こども家庭庁にろう乳幼児支援等に関する要望書を提出

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 「聴覚障害児支援中核機能強化事業」の法制化、聴覚障害児支援のネットワークへの当事者参画の働きかけを要望しました。この事業には23の自治体が参加し継続中であること、PDCAの実践調査を行い自治体の状況を「見える化」することが報告されました。
 また、聴覚障害児への支援に必要な具体例に対しては必ず検討する、医療と福祉の一元化においては支援の場・支援者を増やしていく、という回答をいただきました。

要望書を提出

連本第240282号
2024年7月16日

こども家庭庁長官
渡辺 由美子 様

東京都新宿区原町3-61 桂ビル2階
電話03-6302-1430・Fax 03-6302-1449
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長 石橋 大吾

ろう乳幼児支援等に関する要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より私どもろう者等の福祉向上にご理解ご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 「障害者差別解消法」および「バリアフリー法」等により、障害者に対する合理的配慮や支援についての取り組みが広まってきつつあります。今般、こども家庭庁が発足されました。ろう乳幼児を含むこどもたちが安心、安全に生活ができるように一層の環境整備を講じていただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

1.「聴覚障害児支援中核機能強化事業」を法制化し、すべての自治体を対象とした難聴児支援事業の恒久的な予算化を求めます。
<説明>
 令和6年度は、「聴覚障害児支援中核機能強化事業」として208億円の予算が計上されました。この事業は、申請した自治体に対し1/2を補助するものと聞いています。しかし、申請できる自治体の数が限られていること、そして自治体によっては、自力で事業が継続できるかどうかに懸念を抱いています。
 すべての自治体が恒久的に聴覚障害児支援事業を実施できるよう、下記を含む聴覚障害児支援対策の法制化を要望します。
 ・すべての自治体を対象とした聴覚障害児支援対策の予算化
 ・聴覚障害児の「手話言語」獲得のための、「手話言語獲得支援事業」の予算化
 ・保護者の「手話言語」習得に必要な支援の予算化

2.「聴覚障害児支援中核機能強化事業」において、聴覚障害児支援のネットワークには必ず当事者団体を参画させるよう、都道府県に働きかけてください。
<説明>
 聴覚障害児支援中核機能強化事業(または自治体独自の事業)を実施している自治体、または検討している自治体が増えてきましたが、当事者団体の参画がない、もしくは当事者団体への呼びかけがないことが明らかになっています。また、自治体によっては、親の会が「当事者団体」と解釈し、ろう協会の参画を考えないところもあります。
 このような自治体では、医療機関の意見に反映されやすく、手話言語を排除した取り組みが進められる恐れがあります。当事者抜きで事業を進めることがないよう、貴庁として自治体へ必ずろう協会などの当事者団体を参画させるよう、自治体に働きかけてください。

3.全国的な聴覚障害児支援のネットワークを立ち上げ、都道府県の「聴覚障害児支援中核機能強化事業」の実態の把握と情報の共有を図り、全国どこでも同じ支援や情報が得られる取り組みを図ってください。
<説明>
 聴覚障害児支援中核機能強化事業(または自治体独自の事業)は自治体によって、医療機関の意見に反映されやすく、手話言語を排除した取り組みが進められることがあり、全国どこでも同じ支援や情報が得られる状況ではありません。こども家庭庁が主導して、自治体の聴覚障害児支援体制の全国的なネットワークを立ち上げて、全国どこでも等しく支援が受けられる、偏っていない情報が得られるような取り組みを図ってください。

4.厚生労働省の障害者総合福祉推進事業において、PwCコンサルティング合同会社が作成した冊子「お子さんのきこえのハンドブック~きこえない・きこえにくいお子さんのために~」をきこえない・きこえにくい子どもに関わる人たちへの広い周知・配布を要望します。
<説明>
 「お子さんのきこえのハンドブック~きこえない・きこえにくいお子さんのために~」は、厚生労働省の令和4年度障害者総合福祉推進事業において、PwCコンサルティング合同会社が委託を受けた「難聴児の家族等や支援に携わる関係者が必要とする基本的な情報に関する調査研究」事業検討委員会でまとめられた冊子です。保護者の声、手話言語や人工内耳装用などの情報が偏らず公平に掲載されているため、わかりやすく充実した内容になっているものと理解しています。この冊子は、自治体に配布されると聞いておりますが、貴庁からも医療機関やきこえない・きこえにくい子どもの保護者たち、当事者団体などに配布できるよう、広く周知していただくことを要望します。

5.聴覚障害児が児童発達支援センターや保育所等を利用する際は必ずきこえない当事者のスタッフを配置すること、聴覚障害者情報提供施設またはろう協会との連携が取れる体制を構築してください。
<説明>
 児童発達支援センターや保育所等の、きこえない子どもに接する職員がきこえないことについて充分に理解されていないために的確な支援がなされていないケースが起きています。きこえない当事者のスタッフや聴覚障害者情報提供施設またはろう協会との連携をとることで、問題を解決することができます。

6.相談支援事業に「視覚・聴覚言語障害者支援体制加算」を創設してください。
<説明>
 「令和6年度障害福祉サービス等報酬改定の概要」に、「相談支授事業所における手話通訳士等によるコミュニケーション支援の実態を把握するとともに、コミュニケーション支援の体制を確保する方策について検討する」と明記されています。
 個別給付にはなりますが、令和6年度から新たに児童福祉サービスにも視覚・聴覚言語障害児に対して手厚い支援が必要なため加算が創設されました。
 相談支援事業においても精神障害者支援体制加算や行動障害支援体制加算と同様に、聴覚・ろう重複障害者の特性の理解と配慮、手話等のコミュニケーションに専門性を有する相談支援専門員を配置した場合は評価をするよう視覚・聴覚言語障害者支援体制加算を創設してください。

<<各省庁共通項目>>
7.「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法)」及び「改正障害者差別解消法」施行後の手話通訳派遣について、各自治体の担当部局や団体等で通訳者に要する経費の予算措置を明文化するよう、貴省からも周知ください。
<説明>
 上記2法により、国及び地方公共団体は、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に策定、並びに実施することのみならず、民間企業も合理的配慮の提供が義務となるなど、障害のある人の社会参加がしやすくなります。
 これらの法律では、当事者が手話通訳を手配する福祉的な側面からのアプローチではなく、あらゆる公的機関で、その機関の責任においてアクセシビリティに関する環境整備や合理的配慮を提供することを求めています。
 にもかかわらず、国や自治体の出先機関を含めた行政機関において、手話通訳等を含めた情報アクセシビリティに関する予算措置がされていないことを理由に、「過重な負担」として手話通訳等の情報保障の配慮を拒否・または手話通訳等を用意できないとして、障害当事者に情報保障を自ら手配させることを要請する例は後を絶ちません。
 きこえない・きこえにくい国民が行政を含む公的機関を利用するにあたり、障害を理由とした差別的な取り扱いのない環境整備は当然のこと、合理的配慮の提供は、民間のモデルとなるべきであると考えます。
 利用者から手話通訳等の希望に対応できるよう各公的機関で手話通訳等の情報保障の予算は、障害福祉とは別建てで予算化するよう、貴省から関係の出先機関を含め、地方自治体部局へ周知徹底ください。

8.改正障害者差別解消法に基づく対応要領・対応指針に以下を加えるよう、検討してください。 (1)事業者や省庁出先機関等から出される情報に、きこえない・きこえにくい人が容易にアクセスできるよう、情報アクセシビリティ保障を進めてください。
<説明>
 現在、消費者や利用者が問い合わせをする「相談窓口」「販売申し込み先」、省庁出先機関等の受付窓口は、電話番号のみの対応が多く存在しています。2021年7月からは公共インフラとして電話リレーサービスが利用できるようになりましたが、きこえない・きこえにくい人がアクセスしやすい方法(メール・FAX等)でのアクセシビリティ保障について、見直しが進められている対応要領・対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。

(2)公共施設・商業施設等における音声情報の文字化について、具体的に記述してください。
<説明>
 平時から公共施設・商業施設等における音声情報を文字情報にて掲示することで、緊急時にも有用な情報源となります。公共施設や商業施設等における音声によるアナウンス情報について、「文字または手話言語表示」をすることを、見直しが進められている対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。

9.きこえない・きこえにくい人への環境整備や合理的配慮として、手話通訳者等の配置が行われる例が増えていますが、配置する情報保障者の質についても担保できるようにしてください。
<説明>
 きこえない・きこえにくい人へのアクセシビリティ保障として手話通訳等の配置がありますが、手話通訳者等の社会的資源は限られているため、環境整備や合理的配慮を要求するきこえない・きこえにくい人のニーズに応えられるだけの十分な人数が確保されにくい状況があります。
 社会的な流れにより、行政機関による手話通訳派遣依頼の際、競争入札により手話通訳派遣事業者を選定する例が増えていますが、選定条件の中に、派遣する手話通訳者の質について明記されていることはほとんどなく、機械的に応札額が最も低額であった事業者が選定されているのが現状です。
 金額のみで派遣事業者が決定され、派遣された手話通訳者の技術が担保されないことで、環境整備や合理的配慮の提供が不十分だった例が生じています。
 情報アクセシビリティは、単に提供されるだけでは不十分であり、提供される配慮が障害者の希望に沿ったものであり、かつ目的を十分達成できるようなものであるべきです。
 配置する手話通訳を含めた情報保障者の質の保障ついて、十分な配慮を行ってください。

以 上

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