手話施策推進法の制定に寄せて
手話施策推進法の制定に寄せて
かつて、手話は「てまね」と呼ばれておりました。てまねという言葉は、漢字で「手真似」と書き、猿真似からつくられた言葉です。手話は言語としてみなされず、劣った言葉として蔑まされていました。私たちの先人たちは、人の前で手話を使うことがままならず、陰で密かに使っていました。先人たちが通学していたろう学校では、手話を使うことが禁止され、手話を使うと体罰を受けることが日常的な光景でした。
そして今、手話に関する施策を推進する法律(手話施策推進法)が一人の反対もなく全ての国会議員の賛同を受けて成立されました。この歴史的な瞬間に立ち会うことができた私たちは、手話を守り、手話を言語として認めてもらおうと、血や汗のにじむような想いをして啓発や普及に努めてこられた私たちの先人に想いを馳せると感無量という言葉以外の言葉を見出すことができません。
私たちは手話言語法の制定に向けて、長い間、時間をかけて、欧米やアジア諸国の手話言語事情を学び、国内全ての自治体において手話言語法制定を求める意見書の採択を実現させ、多くの自治体において手話言語条例の制定をすすめてきました。これと並行して、多くの国会議員とすべての政党と議論を重ねてきました。そうした長い取り組みの結果、手話施策推進法が制定されたのです。日本語では当然のようにされてきた「言語の獲得」、「言語で学ぶ」、「言語を学ぶ」、「言語を使う」、「言語を守る」こと、これらが手話言語においても必要であることが手話施策推進法で定められたのは画期的なことです。欧米諸国の手話言語法に引けを取らない、むしろ先進的な内容と誇れるものであると思います。
手話施策推進法の制定にご尽力いただいた障害児者の情報コミュニケーション推進に関する議員連盟の皆さま、共に運動に取り組んだ関係者の皆さまや仲間たちに心から御礼を申し上げます。
しかし、私たちは手話施策推進法に定められた内容に基づく施策が実施されるよう、行政や関係機関に働きかけていく必要があります。先人たちが守り育ててきた手話言語は私たちの命です。この命を守ることは私たちの後に続く、きこえない・きこえにくい人々の未来を照らすことになります。先人たちの想いを受け継ぎ、私たちは「手話言語を獲得する」、「手話言語を学ぶ」、「手話言語で学ぶ」、「手話言語を使う」、「手話言語を守る」、この五つの権利が完全に保障された「真の共生社会」を築いていくことを、ここに強く誓います。
2025年6月27日
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理事長 石橋大吾