警察庁に「きこえない・きこえにくい者の福祉施策」への要望書を提出
きこえない・きこえにくい人への理解・啓発や運転免許更新時の配慮、以前から要望を続けてきた警光灯への要望を行いました。
相談のしやすい環境の整備や地域の実情などもふまえて理解促進に努めていく、警光灯については新型を今年度から展開する等の取り組みを進めるとの回答がありました。
連本第240278号
2024年7月16日
警察庁長官
露木 康浩 様
東京都新宿区原町3-61 桂ビル2階
電話03-6302-1430・Fax 03-6302-1449
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長 石橋 大吾
きこえない・きこえにくい者の福祉施策への要望等について
時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
日頃より、私どもきこえない・きこえにくい者の社会参加促進にご理解ご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
さて当連盟は、本年6月9日和歌山県において開催された第72回全国ろうあ者大会にて、きこえない・きこえにくい者の様々な施策等に関する大会決議を行ないました。
「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」の成立や、「改正障害者差別解消法」で合理的配慮の提供が義務となり、情報の取得やアクセスが容易になっていくことが期待されているところです。しかしながら、その対応については地域差がある等、まだまだ改善すべき課題は残っております。
つきましては、下記の通り要望いたしますので、すべての国民が安心、安全に生活ができるよう、早期実現をお願い申し上げます。
記
1.都道府県の警察本部にきこえない者等への理解を深めるための研修を行うように働きかけてください。
<説明>
事件や事故など緊急時の対応では、福祉行政や警察、消防、医療など、垣根を超えた協働作業が求められます。きこえない者の特性やその障害の理解不足により、手話言語通訳の要請があったにも関わらず、(読み書きの苦手な者に)筆談で対応を強要するケースや警察署に行くと筆談を拒否されたり、手話通訳者を呼んでほしいと依頼しても「面倒くさい」と拒否されたりして人格を否定されたり差別を受けたりなどの事例、また、運転免許更新の際に、担当職員が口元を隠して話をしたり、背後から話をして何を言ったかわかったかを聞く方法で聴力検査の代わりとするなどの事例が未だに続いています。
現場で働く警察官のみならず、県警通信指令室等の警察本部、運転免許更新センター職員も含め全職員が「聴覚障害」の特性や障害の理解、手話言語の実技などを研修ができる場(手話言語学習・手話言語講座)の確保、及びその予算化を都道府県警察本部へ講じるよう指導してください。
また、こうした研修の際には、地域の聴覚障害者協会などの当事者に協力を仰ぎ、実際に研修を受ける職員が当事者と接し、理解を深められるようご配慮ください。
警察職員を対象にした研修を行っている事例がありましたらご教示ください。
2.運転免許更新の際の検査について改善をお願いします。
(1)高齢者の認知機能検査において、検査の事前説明から検査中の説明まで、手話通訳が行えるような体制を整えてください。また、地元の手話通訳者を配置することも可能であることの周知をお願いします。
<説明>
75歳以上の運転者は免許更新の際に、高齢者講習の前に「認知機能検査」を受けることになっていますが、検査中の手話通訳者の配置が試験場によって統一されていません。検査中の手話通訳がないために、検査員からの説明が分からず、回答できない事例があります。事前説明から検査終了まで、手話通訳が行えるような体制を整えてください。
また、認知機能検査進行時、警察庁が作成したDVDに手話言語通訳が挿入されていますが、地域で使っている手話言語表現が異なるためDVDの手話言語表現が分からない場合もあります。そのような状況があることを踏まえて、地元の手話言語通訳を配置するなど配慮をお願いします。
(2)運転免許更新での高齢者の認知機能検査に関して、別途意見交換を行ってください。
<説明>
認知機能検査の「手がかり再生検査」では、解答用紙に日本語で記入しなければならない、ヒントを手話通訳することは認められないということがあります。認知機能は問題ないが、日本語が分からず解答が書けずに不合格になったとか文字で名称を表示することが難しいため「認知症の疑いあり」と判定されたという事例があります。
日本語の教育を十分に受けられなかった時代があり、日本語の不得手な高齢者にとっては不利益となってしまいます。
そういう意味から手話言語で説明を受け手話言語で解答する、ヒントも手話通訳を認める、イラストの下に単語も記載する、イラストでの解答も可能にする、あらかじめにいくつかイラストを挙げて〇をつけるなど、検査方法や検査の解答方法の改善をお願いしたく意見交換をお願いします。
3.緊急自動車の状態が見て分かる警光灯について、全国の警察本部や地方公共団体へ周知してください。
<説明>
緊急自動車の警光灯が、緊急走行かそれ以外の走行か分かるような工夫を要望しており、赤色灯の開発を担った回転灯製造会社の試作品を見た上で意見交換や実証確認を行ってきました。その結果、緊急走行時と区別できるよう、LEDを使ってゆっくり発光をさせる開発が進み、パトロール時だけ2秒周期でぼんやりと発光する「ホタルの光」のような光り方ができます。開発普及には警察庁にもお力添えいただき、改めてお礼を申し上げます。
一部の回転灯製造会社で出荷が2024年度から始まります。(別紙チラシ)つきましては、きこえない・きこえにくい人が安心していられるよう、緊急自動車の状態が見て分かる警光灯があることを全国の警察本部や地方公共団体へ一刻も早く周知してください。
併せて添付のチラシを活用してください。
4.情報アクセスの環境整備として、事故や災害・混雑時の交通整理の際のアナウンス内容を、デジタルサイネージ等で可視化する等、情報が、きこえない・きこえにくい人にも理解できるよう環境整備をしてください。
<説明>
事件や事故現場など緊急時の対応では、どうしても音声中心の情報発信が多く、その現場に居合わせたきこえない・きこえにくい人は、何が起こっているのかわからず、冷静な判断ができません。仮に避難指示があったとしても、その指示がわからないまま、周りの人の動きに合わせてついていくしかない状態です。
昨年度のお話では全国で3,000程度のデジタルサイネージがあると回答いただきましたが、その数では十分に対応できるとは言えません。どのような環境下でも音声情報と同じ内容を、リアルタイムに文字等で可視化し情報提供ができるよう、環境整備構築のための予算化をお願いします。
<<各省庁共通項目>>
5.「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法)」及び「改正障害者差別解消法」施行後の手話通訳派遣について、各自治体の担当部局や団体等で通訳者に要する経費の予算措置を明文化するよう、貴省からも周知ください。
<説明>
上記2法により、国及び地方公共団体は、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に策定、並びに実施することのみならず、民間企業も合理的配慮の提供が義務となるなど、障害のある人の社会参加がしやすくなります。
これらの法律では、当事者が手話通訳を手配する福祉的な側面からのアプローチではなく、あらゆる公的機関で、その機関の責任においてアクセシビリティに関する環境整備や合理的配慮を提供することを求めています。
にもかかわらず、国や自治体の出先機関を含めた行政機関において、手話通訳等を含めた情報アクセシビリティに関する予算措置がされていないことを理由に、「過重な負担」として手話通訳等の情報保障の配慮を拒否・または手話通訳等を用意できないとして、障害当事者に情報保障を自ら手配させることを要請する例は後を絶ちません。
きこえない・きこえにくい国民が行政を含む公的機関を利用するにあたり、障害を理由とした差別的な取り扱いのない環境整備は当然のこと、合理的配慮の提供は、民間のモデルとなるべきであると考えます。
利用者から手話通訳等の希望に対応できるよう各公的機関で手話通訳等の情報保障の予算は、障害福祉とは別建てで予算化するよう、貴省から関係の出先機関を含め、地方自治体部局へ周知徹底ください。
6.改正障害者差別解消法に基づく対応要領・対応指針に以下を加えるよう、検討してください。
(1)事業者や省庁出先機関等から出される情報に、きこえない・きこえにくい人が容易にアクセスできるよう、情報アクセシビリティ保障を進めてください。
<説明>
現在、消費者や利用者が問い合わせをする「相談窓口」「販売申し込み先」、省庁出先機関等の受付窓口は、電話番号のみの対応が多く存在しています。2021年7月からは公共インフラとして電話リレーサービスが利用できるようになりましたが、きこえない・きこえにくい人がアクセスしやすい方法(メール・FAX等)でのアクセシビリティ保障について、見直しが進められている対応要領・対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。
(2)公共施設・商業施設等における音声情報の文字化について、具体的に記述してください。
<説明>
平時から公共施設・商業施設等における音声情報を文字情報にて掲示することで、緊急時にも有用な情報源となります。公共施設や商業施設等における音声によるアナウンス情報について、「文字または手話言語表示」をすることを、見直しが進められている対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。
7.きこえない・きこえにくい人への環境整備や合理的配慮として、手話通訳者等の配置が行われる例が増えていますが、配置する情報保障者の質についても担保できるようにしてください。
<説明>
きこえない・きこえにくい人へのアクセシビリティ保障として手話通訳等の配置がありますが、手話通訳者等の社会的資源は限られているため、環境整備や合理的配慮を要求するきこえない・きこえにくい人のニーズに応えられるだけの十分な人数が確保されにくい状況があります。
社会的な流れにより、行政機関による手話通訳派遣依頼の際、競争入札により手話通訳派遣事業者を選定する例が増えていますが、選定条件の中に、派遣する手話通訳者の質について明記されていることはほとんどなく、機械的に応札額が最も低額であった事業者が選定されているのが現状です。
金額のみで派遣事業者が決定され、派遣された手話通訳者の技術が担保されないことで、環境整備や合理的配慮の提供が不十分だった例が生じています。
情報アクセシビリティは、単に提供されるだけでは不十分であり、提供される配慮が障害者の希望に沿ったものであり、かつ目的を十分達成できるようなものであるべきです。
配置する手話通訳を含めた情報保障者の質の保障ついて、十分な配慮を行ってください。
以 上