スポーツ庁に「きこえない・きこえにくい者のスポーツ施策」への要望書を提出
スポーツ庁に「きこえない・きこえにくい者のスポーツ施策」への要望書を提出しました。
申し入れに対して、スポーツ庁からは、競技別手話言語通訳ガイドの作成やデフスポーツ現場における情報保障のためにスタートランプや通訳者配置などの推進、またきこえない人がスポーツを楽しめるよう情報アクセシビリティに関する環境整備や合理的配慮が適切に提供されるよう、対応指針の周知を図っていきたいとの回答でした。
来年の東京2025デフリンピックを見据えた全国での気運醸成およびスポーツ基本法の改正等について、意見交換を行いました。
連本第240281号
2024年7月16日
スポーツ庁長官
室伏 広治 様
東京都新宿区原町3-61 桂ビル2階
電話03-6302-1430・Fax 03-6302-1449
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長 石橋 大吾
きこえない・きこえにくい者のスポーツ施策への要望について
時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
日頃より、きこえない・きこえにくい者のスポーツ(以下、「デフスポーツ」という)の普及周知や発展向上にご理解ご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
障害者権利条約および一昨年5月に制定された障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法では、障害をもつ者があらゆる分野や場面、そしてスポーツ活動にも平等に参加できるよう、情報の十分な取得利用や円滑な意思疎通に係る施策の推進や実施することとしています。
つきましては、デフスポーツに係る施策の更なる推進を下記の通り要望いたします。
記
1.「2024年2月16日に「第25回夏季デフリンピック競技大会東京2025に係る閣議了解について」を踏まえ、全国へのきこえないことやデフスポーツ、デフリンピックの認知度向上や普及、東京2025デフリンピック気運醸成のための予算増加を講じてください。
<説明>
東京2025デフリンピックの成功のためには、国民や社会へのデフリンピックの認知度向上や大会開催への気運醸成が必要不可欠となります。
2020東京オリンピック・パラリンピックのレガシーを引き継ぎ、共生社会の実現をさらに推進させていくためには、きこえないことやデフスポーツ、デフリンピックの認知度向上や普及に取り組まなければなりません。
私たちが推進するきこえないことやデフスポーツ、デフリンピックの認知度向上や普及、東京2025デフリンピック気運醸成の事業への補助を講じてください。まず、未来の担い手でもある子どもたちにデフリンピックやデフスポーツを知ってもらい、また、きこえないこと手話言語を学ぶことを通して、認知度向上や共生社会の実現につなげるため、デフスポーツやデフリンピックの啓発のための学校教材を制作、また補助を行ってください。併せて、「2024年パリオリンピック・パラリンピック競技大会
に向けた「パリ重点支援競技」の選定について」と同様に来年開催される東京2025デフリンピックに向けた「東京重点支援競技」の選定を検討してください。
2.東京2025デフリンピック、国民体育大会、全国障害者スポーツ大会等の開・閉会式や表彰式等で音声言語による『国家』斉唱の際には、令和4年5月に施行された障害者情報アクセシビリティ施策推進法の施策として手話言語の「『国歌』を普及してください。
<説明>
きこえない者が国民の一人として国歌に親しめるように、何年も前から全国統一の「国歌の手話言語訳」を定めてほしいと政府へ要望を続けておりますが、いまだ叶っておりません。
毎年開催される国民体育大会、全国障害者スポーツ大会の開・閉会式や表彰式でも国歌斉唱を見ますと、開催県によって国歌の歌詞の手話表現が異なっています。そのため、デフアスリートやきこえない・きこえにくい観客は、何が歌われているのかわからず、混乱や戸惑いを与えています。
令和2年度貴庁委託事業「障害者スポーツ推進プロジェクト(障害者のスポーツ参加促進に関する調査研究)」(スポーツに精通した手話言語通訳者の育成)の一環で、国歌の手話言語試行版テキストを作成いたしました。
国民体育大会、全国障害者スポーツ大会等の開・閉会式や表彰式等では、障害者情報アクセシビリティ施策推進法の施策として国家の手話言語試行版テキストの動画を活用するよう、自治体へ通知してください。
3.スポーツ基本法(基本理念)第二条の6項に記載されている「国際競技大会」の例示にデフリンピックとスペシャルオリンピックスを加えてください。
<説明>
IOC(国際オリンピック委員会)が公認する国際競技大会は、オリンピック、パラリンピック、デフリンピック、スペシャルオリンピックスの4つの大会となっています。しかし、第二条の6項では、「国際競技大会(オリンピック競技大会、パラリンピック競技大会その他の国際的な規模のスポーツの競技会をいう。オリンピックとパラリンピックのみが強調されています。そのため、自治体や企業等にはデフリンピックやスペシャルオリンピックスへの理解や関心が深まらず、デフアスリートの競技環境の向上が進まない状況です。
国際競技大会の例示に「デフリンピック競技大会、スペシャルオリンピックス競技大会」を加えてください。
4.スポーツ基本法(スポーツ施設の整備等)第十二条の2項の「障害者等の利便性の向上を図るよう努めるものとする」を、「障害者等の利便性やアクセシビリティの向上のための設備や機器導入を促進するため、に必要な措置を講じなければならない」としてください。
<説明>
前項の規定によりスポーツ施設を整備するに当たっては、当該スポーツ施設の利用の実態等に応じて、安全の確保を図るとともに、障害者等の利便性の向上を図るよう努めるものとする。」と規定されています。
デフアスリートやきこえない利用者の利便性の向上のためには、競技における視覚的情報保障機器(スタートランプやフラッシュランプ等)や、受付や観戦における視覚的情報保障機器(音声を文字に変えて表記する機器やアプリ、ソフト等)や手話言語通訳者の設置があげられます。
しかし、ほとんどのスポーツ施設では、情報保障機器等はバリアフリー法で設置が明記されていないことにより、これらが導入されているところはほとんどありません。導入を促進するため、「障害者等の利便性の向上を図るよう努めるものとする」を、「障害者等の利便性やアクセシビリティの向上のための設備や機器導入を促進するため、に必要な措置を講じなければならない」としてください。
5.スポーツ基本法(国民体育大会及び全国障害者スポーツ大会)第二十六条に全国ろうあ者体育大会を規定する条項を設けてください。
<説明>
夏季デフリンピックの正式競技は現在21競技となっていますが、そのうち、全国障害者スポーツ大会の競技種目に含まれている競技は、陸上・水泳・卓球・バレーボールの4競技のみです。そのため、当連盟スポーツ委員会が実施する夏季・冬季全国ろうあ者体育大会(今後、全国ろう者スポーツ大会に改称予定)は、デフリンピック大会等の国際大会の日本代表選手の選考大会として位置づけられている重要な大会となっています。しかし、全国障害者スポーツ大会は、主催は文部科学省・日本パラスポーツ協会・開催都道府県・政令指定都市等であるのに比して、全国ろうあ者体育大会は当連盟が主催、当連盟加盟団体が主管と独自で運営となっています。
第二十六条に新たに全国ろうあ者大会を規定する条項を設け、全国ろうあ者体育大会(今後、全国ろう者スポーツ大会に改称予定)を加え、国及び開催地都道府県等自治体と当連盟が共同して開催する形にしてください。
また、第三十三条の1項に全国ろうあ者体育大会(今後、全国ろう者スポーツ大会に改称予定)を加え、国の補助を受けられるようにしてください。
6.スポーツ基本法(国際競技大会の招致又は開催の支援等)第二十七条第2項及び(国の補助)第三十三条第3項に、「統括団体」を加えてください。
<説明>
第二十七条第2項において、「国は、公益財団法人日本オリンピック委員会、財団法人日本障害者スポーツ協会その他のスポーツ団体が行う国際的な規模のスポーツの振興のための事業に関し必要な措置を講ずるに当たっては、当該スポーツ団体との緊密な連絡を図るものとする。」また、第三十三条の第3項において、「国は、スポーツ団体であってその行う事業が我が国のスポーツの振興に重要な意義を有すると認められるものに対し、当該事業に関し必要な経費について、予算の範囲内において、その一部を補助することができる。」としています。しかし、当連盟スポーツ委員会は、選手を直接登録するスポーツ団体ではなく、国内のデフ競技団体を統括する団体であり、これでは国からの支援の対象となりません。
スポーツ基本法(国際競技大会の招致又は開催の支援等)第二十七条第2項及び(国の補助)第三十三条第3項に、「統括団体」を加えてください。
<<各省庁共通項目>>
7.「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法)」及び「改正障害者差別解消法」施行後の手話通訳派遣について、各自治体の担当部局や団体等で通訳者に要する経費の予算措置を明文化するよう、貴省からも周知ください。
<説明>
上記2法により、国及び地方公共団体は、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に策定、並びに実施することのみならず、民間企業も合理的配慮の提供が義務となるなど、障害のある人の社会参加がしやすくなります。
これらの法律では、当事者が手話通訳を手配する福祉的な側面からのアプローチではなく、あらゆる公的機関で、その機関の責任においてアクセシビリティに関する環境整備や合理的配慮を提供することを求めています。
にもかかわらず、国や自治体の出先機関を含めた行政機関において、手話通訳等を含めた情報アクセシビリティに関する予算措置がされていないことを理由に、「過重な負担」として手話通訳等の情報保障の配慮を拒否・または手話通訳等を用意できないとして、障害当事者に情報保障を自ら手配させることを要請する例は後を絶ちません。
きこえない・きこえにくい国民が行政を含む公的機関を利用するにあたり、障害を理由とした差別的な取り扱いのない環境整備は当然のこと、合理的配慮の提供は、民間のモデルとなるべきであると考えます。
利用者から手話通訳等の希望に対応できるよう各公的機関で手話通訳等の情報保障の予算は、障害福祉とは別建てで予算化するよう、貴省から関係の出先機関を含め、地方自治体部局へ周知徹底ください。
8.改正障害者差別解消法に基づく対応要領・対応指針に以下を加えるよう、検討してください。
(1)事業者や省庁出先機関等から出される情報に、きこえない・きこえにくい人が容易にアクセスできるよう、情報アクセシビリティ保障を進めてください。
<説明>
現在、消費者や利用者が問い合わせをする「相談窓口」「販売申し込み先」、省庁出先機関等の受付窓口は、電話番号のみの対応が多く存在しています。2021年7月からは公共インフラとして電話リレーサービスが利用できるようになりましたが、きこえない・きこえにくい人がアクセスしやすい方法(メール・FAX等)でのアクセシビリティ保障について、見直しが進められている対応要領・対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。
(2)公共施設・商業施設等における音声情報の文字化について、具体的に記述してください。
<説明>
平時から公共施設・商業施設等における音声情報を文字情報にて掲示することで、緊急時にも有用な情報源となります。公共施設や商業施設等における音声によるアナウンス情報について、「文字または手話言語表示」をすることを、見直しが進められている対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。
9.きこえない・きこえにくい人への環境整備や合理的配慮として、手話通訳者等の配置が行われる例が増えていますが、配置する情報保障者の質についても担保できるようにしてください。
<説明>
きこえない・きこえにくい人へのアクセシビリティ保障として手話通訳等の配置がありますが、手話通訳者等の社会的資源は限られているため、環境整備や合理的配慮を要求するきこえない・きこえにくい人のニーズに応えられるだけの十分な人数が確保されにくい状況があります。
社会的な流れにより、行政機関による手話通訳派遣依頼の際、競争入札により手話通訳派遣事業者を選定する例が増えていますが、選定条件の中に、派遣する手話通訳者の質について明記されていることはほとんどなく、機械的に応札額が最も低額であった事業者が選定されているのが現状です。
金額のみで派遣事業者が決定され、派遣された手話通訳者の技術が担保されないことで、環境整備や合理的配慮の提供が不十分だった例が生じています。
情報アクセシビリティは、単に提供されるだけでは不十分であり、提供される配慮が障害者の希望に沿ったものであり、かつ目的を十分達成できるようなものであるべきです。
配置する手話通訳を含めた情報保障者の質の保障ついて、十分な配慮を行ってください。
以 上