厚生労働省庁に「きこえない・きこえにくい者の施策等」への要望書を提出

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 2023年7月27日(木)午後、全日本ろうあ連盟理事らが厚生労働省へ要望書を提出し、身体障害者区分による雇用実績等の調査結果の開示、就労支援・職場定着・職業相談等や障害者就業・生活支援センター等で手話言語による対応を行う仕組み等について意見交換を行いました。

 意思疎通支援に関する手話通訳者の労働環境の改善や健康管理について、改めて強く申し入れました。また、ろう児等の保護者の同行援助の必要性を説明したところ、法改正を伴うため、持ち帰り、まず検討するとの回答にとどまりました。

要望書を提出

連本第230242号
2023年7月27日

厚生労働大臣
 加藤 勝信 様

東京都新宿区山吹町130 SKビル8階
電話03-3268-8847・Fax 03-3267-3445
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長  石野 富志三郎

きこえない・きこえにくい者の施策等への要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私どもきこえない・きこえにくい者の社会参加促進にご理解ご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 さて当連盟は、本年6月11日大分県において開催された第71回全国ろうあ者大会にて、きこえない・きこえにくい者の様々な施策等に関する大会決議を行ないました。
 「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」の成立や、「改正障害者差別解消法」で合理的配慮の提供が義務となり、情報の取得やアクセスが容易になっていくことが期待されているところです。しかしながら、その対応については地域差がある等、まだまだ改善すべき課題は残っております。
 つきましては、下記の通り要望いたしますので、すべての国民が安心、安全に生活ができるよう、早期実現をお願い申し上げます。

<労働関連>
1.国の行政機関、地方自治体、民間企業すべての法定雇用率制度の徹底を図り、きこえない・きこえにくい者の積極的な採用を行ってください。

(1)国の行政機関、地方自治体、民間企業すべてが法定雇用率を達成するよう、また未達成の団体に対しては法定雇用率を遵守するよう、雇用率のアップを図ってください。
 また採用後の職場定着支援についても国の行政機関、地方自治体、民間企業の隔てなく採用された障害者が長く働けるよう支援体制を構築してください。

<説明>
 2022(令和4年)年12月発表の障害者の実雇用率は過去最高を更新し、民間企業における実雇用率は2.25%(前年比0.05ポイント上昇)、法定雇用率達成の企業割合は48.3%と半分以下の状況が続いています。https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_29949.html
すべての民間企業が法定雇用率を遵守するよう、対策を講じてください。
 また、官公庁や地方自治体でも、障害者雇用率の未達成とならないよう、雇用率アップを図ってください。
 きこえない・きこえにくい者の職場での情報アクセスの保障やコミュニケーション・意思疎通の保障や職場環境作りについては、国が率先して範を示していただき、貴省をはじめとする各省庁、地方自治体、民間企業において、きこえない・きこえにくい者への理解を促進するとともに、民間企業に派遣されているジョブコーチのような支援体制も公務部門に構築し長く働ける職場環境を作ってください。
 国の行政機関における障害者別(身体障害種別も明記)の採用状況とそれらの定着率もご教示ください。

(2)ろう重複障害者(盲ろう者含む)の就業について全国的な実態調査を実施し、その結果に基づき、一日も早くろう重複障害者の働く場の保障に関する施策を講じるようお願いします。

<説明>
 厚生労働省の施策として、「福祉的就労」から「一般就労」へ促すようになっていると思います。しかし、ろう重複障害者の就労状況は依然として厳しい現況です。ろう重複障害者の就労をスムーズに進めるために、まず、全国的なろう重複障害者の就労状況に関する実態調査を実施し、その結果を踏まえて、適切な就労支援施策を講じるよう求めます。

(3)令和2年に実施された「地方公共団体における障害者差別禁止及び合理的配慮の提供義務に関する実態調査」の結果を踏まえ、その後の実態把握および改善について、地方公共団体への支援体制の構築をお願いします。

<説明>
 令和元年の障害者雇用促進法改正の付帯決議にある、地方公共団体における障害者差別禁止・合理的配慮の提供の実態把握と公表に基づき、令和2年に実態調査が行われました。この調査結果では、職場における合理的配慮の提供に問題があると感じているとの回答があり、コミュニケーションの工夫や障害理解、それによる改善が求められるところです。

2.貴省の所管である、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者介助等助成金による「手話通訳担当者の委嘱助成金の制度」の一層の拡充および事業所や職業安定所に利用の周知徹底を図ってください。

(1)1回の助成額を1人3/4(6千円)から1万円と改正予定とのことですが、「手話通訳料1回」の3/4にしてください。

(2)年間の助成額の上限28万8千円から48万円へと改正予定とのことですが、必要に応じて手話通訳を利用できるようにしてください。

(3)申請提出期間は、雇用後10年を過ぎても条件を満たせば支給できることについて、周知をしていただくとともに、年数を区切ることなく、きこえない・きこえにくい者が就労している限りにおいていつでも利用できるようにしてください。

3.個人事業主もしくは被用者である障害者が就労上の業務遂行において必要となるサポートを提供するための経済的あるいは人的な支援制度(障害者業務遂行支援制度)を新設してください。

<説明>
 現行の制度では障害者が就労上必要なサポートを確実に利用できるシステムがありません。障害者総合支援法に基づく自治体による福祉サービスとしての各種事業は提供主体である自治体の判断により利用範囲が制限される結果として障害者のニーズにそぐわない結果となることが多いこと、また、障害者雇用納付金制度は利用主体が企業であり、障害者はその客体であって利用するかどうかは結局企業の判断次第となること等の課題があり、必ずしも障害者の就労促進に繋がっていないという実態があります。事業所における合理的配慮を促進するという観点から、障害者の意思で業務遂行上のニーズに応じて必要な支援を提供する、就労に特化した制度の創設をしてください。

4.ろう者等ワークライフ支援事業を国の制度として新設してください。

<説明>
 現在、大阪府の独自事業として実施されている「聴覚障害者等ワークライフ支援事業」は、就職前後のろう者等(重複聴覚障害者を含む)に対して、個々のニーズに応じた雇用・労働相談・支援を行い、ろう者等の職場定着に成果を上げています。他の障害者と比較として、ろう者等への支援体制が少なく、就労面での相談支援機能の充実は不可欠です。大阪府で実施しているワークライフ事業の実態を視察したうえで、国の制度として実施してください。また地方の好事例を積極的に周知するようにしてください。

5.きこえない・きこえにくい者の職場定着を確実なものとしていくために、コミュニケーションや意思疎通に不安を感じることなく、職場定着指導や職業相談などが受けられるよう、ジョブコーチの条件に「手話言語ができる」ことを明記し、ジョブコーチ養成のカリキュラムに「手話言語」を取り入れてください。

<説明>
 現在、手話言語ができるジョブコーチが非常に少なく、きこえない・きこえにくい者に対する支援が十分にできていません、手話通訳を介すのではなく手話言語のできるジョブコーチの育成が必要です。今般開催された「職場適応援助者の育成・確保に関する作業部会」等において、手話言語ができるジョブコーチの養成について議論し、資格化に向けた検討をお願いします。

6.きこえない・きこえにくい者が安心して利用するために、全国に約300ヶ所設置されている障害者就業・生活支援センターに手話通訳者を配置してください。

<説明>
 きこえない・きこえにくい者にとって、公的な就労相談の場である障害者就業・生活支援センターでは、筆談対応を中心とした支援が多く、手話言語を第一言語とする者にとっては利用しにくく、相談支援機能が十分に果たされているとは言えません。貴省から、障害者就業・生活支援センターに対し、手話通訳者の配置についてどのような形で通知をしているかお聞かせください。委託費から手話通訳の雇用は可能であることを周知いただくとともに、きこえない・きこえにくい者の特性を理解した手話通訳者の配置を働きかけてください。

7.貴省の労働政策審議会 (障害者雇用分科会)の委員にろう者を加えてください。

<説明>
 労働政策審議会障害者雇用分科会には身体障害のうち視覚障害、肢体不自由の委員はいらっしゃいますが、きこえない委員がおらず、その意見や状況が障害者の労働施策に反映されにくい状況です。貴省の社会保障審議会 (障害者部会)ではきこえない委員がいますので、同様の対応をお願いいたします。

<意思疎通支援関連>
8.意思疎通支援事業の手話通訳者設置事業の雇用を含めた制度の拡充が重要であることについて、自治体へ改めて周知してください。

<説明>
 手話通訳者設置事業は市町村の必須事業となっていますが、平均実施率はまだ約40%(令和元年度実績)と低いままになっています。きこえない・きこえにくい人が手話通訳を介して、自己選択、自己決定をするために、相談、生活支援などの様々な支援を必要とするきこえない・きこえにくい人等も少なくありません。そのため、単に音声言語と手話言語の置き換えだけの通訳にとどまらず、必要に応じて様々な関係機関とつなぐという重要な役割もあります。
 しかしながら、現状では前述の通り実施率が低いこと、また、実施市町村の中でも手話通訳者の資格を有しない人がその職に就いている事例や有資格者であっても、多くが非正規(会計年度任用職員制度)雇用です。増え続ける手話通訳ニーズに応えていくためにも、安心して働き続けることができる労働環境の改善も必要です。
 手話通訳者設置事業を実施していない自治体に対しては事業実施を促進し、事業を実施している自治体に対しては、設置通訳者の労働条件を含め、その地域での設置事業の精度の更なる拡充を推進してください。
 なお、2017年(平成29)年度から、手話通訳を設置できない自治体において、遠隔手話通訳の導入が認められるようになりましたが、手話通訳設置事業および派遣事業の補完的な役割を担うものであり、代替手段ではないことを各自治体に改めて周知をお願いいたします。

9.遠隔手話通訳の安定的運用を進めるため、運用経費について継続的な予算措置をしてください。また、現在対象外となっている人件費やランニングコストについても、意思疎通支援事業の対象とするようにしてください。

<説明>
 新型コロナウイルス感染症対策として、遠隔手話通訳の環境整備のための補正予算を組んでいただきましたが、初期費用の他に、システム保守などのランニングコストがかかるため導入を見送るというケースがあり、地域格差を生む要因となりました。また、遠隔手話通訳を担う手話通訳者の報酬や、コーディネートを行う職員の人件費が対象外となっていることが課題です。
 今後も様々な場面において遠隔手話通訳の必要性が見込まれることから、遠隔手話通訳のランニングコストについて、継続的な予算措置を講じてください。
 また、感染症対策や災害時の対応としての遠隔手話通訳を考えた時、地域の状況を把握している設置手話通訳者または登録手話通訳者が通訳を担うことが望ましいと考えます。そのため、民間企業への遠隔手話通訳の委託ではなく、地域の手話通訳者が担う仕組みの周知を図ってください。

<同行援護>
10.特別支援学校に通うきこえない・きこえにくい子どもたちの保護者の同行について、保護者の過重な負担により通学を断念する事態にならないよう、支援策を講じてください。

<説明>
 特別支援学校によっては、保護者同伴による登校をすることになっているところがあります。送迎バスもなく、学校の数も少ないため通学に時間がかかる場合があります。
 保護者同伴を義務付ける場合、共働きや片親だと負担が大きく、親子共々何らかの犠牲を強いられるケースがでてきます。
 自治体によっては障害児通学支援事業などによって、ヘルパー派遣を一部認めている地域もありますが、同一市内のみであったり期間限定にされたりするなど保護者にとって利用しにくい側面があります。これによって、特別支援学校への通学を断念し地域の学校に通わせる保護者もいます。
 全国各地のきこえない・きこえにくい子どもたちが、家庭の事情によって特別支援学校への通学を断念することがないように、保護者に対する支援策を講じてください。

<各省庁共通項目>
11.「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法)」及び「改正障害者差別解消法」施行後の手話通訳派遣について、各自治体の担当部局や団体等で通訳者に要する経費の予算措置を明文化するよう、貴省からも周知ください。

<説明>
 上記2法により、国及び地方公共団体は、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に策定、並びに実施することのみならず、民間企業も合理的配慮の提供が義務となるなど、障害のある人の社会参加がしやすくなります。
 これらの法律では、当事者が手話通訳を手配する福祉的な側面からのアプローチではなく、あらゆる公的機関で、その機関の責任においてアクセシビリティに関する環境整備や合理的配慮を提供することを求めています。
 しかしながら、国や自治体の出先機関を含めた行政機関において、手話通訳等を含めた情報アクセシビリティに関する予算措置がされていないことを理由に、「過重な負担」として手話通訳等の情報保障の配慮を拒否・または手話通訳等を用意できないとして、障害当事者に情報保障を自ら手配させることを要請する例は後を絶ちません。
 行政を含む公的機関において、きこえない・きこえにくい人への環境整備や情報アクセシビリティなどの合理的配慮が提供できない状況があってはなりません。それは明らかに障害を理由とする差別的取り扱いです。
 利用者から手話通訳等の希望の有無にかかわらず、情報アクセシビリティ整備に対応するため、各公的機関で手話通訳等の情報保障の予算は、障害福祉とは別建てで予算化するよう、貴省から関係の出先機関を含め、地方自治体部局へ周知徹底ください。

12.改正障害者差別解消法に基づく対応要領・対応指針等に以下を検討してください。

(1)事業者や省庁出先機関等から出される情報に、ろう者が容易にアクセスできるよう、情報アクセシビリティ保障を進めてください。

<説明>
 現在、消費者や利用者が問い合わせをする「相談窓口」「販売申し込み先」、省庁出先機関等の受付窓口は、電話番号のみの対応が多く存在しています。2021年7月からは公共インフラとして電話リレーサービスが利用できるようになりましたが、きこえない・きこえにくい人がアクセスしやすい方法(メール・FAX等)でのアクセシビリティ保障について、見直しが進められている対応要領・対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。

(2)公共施設・商業施設等における音声情報の文字化について、具体的に記述してください。

<説明>
 平時から公共施設・商業施設等における音声情報を文字情報にて掲示することで、緊急時にも有用な情報源となります。公共施設や商業施設等における音声によるアナウンス情報について、「文字または手話言語表示」をすることを、見直しが進められている対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。

13.きこえない・きこえにくい人への環境整備や合理的配慮として、手話通訳者等の配置が行われる例が増えていますが、配置する情報保障者の質についても担保できるようにしてください。

<説明>
 きこえない・きこえにくい人へのアクセシビリティ保障として手話通訳等の配置がありますが、手話通訳者等の社会資源は限られているため、環境整備や合理的配慮を要求するきこえない・きこえにくい人のニーズに応えられるだけの十分な人数が確保されにくい状況があります。
 社会的な流れにより、行政機関による手話通訳派遣依頼の際、競争入札により手話通訳派遣事業者を選定する例が増えていますが、選定条件の中に、派遣する手話通訳者の質について明記されていることはほとんどなく、機械的に応札額が最も低額であった事業者が選定されているのが現状です。
 金額のみで派遣事業者が決定され、派遣された手話通訳者の技術が担保されないことで、環境整備や合理的配慮の提供が不十分だった例が生じています。
 情報アクセシビリティは、単に提供されるだけでは不十分であり、提供される配慮が障害者の希望に沿ったものであり、かつ目的を十分達成できるようなものであるべきです。
 配置する手話通訳を含めた情報保障者の質の保障について、十分な配慮を行ってください。

以 上

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