スポーツ庁に「きこえない・きこえにくい者のスポーツ施策」への要望書を提出

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 申し入れに対して、スポーツ庁からは、デフスポーツの普及やデフリンピックの普及啓発、デフ競技団体の基盤強化支援体制等の取り組みを進めており、必要な予算の確保に努めていくことの他、国歌については開催県で判断頂いているとの回答でした。
 これを受けて、連盟スポーツ委員会が統括的な立場にあるが予算措置が全くなく基盤強化のためにも配慮をお願いしたい、手話言語で国歌斉唱できるようにすることを検討してほしい等、意見交換を行いました。

要望書を提出

連本第230194号
2023年7月7日

スポーツ庁長官
室 伏 広 治 様

〒162-0801
東京都新宿区山吹町130SKビル8階
Tel03-3268-8847・Fax03-3267-3445
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理事長 石野 富志三郎

きこえない・きこえにくい者のスポーツ施策への要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、きこえない・きこえにくい者のスポーツ(以下、「デフスポーツ」という)の普及周知や発展向上にご理解ご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 障害者権利条約および昨年5月に制定された障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法では、障害をもつ者があらゆる分野や場面、そしてスポーツ活動にも平等に参加できるよう、情報の十分な取得利用や円滑な意思疎通に係る施策の推進や実施することとしています。
 つきましては、デフスポーツに係る施策の更なる推進を下記の通り要望いたします。

1.全国へのきこえないことやデフスポーツ、デフリンピックの認知度向上や普及、2025東京デフリンピック気運醸成のための予算を講じてください。

<説明>
 2025東京デフリンピックの成功のためには、国民や社会へのデフリンピックの認知度向上や大会開催への気運醸成が必要不可欠となります。
 2020東京オリンピック・パラリンピックのレガシーを引き継ぎ、共生社会の実現をさらに推進させていくためには、きこえないことやデフスポーツ、デフリンピックの認知度向上や普及に取り組まなければなりません。
 私たちが推進するきこえないことやデフスポーツ、デフリンピックの認知度向上や普及、2025東京デフリンピック気運醸成の事業への補助を講じてください。

2.デフスポーツやデフリンピックの啓発のための学校教材を制作してください。

<説明>
 内閣府の調査では、国内でのデフリンピックの認知度は、2.8%となっています。また、2014年に日本財団パラリンピック研究会が行なった調査結果では、パラリンピックの認知度が98.2%、デフリンピックの認知度は11.2%と、パラリンピックと比べてはるかに低い状態です。
 次世代の担い手である子どもたちがなるべく早期にデフスポーツやデフリンピックを知り、興味を持つこと、そして学校教員や指導者、保護者の方々にも知ってもらうことが重要であると考えます。
 子どもたちにデフリンピックやデフスポーツを知ってもらい、また、きこえないこと手話言語を学ぶことを通して、認知度向上や共生社会の実現につなげるため、デフスポーツやデフリンピックの啓発のための学校教材を制作、また補助を行ってください。

3.全日本ろうあ連盟スポーツ委員会を、デフ競技団体を統括する団体として位置づけ、デフスポーツの振興やきこえない・きこえにくい選手(以下、「デフアスリート」という)やデフ競技団体を支援する基盤の構築や整備を支援してください。

<説明>
 当連盟スポーツ委員会は長年に渡り、全国ろうあ者体育大会やデフリンピック等国際スポーツ大会への日本選手団派遣等、デフスポーツの振興や発展に取り組んで参りました。そして、2025東京デフリンピック開催を機に、今までデフアスリートがいなかった競技(ハンドボール、射撃、レスリング、テコンドー)の分野においても、デフアスリートの掘り起こしや育成に取り組んでいます。
 しかし、国際組織では国際オリンピック委員会と国際パラリンピック委員会、国際ろう者スポーツ委員会とそれぞれ独立した団体であるにもかかわらず、わが国では日本パラリンピック委員会に当連盟スポーツ委員会が加盟と、変則的な形となっています。
 そして現在の制度は助成対象が競技団体のみとなっているため、当連盟スポーツ委員会は基盤整備や人材育成等において、スポーツ庁や日本スポーツ振興センター等が実施している助成制度や、ひいては直接的な助成も受けることができません。
 当連盟スポーツ委員会をデフ競技団体統括団体として位置づけ、当連盟スポーツ委員会が実施するデフスポーツの振興やデフアスリートやデフ競技団体を支援する基盤の構築や整備を支援してください。

4.デフアスリートの指導者及び審判員等の資格取得に係る言語・コミュニケーションのバリアを無くすため、手話言語通訳配置や助成等の支援を講じてください。

<説明>
 デフアスリートが、日本スポーツ協会や中央競技団体の公認指導者及び審判員等の資格取得のため、講習会を受講しようにも、言語・コミュニケーションのバリアが問題となっています。そのため、国内で日本スポーツ協会や中央競技団体の公認指導者及び審判員の資格を持つデフアスリートは数名のみに留まっております。
 デフアスリートのセカンドキャリアの構築また次世代のデフアスリートを養成する指導者や審判員等、社会資源を増やしていくためにも、公認指導者及び審判員等の資格取得にあたり、意思疎通支援者(手話言語通訳者や要約筆記者等)を配置またその費用を助成する制度の構築してください。

5.デフアスリート発掘育成等の支援のための啓発事業を設けてください。

<説明>
 デフアスリートたちの多くは地域の中で、きこえる人と一緒にスポーツに取り組んでいる人がほとんどです。なお、地域のスポーツ団体の監督、コーチもデフリンピックの存在を知らない、また教育委員会関係者にもデフリンピックがあることが周知されていない等を踏まえ、パラリンピックでは貴庁や各団体と連携して世界レベルの競技大会で輝く未来のトップアスリートを発掘するJ-STARプロジェクトがあるように、まずは公的機関、スポーツ関係団体にデフリンピックがあることを知ってもらうための啓発普及事業を設けてください。また、きこえない・きこえにくい子を持つ保護者等にもデフリンピックがあることを知ってもらい、子どもの豊かな未来に繋がるとても良い機会となることから共生社会の実現にも繋がります。
 都道府県自治体にデフリンピック、デフスポーツの啓発をしていただき、デフアスリート発掘の育成等の支援に繋がる事業を整備してください。

6.国民体育大会、全国障害者スポーツ大会の開・閉会式や表彰式等で、「『国歌』の手話言語訳(試行版)」を普及してください。

<説明>
 きこえない者が国民の一人として国歌に親しめるように、何年も前から全国統一の「国歌の手話言語訳」を定めてほしいと政府へ要望を続けておりますが、いまだ叶っておりません。
 毎年開催される国民体育大会、全国障害者スポーツ大会の開・閉会式や表彰式でも国歌斉唱を見ますと、開催県によって国歌の歌詞の手話表現が異なっています。そのため、デフアスリートやきこえない・きこえにくい観客は、何が歌われているのかわからず、混乱や戸惑いを与えています。
 令和2年度貴庁委託事業「障害者スポーツ推進プロジェクト(障害者のスポーツ参加促進に関する調査研究)」(スポーツに精通した手話言語通訳者の育成)の一環で、国歌の手話言語試行版テキストを作成いたしました。
 我が国が「国歌の手話言語訳」を定めるまで、国民体育大会、全国障害者スポーツ大会等の開・閉会式や表彰式等では、この試行版テキストを活用するよう、開催県へ通知してください。

<各省庁共通事項>

7.「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法)」及び「改正障害者差別解消法」施行後の手話通訳派遣について、各自治体の担当部局や団体等で通訳者に要する経費の予算措置を明文化するよう、貴省からも周知ください。

<説明>
 上記2法により、国及び地方公共団体は、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に策定、並びに実施することのみならず、民間企業も合理的配慮の提供が義務となるなど、障害のある人の社会参加がしやすくなります。
 これらの法律では、当事者が手話通訳を手配する福祉的な側面からのアプローチではなく、あらゆる公的機関で、その機関の責任においてアクセシビリティに関する環境整備や合理的配慮を提供することを求めています。
 しかしながら、国や自治体の出先機関を含めた行政機関において、手話通訳等を含めた情報アクセシビリティに関する予算措置がされていないことを理由に、「過重な負担」として手話通訳等の情報保障の配慮を拒否・または手話通訳等を用意できないとして、障害当事者に情報保障を自ら手配させることを要請する例は後を絶ちません。
 行政を含む公的機関において、きこえない・きこえにくい人への環境整備や情報アクセシビリティなどの合理的配慮が提供できない状況があってはなりません。それは明らかに障害を理由とする差別的取り扱いです。
 利用者から手話通訳等の希望の有無にかかわらず、情報アクセシビリティ整備に対応するため、各公的機関で手話通訳等の情報保障の予算は、障害福祉とは別建てで予算化するよう、貴省から関係の出先機関を含め、地方自治体部局へ周知徹底ください。

8.改正障害者差別解消法に基づく対応要領・対応指針等に以下を検討してください。

(1)事業者や省庁出先機関等から出される情報に、ろう者が容易にアクセスできるよう、情報アクセシビリティ保障を進めてください。

<説明>
 現在、消費者や利用者が問い合わせをする「相談窓口」「販売申し込み先」、省庁出先機関等の受付窓口は、電話番号のみの対応が多く存在しています。2021年7月からは公共インフラとして電話リレーサービスが利用できるようになりましたが、きこえない・きこえにくい人がアクセスしやすい方法(メール・FAX等)でのアクセシビリティ保障について、見直しが進められている対応要領・対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。

(2)公共施設・商業施設等における音声情報の文字化について、具体的に記述してください。

<説明>
 平時から公共施設・商業施設等における音声情報を文字情報にて掲示することで、緊急時にも有用な情報源となります。公共施設や商業施設等における音声によるアナウンス情報について、「文字または手話言語表示」をすることを、見直しが進められている対応指針に記載したうえで、その通りに運用してください。

9.きこえない・きこえにくい人への環境整備や合理的配慮として、手話通訳者等の配置が行われる例が増えていますが、配置する情報保障者の質についても担保できるようにしてください。

<説明>
 きこえない・きこえにくい人へのアクセシビリティ保障として手話通訳等の配置がありますが、手話通訳者等の社会資源は限られているため、環境整備や合理的配慮を要求するきこえない・きこえにくい人のニーズに応えられるだけの十分な人数が確保されにくい状況があります。
 社会的な流れにより、行政機関による手話通訳派遣依頼の際、競争入札により手話通訳派遣事業者を選定する例が増えていますが、選定条件の中に、派遣する手話通訳者の質について明記されていることはほとんどなく、機械的に応札額が最も低額であった事業者が選定されているのが現状です。
 金額のみで派遣事業者が決定され、派遣された手話通訳者の技術が担保されないことで、環境整備や合理的配慮の提供が不十分だった例が生じています。
 情報アクセシビリティは、単に提供されるだけでは不十分であり、提供される配慮が障害者の希望に沿ったものであり、かつ目的を十分達成できるようなものであるべきです。
 配置する手話通訳を含めた情報保障者の質の保障について、十分な配慮を行ってください。

以 上

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