厚生労働省へ聴覚障害者の労働及び雇用施策について要望書を提出



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 2015年3月17日(火)全日本ろうあ連盟福祉・労働委員会は厚生労働省を訪問、聴覚障害者の労働及び雇用施策への要望について要望書を提出し、意見交換を行いました。
 
【写真】
左:全日本ろうあ連盟 福祉・労働委員会 委員長 松本正志
右:厚生労働省職業安定局高齢・障害者雇用対策部障害者雇用対策課
同席:全日本ろうあ連盟 福祉・労働委員会 委員 土屋敬恵

連本第140719号
2015年3月17日

厚生労働大臣
  塩崎 恭久 様

東京都新宿区山吹町130 SKビル8F
電話 03-3268-8847・FAX 03-3267-3445
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理事長 石野 富志三郎 

聴覚障害者の労働及び雇用施策への
要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私ども聴覚障害者の福祉向上にご理解ご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 さて当連盟は、2014(平成26)年6月15日長野県長野市において開催された第62回全国ろうあ者大会にて、聴覚障害者の労働及び雇用施策に関する大会決議を行ないました。ついては、下記の通り要望いたしますので、その早期実現をお願い申し上げます。

1. 東日本大震災後の聴覚障害者の求職等支援のために、被災した東北3県に対しすべての職業安定所に手話協力員の設置・増員を図り、支援体制を強化してください。

(説明)2013(平成25)年度に提出した本要望に対して、「今後とも被災した東北3県においても、きめ細かな就職支援により、聴覚障害者をはじめとした障害者の雇用促進を図ってまいります」という回答を頂きました。しかし、未だ現状が変わっていないため、支援対策の強化を図ってください。

2.手話協力員の常勤化など、手話協力員制度を拡充してください。

(1)手話協力員制度の予算を増やし、稼働時間の増加を図ってください。

①未設置の職業安定所に手話協力員を配置するとともに、聴覚障害者の来所が多い職業安定所を中心に、手話協力員を更に増員できるよう、予算増を図ってください。

②多様化する聴覚障害者の求職や職業相談、職場適応指導に対応するためには、現在の勤務時間では足りません。地域の実態に応えられる手話協力員にしていくためにも、早急に常勤化を図ってください。

③手話協力員の謝金は、長年1時間2,950円に据え置かれたままです。謝金の増額をお願いします。

(説明)厳しい財政事情の中、【平成27年度障害者雇用施策関係予算案2015年1月】において、「5.ハローワーク(職業安定所)における合理的配慮の先行実施」として、手話協力員の増員の予算を確保していただき、敬意を申し上げます。
 現在、手話協力員は1ヶ月の稼働時間が7時間であるため、職安窓口での職業紹介の通訳と職場適応指導の同行通訳を行っていますが、稼働時間が非常に少なく、手話協力員は窓口対応が中心となり、職場定着での支援が進んでいません。
 採用後のコミュニケーションや意思疎通のズレを見逃さず且つ修復することが、その後 の職場定着につながります。1ヶ月の稼働時間を増やし、面接場面での通訳など行えるようにする等、職場定着を見据えた就職指導業務に対応できるようにして下さい。
 引き続き、手話協力員の常勤化など、手話協力員制度を拡充のための予算確保を図ってください。

(2)手話協力員を労働部門における聴覚障害者のコミュニケーションや意思疎通・情報アクセスをサポートする専門職として位置付けると共に、「手話奉仕員及び手話通訳者の養成カリキュラム【厚生労働省官房障害保健福祉局 1998(平成10)年7月】」の全課程を修了し、且つ手話通訳者登録試験に合格した者を聴覚障害者団体の推薦で配置してください。
 また、手話協力員の効果的な人材活用のために、手話協力員要領の趣旨の文言を下記のように修正してください。

(説明)「手話協力員の委嘱については要領の通りに適正に行っています。」という回答を頂きましたが、聴覚障害者団体の推薦で配置しているところもあれば、聴覚障害者団体と相談しないで、配置するところがあるという報告がありました。
 現行、手話協力員は個人委嘱となっていますが、手話協力員一人だけでは様々な聴覚障害者の就労問題に対応することができません。聴覚障害者に共通した問題を共有し、聴覚障害者の職場定着に向けた就職指導業務の連携を図るため、希望する地域においては、聴覚障害者団体等が手話協力員の派遣窓口を担えるよう、弾力的な運用を図ってください。

現・手話協力員要領
(イ)手話協力員の委嘱に当たっては、所期の目的を達成しうるよう、都道府県民生関係部課、ろうあ者の団体等の協力を得て、適格者の選定を行い、ろうあ者に対する就職指導業務の計画的かつ円滑な実施を図ること。
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修正意見
(イ)手話協力員の委嘱に当たっては、所期の目的を達成しうるよう、都道府県民生関係部課、聴覚障害者団体等の協力を得て、適格者の選定を行うとともに、都道府県民生関係部課もしくは聴覚障害者団体等を手話協力員の派遣窓口とし、ろうあ者に対する就職指導業務の計画的かつ円滑な実施を図ること。

(3)各地の職業安定所において手話協力員の業務の範囲がまちまちです。聴覚障害者の職業相談や就労支援ニーズに適切に対応するためにも、「手話協力員業務ガイドライン」が必要です。手話協力員の在り方にも関わることであり、貴省の労働政策審議会障害者雇用分科会等でガイドライン策定について検討する場を設けてください。検討にあたっては、聴覚障害当事者・手話協力員を委員に加えてください。

(説明)手話協力員制度の充実化は、聴覚障害者雇用・定着など労働問題の解決につながりますので、一日も早く検討する場を設けるように求めます。

(4)全国の職業安定所担当職員、障害者就労支援専門員、手話協力員等の資質を高め、聴覚障害者への就労支援サービスが十分に図られるようにするため、全日本ろうあ連盟は「全国職業安定所手話協力員等研修会」を開催しています。このような研修会を厚生労働省主催で開催してください。

(説明)担当職員、障害者就労支援専門員の中には、聴覚障害の特性に対する理解が不十分で不適切な対応も見られます。共に研修の場を持つことで理解が深まり、聴覚障害者雇用・定着を含む労働問題の解決につながりますので、一日も早く厚生労働省主催で研修する場を設けるように求めます。
 上記研修会の周知についても周知しているとのご回答ですが、残念ながら担当職員、支援専門員の方々からは「聞いていない」「知らない」との声が多いです。聴覚障害者の就労を支援する手話協力員等の資質を高めるには、上記研修会への参加が重要であることから、派遣出来るよう、周知の徹底をお願いします。
 また、障害者窓口担当職員等の研修カリキュラムに「聴覚障害の特性と支援」についての内容も入れて下さい。

3.法定雇用率制度の徹底を図り、聴覚障害者の積極的な採用を行ってください。

(説明)2013(平成25)年6月発表の障害者の実雇用率は、一般民間企業が1.76%で一部公的機関とともに、法定雇用率が達成されていない状況が続いています。達成すべき雇用制度が守られていないことは極めて残念なことです。すべての事業所が法定雇用率を遵守することで障害者の失業問題が大幅に軽減されることは間違いありません。
 早急に対策を実施して頂きたく、以下の要望を致します。

(1)各企業が法定雇用率を達成するよう、厚生労働省など国が率先して障害者を雇用することで模範を示し、また未達成の企業に対しては法定雇用率を遵守するよう指導を強化してください。

(2)「障害者の雇用の促進等に関する法律」を実効性のあるものにするためにも、雇用納付金制度のあり方を再検討し、実雇用率を把握した上で雇用率のアップを図ってください。
 法定雇用率が2013(平成25)年4月1日より一般民間企業は2.0%、国、地方公共団体は2.3%、都道府県等の教育委員会は2.2%となっていますが、聴覚障害者をはじめとする障害種別の実雇用率と離職率が分かるように障害者雇用率の表示を見直してください。
 また、聴覚障害者の雇用数と離職数が公表されていないため、聴覚障害者の雇用の実情が分かりません。聴覚障害者に対する情報アクセスの保障やコミュニケーション・意思疎通の保障が必要なことを理解されていない事業所が多い中で、聴覚障害者の雇用改善のための分析を行い、聴覚障害者の実雇用率増加を図るために、障害種別の実雇用率が分かるようにして下さい。

(3)ろう重複障害者の就業について全国的な実態調査を実施し、その結果に基づき、一日も早くろう重複障害者の働く場の保障に関する施策を講じるようお願いします。
(説明)厚生労働省の政策として、「医療、福祉」から「就労」へ転換する方向を進めています。しかし、ろう重複障害者の就労状況は厳しい現況です。ろう重複障害者の就労をスムーズに進めるために、まず、全国的な実態調査を実施し、その結果を踏まえて、施策を実施するよう求めます。

4.民間企業の模範となるべき官公庁・公共団体等における聴覚障害者の採用条件や職場環境の改善をお願いします。

(説明)
 官公庁や地方自治体では、障害者雇用率を達成しているとされていますが、大半が軽度障害者の雇用です。
 また、国が率先してノーマライゼーション社会を謳っていますが、国民や市民サービスを担う立場でありながら、採用されている聴覚障害者の職場での情報アクセスの保障やコミュニケーション・意思疎通の保障は十分ではありません。公務員法の関係から、利用できる就労支援も限られたものになっています。
 官公庁は民間企業に模範を示していく立場にあります。厚生労働省が率先して、聴覚障害者を採用し、すべての障害者が平等に働けるよう、条件や職場環境の改善を図って下さい。

5.独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者介助等助成金による手話通訳担当者の委嘱助成金の制度を見直すとともに、事業所や職業安定所に周知徹底をお願いします。

(説明)事業所負担が軽くなり利用しやすくなるように、1回の助成額を1人3/4(6千円)ではなく、手話通訳料1回の3/4にしてください。年間の助成額の上限28万8千円を取り払い、必要に応じて手話通訳を利用し、助成ができるようにして下さい。
 また、2014(平成26)年4月より、手話通訳担当者の委嘱助成金の条件に「雇用されて1年以上経過しており…」、「書類提出期限は…10年以内…」の文言が追加されましたが、1年以上経過した場合は申請できないと解釈する事業所や事業所が必要と認めた時には雇い入れから10年を経過していた例があります。10年間助成金を利用した後は止むを得ず、助成なしで通訳依頼をされる事業所があります。
等級制限や支給対象者、申請提出期間、契約期間最長10年間で更新不可という制限を撤廃し、文言を改めると共に、各都道府県の利用状況が分かるようにしてください。
 そして、難聴者、中途失聴者の情報保障のために、要約筆記の活用にも同じように助成金が利用できるようにして下さい。

6.雇用・労働分野における聴覚障害者専門の相談支援体制の整備のために、聴覚障害者情報提供施設を拠点とした職場適応援助者(ジョブコーチ)事業を拡充するとともに、聴覚障害者等ワークライフ支援事業を新設してください。

(1)聴覚障害者が就職してからの職場定着支援として、ジョブコーチ支援事業を現在、全国49ヶ所の都道府県に設置されている聴覚障害者情報提供施設で実施できるようにしてください。

(2)聴覚障害者の職場定着を確実なものとしていくために、聴覚障害者がコミュニケーションや意思疎通に不安を感じることなく、職場定着指導や職業相談などが受けられるよう、ジョブコーチの条件に「手話ができる」ことを明記し、ジョブコーチ養成のカリキュラムに「手話」を取り入れてください。

(3)聴覚障害者情報提供施設における就労面での相談支援機能の充実を図るため、聴覚障害者等ワークライフ支援事業を国の制度として実施してください。

(説明)現在、大阪府の独自事業として実施されている聴覚障害者等ワークライフ支援事業は、就職前後の聴覚障害者に対して個々のニーズに応じた雇用・労働相談・支援を行い、聴覚障害者の職場定着に成果を上げています。
 特に全国49か所の都道府県に設置されている聴覚障害者情報提供施設においては、聴覚障害者の就労面での相談支援機能の強化が必要になっています。そのためにも国の制度として実施してください。

7.全国に約300ヶ所設置されている障害者就業・生活支援センターが聴覚障害者にとって利用しやすくなるよう、職員の研修に手話等を導入し、聴覚障害者の相談や職業訓練等のために手話通訳者を配置するための派遣費を整備するなど、情報アクセスの保障やコミュニケーション・意思疎通の保障の体制を整備してください。

(説明)手話を第一言語とするろう者にとって、1対1の場面(面接等)では、口話・筆談だけのコミュニケーションでは自分の思いを十分に伝えることが出来ません。1対複数の場面(朝礼・会議・研修・資格取得等)では尚更です。
 聴覚障害者にとって、職場における情報アクセスの保障やコミュニケーション・意思疎通の保障は、就労継続上、必要不可欠です。この障壁から仕事内容の幅が広がらない、昇給・昇進の機会が奪われる等、強いては人間関係にも大きく影響を及ぼします。
 聴覚障害者にとって、就労相談の場所には職業安定所と障害者就業・生活支援センターがありますが、障害者就業・生活支援センターでは、聴覚障害の特性に対する理解が不十分であるため、筆談対応が中心となり、聴覚障害者に対する相談機能が十分とは言えません。
 「2012(平成24)年度より、手話通訳者の派遣費は委託費の中で賄ってよい」と規定されましたが、障害者就業・生活支援センターにおいてはその運用方法について把握していない状況が見受けられると報告がありました。改めて、情報提供・指導をお願いいたします。

以  上