法務省に「きこえない・きこえにくい者の福祉施策」への要望書を提出

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連本第240287号
2024年7月16日

法務大臣
 小泉 龍司 様

東京都新宿区原町3-61 桂ビル2階
電話03-6302-1430・Fax 03-6302-1449
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長 石橋 大吾

きこえない・きこえにくい者の福祉施策への要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私どもきこえない・きこえにくい者の社会参加促進にご理解ご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 さて当連盟は、本年6月9日和歌山県において開催された第72回全国ろうあ者大会にて、きこえない・きこえにくい者の様々な施策等に関する大会決議を行ないました。
 「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」の成立や、「改正障害者差別解消法」で合理的配慮の提供が義務となり、情報の取得やアクセスが容易になっていくことが期待されているところです。しかしながら、その対応については地域差がある等、まだまだ改善すべき課題は残っております。
 つきましては、下記の通り要望いたしますので、すべての国民が安心、安全に生活ができるよう、早期実現をお願い申し上げます。

1.裁判所等の司法への手話言語によるアクセスを保障することを求めます。
<説明>
 現在、民事裁判における手話言語通訳派遣費用は訴訟費用として扱われ、基本的に敗訴した人が負担することになっているため、手話言語を必要とする者が民事裁判に参加することに躊躇してしまうことが考えられます。また、裁判傍聴における手話言語通訳派遣の環境整備が不十分で、傍聴にも参加しづらい状況です。
 憲法第32条の「国民の裁判を受ける権利の保障」を実現するために、手話言語通訳者等の派遣が必須です。ろう者の権利救済と人権擁護に欠くことができない司法へのアクセスを保障できるよう、手話言語通訳者等の派遣を含めた情報アクセシビリティに関する経費を予算化してください。

2.国内の刑務所、少年刑務所及び拘置所並びに少年院、少年鑑別所、婦人補導院等でのきこえない・きこえにくい人への情報・コミュニケーション保障の実態を教えてください。あわせて各刑務所へ「法務省における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領」に沿った合理的配慮の提供について周知してください。
<説明>
 現在、日本国内においてきこえない・きこえにくい人が刑務所に入った場合、刑務官等からの合図や発言等に対して、きこえないことに伴う配慮がなされているかお聞きします。これまで、他の囚人の動きをみて自分の行動を決めた、何を言っているのかわからないまま時間を過ごしたという話を聞いています。更正教育の意味をなさないまま、服役していたことになります。
 国内においては、1995年(平成7年)に刑法40条「?唖者ノ行為ハ之ヲ罰セス又ハ其刑ヲ減軽ス」が削除されるまで、きこえない・きこえにくい人に対して刑務所内において十分な更生教育が受けられるように考えていたのか懸念があります。
 刑法40条が削除されてから約20年ですが、現在の刑務所、少年刑務所及び拘置所並びに少年院、少年鑑別所、婦人補導院等において、きこえない・きこえにくい人への対応実績について把握しているご教示いただきたいと思います。
 あわせて、法務省の「法務省における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領」では、対象者が望むコミュニケーション手段での合理的配慮が求められることについて、刑務所、少年刑務所及び拘置所並びに少年院、少年鑑別所、婦人補導院等に周知をお願いします。

<<各省庁共通項目>>
1.「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法)」及び「改正障害者差別解消法」施行後の手話通訳派遣について、各自治体の担当部局や団体等で通訳者に要する経費の予算措置を明文化するよう、貴省からも周知ください。
<説明>
 上記2法により、国及び地方公共団体は、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に策定、並びに実施することのみならず、民間企業も合理的配慮の提供が義務となるなど、障害のある人の社会参加がしやすくなります。
 これらの法律では、当事者が手話通訳を手配する福祉的な側面からのアプローチではなく、あらゆる公的機関で、その機関の責任においてアクセシビリティに関する環境整備や合理的配慮を提供することを求めています。
 にもかかわらず、国や自治体の出先機関を含めた行政機関において、手話通訳等を含めた情報アクセシビリティに関する予算措置がされていないことを理由に、「過重な負担」として手話通訳等の情報保障の配慮を拒否・または手話通訳等を用意できないとして、障害当事者に情報保障を自ら手配させることを要請する例は後を絶ちません。
 きこえない・きこえにくい国民が行政を含む公的機関を利用するにあたり、障害を理由とした差別的な取り扱いのない環境整備は当然のこと、合理的配慮の提供は、民間のモデルとなるべきであると考えます。
 利用者から手話通訳等の希望に対応できるよう各公的機関で手話通訳等の情報保障の予算は、障害福祉とは別建てで予算化するよう、貴省から関係の出先機関を含め、地方自治体部局へ周知徹底ください。

2.改正障害者差別解消法に基づく対応要領・対応指針に以下を加えるよう、検討してください。
(1)事業者や省庁出先機関等から出される情報に、きこえない・きこえにくい人が容易にアクセスできるよう、情報アクセシビリティ保障を進めてください。
<説明>
 現在、消費者や利用者が問い合わせをする「相談窓口」「販売申し込み先」、省庁出先機関等の受付窓口は、電話番号のみの対応が多く存在しています。2021年7月からは公共インフラとして電話リレーサービスが利用できるようになりましたが、きこえない・きこえにくい人がアクセスしやすい方法(メール・FAX等)でのアクセシビリティ保障について、見直しが進められている対応要領・対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。

(2)公共施設・商業施設等における音声情報の文字化について、具体的に記述してください。
<説明>
 平時から公共施設・商業施設等における音声情報を文字情報にて掲示することで、緊急時にも有用な情報源となります。公共施設や商業施設等における音声によるアナウンス情報について、「文字または手話言語表示」をすることを、見直しが進められている対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。

3.きこえない・きこえにくい人への環境整備や合理的配慮として、手話通訳者等の配置が行われる例が増えていますが、配置する情報保障者の質についても担保できるようにしてください。
<説明>
 きこえない・きこえにくい人へのアクセシビリティ保障として手話通訳等の配置がありますが、手話通訳者等の社会的資源は限られているため、環境整備や合理的配慮を要求するきこえない・きこえにくい人のニーズに応えられるだけの十分な人数が確保されにくい状況があります。
 社会的な流れにより、行政機関による手話通訳派遣依頼の際、競争入札により手話通訳派遣事業者を選定する例が増えていますが、選定条件の中に、派遣する手話通訳者の質について明記されていることはほとんどなく、機械的に応札額が最も低額であった事業者が選定されているのが現状です。
 金額のみで派遣事業者が決定され、派遣された手話通訳者の技術が担保されないことで、環境整備や合理的配慮の提供が不十分だった例が生じています。
 情報アクセシビリティは、単に提供されるだけでは不十分であり、提供される配慮が障害者の希望に沿ったものであり、かつ目的を十分達成できるようなものであるべきです。
 配置する手話通訳を含めた情報保障者の質の保障ついて、十分な配慮を行ってください。

以 上

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