質問状

 当連盟は、全国都道府県の47傘下組織を通じて約2万6千人のろう者が会員となり、ろう者の福祉向上のために活動している団体です。
 先般、2003年9月6日の朝日新聞「be」の5面「伸々術」に「人工内耳で言葉も取得」と題し、編集委員田辺功殿の名前で記事が掲載されました。
 しかし、この記事は読み方次第では、ろう者に対する差別意識を助長しかねない内容です。
 よって、朝日新聞社と田辺功殿に対しこの記事に含まれる問題について、以下5点をお伺いいたします。

  1. 左段下から2行目以下「特に問題なのは、生まれつき高度難聴の子どもが放置されていることだ。」との部分。  「特に問題」と指摘している「放置されている」状況とは、具体的にどのような状況をさしているのかお伺いします。
  2. 右段上から2行目以下「耳が聞こえないと言葉がわからない。」との部分。  この「言葉」の定義をお伺いします。また、この記事中で使われている「言葉」の定義は、全て同じと解釈して差し支えないかお伺いします。
  3. 右段上から4行目以下「しかも5歳を過ぎると言葉の習得はほぼ絶望だ。」との部分。  「5歳を過ぎると言葉の習得がほぼ絶望だ」とお考えになった理由を、科学的根拠をあげてご説明ください。
  4. 右段上から6行目以下「欧米やオーストラリア、台湾では、2、3歳で人工内耳を埋め込み、訓練する。8割は日常会話に不自由なくなる。」との部分。  ここに記載されている「欧米、オーストラリア、台湾での状況」についての根拠となる文献等をお伺いします。
  5. 右段下から12行目以下「年700人も生まれる高度難聴児のうち、言葉を獲得できる子はわずかだ。」との部分。  「言葉を獲得できる子はわずかだ」としている具体的な根拠をお伺いします。

以上5点です。

 以下、当連盟の考えを述べます。

 この記事を読んだ通常の読者は、「高度難聴の子どもは人工内耳埋め込み手術を施さないと言葉がわからなくなる。」、それも「5歳前に人工内耳を埋め込まないと言葉の習得は絶望」であり、現在「特に問題なのは人工内耳埋め込み手術を施されず放置されている高度難聴の子どもがいること」であると理解し、他の理解の仕方はないと考えます。

 この「言葉」の定義が音声言語をさすのであれば、音声言語を話せないことがそんなに「絶望」することなのでしょうか。聞こえない人は、聞こえる人と同じように音声言語で話さなければいけないのでしょうか。

 ろう者は手話という言語を持っています。

 当連盟の会員は主に手話を身につけたろう者で構成されており、日常的に手話を「言葉」として使用し、この手話に誇りを持って生活しています。

 しかし、この記事によれば、私どもの団体は「言葉」を持たないろう者の集団とみなされることになりますが、朝日新聞社および田辺功殿はそのようにお考えでしょうか。

 なお、今回のように当事者に多大な影響を及ぼす記事を掲載する場合は、当事者にも取材し、公平な立場で記事を掲載することが新聞社としての最低の基本姿勢と考えますが、如何でしょうか。

当連盟では、1999年8月28日の朝日新聞朝刊一面トップの「新生児に聴覚検査」との見出しの記事に対し、同年9月21日に朝日新聞東京本社社長箱島信一様あてに質問状をお出し、同年10月2日付けにて朝日新聞東京本社社会部長松本正様よりお返事をいただいています。

 1999年の質問状でお伺いした問題点と、今回の記事の問題点、特に上記「1,2,3」で指摘した問題点は同じ考えの上にあると思います。

なお、当連盟の基本的な考えは、1999年9月21日の質問状に記載したとおりです。

 1999年9月21日の質問状とあわせてお読みいただき、私どもの考えに対してそうではないと否定される場合は、その根拠となるお考えをお知らせください。

 そうであると肯定される場合は、朝日新聞社および編集委員田辺功殿は、私たち当事者に与えた被害を回復するために、如何なる処置をおとりになる予定か、お知らせ下さい。

 以上、本質問状到達後一週間以内に文書をもってご回答ください。

2003年9月19日

東京都新宿区山吹町130 SKビル8階
財団法人全日本聾唖連盟
理事長 安藤豊喜

東京都中央区築地5−3−2
朝日新聞東京本社
代表取締役社長 箱島信一 殿

東京都中央区築地5−3−2
朝日新聞東京本社気付
編集委員 田辺功 殿