警察庁にきこえない・きこえにくい者の権利保障に関する要望書を提出
警察官への研修について加盟団体及び情報提供施設と連携した協力体制の構築、高齢者の運転免許更新時の配慮等の要望を行いました。また、手話リンク(QRコード読み込みが必要だが、スマホを落とした時はどうなるのか)等について、意見交換を行いました。
連本第260174号
2026年7月13日
警察庁長官
楠 芳伸 様
東京都新宿区原町3-61 桂ビル2階
電話 03-6302-1430/FAX 03-6302-1449
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長 石 橋 大 吾
きこえない・きこえにくい者の権利保障に関する要望について
時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
日頃より、私どもきこえない・きこえにくい者の社会参加の促進にご理解とご支援を賜り、心より感謝申し上げます。
さて、当連盟は2026年6月7日に富山県で開催された「第74回全国ろうあ者大会」におきまして、きこえない・きこえにくい人のさまざまな施策等に関する大会決議を行いました。
近年、「手話施策推進法」や「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」の成立、「改正障害者差別解消法」による合理的配慮の義務化により、きこえない・きこえにくい人の情報へのアクセスとコミュニケーションが改善されることが期待されます。しかしながら、地域によって対応に差があるなど、未だ解決すべき課題が残っています。
つきましては、下記の通り要望いたしますので、すべての国民が安心安全に生活できるよう、早期実現に向けた取り組みを進めていただけますようお願い申し上げます。
記
1.都道府県警察本部に対し、きこえない・きこえにくい人への理解を深めるための研修を実施してください。
<説明>
2026年3月、貴庁へ相談いたしましたが、あるきこえない人が運転免許更新の際、補聴器を装用していたため「大声で話せば伝わる」と誤解され、さらにマスクをしたままの説明では内容を理解できないにも関わらず、筆談にも応じてもらえないというケースがありました。また、手話で伝えようとしたところ興奮していると誤解され、複数の職員から「落ち着いてほしい」といったジェスチャーを受け、その人はさらにつらい思いをされました。
①補聴器装用者が、必ずしも音声を正確に聞き取れるとは限りません。
きこえない・きこえにくい人の中には、音声の理解は難しくても、周囲の音や声を聞き取ろうとする習慣がある人もいます。このような場合、「大声で話す」「マスク越しで話す」といった対応は有効ではなく、本人が希望するコミュニケーション手段への配慮が必要です。
②その一方で、きこえない・きこえにくい人の中には、明瞭に発声できる人もいます。
そのため、きこえる人と誤解され、本人が希望するコミュニケーション手段を利用できない場合があります。
③きこえない・きこえにくいことを伝えても相手の理解が得られず、相手のペースで対応が進められてしまうことがあります。国民の安全を守る警察だからこそ、障害のある人への正しい理解が求められます。
このような事案を防ぐため、以下のとおり手話言語に関する研修の機会を確保できるよう、都道府県警察本部に対し貴庁からの指導をお願いします。あわせて、予算措置を講じてください。
・警察学校のカリキュラムに手話言語や、きこえない・きこえにくい者への理解のための研修を組み込んでください。
・全職員が定期的に「きこえない・きこえにくいこと」への理解や手話言語の基礎を学べる研修機会を確保してください。
・地域のろうあ協会や情報提供施設等の協力を得て、きこえない・きこえにくい人と直接接する機会を設けてください。
併せて研修の実施事例がありましたら、ぜひご教示ください。
2.警察官不在時の交番に対する手話リンクの導入について
<説明>
交番における警察官不在時の呼び出し方法について、電話に加え、メールや一部の交番で導入されている手話リンク等の音声以外の手段でも対応できるよう、都道府県警察本部に対し、貴庁からの情報提供をお願いいたします。
なお、警察官が在所している際にも、手話言語が必要なきこえない・きこえにくい人に対応できるよう、手話言語の研修機会を設けてください。
3.運転免許更新時の検査に関する改善について
(1)認知機能検査における手話言語通訳者の配置を全国の試験場へ徹底してください。
<説明>
75歳以上の運転者は免許更新の際、高齢者講習に先立ち「認知機能検査」を受検することとなっています。しかし、全国の試験場の中には手話言語通訳者を配置していない所があり、きこえない・きこえにくい高齢者が検査員からの説明を理解できず、適切に回答できないため、検査が十分に行われているとはいえません。
つきましては、以下の体制整備を全国の各試験場へ周知するようお願いいたします。
・希望するきこえない・きこえにくい高齢者には、必ず手話言語通訳者を配置してください。
・事前説明から検査終了まで、一貫して手話言語通訳が行える体制を整備してください。
・手話言語は地域によって表現が異なるため、地元の手話言語通訳者を配置してください。
(2)認知機能検査の進行時に使用される貴庁作成のDVDについて、手話言語表現が分かりにくいとの声が寄せられているため、以下の対応を周知してください。
<説明>
①DVD作成・改定時の地元手話言語通訳者の活用
DVD作成・改訂の際には、そのDVDが使用される地域の手話言語通訳者を制作に参加させてください。手話言語は地域によって表現が異なるため、地元通訳者の活用が実効性のある改善につながります。
②検査当日における地元通訳者の配置
DVDによる対応に加え、検査当日においても地元の手話言語通訳者を配置するなど、より実効性のある配慮をお願いします。
③各種講習への手話言語通訳配置と予算措置
高齢者講習に限らず、一般運転者講習・違反運転者講習においても手話言語通訳を配置できるよう、必要な予算措置を講じてください。昨年「同席を認めている」と回答いただきましたが、これが予算措置を伴うものであれば、全国の各試験場へその旨を周知してください。
(3)高齢者の認知機能検査に関する意見交換の場を設けてください。
<説明>
認知機能検査の「手がかり再生検査」では、
①解答用紙には文字で記載しなければならない
②ヒントを手話言語で通訳することが認められない
といった運用がされています。しかし、これらはきこえない・きこえにくい者の特性を踏まえた検査方法とは言えず、必ずしも適切に機能していない可能性があります。
その結果、認知機能に問題がないにもかかわらず、日本語が不得手であるために不合格となる例や、文字で名称を記載することが難しいため「認知症の疑いあり」と判定された例が報告されています。
昨年、貴庁より「認知症に該当しない旨の診断書を提出すれば検査免除となる」との 回答をいただきましたが、ろう高齢者のみが診断書を取得しなければならないという負担が発生しまいます。つきましては、専門家も交え、きこえない・きこえにくい高齢者に配慮した独自の検査方法の再考について、連盟と意見交換の機会を設けてください。
4.運転免許講習時の各種視聴覚教材(映像)の改善について
<説明>
現在使用されている視聴覚教材は、「見る・聞く」を同時に行うことを前提として作成された映像に手話言語通訳を付したものとなっています。しかし、手話言語を読み取りながら同時に映像(事故状況・グラフ・図表等)を見ることは困難であり、内容を十分に理解できないとの相談が寄せられています。
免許更新講習はすべての運転者に義務付けられた制度であり、公平性確保の観点からも、きこえない・きこえにくい者が他の受講者と同等に内容を理解できる教材の整備が必要です。映像情報と通訳情報の双方を確実に取得できてこそ、真の情報保障が実現すると考えます。
講習内容の理解が深まることは、安全運転の促進にも直結します。つきましては、視聴覚教材の改善についてご検討ください。
5.緊急自動車の接近状況を把握できる機器の開発促進と、全乗用車への標準装備実現に向けた取組について
<説明>
緊急車両が交差点に進入する際、補聴器を装着していても接近に気づけない場合があります。特に後方から接近する緊急自動車は認知が難しく、接触事故につながるおそれもあります。現在、カーナビゲーションや自動運転などのモビリティ技術は急速に進歩しており、緊急車両の接近を知らせる機能を追加することは技術的にも十分可能と考えられます。
今後、すべての自動車にこの機能が標準装備されるよう、国土交通省をはじめ、自動車メーカー各社・自動車工業会・自動車技術会など関係団体への働きかけてください。また、開発促進に向けた予算措置についても、併せてご検討ください。
6.聴覚障害者用の電光掲示板(デジタルサイネージ等)の整備拡充に向けた予算化による情報アクセス環境の整備について
<説明>
事件・事故現場などの緊急時には、音声による情報発信が中心となり、現場に居合わせたきこえない・きこえにくい人は状況を把握できず、冷静な判断が困難となります。避難指示が出ていても内容が分からず、周囲の動きに合わせるしかない状況が相次いでいます。一日でも早く、どのような環境下(事故・災害・混雑時等)においても、音声情報と 同じ内容をリアルタイムで文字等により可視化し提供できる仕組みの構築が必要です。
2025年度要望書への回答では「聴覚障害者用の電光掲示板でわかりやすく案内すると定めている」、2023年度要望書への回答では「約3,000台」とありましたが、2024年以降に聴覚障害者用の電光掲示板が何台整備されたか、ぜひご教示ください。
7.運転免許更新の手話言語通訳について、同行した手話言語通訳者の同席が認められるよう通知をしてください
<説明>
運転免許更新時等は、合理的配慮の観点から警察において手話言語通訳者の配置をすることが望ましいですが、未だにきこえない・きこえにくい人自身が通訳依頼をして同行しているケースもあります。その際、通訳者の同席が認められず、他の受講者と同等に受講することができません。講習の動画には手話言語通訳がついていますが、地域によって手話が異なることもあります。きこえる人と同一内容の情報を同一時点で取得できるようにする、という障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法の観点からも、当事者が手配した手話言語通訳者であっても、同席してその手話言語通訳者による情報保障ができるよう、全国の警察本部や運転免許センターへの周知徹底をするとともに、手話言語通訳者配置のための予算化してください。
【各省共通項目】
8.障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法及び改正障害者差別解消法の施行を踏まえ、手話言語通訳を含む情報アクセシビリティに必要な経費について、貴省関係部局に対し、明確な予算措置を講じるよう周知してください。
<説明>
上記2法により、国及び地方公共団体は、障害者による情報の取得・利用及び意思疎通に係る施策を総合的に策定・実施する責務を負っています。また、民間事業者にも合理的配慮の提供が義務付けられ、共生社会の実現に向けた取り組みが強化されています。
これは、すべての公的機関が自らの責任において情報アクセシビリティ環境を整備し、合理的配慮を提供する義務があることを意味します。しかし現状では、国や自治体の出先機関を含む行政機関の中に、
・手話言語通訳等に係る予算措置がないことを理由に「過重な負担」として情報保障を拒否する
・手話言語通訳等を用意できないとして、障害当事者に通訳者の手配を求める
といった事例が後を絶ちません。
きこえない・きこえにくい国民が行政サービスを等しく受けられるよう、貴省関係部局が必要に応じて独自に予算化し、合理的配慮を提供できる仕組みを整備するよう周知してください。
9.情報アクセシビリティ実現のため、手話言語通訳者等の派遣が増加していますが、派遣される情報保障者の質が担保されるよう、必要な条件整備を行ってください。
<説明>
法整備が進む一方、手話言語通訳者等の社会的資源は依然として不足しており、十分な人数の確保が難しい状況にあります。行政機関では、相見積もりや競争入札により派遣事業者を決定する例が多いものの、手話言語通訳者の技術・知識・経験等、質の面が十分に考慮されていないため、きこえない・きこえにくい人への情報提供が不十分となる事例が生じています。このままでは、法がめざす「情報アクセシビリティの全面保障」は実現しません。
そのため、派遣費用だけでなく、通訳者の質の確保は不可欠です。きこえない・きこえにくい人との意見交換を踏まえ、適切な派遣事業者を選定する仕組みが望ましいと考えます。条件の整備については、まず当連盟との協議を要望します。
10.2025年6月25日に施行された「手話施策推進法」に基づき、貴省における手話施策の具体的実施に向け、必要な財政上・法制上の措置を速やかに講じてください。
<説明>
上記法は、第2条において「手話を必要とする者および手話を使用する者の意思が尊重され、手話の習得および使用に関する必要かつ合理的な配慮が適切に行われるための環境整備」を基本理念として掲げています。
また、第3条では、国及び地方公共団体が手話に関する施策を総合的に策定・実施する責務を有することを明記しています。
貴省においても、国民の暮らしに直結する行政サービス・広報活動を行うにあたり、手話言語を活用した情報提供、相談体制の整備、職員研修、オンライン手続きのアクセシビリティ向上等、同法に基づく施策の具体化をしてください。
11.改正障害者差別解消法に基づいた対応要領・対応指針に以下を加えるよう、検討してください。
(1)事業者や省庁出先機関等から出される情報に、きこえない・きこえにくい人が容易にアクセスできるよう、情報アクセシビリティ保障の明記とその徹底を求めます。
<説明>
現在、利用者や消費者が問い合わせをする「相談窓口」や「販売申込先」、省庁出先機関等の受付窓口は、電話番号のみの対応が依然として多く存在しています。2021年7月より公共インフラとして「電話リレーサービス」が利用できるようになり、その後、「ヨメテル」のサービスも開始されましたが、それだけではすべてのきこえない・きこえにくい人の対応としては不十分です。そのため、メール・FAX等の複数の手段によるアクセシビリティ保障について、見直しが進められている対応要領・対応指針に明確に記載し、その通りに運用してください。また、問い合わせ手段として、「手話リンク」の利用も検討するよう明記してください。
また、各省庁及び関係機関からの情報発信の際には、きこえない・きこえにくい人の情報アクセシビリティの保障のために手話言語、文字による情報発信も行うことを徹底してください。
(2)公共施設・商業施設等における音声情報の文字化について、具体的に記述してください。
<説明>
平時から音声情報を文字情報にて掲示することで、緊急時には有用な情報源となります。公共施設や商業施設等における音声によるアナウンス情報について、見直しが進められている対応要領・対応指針に「文字表示または手話言語表示」をすることを記載したうえで、その通りに運用してください。
12.公共インフラである日本財団電話リレーサービスによる「電話リレーサービス」や「ヨメテル」、「手話リンク」の利用について、貴省でもご周知ください。
<説明>
電話リレーサービスが本格的に開始されてから5年余りが経ちますが、未だに迷惑電話と間違えられて通話を拒否される、電話に出てもらえないなどの例が続いています。電話リレーサービスは、きこえない・きこえにくい人が使うだけでなく、きこえる人が電話を受け、きこえない・きこえにくい人に電話をかけることもできます。公共インフラとしての機能が果たせるよう、貴省でも管轄の事業者へ周知してください。
以 上