総務省に「きこえない・きこえにくい者の福祉施策」への要望書を提出

前のページへ戻る

 電話リレーサービスの二重負担について、050番号をなくし、090などの番号に着信させる技術は、現段階で技術的・費用的に負担が大きいため、早急な対応が難しいものの、きこえない人だけが負担を強いられる状況が改善されるよう、事業者とも検討を進めていくという説明がありました。

要望書を提出

連本第220177号
2022年7月11日

総務大臣
 金子 恭之 様

東京都新宿区山吹町130 SKビル8階
電話03-3268-8847・Fax 03-3267-3445
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長  石野 富志三郎

きこえない・きこえにくい者の福祉施策への要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私どもきこえない・きこえにくい者の福祉向上にご理解ご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 「障害者差別解消法」および「バリアフリー法」等により、障害者に対する合理的配慮や支援についての取り組みが広まってきつつあります。しかしながら、その対応については地域差がある等、まだまだ改善すべき課題は残っております。今般、「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」が制定されました。これを機に、すべての国民が安心、安全に生活ができるように、一層の環境整備を講じていただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

1.ろう者等の参政権の保障のために、下記の通り要望します。

(1)市町村長選挙を含むすべての選挙について、ろう者等の参政権の保障のために手話通訳、字幕・要約筆記等の導入を義務付けてください。また、ろう者等の被選挙権の保障のために手話通訳、要約筆記等の情報保障を義務付けてください。

<説明>
 現在、国政選挙・都道府県知事選挙では政見放送での手話通訳や一部字幕の付与が可能であり、演説会での要約筆記者の配置や報酬の支払いが認められるなど、ろう者等への情報保障は少しずつ改善されてきています。しかし、政見放送ではまだすべてに手話通訳・字幕の付与が実現されておらず、義務付けも行われていません。
 また、市町村長選挙では候補者の演説会などに手話通訳、要約筆記等をつけることについては、市町村の選挙管理委員会における判断がまちまちです。
 政見放送が義務ではないことは承知していますが、政見放送における手話通訳は、手話言語の提供であって候補者や政党の考えを代弁している立場ではありません。それは、国として手話通訳の必要性、重要性を認めているからこそ、貴省において手話通訳士研修の予算を設けていただいていることと思います。ろう者等がすべての選挙に関する情報を得て、その参政権を保障するために、手話通訳を付けることによる手話言語による情報保障という観点から、すべての選挙について手話通訳、要約筆記等の付与の義務付けができるよう、公職選挙法の改正について総務省主導で進めてください。
 また、きこえない市議会議員等が、その選挙活動において音声に代わる手段に制限があり、きこえる人と等しく選挙活動ができない状況があります。今後、すべての人の被選挙権が等しく保障されるためにも、ろう者等の選挙活動に際しては、手話通訳や要約筆記等の情報保障を義務付け、手話言語及び文字による選挙活動を認めてください。

(2)手話通訳者及び要約筆記者を「選挙運動に従事する者」に含めず、中立・公正な立場として情報保障を行う者であることを明記した条項を加え、公職選挙法を改正してください。

<説明>
 公職選挙法では、手話通訳者及び要約筆記者については「投票勧誘行為」を行う選挙運動に従事する者に該当すると規定されています。しかし手話通訳者及び要約筆記者は、候補者や政党の考えを代弁して投票勧誘行為を行う者ではなく、公正・中立を重要な倫理としております。選挙運動員とされることは手話通訳者及び要約筆記者の社会的信用に関わるだけでなく、基本的な人権としての参政権を求める私たちろう者等の取り組みが選挙運動とみなされる懸念があります。手話通訳者及び要約筆記者については「選挙運動に従事する者」に含めず、社会的信用と公正・中立の立場を保障していただきたく、公職選挙法を改正してください。

(3)2017~2022年度、貴省予算で実施しております「政見放送手話通訳士研修会」(地方研修会)を2023年度以降も継続して行えますよう、引き続き予算化をしてください。

<説明>
 「政見放送手話通訳士研修会」(地方研修会)は、2017年度から貴省にて予算化いただき御礼申し上げます。すべての政見放送において手話通訳挿入が実現した後も、政見放送を担える手話通訳士を継続して増やす必要があります。更に政見放送では社会情勢や時事問題等、専門的かつ新しい用語が使われ、手話通訳士も継続して通訳技術を磨く必要があることから、研修の履修更新制を設けております。2023年度以降も地方研修会を継続して行えるよう、予算化をしてください。

2.首相官邸の記者会見等における手話通訳について、テレビ放送でも手話通訳者が映るよう放送事業者に通知してください。
<説明>
 2011年3月11日の東日本大震災の発生後、首相官邸で行われる記者会見には手話通訳が付くようになりました。また、今般の新型コロナウイルス感染症関連の記者会見においては、多くのテレビ局がライブ放送で手話通訳者も入れて放送されており、リアルタイムに情報を得ることができました。
 きこえる人に対しては、会見場にマイクが準備され、話者の音声を増幅させて、会場にいる誰もがその音声を聞くことができるよう配慮されています。また放送事業者は、その音声をテレビ放送に乗せて、テレビ視聴者が音声言語で発言内容を知ることができるようにしています。
 同様に、きこえない人のためには会見場に手話通訳が準備されており、放送事業者はその手話通訳の映像をテレビ放送に乗せて、テレビ視聴者が手話言語で発言内容を知ることができるようにすることこそが、ユニバーサルな環境の整備となります。
 内閣府では会見の際に話者の隣に手話通訳を配置していただいていますが、各放送局では手話通訳を映すかどうか、また映す場合の大きさや、ニュース等での紹介時に通訳が映るかどうかなど、対応に差があります。
 音声言語も手話言語も同等の言語であるとするのであれば、きこえる人ときこえない人の情報格差の出ないよう、各放送局の対応を注視するとともに、どの放送局でもユニバーサルな放送が行われるように通知をしてください。

<<電話リレーサービス>>
3. きこえない・きこえにくい人の電話リレーサービスの利用登録条件に身体障害者手帳の提示を不要としてください。

<説明>
 電話リレーサービスは、きこえない・きこえにくい人ときこえる人が双方向で電話ができるサービスです。現在、きこえない・きこえにくい人の利用登録には、身体障害者手帳の提示(提出)が求められていますが、これを不要とし、例えば携帯電話を購入する際に必要となる身分証明書(運転免許など)を提示(提出)するなどの方法にしてください。

4.050番電話番号維持にかかる費用は利用者に転嫁せず、交付金の対象として、基本料金の二重負担を解消してください。
<説明>
 大半のきこえない・きこえにくい人はすでに090番などの携帯電話番号を持っており、電話リレーサービス用に、さらに050番の電話番号が必要であるため、基本料金の二重の負担が発生しています。
 050番電話番号維持にかかる費用は、電話リレーサービス提供業務に要する費用として交付金の対象とし、きこえない・きこえにくい人の二重の負担を解消してください。

5.電話リレーサービスを利用した電話を受ける官公庁の職員に対し、このサービスの内容や対応方法についての理解促進を図ってください。
<説明>
 きこえない・きこえにくい人が電話リレーサービスを利用する際に、オペレーターは、自分は電話リレーサービスのオペレーターであることや、きこえない人からの電話であることをまず相手に説明します。役所や官公庁等の職員が電話リレーサービスを理解していない場合、すぐに対応して頂けないことがあります。
 警察署や消防署等の緊急通報を受けつける窓口職員には周知されているかと思いますが、全ての官公庁および支所(緊急通報以外の部署や、身近な役所等)に電話リレーサービスに対する理解促進を図ってください。

<<各省庁共通事項>>
6.障害者差別解消法施行後の手話通訳派遣について、各自治体の担当部局や団体等で通訳者に要する経費の予算化を貴省からも働きかけをお願いします。

<説明>
 2016年4月より「障害者差別解消法」が施行され、手話通訳派遣についても改善がみられる地域も出てきています。また、昨年5月に成立した改正障害者差別解消法では民間企業にも合理的配慮の提供が義務となるなど、障害のある人にとっての社会参加がしやすくなります。
 聴覚障害者が手話通訳を利用する場合、聴覚障害者自身が居住する自治体の福祉事務所等の派遣窓口に依頼をし、手話通訳者を派遣する方法ですが、この際の手話通訳者にかかる費用は、障害者総合支援法の中の「意思疎通支援事業」としていわゆる福祉の経費で、これは厚労省管轄の予算となっています。障害者差別解消法は、こうした福祉的な側面からのアプローチのみならず、あらゆる公的機関で、その機関の責任において合理的配慮を提供することを求めています。
 行政を含む公的機関が、合理的配慮が提供できない状況にならないよう、利用者から手話通訳等の希望があった場合に対応するため、各公的機関で手話通訳等の情報保障の予算を障害福祉とは別建てで予算化するよう、貴省から関係の地方自治体部局へ周知を図るようお願いいたします。

7.「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法)」の成立を踏まえ、貴省が所管する分野において必要な計画の策定や予算措置が行われるようにしてください。
<説明>
 2022年5月19日に「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律」が成立し、国及び地方公共団体は、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に策定し、並びに実施することとされました。
 同法は、障害者が自立した日常生活及び社会生活を営むために必要な分野(医療、保健、介護、福祉、教育、労働、スポーツ、レクリエーション、司法手続その他)において、障害者がその必要とする情報を十分に取得及び利用し、円滑に意思疎通を図ることができるようにするため、意思疎通支援従事者の確保・養成および資質の向上を講ずるものと規定しています。
 貴省の所管する分野において、この法律の趣旨に沿った施策が推進されるよう、必要な計画の策定や予算措置が行われるように取り組みを進めてください。

以 上

前のページへ戻る