国土交通省にきこえない・きこえにくい者の権利保障に関する要望書を提出
国土交通省に「きこえない・きこえにくい者の権利保障」への要望書を提出しました。
公共交通機関等における無人の施設でも、きこえない人も安心して利用できる仕組みや音声情報を視覚的に把握できるための対応等について、機器開発の際は当事者も参画できるよう要望しました。
改正障害者差別解消法に基づいて指針改正、好事例などの周知などをして、さらなる工夫や検討をしていきたいとの回答がありました。
連本第250216号
2025年7月14日
国土交通大臣
中野 洋昌 様
東京都新宿区原町3-61 桂ビル2階
電話03-6302-1430・Fax 03-6302-1449
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長 石橋 大吾
きこえない・きこえにくい者の権利保障への要望について
時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
日頃より、私どもきこえない・きこえにくい者の社会参加の促進にご理解ご支援を賜り心より感謝申し上げます。
さて当連盟は、2025年6月15日岩手県において開催された第73回全国ろうあ者大会において、きこえない・きこえにくい者の様々な施策等に関する大会決議を行ないました。
近年、「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」の成立や、「改正障害者差別解消法」による合理的配慮の義務化により、情報へのアクセスとコミュニケーションが改善されることが期待されています。また、6月には「手話に関する施策の推進に関する法律(手話施策推進法)」が成立しました。しかしながら、地域によって対応に差があるなど、まだ解決すべき課題が残っています。
つきましては、下記の通り要望いたしますので、すべての国民が安心、安全に生活ができ、社会参加できるよう、早期実現をお願い申し上げます。
記
1.公共交通機関(駅・バス・高速道路等)やコインパーキングや無人駅や無人料金所におけるインターホンによる音声のやり取りについて、きこえない者も安心して利用できる仕組みに改善してほしいと要望を出してきましたが、未だ改善されません。無人化が進むなか、音声でのやりとりのできない者が取り残されてしまいます。鉄道駅バリアフリー料金制度などを活用し、早急に改善してください。また、「好事例」があれば、広く周知してください。
<説明>
利用者が少ない公共交通機関(駅・バス・高速道路等)やコインパーキング等において、自動券売機また精算機等が増加しつつありますが、これらの機械にトラブルが生じたとき、きこえない者はインターホンによる音声やり取りができません。
また、無人駅の自動券売機で障害者割引適用の切符を買う際、インターホンによる音声やり取りで、カメラに障害者手帳をかざす方法になっているため、きこえない者は音声での対応ができません。
インターホンに代わる方法として、遠隔手話通訳の導入やタッチパネルによる文字送信等を導入するなど、情報アクセシビリティの基礎的環境の整備について、引き続き関係会社に働きかけてください。
筆談が可能なモニター付き券売機やETCや料金精算機では、購入までの時間が非常にかかることに加え、コールセンターにつながるまでの順番待ちなど非常に不便な状態です。またトラブル発生時に係員が駆けつけて対応する体制があるところも同じく非常に時間がかかり不便を感じています。
「安全・円滑な駅利用に関するガイド」にはハード対策・ソフト対策一体の環境整備を行うことが重要と掲載されています。ソフト対策をより進め、無人駅ではインターホンにテレビ電話機能をつけ筆談や手話言語によるコミュニケーションが円滑にできる等、きこえない・きこえにくい者のバリアにならないよう鉄道駅バリアフリー料金制度なども活用してください。また、機器開発に際しては、きこえない・きこえにくい当事者の声を取り入れながら進めるようにしてください。
2.「JRの合理的配慮」についてICTの普及や合理化などにより、JRでは、無人駅化、さらにみどりの窓口の縮小による窓口時間の制限で不便が生じています。貴省のバリアフリー法関連の会議では、要望を出していますが、未だ改善や進展が見られないので早急にきこえない者が使える機器の設置や職員への手話言語研修の導入などの改善してください。
<説明>
毎年、全国のきこえない・きこえにくい者から以下の要望が寄せられています。
3.国交省バリアフリー法関連の会議に参加されている交通事業者等をはじめとする各種業界団体と障害者団体の意見交換の場を設けてください。
<説明>
現在、駅の無人化をはじめ様々な委員会において、異なる障害者の立場から意見交換を行っています。意見交換会は、非常に有益ですが、意見交換とともに実際に障害者が実地検証(切符購入方法やトラブルが生じた時の連絡手段等)し、事業者や開発業者にも当事者の困りごとを共有してもらうことがより重要だと考えています。きこえない・きこえにくい当事者としても実際に体験しながら意見交換の場を設けていただくことで、より具体的な提案ができます。交通事業者にそのような手順で意見交換の場を作ってもらえるよう働きかけをしてください。
昨年度も要望を出していますが、上述のような手順で意見交換を行えたのはごく僅かです。実際に、きこえない・きこえにくい当事者団体と実地検証しながら意見交換を行った実績を貴省が把握されていればご教示ください。
≪各省共通項目≫
4.2024年2月16日の「第25回夏季デフリンピック競技大会東京2025に係る閣議了解」を踏まえ、デフリンピックの認知度向上やきこえないことやデフスポーツの普及啓発及び東京2025デフリンピック気運醸成のための全国的な取り組みにご協力をください。
<説明>
2025年11月、東京で、きこえない・きこえにくい者のオリンピック「デフリンピック」が開催されます。しかし、「オリンピック」や「パラリンピック」と比べると、デフリンピックの認知度はまだ低いのが現状です。大会を成功させるだけでなく、デフリンピックを広く知ってもらうことで、きこえない・きこえにくい者を含むすべての人々が共に生きる社会の実現をめざし、大会開催に向けた盛り上がりを高めることが不可欠です。
昨年の人権週間では、東京法務局のイベントでデフリンピックが取り上げられました。同様に、全国各地の貴省のイベント等でも、デフリンピックやデフアスリートを紹介してください。https://www.moj.go.jp/content/001427965.pdf
また、デフリンピックの前後には、多くのきこえない・きこえにくい選手や関係者が国内外から訪れます。省内の関係機関にもこのことを周知し、きこえない・きこえにくい者への対応がスムーズにできるよう、手話言語等の学習機会を設けてください。
5.「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法)」及び「改正障害者差別解消法」施行後の手話通訳派遣について、各省庁や全国自治体の担当部局や団体等において、手話通訳者等を含めた情報アクセシビリティに要する経費の予算措置を義務化するよう、周知ください。
<説明>
上記2法により、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に策定し実施することは、国及び地方公共団体に求められています。加えて、民間企業にも含めたあらゆる機関で、その責任においてアクセシビリティに関する環境整備や合理的配慮を提供することも求められるようになりました。
しかしながら、国や自治体の出先機関を含めた行政機関において、手話通訳等を含めた情報アクセシビリティに関する予算措置がされていないことを理由に、「過重な負担」として手話通訳等の情報保障の配慮を拒否・または手話通訳等を用意できないとして、障害当事者に情報保障を自ら手配させることを要請する例は後を絶ちません。
きこえない・きこえにくい国民が行政を含む公的機関を利用するにあたり、障害を理由とした差別的な取り扱いのない環境整備は当然のこと、合理的配慮の提供は、民間のモデルとなるべきであると考えます。
利用者から手話通訳等の希望に対応できるよう各公的機関で手話通訳等の情報保障の予算は、障害福祉とは別建てで予算化するよう、貴省関係の出先機関を含め、周知徹底ください。
6.改正障害者差別解消法に基づく対応要領・対応指針に以下を加えるよう、検討してください。
(1)事業者や省庁出先機関等から出される情報に、きこえない・きこえにくい者が容易にアクセスできるよう、情報アクセシビリティ保障を進めてください。
<説明>
現在、消費者や利用者が問い合わせをする「相談窓口」「販売申し込み先」、省庁出先機関等の受付窓口は、電話番号のみの対応が多く存在しています。2021年7月からは公共インフラとして電話リレーサービスが利用できるようになりましたが、きこえない・きこえにくい者がアクセスしやすい方法(メール・FAX等)でのアクセシビリティ保障について、見直しが進められている対応要領・対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。
(2)公共施設・商業施設等における音声情報の文字化について、具体的に記述してください。
<説明>
平時から公共施設・商業施設等における音声情報を文字情報にて掲示することで、緊急時にも有用な情報源となります。公共施設や商業施設等における音声によるアナウンス情報について、「文字または手話言語表示」をすることを、見直しが進められている対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。
参考までに、情報アクセシビリティ機器として『アイドラゴン4』があることを申し添えます。https://medekiku.jp/eyedragon/
7.きこえない・きこえにくい者への環境整備や合理的配慮として、手話通訳者等の配置が行われる例が増えていますが、配置する情報保障者の質についても担保できるようにしてください。
<説明>
きこえない・きこえにくい者へのアクセシビリティ保障として手話通訳等の配置がありますが、手話通訳者等の社会的資源は限られているため、環境整備や合理的配慮を要求するきこえない・きこえにくい者のニーズに応えられるだけの十分な人数が確保されにくい状況があります。
社会的な流れにより、行政機関による手話通訳派遣依頼の際、競争入札により手話通訳派遣事業者を選定する例が増えていますが、選定条件の中に、派遣する手話通訳者の質について明記されていることはほとんどなく、機械的に応札額が最も低額であった事業者が選定されているのが現状です。
金額のみで派遣事業者が決定され、派遣された手話通訳者の質が担保されないことで、環境整備や合理的配慮の提供が不十分だった例が生じています。
情報アクセシビリティ・コミュニケーションに関する合理的配慮は、単に提供されるだけでは不十分であり、配慮を必要とする者の希望に沿ったものであり、かつ目的を十分達成できるようなものであるべきです。
配置する手話通訳を含めた情報保障者の質の保障について、十分な配慮を行ってください。
8.2025年6月25日に施行された「手話に関する施策の推進に関する法律」に基づき、貴省における具体的な手話に関する施策の実施について、必要な財政上の措置及び法制上の措置を速やかに講じてください。
<説明>
「手話に関する施策の推進に関する法律」では、国・地方公共団体は、手話に関する施策を総合的に策定・実施する責務を有する他、基本的施策は各省庁横断的なものとなっています。法に基づき貴省における、手話に関する具体的な施策の早急な実施を検討いただき、併せて施策にかかる予算を計上してください。
以 上