インクルーシブ教育に対する考え方
2022年9月、国連障害者権利委員会より日本政府に対して勧告(総括所見)が示されました。勧告では、障害者権利条約第24条「教育」において、障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)の推進が言及されています。これを受け、当連盟では、きこえない・きこえにくい子どもにとって望ましい教育や環境について協議を重ねた結果、これからの議論・検討を進めていく上で、基本的な方針となる「インクルーシブ教育に対する考え方」を作成いたしました。
当連盟では、きこえない・きこえにくい子どもたちのよりよい教育環境の整備に向けて、引き続き取り組んでまいります。ご理解・ご支援のほど、よろしくお願い申し上げます。
インクルーシブ教育に対する考え方
一般財団法人全日本ろうあ連盟
2022年9月、国連障害者権利委員会は、障害者権利条約第24条「教育」において「国の教育政策、法律及び行政上の取り決めの中で、分離特別教育を終わらせることを目的として、障害のある子どもが障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)を受ける権利があることを認めること。また、明確な目標、期間及び十分な予算を伴い、全ての障害のある生徒にあらゆる教育段階において必要とされる合理的配慮及び一人一人に、彼らが必要とする支援が提供されることを確保するために、質の高い障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)に関する国家の行動計画を採択すること。」1 と日本政府へ勧告しました。
これを受け、全日本ろうあ連盟(以下、「連盟」という。)は全国47都道府県の加盟団体および関係団体等とも意見交換を重ねてきました。その結果を、以下の通りまとめました。
連盟は、インクルーシブ教育そのものやきこえない・きこえにくい子どもときこえる子どもがともに学ぶことを否定しません。しかしながら、きこえない・きこえにくいという障害の特性に配慮した、教育機関における情報保障や合理的配慮の提供は十分といえません。このような状況で、インクルーシブ教育を進めることは、きこえない・きこえにくい子どもたちの学習の遅れやコミュニケーション不足による社会性育成への影響など、さまざまな課題が生じることが考えられます。
子どもたちの言語権が保障され、必要な情報にアクセスできる、周囲の人とコミュニケーションをとることができる教育環境が「誰一人取り残さない」教育につながります。言語権の保障は、共生社会実現のための基盤となります。
現在の日本国内において、障害者権利条約第24条第3項(c)で示されている教育環境に最も近い教育機関はろう学校(聴覚支援学校)であると考えます。また、世界ろう連盟は、きこえない・きこえにくい子どもには特に手話言語が必要だと強調しており、その国や地域に固有の手話言語での教育、複言語的な環境を整備することをインクルーシブ教育の条件としています。現在、ろう学校およびきこえない・きこえにくい子どもが通っている地域の学校は、このインクルーシブ教育の条件を満たしているとはいえません。
連盟は、きこえない・きこえにくい子どもの言語権および学習権ならびに、情報・コミュニケーションの権利が保障された、きこえない・きこえにくい子どもにとって望ましいインクルーシブ教育環境の実現をめざして、ろう学校、地域の学校および、関係機関に働きかけていきます。
※勧告文内では「インクルーシブ教育」を「障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)と表現しています。
1 「みんな、知っておこう!障害者権利条約 総括所見のポイント解説 私たち抜きに私たちのことを決めないで」,日本障害フォーラム,2023年12月6日,55ページ