こども家庭庁にろう乳幼児支援等に関する要望書を提出

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 申し入れに対して、「難聴児支援中核機能モデル事業」については来年度以降の予算確保がまだであるが、重要性は理解出来るので色々な意見をききたいとのことで、教育・文化委員会が独自で調査し、今年3月にまとめた報告書の説明やモデル事業の実施例などの紹介を行いました。
 モデル事業の難聴児支援ネットワークに参加している「当事者団体」について、自治体間で、例えば親の会を当事者とみるのか等の解釈のずれがあることがわかるなど、難聴児支援等の実態について率直な意見交換を深めることができました。

要望書を提出

連本第230195号
2023年7月7日

こども家庭庁 長官
 渡辺 由美子 様

東京都新宿区山吹町130 SKビル8階
電話03-3268-8847・Fax 03-3267-3445
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長  石野 富志三郎

ろう乳幼児支援等に関する要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より私どもろう者等の社会参加促進にご理解ご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 「障害者差別解消法」および「バリアフリー法」等により、障害者に対する合理的配慮や支援についての取り組みが広まってきつつあります。今般、こども家庭庁が発足されました。ろう乳幼児を含む子どもたちが安心、安全に生活ができるように一層の環境整備を講じていただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

1.「難聴児支援中核機能モデル事業」を法制化し、全ての自治体を対象とした難聴児支援事業の恒久的な予算化を求めます。

<説明>
 令和5年度は、「聴覚障害児支援のための中核機能の強化」に1.7億円の予算が計上されました。この事業は申請した自治体に対し一定の期間で補助するものと聞いています。しかし、申請できる自治体の数が限られていること、そして自治体によっては、補助打ち切り後の事業が継続できるかどうかに懸念を抱いています。
 全ての自治体が恒久的に難聴児支援事業を実施できるよう、下記を含む難聴児支援対策の法制定を要望します。
 ・すべての自治体を対象とした難聴児支援対策の予算化
 ・難聴児の「手話言語」獲得のための、「手話言語獲得支援事業」の予算化
 ・保護者の「手話言語」習得に必要な支援の予算化

2.「難聴児支援中核機能モデル事業」を実施している自治体に対する予算の継続を求めます。

<説明>
 「難聴児支援中核機能モデル事業」の補助が打ち切られ、事業費を大幅に減額する自治体があるときいています。事業の規模が縮小され、きこえない・きこえにくい子どもたちへの充分な支援ができないことを懸念しています。
 自治体の予算のみで、きこえない・きこえにくい子どもたちに対する支援を維持できるようになるまで、「難聴児支援中核機能モデル事業」の補助を延長することを要望します。

3.「聴覚障害児中核機能モデル事業」において、難聴児支援のネットワークには必ず当事者団体を参画させるよう、都道府県に働きかけてください。

<説明>
 当連盟教育・文化委員会の調査の結果(※別紙参照)では、難聴児支援中核機能モデル事業(または自治体独自の事業)を実施している自治体は17あり、そのうち7つの自治体が、当事者団体の参画がない、若しくは当事者団体への呼びかけがないことが明らかになっています。
 このような自治体では、医療機関の意見に反映されやすく、手話言語を排除した取り組みが進められる恐れがあります。当事者抜きで事業を進めることがないよう、貴庁として自治体へ必ずろう当事者団体を画させるよう、自治体に働きかけてください。

※別紙:『地域の学校、難聴学級、ろう学校に在籍された当事者の体験や要望等から の改善策の提言』及び『聴覚障害児支援中核機能モデル事業の全国的な実態と課題』
10頁 4 聴覚障害児支援中核機能モデル事業の全国的な実態と課題

<各省庁共通事項>

4.「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法)」及び「改正障害者差別解消法」施行後の手話通訳派遣について、各自治体の担当部局や団体等で通訳者に要する経費の予算措置を明文化するよう、貴省からも周知ください。

<説明>
 上記2法により、国及び地方公共団体は、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に策定、並びに実施することのみならず、民間企業も合理的配慮の提供が義務となるなど、障害のある人の社会参加がしやすくなります。
 これらの法律では、当事者が手話通訳を手配する福祉的な側面からのアプローチではなく、あらゆる公的機関で、その機関の責任においてアクセシビリティに関する環境整備や合理的配慮を提供することを求めています。
 しかしながら、国や自治体の出先機関を含めた行政機関において、手話通訳等を含めた情報アクセシビリティに関する予算措置がされていないことを理由に、「過重な負担」として手話通訳等の情報保障の配慮を拒否・または手話通訳等を用意できないとして、障害当事者に情報保障を自ら手配させることを要請する例は後を絶ちません。
 行政を含む公的機関において、きこえない・きこえにくい人への環境整備や情報アクセシビリティなどの合理的配慮が提供できない状況があってはなりません。それは明らかに障害を理由とする差別的取り扱いです。
 利用者から手話通訳等の希望の有無にかかわらず、情報アクセシビリティ整備に対応するため、各公的機関で手話通訳等の情報保障の予算は、障害福祉とは別建てで予算化するよう、貴省から関係の出先機関を含め、地方自治体部局へ周知徹底ください。

5.改正障害者差別解消法に基づく対応要領・対応指針等に以下を検討してください。

(1)事業者や省庁出先機関等から出される情報に、ろう者が容易にアクセスできるよう、情報アクセシビリティ保障を進めてください。

<説明>
 現在、消費者や利用者が問い合わせをする「相談窓口」「販売申し込み先」、省庁出先機関等の受付窓口は、電話番号のみの対応が多く存在しています。2021年7月からは公共インフラとして電話リレーサービスが利用できるようになりましたが、きこえない・きこえにくい人がアクセスしやすい方法(メール・FAX等)でのアクセシビリティ保障について、見直しが進められている対応要領・対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。

(2)公共施設・商業施設等における音声情報の文字化について、具体的に記述してください。

<説明>
 平時から公共施設・商業施設等における音声情報を文字情報にて掲示することで、緊急時にも有用な情報源となります。公共施設や商業施設等における音声によるアナウンス情報について、「文字または手話言語表示」をすることを、見直しが進められている対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。

6.きこえない・きこえにくい人への環境整備や合理的配慮として、手話通訳者等の配置が行われる例が増えていますが、配置する情報保障者の質についても担保できるようにしてください。

<説明>
 きこえない・きこえにくい人へのアクセシビリティ保障として手話通訳等の配置がありますが、手話通訳者等の社会資源は限られているため、環境整備や合理的配慮を要求するきこえない・きこえにくい人のニーズに応えられるだけの十分な人数が確保されにくい状況があります。
 社会的な流れにより、行政機関による手話通訳派遣依頼の際、競争入札により手話通訳派遣事業者を選定する例が増えていますが、選定条件の中に、派遣する手話通訳者の質について明記されていることはほとんどなく、機械的に応札額が最も低額であった事業者が選定されているのが現状です。
 金額のみで派遣事業者が決定され、派遣された手話通訳者の技術が担保されないことで、環境整備や合理的配慮の提供が不十分だった例が生じています。
 情報アクセシビリティは、単に提供されるだけでは不十分であり、提供される配慮が障害者の希望に沿ったものであり、かつ目的を十分達成できるようなものであるべきです。
 配置する手話通訳を含めた情報保障者の質の保障について、十分な配慮を行ってください。

以 上

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