総務省に「きこえない・きこえにくい者の福祉施策」への要望書を提出

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 政見放送への手話言語通訳・字幕の義務化や電話リレーサービスの対応について一層の周知等を要望しました。公職選挙法の改正が必要であること、国や地方公共団体の下部組織まで電話リレーサービスの仕組みが周知しきれていない点を考慮し、利用促進を図っていく等の回答がありました。

要望書を提出

連本第240279号
2024年7月16日

総務大臣
 松本 剛明 様

東京都新宿区原町3-61 桂ビル2階
電話03-6302-1430・Fax 03-6302-1449
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長 石橋 大吾

きこえない・きこえにくい者の施策等への要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私どもきこえない・きこえにくい者の社会参加促進にご理解ご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 さて当連盟は、本年6月9日和歌山県において開催された第72回全国ろうあ者大会にて、きこえない・きこえにくい者の様々な施策等に関する大会決議を行ないました。
 「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」の成立や、「改正障害者差別解消法」で合理的配慮の提供が義務となり、情報の取得やアクセスが容易になっていくことが期待されているところです。しかしながら、その対応については地域差がある等、まだまだ改善すべき課題は残っております。
 つきましては、下記の通り要望いたしますので、すべての国民が安心、安全に生活ができるよう、早期実現をお願い申し上げます。

1.きこえない・きこえにくい人等の参政権の保障のために、下記の通り要望します。
(1)政見放送への手話言語通訳、字幕の挿入を義務づけてください。

<説明>
 現在、国政選挙・都道府県知事選挙の政見放送では、すべてに手話言語通訳・字幕の付与が実現されておらず、義務付けも行われていません。経歴放送には字幕もなく、音声放送のみでは候補者の経歴を知ることができません。きこえない・きこえにくい人等がきこえる人と同等に選挙に関する情報を得て、その選挙権を行使できるよう、政見放送への手話言語通訳、字幕付与の義務付けができるよう、改正をしてください。

(2)候補者が行う街頭演説に手話言語通訳や要約筆記等をつけることについて、制限を撤廃してください。
<説明>
 現在、「選挙運動に従事する者」の中の「専ら手話通訳のために使用する者」として報酬を支払うことができることになっています。
 ですが、手話言語通訳者は自らの意見を述べたり、候補者の応援をする「選挙運動に従事する者」ではなく、公正中立な立場で情報保障を担う者です。「選挙運動に従事する者」の規定を外し、報酬が支払えるようにしてください。
 また、これまで「選挙運動に従事する者」であることを理由に、公務員である手話通訳士は選挙に関する手話通訳を行うことができませんでしたが、その見直しを図り、公務員であっても選挙に関する手話通訳を行えるようにしてください。
 併せて、文字による情報保障として、字幕や要約筆記等をスクリーン等に投影する方法は認められていますが、屋外では投影することが禁止されています。
 情報アクセシビリティの観点から必要な改正をしてください。

(3)2017~2024年度、貴省予算で実施しています「政見放送手話通訳士研修会」(地方研修会)を2025年度以降も継続して行えますよう、引き続き予算化をしてください。また選挙関連の手話の確定費用も予算化をお願いします。
<説明>
 政見放送の手話通訳を担う者は、「政見放送及び経歴放送実施規定」により手話通訳士となっています。すべての政見放送において手話通訳挿入が実現した後も、政見放送を担える手話通訳士を継続して増やす必要があります。更に政見放送では社会情勢や時事問題等、専門的かつ新しい用語が使われ、手話通訳士も継続して通訳技術を磨く必要があることから、研修の履修更新制を設けており、今後も新規手話通訳士合格者や関係法令等の改正の理解及び政見放送内容に関わる新しい手話の習得のために「政見放送従事者研修会」が必須となります。
 2025年度以降も地方研修会を継続して行えるよう、予算化してください。また、新しい手話の確定は、厚労省の委託を受け標準手話の普及確定を行っている(社福)全国手話研修センターに依頼しています。しかしながら、選挙関連の新しい手話の用語確定は厚労省の委託対象外となっていますので、その費用も予算化をお願いいたします。

2.首相官邸の記者会見等における手話通訳について、テレビ放送でも手話通訳者が映るよう放送事業者に通知してください。
<説明>
 2011年3月11日の東日本大震災の発生後、首相官邸で行われる記者会見には手話通訳が付くようになりました。また、今般、重要な記者会見においては、多くのテレビ局がライブ放送で画面に手話通訳者の映像を組み入れて放送しており、従来に比べ、リアルタイムに情報を得ることができるようになりました。
 放送事業者が、その手話通訳の映像をテレビ放送に乗せることで、きこえない・きこえにくいテレビ視聴者が、きこえるテレビ視聴者と同じタイミングで発言内容を知ることができるようになります。それこそが「アクセシビリティが保障された環境の整備の促進」です。
 内閣府では、会見の際に話者の隣に手話通訳を配置されていますが、手話通訳を映すかどうか、また映す場合の大きさや、ニュース等での紹介時に通訳が映るかどうかは各放送局の判断と対応に任されています。しかしながら、2021年に改正された障害者差別解消法で、今年4月からは民間事業者も合理的配慮の提供が義務化されたことを踏まえ、きこえる人ときこえない・きこえにくい人の情報格差の出ないよう、各放送局の対応を注視するとともに、どの放送局でもユニバーサルな放送が行われるように通知をしてください。

3.放送・通信分野を広くカバーするアクセシビリティ指針を制定してください。
(1)放送におけるアクセシビリティ指針について、手話言語放送のパーセンテージによる目標値を制定してください。また、地方局における字幕放送・手話言語放送を拡大するために必要な予算措置や人材育成を進めてください。
(2)放送以外のオンデマンド視聴やNetflixなどの配信プラットフォーム等においてもアクセシビリティ指針を制定し、字幕・手話言語付与の目標値を定めてください。

<説明>
 放送におけるアクセシビリティ指針は一定の効果を得られていますが、手話言語放送の普及の低さや地方での広がり等の課題があります。加えて、放送コンテンツのオンデマンド視聴やNetflix等の配信プラットフォーム等では、字幕等のアクセシビリティ指針が適用されておらず、事業者の判断に左右される現状があります。放送だけではなく、放送・通信分野を広くカバーするアクセシビリティ指針の制定を強く求めます。

4.放送事業者の番組を収録したすべてのDVDに日本語字幕を付与するよう働きかけてください。
<説明>
 NHKや民放連等の放送事業者の番組を収録したDVDの字幕挿入は、番組制作会社の判断によるところが大きく、字幕が付与されないDVDは、きこえない・きこえにくい人にとって、情報アクセスを制限されたものとなっています。きこえない・きこえにくい人もDVDを楽しむことができるよう、すべてのDVDに字幕を挿入するよう働きかけてください。

5.緊急災害時におけるローカル番組を含むテレビ番組に、臨時の番組構成を行う場合でも必ず「手話ニュース」で情報を発信するよう、放送事業者に働きかけてください。
<説明>
 2024年1月1日16時10分に震度7の地震と大津波警報が発令されたことによる「令和6年能登半島地震」のニュースが流れているためか、NHK Eテレで予定されていた同日18時55分からの手話ニュースが放送されませんでした。
 これは、手話ニュースがきこえない人にとってとても重要な情報源であり、放送しないということは、手話言語で生活を送るきこえない・きこえにくい人を軽視することにつながり、到底納得できるものではありません。このようなことが二度とないよう、緊急災害発生時に手話ニュースや緊急災害時の放送番組に手話言語通訳を挿入して放送してください。

6.050番電話番号維持にかかる費用は利用者に転嫁せず、交付金の対象として、基本料金の二重負担を解消してください。
<説明>
 大半のきこえない・きこえにくい人はすでに090番などの携帯電話番号を持っており、電話リレーサービス用に、さらに050番の電話番号が必要であるため、基本料金の二重の負担が発生しています。
 050番電話番号維持にかかる費用は、電話リレーサービス提供業務に要する費用として交付金の対象とし、きこえない・きこえにくい人の二重の負担を解消してください。

7.全国の全ての官公庁および支所に電話リレーサービスの対応について一層の周知を図ってください。
<説明>
 全国各地の警察署や消防署に、緊急通報以外の内容で電話リレーサービスで電話をかけると、電話リレーサービスの仕組みなどの説明に時間がかかり、すぐに対応して頂けないことがあります。
 警察署や消防署など、全国各地の国の機関に電話リレーサービスの対応について一層の周知を図ってください。

<<各省庁共通項目>>
8.「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法)」及び「改正障害者差別解消法」施行後の手話通訳派遣について、各自治体の担当部局や団体等で通訳者に要する経費の予算措置を明文化するよう、貴省からも周知ください。
<説明>
 上記2法により、国及び地方公共団体は、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に策定、並びに実施することのみならず、民間企業も合理的配慮の提供が義務となるなど、障害のある人の社会参加がしやすくなります。
 これらの法律では、当事者が手話通訳を手配する福祉的な側面からのアプローチではなく、あらゆる公的機関で、その機関の責任においてアクセシビリティに関する環境整備や合理的配慮を提供することを求めています。
 にもかかわらず、国や自治体の出先機関を含めた行政機関において、手話通訳等を含めた情報アクセシビリティに関する予算措置がされていないことを理由に、「過重な負担」として手話通訳等の情報保障の配慮を拒否・または手話通訳等を用意できないとして、障害当事者に情報保障を自ら手配させることを要請する例は後を絶ちません。
 きこえない・きこえにくい国民が行政を含む公的機関を利用するにあたり、障害を理由とした差別的な取り扱いのない環境整備は当然のこと、合理的配慮の提供は、民間のモデルとなるべきであると考えます。
 利用者から手話通訳等の希望に対応できるよう各公的機関で手話通訳等の情報保障の予算は、障害福祉とは別建てで予算化するよう、貴省から関係の出先機関を含め、地方自治体部局へ周知徹底ください。

9.改正障害者差別解消法に基づく対応要領・対応指針に以下を加えるよう、検討してください。
(1)事業者や省庁出先機関等から出される情報に、きこえない・きこえにくい人が容易にアクセスできるよう、情報アクセシビリティ保障を進めてください。
<説明>
 現在、消費者や利用者が問い合わせをする「相談窓口」「販売申し込み先」、省庁出先機関等の受付窓口は、電話番号のみの対応が多く存在しています。2021年7月からは公共インフラとして電話リレーサービスが利用できるようになりましたが、きこえない・きこえにくい人がアクセスしやすい方法(メール・FAX等)でのアクセシビリティ保障について、見直しが進められている対応要領・対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。

(2)公共施設・商業施設等における音声情報の文字化について、具体的に記述してください。
<説明>
 平時から公共施設・商業施設等における音声情報を文字情報にて掲示することで、緊急時にも有用な情報源となります。公共施設や商業施設等における音声によるアナウンス情報について、「文字または手話言語表示」をすることを、見直しが進められている対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。

10.きこえない・きこえにくい人への環境整備や合理的配慮として、手話通訳者等の配置が行われる例が増えていますが、配置する情報保障者の質についても担保できるようにしてください。
<説明>
 きこえない・きこえにくい人へのアクセシビリティ保障として手話通訳等の配置がありますが、手話通訳者等の社会的資源は限られているため、環境整備や合理的配慮を要求するきこえない・きこえにくい人のニーズに応えられるだけの十分な人数が確保されにくい状況があります。
 社会的な流れにより、行政機関による手話通訳派遣依頼の際、競争入札により手話通訳派遣事業者を選定する例が増えていますが、選定条件の中に、派遣する手話通訳者の質について明記されていることはほとんどなく、機械的に応札額が最も低額であった事業者が選定されているのが現状です。
 金額のみで派遣事業者が決定され、派遣された手話通訳者の技術が担保されないことで、環境整備や合理的配慮の提供が不十分だった例が生じています。
 情報アクセシビリティは、単に提供されるだけでは不十分であり、提供される配慮が障害者の希望に沿ったものであり、かつ目的を十分達成できるようなものであるべきです。
 配置する手話通訳を含めた情報保障者の質の保障ついて、十分な配慮を行ってください。

以 上

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