文部科学省にろう教育等に関する要望書を提出
文部科学省にろう教育等に関する要望書を提出しました。
申し入れに対して、子どもたちが自ら活動しやすいよう環境を整え、必要に応じて周囲の人に支援を求めることができるようになることは大切なことであると認識していることや、きこえない教職員への合理的配慮の提供について、どのような方法で合理的配慮を提供するかということは、教職員の任命権を有する各教育委員会にゆだねられているが、文部科学省として合理的配慮の好事例をまとめた事例集を公表し、どこの教育委員会においても最低限の合理的配慮が提供されるよう、情報収集と周知に努めているとの回答がありました。
連本第240280号
2024年7月16日
文部科学大臣
盛山 正仁 様
東京都新宿区原町3-61 桂ビル2階
電話03-6302-1430・Fax 03-6302-1449
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長 石橋 大吾
ろう教育等に関する要望について
時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
日頃より私どもろう者等の福祉向上にご理解ご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
我が国は2016年4月より障害者差別解消法が施行され、障害者を取り巻く環境は一歩前進しましたが、教育現場では未だ課題が山積している状態です。今般、「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」が制定されました。この法律には、「手話言語法の立法を含め、手話に関する施策の一層の充実の検討を進めること」など5項目の付帯決議が付きました。
当連盟は「手話言語法」の制定に向けて、きこえない・きこえにくい子どもたちが、教科としての「手話言語を学び」、教科を「手話言語で学ぶ」環境整備を強く求めます。
今後、きこえない子どもたちや保護者、教職員、ひいては国民全体のために、より一層の課題改善に取り組んでいただきたく、下記の通り要望いたします。
記
1.地域の通常学級や特別支援学校等に通うきこえない・きこえにくい子どもが、人工内耳や補聴器を装用しても、手話言語に触れることができ、セルフアドボカシー・スキルを身に付けることができるような教育環境を整備してください。
<説明>
地域の学校はきこえることが前提になっているため、きこえない・きこえにくい子どもにとって、自分が聞き取れなかった情報の存在に気づきにくく、セルフアドボカシー・スキルが獲得しにくい環境におかれている課題があります。耳鼻咽喉科医師からも、セルフアドボカシー・スキルを獲得する重要性と環境整備の課題について指摘されています。きこえない子どもたちが人工内耳や補聴器を装用しても、手話言語を獲得してセルフアドボカシー・スキルを獲得することができるように、手話言語に触れる教育環境を整備してください。
2.「難聴児の早期支援充実のための連携体制構築事業」について、こども家庭庁の「聴覚障害児支援中核機能強化事業」と教育機関の連携を強化し、聴覚障害児支援ネットワークには、当事者団体を参画させるよう、都道府県に働きかけてください。
<説明>
こども家庭庁は、令和6年度より「聴覚障害児支援中核機能強化事業」をスタートしました。療育の事業ではありますが、貴省の「難聴児の早期支援充実のための連携体制構築事業」がなければ成立しない重要な事業です。都道府県の事業において、教育委員会やろう学校が積極的に関わるよう働きかけていくとともに、こども家庭庁との一層の連携と情報の共有を図ってください。そして、この事業において構築される聴覚障害児支援ネットワークには、必ずろう協会などの当事者団体を構成員として参画させるよう、こども家庭庁とともに都道府県および政令指定都市に働きかけてください。
3.きこえない教職員の職務能力を最大限に発揮するために、情報保障の配置およびそれらに係る予算措置などの環境整備を行い、きこえない教職員が望むレベルの合理的配慮がなされるよう、各都道府県教育委員会へ必要な財政上の措置を働きかけてください。
<説明>
障害者権利条約第21条では、障害者が自ら望む意思疎通支援手段の行使がうたわれており、また、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針にも記載されているように、情報保障の配置およびこれらに係る予算措置等の環境整備を行うことが求められています。
しかし、実際は同僚の教職員からのインフォーマルな形での情報保障支援を受ける例が多く、このような状況では双方に負担が生じます。また、きこえない教職員が管理職になったときの情報保障、ろう学校以外の特別支援学校や地域の学校等へ異動した際の情報保障は皆無に等しい状況です。
情報保障の配置およびそれらに係る予算措置などの環境整備を行い、きこえない教職員が望むレベルの合理的配慮がなされるよう、各都道府県教育委員会へ必要な財政上の措置を講ずるよう働きかけてください。
4. 特別支援学校に通うきこえない・きこえにくい子どもたちの保護者の同行について、保護者の過重な負担により通学を断念する事態にならないよう、支援策を講じてください。
<説明>
特別支援学校によっては、保護者同伴での登校をすることになっているところがあります。送迎バスもなく、学校の数も少ないため通学に時間がかかる場合があります。
保護者同伴を義務付けている場合、共働きや片親だと負担が大きく、親も子も何らかの犠牲を強いられるケースがでてきます。
自治体によっては、障害児通学支援事業等によりヘルパー派遣を一部認めている地域もありますが、同一市内のみであったり、期間限定であったりなど、保護者にとって利用しにくい側面があります。これによって、特別支援学校への通学を断念して地域の学校に通わせる保護者もいます。
全国各地のきこえない・きこえにくい子どもたちが、家庭の事情によって特別支援学校への通学を断念することがないように、保護者に対する支援策を講じてください。
5.大学入学共通テストにおけるきこえない・きこえにくい受験生の情報保障は、情報提供施設等の公的な派遣機関からの派遣ができるよう予算を講じるとともに、独立行政法人大学入試センター(以下、大学入試センター)に働きかけてください。
<説明>
きこえない・きこえにくい受験生の情報保障として、手話言語通訳が設置されているところですが、大学入試センターより特別支援学校の教員に手話言語通訳者としての協力を求める通知があったと聞いています。ろう学校の生徒が受験する際に、同じ学校の教員が通訳を行うと、試験の公平性に対し、誤解を招く恐れがあります。
大学入学共通テストにおける手話言語通訳者は、特別支援学校の教員が担うのではなく、聴覚障害者情報提供施設等の公的派遣機関に派遣依頼をするべきだと考えます。実際に大学入試センターへ事実確認を行ったところ、手話言語通訳に充てる謝金は「補助者謝金」として予算化されているが、人数や地域の派遣料金は換算されず、全国一律の料金で配分されているとのことです。このため、謝金が所定の派遣料金に満たず、特別支援学校の教員等に協力をお願いする状況に至ったと推察しています。今般、障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法の施行や障害者差別解消法が改正され、きこえにくい・きこえにくい受験者の情報保障がより一層求められてきています。地域に応じた派遣費用を予算化し、公的な派遣機関に手話言語通訳者の派遣を依頼するよう、大学入試センターに働きかけてください。
6.図書館に配架されている「手話言語に関わる書籍」は、日本十進分類法に則り8類に配架するよう、全国の図書館に働きかけてください。
<説明>
「日本十進分類法」は2014年に改訂され、「手話」は新設された8類の「801・92」に分類されました。日本十進分類法は書架の分類を規定し、日本図書館協会が維持管理をしていますが、図書館の状況に応じて分類を認める「別法」によって、8類に分類されない図書館があります。「手話は言語である」という観点からも、誤解を招きかねない分類に懸念を抱いています。「日本十進分類法新訂10版」に則って正確に分類するよう、日本図書館協会および全国の図書館に働きかけてください。
<<各省庁共通項目>>
7.「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法)」及び「改正障害者差別解消法」施行後の手話通訳派遣について、各自治体の担当部局や団体等で通訳者に要する経費の予算措置を明文化するよう、貴省からも周知ください。
<説明>
上記2法により、国及び地方公共団体は、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に策定、並びに実施することのみならず、民間企業も合理的配慮の提供が義務となるなど、障害のある人の社会参加がしやすくなります。
これらの法律では、当事者が手話通訳を手配する福祉的な側面からのアプローチではなく、あらゆる公的機関で、その機関の責任においてアクセシビリティに関する環境整備や合理的配慮を提供することを求めています。
にもかかわらず、国や自治体の出先機関を含めた行政機関において、手話通訳等を含めた情報アクセシビリティに関する予算措置がされていないことを理由に、「過重な負担」として手話通訳等の情報保障の配慮を拒否・または手話通訳等を用意できないとして、障害当事者に情報保障を自ら手配させることを要請する例は後を絶ちません。
きこえない・きこえにくい国民が行政を含む公的機関を利用するにあたり、障害を理由とした差別的な取り扱いのない環境整備は当然のこと、合理的配慮の提供は、民間のモデルとなるべきであると考えます。
利用者から手話通訳等の希望に対応できるよう各公的機関で手話通訳等の情報保障の予算は、障害福祉とは別建てで予算化するよう、貴省から関係の出先機関を含め、地方自治体部局へ周知徹底ください。
8.改正障害者差別解消法に基づく対応要領・対応指針に以下を加えるよう、検討してください。
(1)事業者や省庁出先機関等から出される情報に、きこえない・きこえにくい人が容易にアクセスできるよう、情報アクセシビリティ保障を進めてください。
<説明>
現在、消費者や利用者が問い合わせをする「相談窓口」「販売申し込み先」、省庁出先機関等の受付窓口は、電話番号のみの対応が多く存在しています。2021年7月からは公共インフラとして電話リレーサービスが利用できるようになりましたが、きこえない・きこえにくい人がアクセスしやすい方法(メール・FAX等)でのアクセシビリティ保障について、見直しが進められている対応要領・対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。
(2)公共施設・商業施設等における音声情報の文字化について、具体的に記述してください。
<説明>
平時から公共施設・商業施設等における音声情報を文字情報にて掲示することで、緊急時にも有用な情報源となります。公共施設や商業施設等における音声によるアナウンス情報について、「文字または手話言語表示」をすることを、見直しが進められている対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。
9.きこえない・きこえにくい人への環境整備や合理的配慮として、手話通訳者等の配置が行われる例が増えていますが、配置する情報保障者の質についても担保できるようにしてください。
<説明>
きこえない・きこえにくい人へのアクセシビリティ保障として手話通訳等の配置がありますが、手話通訳者等の社会的資源は限られているため、環境整備や合理的配慮を要求するきこえない・きこえにくい人のニーズに応えられるだけの十分な人数が確保されにくい状況があります。
社会的な流れにより、行政機関による手話通訳派遣依頼の際、競争入札により手話通訳派遣事業者を選定する例が増えていますが、選定条件の中に、派遣する手話通訳者の質について明記されていることはほとんどなく、機械的に応札額が最も低額であった事業者が選定されているのが現状です。
金額のみで派遣事業者が決定され、派遣された手話通訳者の技術が担保されないことで、環境整備や合理的配慮の提供が不十分だった例が生じています。
情報アクセシビリティは、単に提供されるだけでは不十分であり、提供される配慮が障害者の希望に沿ったものであり、かつ目的を十分達成できるようなものであるべきです。
配置する手話通訳を含めた情報保障者の質の保障ついて、十分な配慮を行ってください。
以 上