スポーツ庁にきこえない・きこえにくい者の権利保障に関する要望書を提出
スポーツ庁に「きこえない・きこえにくい者の権利保障」への要望書を提出しました。
申し入れに対して、スポーツ庁からは、東京2025デフリンピックが終わった後も、デフリンピックの認知度向上および啓発普及のための予算拡充を継続できるよう検討したいとの回答がありました。味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)使用については、東京2025デフリンピックが終わった後も、日本パラリンピック委員会(JPC)に加盟しているデフ競技団体は今後も引き続き使用できることを確認しました。なお、各競技団体の大会開催状況等を鑑み調整するとの回答がありました。手話施策推進法・障害者情報アクセシビリティ施策推進法に則り、スポーツ施設における情報アクセシビリティ整備について改善を求めるとともに、また、第4期スポーツ基本計画策定に向け、スポーツ審議会スポーツ基本計画部会にはきこえない・きこえない委員も参画できるよう、早急の検討をお願いしました。
連本第250215号
2025年7月14日
スポーツ庁長官
室伏 広治 様
東京都新宿区原町3-61 桂ビル2階
電話03-6302-1430・Fax.03-6302-1449
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長 石橋 大吾
きこえない・きこえにくい者の権利保障への要望について
時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
日頃より、私どもきこえない・きこえにくい者の社会参加の促進にご理解ご支援を賜り心より感謝申し上げます。
さて当連盟は、2025年6月15日岩手県において開催された第73回全国ろうあ者大会において、きこえない・きこえにくい者の様々な施策等に関する大会決議を行ないました。
近年、「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」の成立や、「改正障害者差別解消法」による合理的配慮の義務化により、情報へのアクセスとコミュニケーションが改善されることが期待されています。また、6月には「手話に関する施策の推進に関する法律(手話施策推進法)」が成立しました。しかしながら、地域によって対応に差があるなど、まだ解決すべき課題が残っています。
つきましては、下記の通り要望いたしますので、すべての国民が安心、安全に生活ができ、社会参加できるよう、早期実現をお願い申し上げます。
記
1.「第25回夏季デフリンピック競技大会東京2025」後に、そのレガシーを活用し、全国へきこえないことやデフスポーツ、デフリンピックの認知度向上や普及のために、予算の拡充をしてください。
<説明>
2025年11月に東京で開催されるデフリンピックは日本での初開催となります。全国各地にむけたキャラバン活動を含めた気運醸成の取組みに対して大きなお力をお貸しいただき感謝申し上げます。
しかしながら、90%以上の認知度を誇るオリパラと比較し、デフリンピックの認知度は、依然として30%前後と非常に低い状況にあります。
東京2025デフリンピック終了後にも、そのレガシーを引き継ぎ、共生社会の実現をさらに推進させていくためには、きこえないことやデフスポーツ、デフリンピックの認知度向上や普及に取り組まなければなりません。
是非とも、東京2025デフリンピック後にも、その予算の拡充を講じてください。
2.東京2025デフリンピック、国民スポーツ大会、全国障害者スポーツ大会等の開・閉会式や表彰式等で音声言語による『国歌』斉唱の際には、2022(令和4)年5月に施行された障害者情報アクセシビリティ施策推進法の施策として手話言語の「『国歌』を定め、普及してください。
<説明>
きこえない・きこえにくい者が国民の一人として国歌に親しめるように、以前から全国で統一された「国歌の手話言語訳」を定めてほしいと要望をしておりますが、いまだ叶っておりません。
毎年開催される国民スポーツ大会、全国障害者スポーツ大会の開・閉会式や表彰式での国歌斉唱は、ほとんどが音声のみで行われ、手話通訳があったとしても、開催県によって国歌の歌詞の手話表現が異なっています。そのため、デフアスリートやきこえない・きこえにくい観客は、何が歌われているのかわからず、混乱や戸惑いを覚えています。
2020(令和2)年度貴庁委託事業「障害者スポーツ推進プロジェクト(障害者のスポーツ参加促進に関する調査研究)」(スポーツに精通した手話通訳者の育成)の一環で、国歌の手話言語試行版テキストを作成いたしました。
本来であれば確定された国歌の手話言語訳を普及すべきですが、それが確定されない間は、暫定策として手話言語試行版テキストの動画を活用えするようえ、自治体へ通知してください。
3.改正スポーツ基本法 第十二条(スポーツ施設の整備等)の2項の「障害者等の利便性の向上を図るよう努めるものとする」を、「障害者等の利便性やアクセシビリティの向上のための設備や機器導入を促進するため、必要な措置を講じなければならない」としてください。
<説明>
改正スポーツ基本法 第十二条(スポーツ施設の整備等)の2項では「前項の規定によりスポーツ施設を整備するに当たっては、当該スポーツ施設の利用の実態等に応じて、安全の確保を図るとともに、障害者等の利便性の向上を図るよう努めるものとする。」と規定されています。
デフアスリートやきこえない・きこえにくい利用者の利便性の向上のためには、競技における視覚的情報保障機器(スタートランプやフラッシュランプ等)や、受付や観戦における視覚的情報保障機器(音声を文字に変えて表記する機器やアプリ、ソフト等)や手話通訳者の設置があげられます。
しかし、これらが導入されているスポーツ施設はほとんどありません。「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」に基づき、導入を促進するため、「障害者等の利便性の向上を図るよう努めるものとする」を、「障害者等の利便性やアクセシビリティの向上のための設備や機器導入を促進するため、必要な措置を講じなければならない」としてください。
4.改正スポーツ基本法 第二十六条(国民スポーツ大会及び全国障害者スポーツ大会)に全国ろうあ者体育大会を規定する条項を設けてください。
<説明>
夏季デフリンピックの正式競技は現在21競技となっていますが、そのうち、全国障害者スポーツ大会の競技種目に含まれている競技は、陸上・水泳・卓球・バレーボールの4競技のみです。そのため、当連盟スポーツ委員会が実施する夏季・冬季全国ろうあ者体育大会(今後、全国ろう者スポーツ大会に改称予定)は、デフリンピック大会等の国際大会の日本代表選手の選考大会として位置づけられている重要な大会となっています。しかし、全国障害者スポーツ大会は、主催は文部科学省・日本パラスポーツ協会・開催都道府県・政令指定都市等であるのに比して、全国ろうあ者体育大会は当連盟が主催、当連盟加盟団体が主管と独自で運営となっています。
第二十六条に新たに全国ろうあ者大会を規定する条項を設け、全国ろうあ者体育大会(今後、全国ろう者スポーツ大会に改称予定)を加え、国及び開催地都道府県等自治体と当連盟が共同して開催する形にしてください。
また、第三十三条の1項に全国ろうあ者体育大会(今後、全国ろう者スポーツ大会に改称予定)を加え、国の補助を受けられるようにしてください。
5.改正スポーツ基本法 第二十七条(国際競技大会の招致又は開催の支援等)第3項及び第三十三条(国の補助)第3項に、「スポーツ団体を統括する組織」を加えてください。
<説明>
改正スポーツ基本法の条文に「デフリンピック」の文言を含んでいただいたことに対し、感謝申し上げます。
第二十七条第3項において、「国は、公益財団法人日本オリンピック委員会、公益財団法人日本パラスポーツ協会その他のスポーツ団体が行う国際的な規模のスポーツの振興のための事業に関し必要な措置を講ずるに当たっては、当該スポーツ団体との緊密な連絡を図るものとする。」と記載があり、また第三十三条の第3項において、「国は、スポーツ団体であってその行う事業が我が国のスポーツの振興に重要な意義を有すると認められるものに対し、当該事業に関し必要な経費について、予算の範囲内において、その一部を補助することができる。」としています。
しかし、当連盟スポーツ委員会は、選手を直接登録するスポーツ団体ではなく、国内のデフ競技団体を統括する団体であり、これでは国からの支援の対象となりません。
改正スポーツ基本法 第二十七条(国際競技大会の招致又は開催の支援等)第3項及び第三十三条(国の補助)第3項に、「スポーツ団体を統括する組織」を加えてください。
6.第4期スポーツ基本計画に、「デフリンピック」を加えるよう、検討してください。
<説明>
経済財政運営と改革の基本方針2025(骨太方針)、改正スポーツ基本法の条文に「デフリンピック」を含んでいただいたことに対し、感謝申し上げます。
第4期スポーツ基本計画策定に向け、スポーツ審議会スポーツ基本計画部会にはきこえない・きこえない委員も参画できるようにしてください。また、基本計画に「デフリンピック」を加えるとともに、併せて事業実施にかかる予算を計上してください。全国の自治体におけるスポーツ推進計画にも「デフリンピック」を加えるよう、貴庁から働きかけてください。
7.味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)使用について、東京2025デフリンピック後もデフ競技団体が使えるようにしてください。
<説明>
東京2025デフリンピックに向けて、2023年度よりデフ競技団体もNTCを使えるようにしていただいたことに対して、感謝申し上げます。
現在、デフ競技団体も積極的にNTCを活用させていただき、充実した練習環境の下、東京2025デフリンピックに向けて最大の結果を出せるよう取り組んでいるところです。
しかしながら、NTCの使用については東京2025デフリンピックまでと、その期限が限定されています。その制限を外していただき、改正スポーツ基本法にデフリンピックの文言が含まれたことに加え、今後のデフリンピックに向けても最大の結果を残せる練習環境として、NTCの継続使用ができるようにしてください。
≪各省共通項目≫
8.「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法)」及び「改正障害者差別解消法」施行後の手話通訳派遣について、各省庁や全国自治体の担当部局や団体等において、手話通訳者等を含めた情報アクセシビリティに要する経費の予算措置を義務化するよう、周知ください。
<説明>
上記2法により、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に策定し実施することは、国及び地方公共団体に求められています。加えて、民間企業にも含めたあらゆる機関で、その責任においてアクセシビリティに関する環境整備や合理的配慮を提供することも求められるようになりました。
しかしながら、国や自治体の出先機関を含めた行政機関において、手話通訳等を含めた情報アクセシビリティに関する予算措置がされていないことを理由に、「過重な負担」として手話通訳等の情報保障の配慮を拒否・または手話通訳等を用意できないとして、障害当事者に情報保障を自ら手配させることを要請する例は後を絶ちません。
きこえない・きこえにくい国民が行政を含む公的機関を利用するにあたり、障害を理由とした差別的な取り扱いのない環境整備は当然のこと、合理的配慮の提供は、民間のモデルとなるべきであると考えます。
利用者から手話通訳等の希望に対応できるよう各公的機関で手話通訳等の情報保障の予算は、障害福祉とは別建てで予算化するよう、貴省関係の出先機関を含め、周知徹底ください。
9.改正障害者差別解消法に基づく対応要領・対応指針の通り、情報アクセシビリティの保障を推進してください。
(1)事業者や省庁出先機関等から出される情報に、きこえない・きこえにくい者が容易にアクセスできるよう、情報アクセシビリティ保障を進めてください。
<説明>
現在、消費者や利用者が問い合わせをする「相談窓口」「販売申し込み先」、省庁出先機関等の受付窓口は、電話番号のみの対応が存在しています。2021年7月からは公共インフラとして電話リレーサービスが利用できるようになりましたが、きこえない・きこえにくい者がアクセスしやすい方法(メール・FAX等)でアクセシビリティ保障がされるよう、対応要領・対応指針に基づいた運用をしてください。
(2)公共施設・商業施設等における音声情報の文字化について、具体的に記述してください。
<説明>
平時から公共施設・商業施設等における音声情報を文字情報にて掲示することで、緊急時にも有用な情報源となります。公共施設や商業施設等における音声によるアナウンス情報について、「文字または手話言語表示」をすることを、見直しが進められている対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。
参考までに、情報アクセシビリティ機器として『アイドラゴン4』があることを申し添えます。https://medekiku.jp/eyedragon/
10.きこえない・きこえにくい者への環境整備や合理的配慮として、手話通訳者等の配置が行われる例が増えていますが、配置する情報保障者の質についても担保できるようにしてください。
<説明>
きこえない・きこえにくい者へのアクセシビリティ保障として手話通訳等の配置がありますが、手話通訳者等の社会的資源は限られているため、環境整備や合理的配慮を要求するきこえない・きこえにくい者のニーズに応えられるだけの十分な人数が確保されにくい状況があります。
社会的な流れにより、行政機関による手話通訳派遣依頼の際、競争入札により手話通訳派遣事業者を選定する例が増えていますが、選定条件の中に、派遣する手話通訳者の質について明記されていることはほとんどなく、機械的に応札額が最も低額であった事業者が選定されているのが現状です。
金額のみで派遣事業者が決定され、派遣された手話通訳者の質が担保されないことで、環境整備や合理的配慮の提供が不十分だった例が生じています。
情報アクセシビリティ・コミュニケーションに関する合理的配慮は、単に提供されるだけでは不十分であり、配慮を必要とする者の希望に沿ったものであり、かつ目的を十分達成できるようなものであるべきです。
配置する手話通訳を含めた情報保障者の質の保障について、十分な配慮を行ってください。
11.2025年6月25日に施行された「手話に関する施策の推進に関する法律」に基づき、貴省における具体的な手話に関する施策の実施について、必要な財政上の措置及び法制上の措置を速やかに講じてください。
<説明>
「手話に関する施策の推進に関する法律」では、国・地方公共団体は、手話に関する施策を総合的に策定・実施する責務を有する他、基本的施策は各省庁横断的なものとなっています。法に基づき貴省における、手話に関する具体的な施策の早急な実施を検討いただき、併せて施策にかかる予算を計上してください。
以 上