厚生労働省にきこえない・きこえにくい者の権利保障に関する要望書を提出
「手話通訳・要約筆記等担当者助成金」の周知拡大、きこえない個人事業主への支援制度の新設、雇用と福祉の連携(「手話協力員」と「手話通訳者」の名称や制度の見直し)や、日常生活用具の見直し、合理的配慮によって配置された情報保障者の質の担保などを要望しました。
こちらが期待するようなはかばかしい回答は得られませんでした、引き続き機会を作り、要望をしていくようにします。
連本第250211号
2025年7月14日
東京都新宿区原町3-61 桂ビル2階
電話03-6302-1430・Fax 03-6302-1449
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長 石橋 大吾
きこえない・きこえにくい者の権利保障への要望について
時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
日頃より、私どもきこえない・きこえにくい者の社会参加の促進にご理解ご支援を賜り心より感謝申し上げます。
さて当連盟は、2025年6月15日岩手県において開催された第73回全国ろうあ者大会において、きこえない・きこえにくい者の様々な施策等に関する大会決議を行ないました。
近年、「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」の成立や、「改正障害者差別解消法」による合理的配慮の義務化により、情報へのアクセスとコミュニケーションが改善されることが期待されています。また、6月には「手話に関する施策の推進に関する法律(手話施策推進法)」が成立しました。しかしながら、地域によって対応に差があるなど、まだ解決すべき課題が残っています。
つきましては、下記の通り要望いたしますので、すべての国民が安心、安全に生活ができ、社会参加できるよう、早期実現をお願い申し上げます。
記
1.国の行政機関、地方自治体、民間企業すべての法定雇用率制度の徹底を図り、きこえない・きこえにくい者の積極的な採用を行ってください。
(1)国の行政機関、地方自治体、民間企業すべてが法定雇用率を達成するよう、また未達成の団体に対しては法定雇用率を遵守するよう、雇用率のアップを図ってください。
また採用後の職場定着支援についても国の行政機関、地方自治体、民間企業の隔てなく採用された障害者が長く働けるよう支援体制を構築してください。
<説明>
2024(令和6)年12月発表の民間企業における実雇用率は2.41%(前年比0.08ポイント上昇)となりましたが、法定雇用率達成の企業割合は46%、と対前年比4.1ポイント低下しています。すべての民間企業が法定雇用率を遵守するよう、対策を講じてください。
また、官公庁や地方自治体でも、障害者雇用率の未達成とならないよう、雇用率アップを図ってください。
きこえない・きこえにくい者の職場での情報アクセスの保障やコミュニケーション・意思疎通の保障や職場環境作りについては、国が率先して範を示していただき、貴省をはじめとする各省庁、地方自治体、民間企業において、きこえない・きこえにくい者への理解を促進するとともに、民間企業に派遣されているジョブコーチのような支援体制も公務部門に構築し長く働ける職場環境を作ってください。
国の行政機関における障害者別(身体障害種別も明記)の採用状況とそれら定着率もご教示ください。
(2)ろう重複障害者(盲ろう者含む)の就業について、一日も早くろう重複障害者の働く場の保障に関する施策を講じるようにしてください。
<説明>
厚生労働省の施策として、「福祉的就労」から「一般就労」へ促すようになっていると思います。しかし、ろう重複障害者の就労状況は依然として厳しい現況です。ろう重複障害者の就労をスムーズに進めるために、適切な就労支援施策を講じてください。
(3)2020(令和2)年に実施された「地方公共団体における障害者差別禁止及び合理的配慮の提供義務に関する実態調査」の結果を踏まえ、その後の実態把握および改善について、地方公共団体へ支援できるよう体制の構築をしてください。
<説明>
2019(令和元)年の障害者雇用促進法改正の附帯決議にある、地方公共団体における障害者差別禁止・合理的配慮の提供の実態把握と公表に基づき、2020(令和2)年に実態調査が行われました。この調査結果では、「職場における合理的配慮の提供に問題がある」と回答があり、地方公共団体へコミュニケーションの工夫や障害理解等の改善を通知いただくとともにその支援ができる体制の構築をしてください。
2.貴省の所管である、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者介助等助成金による「手話通訳・要約筆記等担当者助成金」の一層の拡充と、事業所や職業安定所に対し利用の周知徹底を図ってください。
毎年、要望交渉時には「助成金制度の周知をしている」と回答がありますが、利用状況が0件の地域が多くあります。申請手続きのしやすさ、利用者ニーズとのマッチング等、利用されない原因を把握し、また、以下も含めた改善をしてください。
(1)助成金の支給限度額は2024(令和6)年度より改善されましたが、手話通訳・要約筆記担当者等の配置または委嘱にかかる費用の全てに対して助成するようにしてください。
(2)助成金の支給期間については、2025(令和7)年度より継続措置が設けられたことにより延長された形になっていますが、手話通訳・要約筆記担当者の配置または委嘱の必要性が続く限り継続的に利用できるように改正してください。
(3)手話通訳・要約筆記担当者の配置・委嘱を補う手段として、「音声認識アプリ等」を使用する職場が増えていますが、その利用に対する費用について「障害者作業施設設置等助成金(第1種)」の対象とするなど、合理的配慮が促進できるようにしてください。
3.個人事業主もしくは被用者である障害者が就労上の業務遂行において必要となるサポートを提供するための経済的あるいは人的な支援制度(障害者業務遂行支援制度)を新設してください。
<説明>
現行の制度では、自営の障害者が就労上必要なサポートを確実に利用できるシステムがありません。障害者総合支援法に基づく自治体による福祉サービスとしての各種事業は提供主体である自治体の判断により利用範囲が制限され、ニーズにそぐわない結果となることが多いこと、また、障害者雇用納付金制度は利用主体が企業であり、障害者はその客体であって利用するかどうかは企業の判断次第となること等の課題があり、必ずしも障害者の就労促進に繋がっていないという実態があります。事業所における合理的配慮を促進するという観点から、障害者の意思で業務遂行上のニーズに応じて必要な支援を提供する、就労に特化した制度の創設をしてください。
4.ろう者等ワークライフ支援事業を国の制度として新設してください。
<説明>
現在、大阪府の独自事業として実施されている「聴覚障害者等ワークライフ支援事業」は、就職前後のろう者等(重複聴覚障害者を含む)に対して、個々のニーズに応じた雇用・労働相談・支援を行い、ろう者等の職場定着に成果を上げています。他の障害者と比較して、ろう者等への支援体制が少なく、就労面での相談支援機能の充実は不可欠です。大阪府で実施しているワークライフ事業の実態を視察したうえで、国の制度として実施してください。また地方の好事例を積極的に周知するようにしてください。
5.きこえない・きこえにくい者の職場定着を確実なものとしていくために、コミュニケーションや意思疎通に不安を感じることなく、職場定着指導や職業相談などが受けられるよう、ジョブコーチの条件に「手話言語ができる」ことを明記し、ジョブコーチ養成のカリキュラムに「手話言語」を取り入れてください。
<説明>
現在、手話言語ができるジョブコーチが非常に少なく、きこえない・きこえにくい者に対する支援が十分にできていません、手話通訳を介すのではなく手話言語のできるジョブコーチの育成が必要です。今般開催された「職場適応援助者の育成・確保に関する作業部会」等において、手話言語ができるジョブコーチの養成について議論し、資格化に向けた検討をしてください。
6.きこえない・きこえにくい者が安心して利用するために、全国に約300ヶ所設置されている障害者就業・生活支援センターに手話通訳者を配置できるよう予算措置を講じてください。
<説明>
きこえない・きこえにくい者にとって、公的な就労相談の場である障害者就業・生活支援センターでは、筆談対応を中心とした支援が多く、手話言語を第一言語とする者にとっては利用しにくく、相談支援機能が十分に果たされているとは言えません。貴省から、障害者就業・生活支援センターに対し、手話通訳者の配置についてどのような形で通知をしているかお聞かせください。委託費から手話通訳の雇用は可能であることを周知いただくとともに、きこえない・きこえにくい者の特性を理解した手話通訳者の配置を促すような予算措置を講じてください。
7.貴省の労働政策審議会 (障害者雇用分科会)の委員にきこえない者を加えてください。
<説明>
労働政策審議会障害者雇用分科会には身体障害のうち視覚障害、肢体不自由の委員はいらっしゃいますが、きこえない委員がおらず、その意見や状況が障害者の労働施策に反映されにくい状況です。貴省の社会保障審議会 (障害者部会)と同様にきこえない委員を加えてください。また、委員として加えられない理由と何が改善されれば参加することができるのかもご教示ください。
加えて、介護保険部会、医療保険部会等でも、きこえない委員を入れてください。
8.地域生活定着支援センターに手話通訳、要約筆記者を配置できるよう予算措置を講じてください。
<説明>
過去に行われた調査でも地域生活定着支援センターでは、きこえない・きこえにくい者の障害特性を認識できていない、関係機関との連携が取れていないとの課題が明らかになっています。
きこえない・きこえにくい者に、適切な支援を行うには、地域生活定着支援センターの支援の説明や特別調整において、手話通訳の派遣を含めた情報保障が不可欠です。
地域生活定着促進事業には情報保障費が予算化されていないこともあり、同センターがきこえない・きこえにくい者へ入所中から出所後にかけて十分な支援を展開することが難しい現状があります。きこえない・きこえにくい者が更生・出所をする過程に手話通訳は欠かせません。筆談等でコミュニケーションをとるのではなく、本人が希望する方法でコミュニケーションできる仕組み及び予算措置を講じてください。
9.1973年より手話協力員は「手話協力員設置要綱」を基に運用されていますが、交通費の支給や報酬、その業務内容および時間等、抜本的な要綱の見直しを進めてください。
<説明>
2018年に予算が増額されましたが、ハローワークにおける協力員の設置時間は十分とはいえません。また近年の物価上昇にともなう生活費の高騰により、協力員の報酬水準も現状に見合っておらず、早急な見直しが求められます。
加えて、手話協力員の高齢化が進んでおり、抜本的な見直しを行わない限り、これ以上の人材確保は困難です。早急に抜本的な要綱の見直しを進めてください。
10.資格取得等の研修に、きこえない・きこえにくい者をはじめとした障害のある人が対等に学べるよう施策を構築してください。
<説明>
合理的配慮の提供義務化に伴い、資格取得の研修時における情報保障費は主催者の原則負担が前提になります。これは、研修等の主催者の情報保障に対する理解や予算に準じることとなり、過重な負担であると受け止められた場合には、きこえない者の学びの場や情報量が減少し、きこえる者との間に更に格差が生まれることとなります。
きこえる者と同等に学びの場が保障されるよう必要な予算措置または、助成制度を講じてください。
11.日常生活用具の給付品目について、デジタル社会に合致した品目を全国でバラつきなく給付できるようにしてください。また給付品目、耐用年数や給付対象者の基準及び基準の価格等の見直しもあわせておこなってください。
<説明>
デジタル社会に合致した給付品目の見直し、またそれらの耐用年数も10年ではなく、以前のように5年に戻してください。耐用年数が10年では、10年以内に故障したときに修理費が全額自己負担になってしまい、低所得者は買い直すことが出来ません。
また、聴力障害2級は両耳100dB以上、聴力障害3級は両耳90dB以上聞こえないという条件で交付していますが、どちらも目覚まし時計(最大100dB)をほぼ聞き取れません。「聴力と生活の影響」と「給付の基準」が合致していないので、見直しをしてください。また本人の生活状況を鑑みた上で給付の判断をするように改めて周知してください。
12.意思疎通支援事業の一つである手話通訳者設置事業において、手話通訳の設置及び雇用の拡充が重要であることを、自治体へ改めて周知してください。
<説明>
手話通訳者設置事業は市町村の必須事業となっていますが、平均実施率はまだ約40%(2023(令和5)年度実績)と低いままになっています。きこえない・きこえにくい者が手話通訳を介して、自己選択、自己決定をするために、相談、生活支援などの様々な支援を必要とするきこえない・きこえにくい者等も少なくありません。そのため、単に音声言語と手話言語の置き換えだけの通訳にとどまらず、必要に応じて様々な関係機関とつなぐという重要な役割もあります。
しかしながら、現状では前述の通り実施率が低いこと、また、実施市町村の中でも手話通訳者の資格を有しない人がその職に就いている事例や有資格者であっても、多くが非正規(会計年度任用職員制度)雇用です。増え続ける手話通訳ニーズに応えていくためにも、安心して働き続けることができる労働環境の改善も必要です。
手話通訳者設置事業を実施していない自治体に対しては事業実施を促進し、事業を実施している自治体に対しては、設置通訳者の労働条件を含め、その地域での設置事業の制度の更なる拡充を推進してください。
なお、2017年(平成29)年度から、手話通訳を設置できない自治体において、遠隔手話通訳の導入が認められるようになりましたが、手話通訳者設置事業および派遣事業の補完的な役割を担うものであり、代替手段ではないことを各自治体に改めて周知をお願いいたします。
13.感染対策や災害時に対応する遠隔手話通訳の安定的運用を進めるため、運用経費について継続的な予算措置をしてください。また、現在対象外となっている人件費やランニングコストについても、意思疎通支援事業の対象とするようにしてください。
<説明>
新型コロナウイルス感染症対策の際に、遠隔手話通訳の環境整備のための補正予算を組んでいただきましたが、初期費用の他に、システム保守などのランニングコストがかかるため導入を見送るというケースがあり、地域格差を生む要因となってしまいます。また、遠隔手話通訳を担う手話通訳者の報酬や、コーディネートを行う職員の人件費が対象外となっていることが課題です。
今後も様々な場面において遠隔手話通訳の必要性が見込まれることから、遠隔手話通訳のランニングコストについて、継続的な予算措置を講じてください。
また、感染症対策や災害時の対応としての遠隔手話通訳を考えた時、地域の状況を把握している設置手話通訳者または登録手話通訳者が通訳を担うことが望ましいと考えます。そのため、民間企業への遠隔手話通訳の委託ではなく、地域の手話通訳者が担う仕組みの周知を図ってください。
14.障害者差別解消法が改正され、2024年4月より民間事業者の合理的配慮の提供が義務化されました。これを理由に、地域生活支援事業(意思疎通支援事業)の手話通訳派遣事業の縮小や派遣止めを行い、それによってきこえない・きこえにくい者が困るということが生じないよう自治体に周知をしてください。
<説明>
2024年4月1日より、民間事業者の合理的配慮の提供が義務化されました。しかしながら、差別解消法やきこえない・きこえにくい者についての理解はまだ十分浸透しておらず、過重な負担等を理由に、きこえない・きこえにくい者に必要な情報保障がされないことが生じています。法律の理念が周知され、一定の理解が進むまでは、従来通り、地域生活支援事業(意思疎通支援事業)で、ケースに応じた柔軟な派遣や、民間事業者に合理的配慮について説明するなどの対応を行うよう自治体に通知を出してください。
15.きこえない・きこえにくい者が手話通訳者を担えるようその養成(・認定)や派遣に関する事業を地域生活支援事業(意思疎通支援事業)に組み込むことを検討してください。
<説明>
「ろう者による通訳」は以前からみかけることはありましたが、東京パラリンピックの開閉会式の中継(NHKEテレ)で、ろう者が手話通訳を担ったことにより、全国的に存在が知られるようになりました。このことを受け、「ろう者による通訳」の実施状況について調査した結果、舞台やTVだけでなく、医療や相談の現場において、きこえる通訳では伝え切れない内容を「ろう者による通訳」が代わりに伝えるというケースが多々あることがわかりました。また「東京2025デフリンピック」では、実際にろう者が国際手話通訳を担います。このことから「ろう者による通訳」のニーズは高く、ろう者の情報アクセシビリティ・コミュニケーションの保障の促進のためには必要不可欠であると言えます。
きこえる通訳は公的な養成・認定・派遣の制度が確立しているのに対し、ろう者の通訳には確立されたものはなく、これまでは養成のみを一部の民間団体が行っていましたが、連盟でも「ろう者による通訳」の検討会を立ち上げ、養成方法などの検討を始めました。手話通訳の高齢化や少子化が進む中、新しい社会資源としてのろう者の通訳の養成・認定・派遣の検討は早急に検討すべき課題です。この機会に、現状の通訳制度に組み込めるよう検討をしてください。
≪各省共通項目≫
16.2024年2月16日の「第25回夏季デフリンピック競技大会東京2025に係る閣議了解」を踏まえ、デフリンピックの認知度向上やきこえないことやデフスポーツの普及啓発及び東京2025デフリンピック気運醸成のための全国的な取り組みにご協力をください。
<説明>
2025年11月、東京で、きこえない・きこえにくい者のオリンピック「デフリンピック」が開催されます。しかし、「オリンピック」や「パラリンピック」と比べると、デフリンピックの認知度はまだ低いのが現状です。大会を成功させるだけでなく、デフリンピックを広く知ってもらうことで、きこえない・きこえにくい者を含むすべての人々が共に生きる社会の実現をめざし、大会開催に向けた盛り上がりを高めることが不可欠です。
昨年の人権週間では、東京法務局のイベントでデフリンピックが取り上げられました。同様に、全国各地の貴省のイベント等でも、デフリンピックやデフアスリートを紹介してください。https://www.moj.go.jp/content/001427965.pdf
また、デフリンピックの前後には、多くのきこえない・きこえにくい選手や関係者が国内外から訪れます。省内の関係機関にもこのことを周知し、きこえない・きこえにくい者への対応がスムーズにできるよう、手話言語等の学習機会を設けてください。
17.「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法)」及び「改正障害者差別解消法」施行後の手話通訳派遣について、各省庁や全国自治体の担当部局や団体等において、手話通訳者等を含めた情報アクセシビリティに要する経費の予算措置を義務化するよう、周知ください。
<説明>
上記2法により、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に策定し実施することは、国及び地方公共団体に求められています。加えて、民間企業にも含めたあらゆる機関で、その責任においてアクセシビリティに関する環境整備や合理的配慮を提供することも求められるようになりました。
しかしながら、国や自治体の出先機関を含めた行政機関において、手話通訳等を含めた情報アクセシビリティに関する予算措置がされていないことを理由に、「過重な負担」として手話通訳等の情報保障の配慮を拒否・または手話通訳等を用意できないとして、障害当事者に情報保障を自ら手配させることを要請する例は後を絶ちません。
きこえない・きこえにくい国民が行政を含む公的機関を利用するにあたり、障害を理由とした差別的な取り扱いのない環境整備は当然のこと、合理的配慮の提供は、民間のモデルとなるべきであると考えます。
利用者から手話通訳等の希望に対応できるよう各公的機関で手話通訳等の情報保障の予算は、障害福祉とは別建てで予算化するよう、貴省関係の出先機関を含め、周知徹底ください。
18.改正障害者差別解消法に基づく対応要領・対応指針の通り、情報アクセシビリティの保障を推進してください。
(1)事業者や省庁出先機関等から出される情報に、きこえない・きこえにくい者が容易にアクセスできるよう、情報アクセシビリティ保障を進めてください。
<説明>
現在、消費者や利用者が問い合わせをする「相談窓口」「販売申し込み先」、省庁出先機関等の受付窓口は、電話番号のみの対応が存在しています。2021年7月からは公共インフラとして電話リレーサービスが利用できるようになりましたが、きこえない・きこえにくい者がアクセスしやすい方法(メール・FAX等)でアクセシビリティ保障がされるよう、対応要領・対応指針に基づいた運用をしてください。
(2)公共施設・商業施設等における音声情報の文字化について、具体的に記述してください。
<説明>
平時から公共施設・商業施設等における音声情報を文字情報にて掲示することで、緊急時にも有用な情報源となります。公共施設や商業施設等における音声によるアナウンス情報について、「文字または手話言語表示」をすることを、見直しが進められている対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。
参考までに、情報アクセシビリティ機器として『アイドラゴン4』があることを申し添えます。https://medekiku.jp/eyedragon/
19.きこえない・きこえにくい者への環境整備や合理的配慮として、手話通訳者等の配置が行われる例が増えていますが、配置する情報保障者の質についても担保できるようにしてください。
<説明>
きこえない・きこえにくい者へのアクセシビリティ保障として手話通訳等の配置がありますが、手話通訳者等の社会的資源は限られているため、環境整備や合理的配慮を要求するきこえない・きこえにくい者のニーズに応えられるだけの十分な人数が確保されにくい状況があります。
社会的な流れにより、行政機関による手話通訳派遣依頼の際、競争入札により手話通訳派遣事業者を選定する例が増えていますが、選定条件の中に、派遣する手話通訳者の質について明記されていることはほとんどなく、機械的に応札額が最も低額であった事業者が選定されているのが現状です。
金額のみで派遣事業者が決定され、派遣された手話通訳者の質が担保されないことで、環境整備や合理的配慮の提供が不十分だった例が生じています。
情報アクセシビリティ・コミュニケーションに関する合理的配慮は、単に提供されるだけでは不十分であり、配慮を必要とする者の希望に沿ったものであり、かつ目的を十分達成できるようなものであるべきです。配置する手話通訳を含めた情報保障者の質の保障について、十分な配慮を行ってください。
20.2025年6月25日に施行された「手話に関する施策の推進に関する法律」に基づき、貴省における具体的な手話に関する施策の実施について、必要な財政上の措置及び法制上の措置を速やかに講じてください。
<説明>
「手話に関する施策の推進に関する法律」では、国・地方公共団体は、手話に関する施策を総合的に策定・実施する責務を有する他、基本的施策は各省庁横断的なものとなっています。法に基づき貴省における、手話に関する具体的な施策の早急な実施を検討いただき、併せて施策にかかる予算を計上してください。
以 上