文部科学省にきこえない・きこえにくい者の権利保障に関する要望書を提出
文部科学省に「きこえない・きこえにくい者の権利保障」に関する要望書を提出しました。
文部科学省からは、手話言語を使用する子どもたちの教育環境を整えるため、学習指導要領の記述の充実や、教員向けの手話に関する映像教材の開発、特別支援学校教諭免許状の取得促進等を進めるとの回答がありました。
連盟からは、手話言語をコミュニケーション手段としてだけでなく、子どもが体系的に学ぶ「言語」として教育課程に位置付ける必要性を説明しました。
また、手話言語ができる教職員の計画的な養成・配置、合理的配慮の地域格差の解消、きこえない・きこえにくい在留外国人が日本の手話言語を学べる場の整備について、より具体的な取り組みを求めました。

連本第260172号
2026年7月13日
文部科学大臣
松本 洋平 様
東京都新宿区原町3-61 桂ビル2階
電話 03-6302-1430/FAX 03-6302-1449
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長 石 橋 大 吾
きこえない・きこえにくい者の権利保障に関する要望について
時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
日頃より、私どもきこえない・きこえにくい者の社会参加の促進にご理解とご支援を賜り、心より感謝申し上げます。
さて、当連盟は2026年6月7日に富山県で開催された「第74回全国ろうあ者大会」におきまして、きこえない・きこえにくい人のさまざまな施策等に関する大会決議を行いました。
近年、「手話施策推進法」や「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」の成立、「改正障害者差別解消法」による合理的配慮の義務化により、きこえない・きこえにくい人の情報へのアクセスとコミュニケーションが改善されることが期待されます。しかしながら、地域によって対応に差があるなど、未だ解決すべき課題が残っています。
つきましては、下記の通り要望いたしますので、すべての国民が安心安全に生活できるよう、早期実現に向けた取り組みを進めていただけますようお願い申し上げます。
記
1.学習指導要領に「手話言語」を教科として新設するための取り組みを進めてください。
<説明>
手話言語は日本語とは異なる言語体系を持つ言語であり、きこえない・きこえにくい子どもの第一言語になりうる言語です。現在の学校教育では、手話言語を体系的に学ぶ教育課程や教材、指導体制が十分に整備されているとはいえません。手話言語を学校教育の中で位置付けることは、きこえない・きこえにくい子どもの言語権及び学習権を保障するうえで不可欠です。
2025年10月、特別支援教育に関するワーキンググループのヒアリングにおいて、当連盟からも手話言語に関する意見をお伝えしました。しかし、現在公表されている協議状況を見る限り、その内容が十分に反映されているとは言い難い状況です。
教科とするために、まずは学習指導要領への位置付けの検討、教育内容の整理、教材研究、指導方法の確立、教員養成、研修体制の整備等を含め、教科化に向けた体系的な取り組みを進めてください。
また、検討にあたっては、手話言語に精通した学識経験者、ろう当事者団体、教育関係者等が参画する体制を構築してください。
2.ろう学校に手話言語による授業が可能な教職員の配置及び聴覚障害教育の専門性が高い教職員(きこえない・きこえにくい教職員を含む)の養成と配置をしてください。
<説明>
きこえない・きこえくい子どもたちが安心して学び、十分な教育を受けるためには、手話言語を理解し使用できる教員や、聴覚障害教育に関する専門性を有する教職員の配置は不可欠ですが、ろう学校等において、これらの教職員は依然として不足しています。
手話施策推進法では、国及び地方公共団体に対し、手話に関する教育及び学習機会の確保を推進する責務が定められていることからも、特別支援学校教諭の教職課程カリキュラムに、手話言語を基盤とした教育・学習保障、社会性の発達支援、アイデンティティ形成、情報保障等、きこえない・きこえにくい子どもの教育に関わる重要な内容を位置づけることは必要です。
また、特別支援学校の教員については「教育職員免許法」附則に特例措置により、当分の間、特別支援学校教諭免許状を有しなくても配置可能とされていますが、この特例が長期的に運用されていることにより、聴覚障害教育に必要な専門性の確保が十分でない状況も見られます。
つきましては、手話言語による教育が可能な教職員を計画的に養成するとともに、特例措置の見直しと特別支援学校教諭免許状(聴覚障害)の取得促進、教職課程カリキュラムの充実等、専門性の向上に向けた取り組みを進めてください。
3.教育現場での情報保障の格差を解消するために確実な財政措置を講じてください。
<説明>
手話言語通訳、要約筆記、字幕等の情報保障は、きこえない・きこえにくい子どもたちが授業や学校生活に安心して参加し、十分な学習機会を保障するために不可欠です。
しかし、学校教育現場においては、予算措置が十分でないために、継続的かつ安定的な配置が困難となっている自治体もあり、情報保障の格差が生まれています。
自治体間の情報保障の格差を解消するため、国として安定的かつ継続的な財政措置を講じるとともに、教育機関において、きこえない・きこえにくい子どもたちに必要な手話言語通訳等の人件費を適切に予算化できるよう支援してください。
4.きこえない・きこえにくい教職員への情報保障の予算化を働きかけてください。
<説明>
きこえない・きこえにくい教職員が会議、研修、保護者対応、公務運営等の職務を円滑に遂行するためには、手話言語通訳等の情報保障が不可欠です。
手話施策推進法では、国及び地方公共団体に対し、手話言語を使用しやすい環境の整備や手話言語による意思疎通支援を推進する責務が定められていることからも、きこえない・きこえにくい教職員への情報保障の予算化は急務です。
きこえない・きこえにくい教職員が安心して働くことができ、自らの力を発揮できる職場環境を作れるよう、全国の教育委員会にきこえない・きこえにくい教職員への情報保障の予算化を働きかけてください。
5.行政区域を理由とした入学拒否が行われないよう全国の教育委員会に周知してください。
<説明>
きこえない・きこえにくい子どもの居住地域及び居住県のろう学校が遠距離のため、近隣県のろう学校への通学を望み、居住県の教育委員会が許諾をした場合でも、入学を希望する県の教育委員会より、行政区域を理由に入学を断られるといった事例があります。
学校教育法施行令第8条で区域外就学等について定められていますが、合理的な理由があっても、実態は教育委員会によって運用が異なっています。
特にろう学校は学校数も減少していることから、ろう学校への進学を希望するきこえない・きこえにくい子どもは入学先の選択肢が限られています。このような実態をご理解いただき、都道府県域及び行政区域を越えた柔軟な就学調整や受入体制の整備を、各教育委員会へ積極的に働きかけてください。
6.難聴児支援中核機能強化事業における福祉と教育の横断的な連携体制を推進してください。
<説明>
難聴児支援は「早期発見→早期支援→教育→社会参加」までを見据えた切れ目のない支援体制が不可欠であり、福祉・医療・教育の分野を横断した連携が求められます。しかし現状では、情報共有や支援の継続性が十分に確保されていない地域もあります。
特に、難聴児支援中核機能強化事業は福祉・医療分野を中心に進められることが多く、教育行政は協力機関としての関与にとどまっている例もあります。乳幼児期の支援から学校教育への移行において、子どもの言語発達や学習支援に必要な情報が引き継がれず、支援の継続性が懸念されます。
貴省及びこども家庭庁は「切れ目のない支援体制の構築」を政策目標として掲げています。つきましては、難聴児支援中核機能強化事業における教育行政の主体的な参画の推進とともに、福祉・医療・教育の分野を横断した連携体制を構築し、きこえない・きこえにくい子どもとその家族が、地域において切れ目のない支援を受けることができる環境を整備してください。
7.日本語教師養成機関に対し、国家資格制度における合理的配慮について周知徹底を行ってください。
<説明>
登録日本語教員の国家資格制度においては、きこえない・きこえにくい受験者に対し、ヒアリング試験の免除や必要な合理的配慮が認められていますが、こうした制度内容や配慮の具体的運用について、日本語教師養成機関への周知が十分でなく、現場での対応にゆだねられています。
貴省より、日本語教師養成機関に対し、登録日本語教員制度における合理的配慮の内容や運用について周知徹底を図るとともに、きこえない・きこえにくい受講者・受験者が安心して学び、資格取得をめざせる環境整備を進めてください。
8.きこえない・きこえにくい在留外国人(児童含む)が日本手話言語を習得できる場を作ってください。
<説明>
日本の在留外国人数は年々増加をしており、きこえない・きこえにくい在留外国人も同様に増加傾向にあると予想されます。きこえない・きこえにくい在留外国人(が日本国内で生活するにあたって、日本手話言語の習得を希望しても、現状、日本国内において日本手話言語を学べる場はなく、困っているとの声もあがっています。きこえる在留外国人の場合、日本語教育に関するさまざまな施策が行われており、日本語教育機関での日本語の習得も可能です。このようにきこえによって差が生じており、生活に支障をきたすことも懸念されます。
きこえない・きこえにくい在留外国人(児童含む)が日本手話言語を学ぶことができる場を貴省主導で作ってください。
【各省共通項目】
9.障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法及び改正障害者差別解消法の施行を踏まえ、手話言語通訳を含む情報アクセシビリティに必要な経費について、貴省関係部局に対し、明確な予算措置を講じるよう周知してください。
<説明>
上記2法により、国及び地方公共団体は、障害者による情報の取得・利用及び意思疎通に係る施策を総合的に策定・実施する責務を負っています。また、民間事業者にも合理的配慮の提供が義務付けられ、共生社会の実現に向けた取り組みが強化されています。
これは、すべての公的機関が自らの責任において情報アクセシビリティ環境を整備し、合理的配慮を提供する義務があることを意味します。しかし現状では、国や自治体の出先機関を含む行政機関の中に、
・手話言語通訳等に係る予算措置がないことを理由に「過重な負担」として情報保障を拒否する
・手話言語通訳等を用意できないとして、障害当事者に通訳者の手配を求める
といった事例が後を絶ちません。
きこえない・きこえにくい国民が行政サービスを等しく受けられるよう、貴省関係部局が必要に応じて独自に予算化し、合理的配慮を提供できる仕組みを整備するよう周知してください。
10.情報アクセシビリティ実現のため、手話言語通訳者等の派遣が増加していますが、派遣される情報保障者の質が担保されるよう、必要な条件整備を行ってください。
<説明>
法整備が進む一方、手話言語通訳者等の社会的資源は依然として不足しており、十分な人数の確保が難しい状況にあります。行政機関では、相見積もりや競争入札により派遣事業者を決定する例が多いものの、手話言語通訳者の技術・知識・経験等、質の面が十分に考慮されていないため、きこえない・きこえにくい人への情報提供が不十分となる事例が生じています。このままでは、法がめざす「情報アクセシビリティの全面保障」は実現しません。
そのため、派遣費用だけでなく、通訳者の質の確保は不可欠です。きこえない・きこえにくい人との意見交換を踏まえ、適切な派遣事業者を選定する仕組みが望ましいと考えます。条件の整備については、まず当連盟との協議を要望します。
11.2025年6月25日に施行された「手話施策推進法」に基づき、貴省における手話施策の具体的実施に向け、必要な財政上・法制上の措置を速やかに講じてください。
<説明>
上記法は、第2条において「手話を必要とする者および手話を使用する者の意思が尊重され、手話の習得および使用に関する必要かつ合理的な配慮が適切に行われるための環境整備」を基本理念として掲げています。
また、第3条では、国及び地方公共団体が手話に関する施策を総合的に策定・実施する責務を有することを明記しています。
貴省においても、国民の暮らしに直結する行政サービス・広報活動を行うにあたり、手話言語を活用した情報提供、相談体制の整備、職員研修、オンライン手続きのアクセシビリティ向上等、同法に基づく施策の具体化をしてください。
12.改正障害者差別解消法に基づいた対応要領・対応指針に以下を加えるよう、検討してください。
(1)事業者や省庁出先機関等から出される情報に、きこえない・きこえにくい人が容易にアクセスできるよう、情報アクセシビリティ保障の明記とその徹底を求めます。
<説明>
現在、利用者や消費者が問い合わせをする「相談窓口」や「販売申込先」、省庁出先機関等の受付窓口は、電話番号のみの対応が依然として多く存在しています。2021年7月より公共インフラとして「電話リレーサービス」が利用できるようになり、その後、「ヨメテル」のサービスも開始されましたが、それだけではすべてのきこえない・きこえにくい人の対応としては不十分です。そのため、メール・FAX等の複数の手段によるアクセシビリティ保障について、見直しが進められている対応要領・対応指針に明確に記載し、その通りに運用してください。また、問い合わせ手段として、「手話リンク」の利用も検討するよう明記してください。
また、各省庁及び関係機関からの情報発信の際には、きこえない・きこえにくい人の情報アクセシビリティの保障のために手話言語、文字による情報発信も行うことを徹底してください。
(2)公共施設・商業施設等における音声情報の文字化について、具体的に記述してください。
<説明>
平時から音声情報を文字情報にて掲示することで、緊急時には有用な情報源となります。公共施設や商業施設等における音声によるアナウンス情報について、見直しが進められている対応要領・対応指針に「文字表示または手話言語表示」をすることを記載したうえで、その通りに運用してください。
13.公共インフラである日本財団電話リレーサービスによる「電話リレーサービス」や「ヨメテル」、「手話リンク」の利用について、貴省でもご周知ください。
<説明>
電話リレーサービスが本格的に開始されてから5年余りが経ちますが、未だに迷惑電話と間違えられて通話を拒否される、電話に出てもらえないなどの例が続いています。電話リレーサービスは、きこえない・きこえにくい人が使うだけでなく、きこえる人が電話を受け、きこえない・きこえにくい人に電話をかけることもできます。公共インフラとしての機能が果たせるよう、貴省でも管轄の事業者へ周知してください。
以 上