厚生労働省に「きこえない・きこえにくい人の福祉施策」への要望書を提出

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 聴覚障害関係団体で構成する福祉基本政策プロジェクトチームでまとめた要望について、厚生労働省と意見交換を行いました。

要望書を提出

連本第220210号
2022年7月22日

 厚生労働大臣
  後藤 茂之 様

一般財団法人全日本ろうあ連盟
理事長 石野 富志三郎

きこえない・きこえにくい人の福祉施策に関する要望について

 時下、益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
 平素よりきこえない・きこえにくい人の福祉の向上にご理解、ご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。
 さて、本年5月には当連盟はじめ多くの関係者が待ち望んでいた情報コミュニケーションを保障する法律「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」が成立し、今後の具体的な施策反映に大いに期待しているところです。また、改正障害者差別解消法では民間事業者に対しても合理的配慮の提供が義務となり、こちらも早い段階での施行が待たれるところです。そのように障害者を取り巻く環境は一歩前進しましたが、きこえない、きこえにくい人にとっての福祉サービスは十分とはいえません。
 全日本ろうあ連盟では、聴覚障害者情報提供施設、ろう重複障害者、ろう高齢者等の関係諸団体とともに、きこえない・きこえにくい人の福祉施策充実のために協議をし、これまで各々の団体が要望している事項を下記の通り統一要望として取りまとめました。
 つきましては、ぜひとも施策に反映し、必要な予算措置を講じていただきますよう、お願い申し上げます。

1.全国のきこえない・きこえにくい人が地域格差なく福祉サービスを利用することができるよう、社会福祉施設等の社会資源の整備を図ってください。

(1)全ての都道府県に加えて政令指定都市で「聴覚障害者情報提供施設」が設置できるように関わる制度の充実を図ってください。

①聴覚障害者情報提供施設が災害対応、新型コロナウイルス感染症関連(ワクチン接 種含む)に対応できるよう、運営に要する国庫補助増額の予算措置をおこなってください。また、聴覚障害児支援中核機能モデル事業に聴覚障害者情報提供施設が対応するための自治体への働きかけとともに施設の人員配置等の予算措置をおこなってください。

②身体障害者社会参加支援施設の設備及び運営に関する基準第40条「聴覚障害者情報提供施設の職員の配置基準」の改正を行い、施設長の他に意思疎通支援事業、養成事業、相談事業、言語聴覚士、ICT技術専門員等の担当職名を明示し、必要な職員の配置基準を明確にしてください。配置基準が明確でない中で施設の職員を増員することに対して、設置自治体は負担が増えるため消極的にならざるを得ません。人員数及び担当職名を明確にすることで地域のきこえない・きこえにくい人への情報保障、情報提供、生活支援が担保され、生活向上に寄与できます。

③聴覚障害者情報提供施設運営費の増額を基本に職員待遇改善および現行の都道府県1施設に、例えば福祉圏域などの単位で支所を追加設置できる仕組みづくり、人的体制の充実が可能な条件を整備してください。

④2009年度の補正予算で、2010年度に整備された各聴覚障害者情報提供施設の字幕入り映像制作機器(デジタル)の更新と保守管理、2010年度以降に設置された聴覚障害者情報提供施設の映像制作機器の整備について予算化してください。
2010年度からすでに12年が経過し、機器の老朽化が課題となっております。進展している現代の技術に適合できる機器の更新は必須です。(参考資料添付)

⑤ICT活用によってきこえない・きこえにくい人の社会参加が一層促進されるよう、きこえない・きこえにくい人向けの事業展開や聴覚障害者情報提供施設における運営に要する国庫補助を増額し支援の充実を図ってください。
(例)

・きこえない・きこえにくい人がICT活用を目的としたスマートフォンやタブレット等の端末の操作等について学ぶ機会を保障。きこえない・きこえにくい人に対する事業の啓発、聞こえる人に対する理解促進がすすめば、公共インフラとして整備されたこの事業がさらに生かされます。

・聴覚障害者情報提供施設にICTの知識がある職員の配置が可能な措置

⑥新型コロナウイルス感染症対策「遠隔手話通訳サービス等を利用した意思疎通支援体制の強化」について、継続的にシステムを運用し事業を安定して行うための人件費および運営経費が自治体において予算確保をされるよう指導してください。また、システムの改良や活用の工夫を話し合える場を設けてください。

(2)障害者権利条約の批准、また障害者差別解消法に基づく環境整備、合理的配慮の提供の義務として、ろう高齢者を含むきこえない・きこえにくい人、また他に障害をもつろう重複障害者が利用できる障害福祉サービスおよび介護保険サービス等の充実を図ってください。

①障害福祉サービスの充実を図る施策を講じ、必要な予算を確保してください。どの障害福祉サービス利用であっても意志疎通の保障がされる仕組みを作ってください

②全ての都道府県にろう児・者、難聴児・者等が、自ら選択する言語やコミュニケーション手段により利用できる障害福祉サービス(生活介護、共同生活援助、児童発達支援、放課後等デイサービス等)、地域生活支援事業(地域活動支援センター等)、介護保険サービス、特別養護老人ホーム等の社会資源を計画的に整備するよう、基本計画へ数値目標等を盛り込む等の対策を講じてください。

③相談支援に聴覚障害者支援体制加算を設けてください。
(説明)
 聴覚障害者を対象とした手話通訳等を行うことができるものを相談支援専門員として配置し適切な体制を確保している場合は評価するよう、精神障害者支援体制加算や行動障害支援体制加算と同様、聴覚障害者支援体制加算を設けてください。

④障害福祉サービス事業すべてにピアサポート実施加算を拡充してください。
(説明)
 聴覚・ろう重複児・者施設においては聴覚障害職員が「ピアサポーター」として重要な役割を担っており、すべての障害福祉サービス、放課後等デイサービス等でも算定が可能となるよう拡充するとともに、ピアサポートができる環境を整備するよう単価の大幅改善をお願いします。また、ピアサポーターの養成課程に聴覚障害者のピアサポーターのコースを設けてください。

⑤児童福祉法の障害児通所支援(児童発達支援・放課後等デイサービス)に「視覚聴覚障害者等支援体制加算」を適用してください。

(3)日常生活用具の給付品目について、デジタル社会に合致した品目を全国でバラつきなく受給できるよう、周知をしてください。
(説明)
 障害児・障害者日常生活用具の用途及び形状には、「二 情報・意思疎通支援用具 点字器、人工喉頭その他障害者等の情報収集、情報伝達、意思疎通等を支援する用具のうち、障害者等が容易に使用することができるものであって、実用性のあるもの」とありますが、具体的な品目の指定は市町村の裁量となっています。
 ICT、デジタル社会に合った品目の可否については全国的なバラつきが生じています。地域格差が起こらないよう、国から市町村にICT・デジタル品目への配慮について周知ください。

2.介護保険制度に関して、次のことを講じてください。

(1)2018年度4月の報酬改定に長期入所において、「障害者生活支援加算」の引上げが実現したことによって、ろう高齢者の生活の充実、看取り時の細やかな支援等、効果がありました。在宅のろう高齢者が在宅生活を継続するための要となる短期入所事業にも「障害者生活支援加算」を適用してください。
(説明)
 この要望を数年間だしていますが「共生型サービスは、障害者の高齢化を想定して特例として設けているので、障害・介護料サービスを一体的に利用してほしい」と回答をいただいています。その都度説明をしましたが、共生型サービスは、若い障害者も利用し、設備や支援する職員の技術が介護用に整っていないことから高齢障害者は安心して利用できず、実態と合いません。また、特養の短期入所を利用する方は、在宅で高齢になって生活課題を抱えて福祉サービスを初めて利用する方が大半で、施設入所から移行する障害者とは支援の質が違います。よって、福祉サービス利用の大切な入り口にもなり、在宅生活も見据えた支援を要するため、特養入所者よりもコミュニケーションに時間を要します。(資料あり)

(2)介護保険認定調査において、ろう重複障害者の特性を正確に反映できる仕組みの見直しをしてください。
 この要望を数年だしており、「各都道府県でそれぞれ研修会を実施しており、そこで周知している」とご回答をいただいていましたが、少なくとも私たちの知る範囲ではそのような周知はありません。

①聴覚障害高齢者の特性からくる生活のしづらさを適切に特記事項に書いていただくよう、認定審査員に周知をしてください。
(説明)
 現状では、ろう重複から生じる障害特性や生活のしづらさ、介護の手間等が特記 事項に正しく反映されていません。選択肢だけでは測れない介護の手間や生きづらさを踏まえて正しく認定調査がされるよう、適切な特記事項の書き方を「認定調査員テキスト」・「介護認定審査会委員テキスト」へ記載し、さらに認定調査員や審査員への周知をしてください。(資料あり)

②聴覚障害を起因とする意思疎通の困難さを正しく評価していただけるよう、認知 症高齢者の日常生活自立度のⅢの判定基準にその旨を盛り込んでください。
(説明)
 現在の調査項目にはろう重複障害者の障害特性や生活上の困難さが反映される項目は少なく、身体的・機能的に問題がなくても、介護や支援そして全ての活動等において、手話や文字以外のその人の成育歴、個性、生活習慣を知るものでないとコミュニケーションがとれないことによって、情報提供ができず、期待する行動が取れない、場合によっては拒否される等の問題が生じます。聴覚障害を起因とする意思疎通の困難さを正しく評価していただけるよう、認知症高齢者の日常生活自立度のⅢの判定基準にその旨を盛り込んでください。(資料あり)

(3)高齢聴覚障害者施設協議会が特養での支援の特性や、コミュニケーション支援に係る時間を調べるために、タイムスタディを実施し提出いたしました。それを受けて、2017年8月に厚生労働省の老健局より5名の職員の方が、大阪府特別養護老人ホームあすくの里を視察していただき、ろう重複障害を持つ高齢者に伝えることの困難さや、介護職員が介護技術に加えて手話言語等のコミュニケーションツールを身につける必要性などを理解していただけました。
 今回、改めて施設(大阪府特別養護老人ホームあすくの里など)を視察いただき、実態を見ていただいた上で意見交換の時間をいただきますよう要望します。

3.きこえない・きこえにくい人の福祉に関わる人材養成・確保を強化してください。

(1)2020年度実施の「雇用された手話通訳者の労働と健康についての実態に関する調査研究」では、①手話通訳者のほとんどが非正規雇用(自治体では90.2%が非正規雇用)、②手話通訳者の高齢化(福祉分野の平均年齢53.6歳)③手話通訳事業が社会的に評価されていない ④解消しない健康問題(261人に危険自覚症状がある)などの課題が明らかになりました。意思疎通支援事業モデル要綱第19条(頸肩腕障害に関する健康診断)の実施の強化に伴う技術的助言等、手話通訳者の状況を改善するための方策を検討してください。

(2)きこえない・きこえにくい人の社会参加の広がりや「地域共生社会」の発展にともない、高いスキルと専門的知識が求められています。養成事業については、手話通訳者を専門職として養成する内容とすること、また若年層から養成していくことが必須であることから、若年層手話通訳者モデル養成事業の更なる拡充で、大学や専門的な養成機関で手話通訳者を養成する仕組みも検討してください。

(3)手話通訳者等、意思疎通支援者養成カリキュラムの見直しにあたってはろう重複障害者の理解や支援特性、また社会資源についても正しく理解いただけるようにカリキュラムに加えてください。

(4)障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律の施行に伴いきこえない・きこえにくい人の福祉に関わる意思疎通支援者の更なる人材養成・確保の施策を検討してください。

(5)地域生活支援事業の中に、強度行動障害支援者養成研修(基礎・実践研修)が設けられています。その理由として「強度行動障害を有する者は、自傷・異食・他害など、生活環境への著しい不適応行動を頻回に示すため、支援が困難であり虐待に繋がる可能性が高い。しかし、適切な支援により状態の改善が見込まれることから、専門的な研修により適切な支援を行う従事者を養成することが重要である」と貴省の通達にもあります。聴覚障害またろう重複障害でも同様の困難さを生じます。聴覚障害の特性に対応できるきめ細かい適切な支援を行えるような者が絶対的に必要です。そのために「聴覚障害の特性を学ぶ」聴覚障害支援者養成研修を設けてください。その受講対象としては相談支援専門員及びサービス管理責任者、聴覚障害及びろう重複障害のあるものの支援業務に従事している者、若しくは今後従事する予定のあるもの及び希望者としてください。
 「新たな制度は令和2年4月1日施行したところであり、その効果を引き続き検証してまいります」と回答をいただきましたが、その後の進捗状況を教えてください。

(6)きこえない・きこえにくい人を対象とする在宅支援の強化のため、ピア訪問介護員の人材確保は急務です。きこえない・きこえにくい人が養成等の研修(例:介護職員初任者研修等)を受講できるよう自己負担なく情報保障(手話通訳・要約筆記)が提供されるようにしてください。
(説明)
 公益社団法人大阪聴力障害者協会では、介護保険法施行の2000年度には、登録ホームヘルパーが83名いました。しかしながら、ろう者・難聴者等がホームヘルパーを資格取得できる場が無く、人材不足の状況です。大阪は2021年度から協会独自予算で介護初任者研修を再開しました。現在は40名になりましたが、まだ不足になっています。依頼があってもホームヘルパーを派遣できず、断る状況になっています。またヘルパーの最高年齢は82歳で、ヘルパーの72.2%が60~80代です。

(2022年4月現在)    

訪問介護・居宅介護事業所 登録ホームヘルパー ①ろうH人数と④比較
年度 合計人数 内 ①ろうH ②20‐30代 ③40‐50代 ④60‐80代
2002年 55 40 6 28 6 15
2005年 83 63 5 45 13 20.6
2016年 55 36 2 14 20 55.5
2020年 44 28 2 10 16 57.1
2021年 38 23 1 8 14 60.8
2022年 40 18 1 4 13 72.2
※主任1名を除く

参考資料(2022年度4月現在)

団 体 名 合計人数
①ろうH

20‐30代

40‐50代

60‐80代
合計人数と
①ろうヘルパーの
人数比較%
(社福)千葉県聴覚障害者協会 8 4 0 2 2 50
(一社)愛知県聴覚障害者協会 44 28 1 27 16 63.6
(社福)京都聴覚言語障害者福祉協会 22 12 0 4 8 54.5
(公社)大阪聴力障害者協会 40 18 1 4 13 45
(一社)和歌山県聴覚障害者協会 17 9 2 6 1 52.9
(公社)兵庫県聴覚障害者協会 26 17 1 10 6 63.3
合   計 157 88 5 53 46 56

利用者数

団 体 名 訪問介護 居宅介護 合計
社会福祉法人千葉県聴覚障害者協会 10 10 20
一般社団法人愛知県聴覚障害者協会 35 15 40
社会福祉法人京都聴覚言語障害者福祉協会 30 6 36
公益社団法人大阪聴力障害者協会 63 19 82
一般社団法人和歌山県聴覚障害者協会 31 9 40
公益社団法人兵庫県聴覚障害者協会 23 6 29

※公益社団法人札幌聴覚障害者協会は、ホームヘルパーの必要人員を確保できず、訪問介護事業を2020年度に休止しました。

以 上

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