体の出先機関を含めた行政機関において、手話通訳等を含めた情報アクセシビリティに関する予算措置がされていないことを理由に、「過重な負担」として手話通訳等の情報保障の配慮を拒否・または手話通訳等を用意できないとして、障害当事者に情報保障を自ら手配させることを要請する例は後を絶ちません。きこえない・きこえにくい国民が行政を含む公的機関を利用するにあたり、障害を理由とした差別的な取り扱いのない環境整備は当然のこと、合理的配慮の提供は、民間のモデルとなるべきであると考えます。利用者から手話通訳等の希望に対応できるよう各公的機関で手話通訳等の情報保障の予算は、障害福祉とは別建てで予算化するよう、貴省から関係の出先機関を含め、地方自治体部局へ周知徹底ください。
9.改正障害者差別解消法に基づく対応要領・対応指針に以下を加えるよう、検討してください。
(1)事業者や省庁出先機関等から出される情報に、きこえない・きこえにくい人が容易にアクセスできるよう、情報アクセシビリティ保障を進めてください。
<説明>
現在、消費者や利用者が問い合わせをする「相談窓口」「販売申し込み先」、省庁出先機関等の受付窓口は、電話番号のみの対応が多く存在しています。2021年7月からは公共インフラとして電話リレーサービスが利用できるようになりましたが、きこえない・きこえにくい人がアクセスしやすい方法(メール・FAX等)でのアクセシビリティ保障について、見直しが進められている対応要領・対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。
(2)公共施設・商業施設等における音声情報の文字化について、具体的に記述してください。
<説明>
平時から公共施設・商業施設等における音声情報を文字情報にて掲示することで、
緊急時にも有用な情報源となります。公共施設や商業施設等における音声によるアナウンス情報について、「文字または手話言語表示」をすることを、見直しが進められている対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。
10.きこえない・きこえにくい人への環境整備や合理的配慮として、手話通訳者等の配置が行われる例が増えていますが、配置する情報保障者の質についても担保できるようにしてください。
<説明>
きこえない・きこえにくい人へのアクセシビリティ保障として手話通訳等の配置がありますが、手話通訳者等の社会的資源は限られているため、環境整備や合理的配慮を要求するきこえない・きこえにくい人のニーズに応えられるだけの十分な人数が確保されにくい状況があります。
社会的な流れにより、行政機関による手話通訳派遣依頼の際、競争入札により手話通訳派遣事業者を選定する例が増えていますが、選定条件の中に、派遣する手話通訳者の質について明記されていることはほとんどなく、機械的に応札額が最も低額であった事業者が選定されているのが現状です。金額のみで派遣事業者が決定され、派遣された手話通訳者の技術が担保されないことで、環境整備や合理的配慮の提供が不十分だった例が生じています。
情報アクセシビリティは、単に提供されるだけでは不十分であり、提供される配慮が障害者の希望に沿ったものであり、かつ目的を十分達成できるようなものであるべきです。配置する手話通訳を含めた情報保障者の質の保障ついて、十分な配慮を行ってください。
以 上