新しい年の始まりにあたり、世界各地のろう協会やリーダーの皆様が継続的に、そして大きな努力を伴いながら続けてきた権利擁護活動に、心から敬意を表したいと思います。手話言語や権利を推進することや、緊急性の高い政治的・社会的動向へ対応することは、集中力、自らを律して取り組む姿勢、そして粘り強さが求められます。こうした責任は、休息なく続きます。一方で、「私たちは何のために闘っているのか」だけでなく、「活動を行う中で、私たちは自分たちのコミュニティをどのように見ているのか」を振り返ることも大切です。年始はそのような振り返りをする機会になると思います。
哲学者であるテーオドル・アドルノ(Theodor Adorno)は、著書『ミニマ・モラリア』(Minima Moralia)の中で、「安息日の目(Sabbath eyes)」という視点について述べています。「安息日の目」とは、絶え間ない緊急性や生産性、手段的な思考から一時的に距離を置いて、世界を見る考え方です。「安息日の目」で見るとは、成果や効率を超えた価値を認識することを意味します。この考え方は、アドルノに限ったものではなく、共通した思想です。例えば、多くの文化では、週に一度、意図的に仕事を止め、自分自身のための時間を持ちます。また、ガンディー(訳注:インド独立の父)は、政治的闘争は、暴力ではなく非暴力と思いやりを通じて行われるべきだと主張しました。さらに、先住民や仏教の伝統においては、人々に、立ち止まり、他者の意見を注意深く受け止め、支配や制御をせずに他者や社会と向き合うことを教えています。
ろうコミュニティにとって、このような「ものの見方」は、ろう者の生活の一部になっています。例えば、目でみて注意を向けること(visual attention)、身体を使ったコミュニケーション(embodied communication)、関係性の中での存在(relational presence)に根ざしたろう者の「ものの見方」(epistemologies)は、「安息日の目」の考えと深く共鳴します。手話言語は、時間、場所、お互いに目を向けていることを必要とします。ろう者の文化は、つながり、創造性、お互いに意味を共有することの価値を私たちに教えてくれます。「安息日の目」で見ることは、ろう者の考え方と一致しています。このように考えることで、手話言語やろう者の文化を、アクセスのための手段や政策を進めるべき対象として捉えるのではなく、手話言語やろう者の文化自体の価値と豊かさを捉え直す視点を得ることができます。権利擁護を進める人々には、障壁や権利侵害、不利な立場といった問題に常に向き合い続けることで、自分達の活動の見え方が狭まってしまう恐れがあります。権利擁護はとても大切ですが、ろう者の人生を「解決すべき問題」に【矮小化しては/置き換えては】なりません。
「安息日の目」は、喜び、美しさ、ユーモア、芸術、そして強靱性(レジリエンス)にも目を向ける大切さを、私たちに思い出させてくれます。これらは、運動を長期にわたって支え、私たちが何を守っているのかを思い起こさせてくれる要素です。
1951年9月23日、イタリア・ローマに25か国からの代表団が集まり、世界ろう連盟(以下、WFD)を設立しました。ろう者は、完全なアクセシビリティ、平等な人権、そして政治的意思決定への実質的な参加を得るうえで多くの障壁に直面してきました。そのような中、世界規模の連盟を設立することは、これらの障壁に各国が力を合わせて取り組む決意を示した歴史的な出来事でした。
現在、WFDは、世界で最も歴史のある障害のある人の団体の一つであることを誇りとし、ろう者の人権を世界的に推進するという使命に取り組み続けています。
WFDの創立75周年を祝うため、2026年は、以下を含め様々な活動を計画しています。
WFDの75年にわたる権利擁護と連帯の歩み、そして生み出してきた成果を、ともにお祝いしましょう。
WFDの創立75周年を記念し、特別イベントの開催についてお知らせします。皆様のご予定に加えていただけますと幸いです。
WFDは、2026年9月24日から26日にかけて、イタリア・ローマにおいて、2日間の会議、市内での行進、記念祝賀行事(ガラ・イブニング)などを開催します。
この記念イベントでは、世界各地から会員、パートナー、関係者が集い、75年にわたり続けてきたろう者の人権をめぐる権利擁護の歩みを振り返るとともに、世界のろう運動の未来を展望します。
詳細は、今後数週間のうちにお知らせします。
WFDは、タイで開催された国際障害同盟(IDA)の総会に参加しました。
WFDからは、代表として、理事のヨルディス・ハラルズドッティル(Hjordis Haraldsdottir)が出席しました。また、WFD理事のフアン・アンヘル・デ・グーベア(Juan Angel De Gouveia)も、IDA総会の副議長の立場で参加しました。WFDは、IDAに継続的に関与することを重視しており、世界の障害のある人の運動全体における連携強化に引き続き取り組んでいきます。
ボリビア議会は、ボリビア手話言語(LSB)をボリビア多民族国の公用語として認める新たな法律を採択しました。
関係者の長年にわたる闘いがこのような成果を実現しました。その過程で、WFDの正会員であるボリビアろう連盟(正式名称:Federación Boliviana de Sordos、略:FEBOS)は、中心的な役割を果たしました。今回の画期的な成果は、これまでの長年の努力の上に築かれたものです。ボリビアでは、遡ると2009年にすでに「最高法令第0328号」(Supreme Decree 0328)の採択により、LSBがコミュニケーション手段として認められていました。そこからさらに進展し、今回の新法により、LSBは完全な法的地位を得たため、社会、教育、文化、政治、経済の各分野において、ろうコミュニティの言語権が保障されます。ボリビア多民族国護民官事務局(オブズマン)(Defensoría del Pueblo(Ombudsman))をはじめ、複数の団体が、様々な報道の中で、この法律を「ボリビア全体でろう者の権利を具体的に実現するための重要な一歩である」と高く評価しています。
LSBの法的認知により、ボリビアが、インクルージョン、言語的多様性、ろう者の完全な社会参加に取り組む姿勢が改めて示されました。WFDは、この法律がしっかりと運用され、ボリビアのろう者が人権を十分に享受できるよう、ボリビアのろうコミュニティと連帯し、WFD正会員であるボリビアろう連盟を引き続き支援していきます。

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